2月から3月にかけての首都圏の通勤電車に乗っていると、予備校の車内広告の多さに大学受験を思い出す。

僕は私大を受験しなかったが、私大受験のためにセンター試験が終わると早々に上京していた同級生から「予備校の広告が多すぎてヤバい」と聞いており、実際に国立2次試験で2月末に上京した際には聞いたこともないような予備校の広告が溢れているのを見て、予備校業界から浪人の世界へようこそと言われているような複雑な気分になったものである。
3月に国立前期の合格発表とほぼ同じタイミングで河合塾や代ゼミから仙台校への入学案内状も届いた時には、鬱憤を晴らすかのように破り捨てたものである。

とはいうものの、実は通ったことがない「予備校」という世界を覗いてみたい興味はあって、2014年8月24日には代ゼミ仙台 閉鎖に思うという日記を書いたこともある。

上述の日記にも書いている通り代ゼミ仙台校は2014年度を以て閉校してしまったわけだが、最近になって代ゼミ新潟校は存続している事に気が付いた。

仙台市新潟市の都市規模の差から考えれば仙台が存続して新潟が廃止になりそうなものだが、代ゼミの校舎展開が逆になっているということにはそれなりの根拠があるのだろう。
代ゼミの経営判断について直接取材したわけではないが、自分なりに推測してみようと思う。
◆ 東北地方の現役志向/浪人回避志向はかなり強そうだ

代ゼミ仙台校閉鎖のニュースが出た頃から報道などで伝えられている通り、大学受験において現役志向が強まっているというのはあるだろう。

それは地方経済の不況で家計に余裕のない世帯が増えているからだ、などの指摘もあるが(多分合っているだろう)、とりあえず、東北地方の主要な進学校の国公立大学合格者数に占める浪人生の割合を見ていきたい。
私立大学の数値も入れたいところだが、私大は一人の生徒が何校も受験して合格するケースもあるので、国公立大に絞ってみていく。

平成29年の東北地方主要進学校の国公立大学合格者数
学校名現  役浪  人浪人比率




青森県立八戸1391912.0%
岩手県立盛岡第一1325027.5%
宮城県立仙台第二12111548.7%
山形県立山形東1223924.2%
福島県立福島1635525.2%
東北六校会()計67727829.1%







青森県立青森1563317.5%
青森県立弘前1444021.7%
秋田県立大館鳳鳴11175.9%
宮城県立仙台第一12411047.0%
宮城県立石巻60811.8%
宮城県立古川521320.0%
山形県立酒田東11286.7%
福島県立安積1393721.0%
福島県立磐城1272918.6%
14校の合計1,70256324.9%
(各高等学校ホームページの公表数字を基に作成。 東北六校会には秋田県立秋田高も加盟しているが、現浪別合格者数を非公表)

こんな感じで、東北6県のトップ進学校で構成される東北六校会や、各県の主要な進学校の平成29年の国公立大合格者数をまとめてみた。
東北六校会のうち秋田県立秋田高校のみが現役・浪人別合格者数を公表しておらず、秋田都市圏で二番手の進学校である秋田南高校も同様であったので秋田都市圏の傾向は掴めず、代わりに県北中核都市・大館市の進学校である大館鳳鳴高校の数値を掲載した。

数字を見ると一目瞭然で、仙台都市圏の仙台二高と仙台一高の国公立大合格者数に占める浪人比率はそれぞれ48.7%、47.0%と突出しており、両校の国公立大合格者の二人に一人は浪人生ということになる。
が、他の進学校12校では浪人生の比率が30%を超える所すら無く(東北全ての高校を見たわけではないが)、仙台都市圏以外の12校の国公立大合格者に占める浪人生の比率は18.8%と2割にも満たない。

東北6県各地では仙台都市圏を除いて、現役志向・浪人回避志向が強いのだろう。
宮城県内で比較しても、石巻高校や古川高校の浪人比率は他県の進学校の数値と近似していて、石巻都市圏や大崎都市圏でも現役志向が強いと言えそうだ。
◆ 各予備校も現役志向の流れは掴んでいるけれど…

予備校も少子化で生徒が減少しているので、1990年代の浪人生を主たる対象にする商売から、ターゲットを現役高校生に変えている、という流れもよく報道とかで指摘されていて(多分この指摘も合っているだろう)、これは現役志向の強い東北6県とも相性が良さそうに見える。

が、どんな商売にも業種別の「商圏」というものがある。
一般的に、高価で滅多に買う事のない耐久消費財(自家用車、家電製品、ブランド品)など買回り品は商圏が広くなる一方で、安価で日常的に購入することの多い普通生活雑貨などの日用品や生鮮食品の商圏は狭くなる。

予備校に子供を通わせるというのは浪人であっても現役であっても家計にとっては「高価な支出であり、事実、1990年代の浪人生を対象にした全寮制の予備校の商圏は広かったと言えるだろう。
仙台の大手予備校は東北6県から浪人生を収容していたし、これは仙台に限らず札幌や広島や福岡の大手予備校も各地方の広い範囲から浪人生を集めていたのは間違いない。
(現在でも仙台市内の仙台二高・一高の浪人の突出した多さは、寮に入らなくても自宅から予備校に通学可能(=家計にやさしい)という好条件も影響しているのだろう。)

しかし現役生が対象となると、浪人生を対象にした場合に比べて商圏はかなり狭くなるだろう。
仙台から遠隔地の青森高校や盛岡一高などから仙台の予備校に浪人として入学する生徒はいても日常的に仙台の予備校まで通う青森高校や盛岡一高の現役生は殆どいないだろうことは容易に想像がつく。

つまり、商圏の狭い現役生をターゲットにする予備校の場合、所在地周辺の狭い範囲にどれだけの顧客がいるかが重要になってくる。

ここで、仙台市新潟市、そして他の地方中枢都市(札幌市広島市福岡市)の15-19歳人口の2000年からの推移をみてみたい。
5都市の15〜19歳人口推移および推計値
都市名国勢調査の結果値推計値
2000年2005年2010年2015年2020年2025年
札幌市116,639104,22092,89789,06676,98473,427
仙台市73,14063,08256,57155,12843,92443,016
新潟市32,44745,34440,67439,64534,52232,967
広島市68,40961,51557,34058,94956,38255,907
福岡市92,45079,73276,63577,61464,25266,904
(推計値欄の2020年の値は2015年の10〜14歳人口、2025年の値は2015年の5〜9歳人口の値を使用)

代ゼミは仙台の他に広島からも撤退しているが、この2市は代ゼミが存続を決めた札幌市福岡市に比べると15-19歳人口が少ない。
将来的に15-19歳となる14歳以下の子供の人口でみても、広島は2010〜2015年にかけてやや回復したなど踏ん張っているようだが、仙台の15-19歳は2025年には2015年から2割を超す1万人以上も減る計算である。
仙台は東北他県からの流入もあるだろうが、それ以上に仙台から東京への流出もあるだろうから、予備校に通う年齢層のドラスティックな回復は望めないだろう。
これで福岡市のように近隣後背地に多くの人口があれば別だが、仙台は近郊に大きな衛星都市が無いのも、撤退を決断させる要因になったかもしれない。

仙台や広島からの代ゼミの撤退は、ビジネスモデルの変容に伴って各拠点の商圏も縮小し、商圏人口の少ない拠点から撤退したということが言えるのだろう。

では新潟市から撤退しなかったのは何故なのよ?と。
◆ 新潟は仙台よりパイの取り合いが緩かった。

大手予備校の中でも浪人生を多数受け入れるという点で、駿台予備校と河合塾と代々木ゼミナールは三大予備校と呼ばれている。
最近だと東進ハイスクールを運営するナガセの勢いが凄まじいが、東進ハイスクールは北海道・東北・新潟には所在しない(東進衛星予備校ならある)ので、とりあえずこの三大予備校の立地を見ていく。

仙台、広島から代ゼミが撤退する前の2010年の時点で比較すると、札幌仙台広島福岡のいずれも三大予備校があったが、新潟代ゼミ1社のみの立地だったのだ。
仙台などと共に2014年に代ゼミが撤退した京都市、岡山市、北九州市、熊本市の2010年時点の15-19歳人口を立地予備校数で割ると、下のグラフのようになる。
2010主要都市別予備校1校あたり10代後半人口
新潟市には三大予備校のうち代ゼミしか所在せず、1校あたりの15-19歳人口でみると仙台の倍以上もあったということになる。

そして、三大予備校すべてが揃う都市の中でも、仙台と広島は特に人口が少ない都市であったことがわかる。
両市とも三大予備校以外にも、全国展開する予備校や地元の有力な予備校も複数所在するわけで、競争は激しいものだったろう。

新潟市と同じく三大予備校が1校しかなかった岡山市や熊本市も、予備校1校あたり人口が大きな値を示すことになるが、ベネッセ系列の岡山進研学院(岡山市)や、日本で二番目に生まれた大学予備校とされる壺溪塾(熊本市)や北九州予備校(北九州市)など、地場の有力な予備校との競争が避けられない
新潟に代ゼミに対抗できる地場の有力予備校が無いというつもりはないが、2010年当時の県の15-19歳人口で比較すると岡山県は94,662人、熊本県は90,657人に対し新潟県は112,142人と2万人程度卓越し、後背地の人口に余裕があったのも要因かもしれない。


あとは、各校舎別の売上高やシェアなどの採算性も、存続か撤退かを決める重要な要素として存在しただろう。
上のグラフの数字はあくまでシェアを均等に割った場合の15-19歳人口の数字で比較したが、地区トップシェアを取っている営業的に優秀な校舎であれば人口が少なくても存続の判断が働くだろうし、エリアの人口が多くても不採算校舎であれば撤退、という判断が有り得る。

予備校に限らず、地方拠点の維持・撤退の意思決定は様々な要素を勘案して実行されるから、商圏人口というのはあくまでも意思決定の材料の一つに過ぎない。

いずれにせよ、人口減少社会においては仙台や広島クラスの都市でも、今ある拠点撤退の可能性が今後は高くなっていくということだけは間違いないだろう。

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