B-1グランプリ十和田開催前の7月に、青森県十和田市ことごとく高速交通網から外れている都市と書いたことがあった。

新幹線(ミニ規格含め)はおろか国鉄・JR在来線すら無く(廃止された十鉄線はあった)、高速道路も無い都市としては十和田市が東北最大の都市なのだ。

とはいえ、十和田市が陸の孤島かというとそんなこともなく、クルマで30分ちょっと飛ばせば東北新幹線 八戸駅に出られるし、下田百石ICにも出られる。
そればかりか隣接の七戸町には曲がりなりにも十和田の名を冠する東北新幹線 七戸十和田駅があるし、やはり隣接の三沢市には三沢空港もある。

こう考えると、十和田市はまだ恵まれている方だともみてとれる。
一方で、日本を広く見渡すと、十和田市とは逆に鉄道が敷設され高速道路も整備されるという計画や構想があったのに、両方とも頓挫し実現しなかったという都市もある。

その一つが高知県室戸市だ。

まず通る予定だった鉄道・安佐線の方から。

・1942(昭和17)年:牟岐線牟岐駅(徳島県) 延伸開業
・1965(昭和40)年:安佐西線安芸駅−田野駅(高知県) 着工
・1971(昭和46)年:安佐東線甲浦駅−野根駅(高知県) 着工
 1971(昭和46)年:安佐西線奈半利駅−室戸駅(高知県) 工事実施計画認可
・1973(昭和48)年:牟岐線牟岐駅−海部駅(徳島県) 延伸開業
・1974(昭和49)年:安佐西線後免駅−安芸駅(高知県) 着工
・1981(昭和56)年:国鉄再建法施行、安佐線建設凍結
・1987(昭和62)年:安佐西線後免駅−奈半利駅(高知県) 工事再開
・1988(昭和63)年:安佐東線海部駅(徳島県)−甲浦駅(高知県) 工事再開
・1992(平成4)年:安佐東線海部駅(徳島県)−甲浦駅(高知県) 延伸開業
・2002(平成14)年:安佐西(ごめん・なはり)線後免駅−奈半利駅(高知県) 延伸開業

と簡単にまとめた通り、1971(昭和46)年には奈半利駅から室戸駅まで工事実施計画認可が降りているが、実際に室戸まで着工されることはなかった。

このいきさつをみただけで、1972年に東京都−盛岡市から1年遅れで東京都−青森市が基本計画区間に指定されながら、実際には盛岡以南のようには着工されなかった東北新幹線盛岡−新青森を連想せずにはいられない。

しかも、室戸市より手前の、より規模の小さい奈半利町が終点であることも、青森の手前の盛岡が新幹線終点だったのと同様である(人口では建設当時から今日に至るまで一貫して青森が上回り続けているし、そもそもかつての盛岡市は県庁所在地なのに八戸市より人口が少ないという有様ですらあった)。

後に開業を果たした奈半利より高知寄りの区間ではあるが、建設中のまま放置されていた高架橋が「土佐の万里の長城」なんて呼ばれていたという逸話も、かつての屈辱の盛岡ジャンプ台みたいな雰囲気ではないか。
奈半利駅は室戸への延伸を考慮しない構造で完成したらしいので、盛岡のようなジャンプ台は無いようだが、逆に室戸延伸の夢が断たれている残酷さを感じてしまう。



このような鉄道の経緯があった中で、高速道路はどうだったか。

いわゆる高知道や松山道のような高速自動車国道としての計画は室戸付近には最初から無かった。
1987年の四全総で、通過都道府県を高知県とする高知東部自動車道(高松〜安芸)が高規格道路構想一覧に出てくるが、阿南安芸自動車道の名前は無い。
(この構想で「高松」という文字が出ているが、高知の間違いだろう。)

具体的なものとしては地域高規格道路としての整備計画が浮上するのを待つことになる。
地域高規格道路といっても、実際に高速自動車国道と明確に違いを意識して運転するドライバーが殆どいないように、実際には高速道路と言ってほぼ問題ないのだが、制度としては1994年から候補路線と計画路線が登場している。

この時に徳島と高知を海沿いに結ぶ国道55号に並行するように地域高規格道路たる、阿南安芸道高知東部道が浮上したが、室戸を経由しないルートで整備が進められてきている。

紆余曲折あったようだが室戸岬を経由せずに奈半利−東洋を結ぶ国道493号に沿う形の北川奈半利道路が着工してしまった1996年が、室戸の高速道路の夢が断たれた瞬間であろうか。


そんな高知県室戸市であるが、やはり地元の人たちからは高速道路建設の要望が今もある。

高知県庁のホームページにも「室戸市まで高速道路をつなげてほしい」という室戸市民の要望が載っている。
回答は「室戸市までの高速道路の整備は難しい」だが。
(余談ながら、青森県庁にフジ系を要望するように、高知県庁にもテレ朝系開局の要望が寄せられている)

室戸市民の気持ちは、非常によくわかる。


一度、H22道路交通センサスで室戸岬周辺の道路の概況をみてみよう。

奈半利町から東洋町野根までの経路として、
北川奈半利道路国道493号で内陸山間部を横断するルート、
国道55号高知県道202号椎名室戸線で室戸岬の手前で横断するルート
国道55号だけで室戸岬を経由するルート

の3本を比較してみたのが、下の地図である。

室戸岬
【地図はクリックで拡大します】


地図上の線形にも表れていると思うが、国道493号の曲がりくねり方が凄い。
番号だけみると一瞬、酷道として名高きヨサクこと国道439号と誤認しそうだが、国道493号だって北川奈半利道路を含めても幅員5.5m以上が確保された改良率は23.4%しかない。
国道493号での山越えを選べば、北川奈半利道路の区間以外はほぼ全線でセンターライン無しの1.5車線道路という酷道なのだ。

北海道好きの人が見れば、えりも岬を避けて様似と広尾を短絡する国道236号を連想しそうな国道493号だが、甘くない。



経由ルート距離平均旅行速度所要時間
国道493号42.5km43.2km/h59分01秒
国道55号・県道202号53.2km54.8km/h58分13秒
国道55号(室戸岬)61.1km54.3km/h1時間07分30秒


3路線を比較してまとめた表が上になるが、北川奈半利道路国道493号のルートは最短距離の43.2kmでありながら、10km以上も遠回りになる国道55号高知県道202号椎名室戸線のルートに所要時間で負けることになる。
おそらく、燃費でも負けるだろう。

奈半利町と北川村の間以外では短絡効果が殆どない北川奈半利道路の先行整備を見ていると、室戸に高速道路を諦めさせるための実績づくりなのかと邪推しそうである。
まあ、実現すれば室戸経由より明らかに短絡効果が出るだろうが、いまだに北川と東洋の間が未事業化区間のままであり、いつ着工し、いつ開通するのかわからないというのも気になるところ。


一方で、室戸に向かう国道55号の概況が、岬の東西を通じて非常に良さそうなのも事実。

県都・高知方面でみると、室戸市街地の浮津交差点から奈半利町の国道493号の交差点までは平均旅行速度が52.0km/hと比較的速く、所要時間は約27分。
将来的に奈半利で阿南安芸道に接続するにしても、室戸中心部から30分あれば十分なのだ。

徳島方面でみても、室戸岬町三津交差点から東洋町の野根交差点までは平均旅行速度が59.2km/hにも達している。
浮津交差点からは高知県道202号椎名室戸線と合算で、32分程度で野根まで行ける計算だ。
ということで、こちらも将来的に東洋町野根で阿南安芸道に接続するにしても、室戸中心部から30分強か。

すでに快適に走行できる国道55号があり、高知と徳島の両方面とも30分走れば高速道路IC予定地に着くのであれば、わざわざ室戸に高速を伸ばす必要はない、という意見も頷ける。
僕も何もなければ「室戸に高速はいらない」という意見のままであっただろう。



が、2011年に東日本大震災による巨大津波被害が起きてしまった。



三陸の国道45号も酷い目にあったが、内陸部から北上高地越えで沿岸被災地に入る手段は何本もあった。
ところが、室戸周辺には国道55号しか無い。本当に1本しか無い。

南海トラフで巨大津波が起きた場合、国道55号は甚大な被害を避けられない。
もし、1996年の北川奈半利道路着工前に東日本大震災が起きていれば、室戸経由ルートは津波対策を理由に廃案になっていなかったかもしれない。

歴史のたらればを言ってもしょうがないが、国道55号をリカバリーする並行路線が必要なのは明白だ。
先述の高知県庁への要望でも、県庁は「国道55号のより一層の強化を国に求めるとともに、高台を通過する広域農道の活用の検討」する旨の回答をしている。
農道か何らかの形でもう1本、室戸へ向かう並行道路の必要性は高知県も認めているようだ。


では並行道路は徳島側に向けるか、高知側に向けるか?

これまでに完成している日本の高速道路は、おおむね東京を中心に伸びて行っている。
それに則って考えれば、東京・大阪に近い方向である徳島方面に繋げるのが自然ということになる。
東南海地震の被災時には、被害の小さい東日本方面から室戸に向かうにも、徳島方面に繋がっている方が有利である。

が、室戸市民が一生のうちに東南海地震を被災する可能性を考慮するのも必要だ。
世代別にみれば高齢者は被災しないまま平穏に一生を終える可能性が高いし、逆に若年世代は被災を経験する可能性が高い一方で、これから生まれてくる次世代なら発災後の生誕となって被災を経験しない可能性も十分にある。

被災しない可能性が高い世代であれば、普段使いに便利な方に並行道路が繋がっている方が良いだろう。
並行道路を高知方面に繋いでも、被災時に機能できないことはない。

そこで、室戸市周辺の交通量から、徳島方面と室戸方面のどちらに需要があるのかも分析してみたい。
H22道路交通センサスから、24時間の交通量(台数)を加重平均値で算出した。

室戸岬 交通量
【地図はクリックで拡大します】

H22道路交通センサスから、区間ごとの24時間交通量(台数)を加重計算して求めた数値なので、あくまで目安であるが、ご覧の通り。
室戸市からは徳島方面よりも県都・高知方面への交通量の方が圧倒的に大きい。

普段の需要の大きさを鑑みるなら、高知方面に並行道路を繋ぐのが答えになる。


室戸周辺の医療搬送路としての需要もみておく。

第二次救急医療機関としては室戸市に室戸病院、奈半利の隣の田野町に田野病院があるが、高知県最東端の東洋町は二次救急では県境を越えて徳島県牟岐町の県立海部病院に行くのが普通だという。
国土交通省の資料によれば、2012年に東洋町から海部病院へ搬送された件数は175件だ。
東洋町と徳島県海陽町を合わせた数値だが、より高次の第三次救急医療機関である小松島市の徳島赤十字病院に搬送される件数は55件。
東洋町の医療事情を考えれば、高知県内の室戸や田野と高速道路で繋がるより、県境を越えて高速道路で牟岐や小松島と繋がりたいということだろうか。

一方で室戸市には二次救急の室戸病院があるし、第三次の医療機関となれば高知市の高知赤十字病院であるので、こちらも東洋町と高速道路で繋がるより、奈半利町に高速道路で繋がる方が良いのだろう。


室戸の場合は、高規格道路は須らく東京・大阪方面に繋ぐという一般的な流れとは逆に、高知方面に並行道路を繋ぐべきだろう。


しかしあらためて計算してみると、地域高規格道路である阿南安芸道・高知東部道が全線開通しても、徳島市から高知市まで全区間通しで走るクルマは多くないだろうなという印象。
徳島市と高知市の連絡は、圧倒的に距離も短い川之江経由の徳島道・高知道の方が主流だろう。

高知と阿南を直結する国道195号も全区間加重平均でみれば1日5,000台近い交通量があるが、国土交通省の推計値ながら県境の四ツ足峠トンネル付近では1日の交通量が700台未満まで落ち込む。
国道195号で県境を越えて徳島⇔高知を移動する交通量時代が非常に小さい以上、阿南安芸道が全通しても、通行無料目当てで利用する需要もあまり大きくなさそうである。

なんとか奈半利と室戸の間に高規格道路
を通す術はないものか?

高知県庁が室戸市民の要望に回答しているように、農道として建設するのは有効な策だろう
歩道や広い路肩や街路灯などの安全設備の基準が国道より農道の方が緩い分、おそらく国道55号のバイパスを作るより安上がりになる。

それに、国道55号バイパスとして整備してしまうと、国の負担になるので県や市の負担はかからない代わりに、
室戸にもあわよくば高速道路
という「最後の望み」も絶たれることになる。

「最後の望み」

上の方で、
北川奈半利道路が着工してしまった1996年が、室戸の高速道路の夢が断たれた瞬間と書いたが、今ならもう1回くらい小さい小さいチャンスが復活しているようにも思う。

というのも、東日本大震災で、仙台−八戸間の三陸沿岸に
三陸復興道路の全線整備が決定したからだ。

被災した岩手県民には酷な言い方だが、三陸復興道路
、本当に必要なのか?
まあ、日本国民が選挙で支持した時の政権が決めたことだ。
民主主義の手続きを経て決まったことなのだから、
三陸復興道路は必要なんだろう。

その三陸復興道路と並行する現道の国道45号の交通量を、三陸沿岸の主要地点ごとに区切って加重計算にて算出(出典:H22道路交通センサス)したのが下の棒グラフだ。
r45とr55比較
室戸−奈半利の国道55号より交通量が少ない区間でも、三陸なら問答無用で高速道路
が建設されているのだ。

岩手県の小本(岩泉町)−久慈市の区間なんて、1日の交通量が4,300台程度しかない。
室戸−奈半利の交通量の半分にも満たないのだ。

室戸−奈半利の高速道路が不要なら、陸前高田−釜石と宮古−久慈も不要になる。
個人的に本音を言えば、三陸復興道路
は仙台−気仙沼と、久慈−八戸だけあれば十分だろう。
残りの区間は、市街地や危険個所に一般道規格のバイパス建設とし、それ以外は現道のままか登坂車線とゆずり車線追加程度で済むように思う。


室戸市の人口は2015年10月末日で14,558人しかいない。
高知県内でもいの町や四万十町より人口が少なく、青森県で言えば野辺地とか鶴田とか板柳といった「町」とたいして変わらない。

一般的な町と同規模の小都市である室戸市に向かうだけの高速道路
を、というのは無理があるのは承知だ。
だが、室戸より交通需要が小さいにも関わらず、震災復興・災害対策を大義名分に三陸復興道路全線整備
が許されるのなら、室戸に高規格道路の1本でも建設しても良いじゃないか、と思わずにいられない。

既に東日本大震災の津波を被災した地域に篤くしたい気持ちもわからんでもないが、三陸復興道路
はいったん凍結して、これから被災する可能性が高い室戸とか紀伊半島とかに配分したらどうよ?

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