今回は番外編で、青森県でも南部の方の山岳回折について。
 南部と言っても県の南の方を意味する南部ではなく、旧南部藩領を意味する南部である。
 旧南部氏の領土でいえば盛岡藩と八戸藩を合わせた地域になり本来なら下北半島も含まれるが、こんにち青森県で南部地方といえばおおむね三八上北地方(八戸市、十和田市、三沢市、上北郡、三戸郡)の話になる。
三日月の丸くなるまで南部領
(C)KOEI
 
 南部地方で遠距離受信と言えば、それはもう岩手の二戸局受信一辺倒という状態だ。
 種市本町局とか二戸堀野局なども対象になるようだが、いずれにせよ岩手を狙うのが定説である。

 もちろん、当ブログとも交流のあるぽいふる氏のように秋田の花輪局など岩手以外の局を狙う例もあるのだが、彼でも北海道波の常時固定受信には成功していない。
 アナログ時代には八戸市内でも北海道を受信する例もごく少数あったらしいが(2ちゃんねる情報なので正確かはわからない)、現在の北海道の地デジの固定受信例は南部ではほぼ全滅してしまっただろう。

 それでも、南部の遠距離受信=岩手狙いとも言えないのだ。

Tenmabayashi hokkaido
 これは七戸町(旧天間林村)で見つけたマスプロ電工LSL30(たぶん)の設置例。
 プライバシーの問題もあるので詳細は伏せるが、青森や八戸では222°を向いて設置されるBS受信用のパラボラアンテナとは逆の方向──つまりLSL30は北を向いているのだ。

 反射器が壊れているし、輻射器も外れているので現役稼働はしていないとみられる。
 最初に見かけてから十年以上、もともと二戸を向いていたが強風などの影響で方向が変わっただけだろう、とか、もしかすると上北局とかむつ局を受信しているかもしれないなどと推測していた謎のアンテナだが、今回、南部七戸での室蘭送信所の遠距離受信例だったと確信に至ったのである。
◆ 室蘭送信所をRadio mobileでシミュレーションしてみた

 南側(青森県方面)に送信面がない函館送信所と異なり、室蘭送信所は室蘭測量山から内浦湾越しに亀田半島北岸にも電波を届けるため南側にも送信面があり、青森県内での受信可能性についてシミュレーションしてみたのである。
 結論から言うと、県内で人が住んでいる所では尻屋崎周辺くらいしか可能性はなさそうなのだが、ある山に着目した。

室蘭局電界強度釜臥山付近
 下北の釜臥山山頂部に60dBμV/m以上の電界強度を示す赤い色がポツンとついたのだ。

 釜臥山の山頂に行けばあずましく室蘭の電波は受かるということになるが、これをみて脳裏に浮かぶのは、青森と秋田の県境地帯にそびえる陣場岳や田代岳である。
 陣場岳や田代岳など、津軽に山岳回折秋田テレビ(AKT)の受信をもたらす山々もまた、Radio mobileで秋田送信所をシミュレーションするとポツンと赤くなるのだ。

 これに着想を得て、室蘭測量山と釜臥山を結ぶ直線を延長させてみたところ、なんと件の七戸町の謎のアンテナの設置場所が現れたのだ!
 すぐさま、地形断面図を出してみる。
MUR-TEM
 Radio mobileでは一見すると成立していないように見えるが、奇跡的にも亀田半島の脊梁部を華麗にかわした室蘭送信所の電波は津軽海峡を越え、下北半島最高峰の釜臥山まで障害無く到達し、さらに回折波は陸奥湾を越え、どこの山や丘陵にも触れずに七戸の受信点まで飛んでくる地形になっていたのだ。
 室蘭送信所から送信された電波が、下北の釜臥山で山岳回折し、七戸で受信できていたとは!
Murotan Tenmabayashi CHIRI
 国土地理院の地理院地図で断面図を書くと一目瞭然。左が室蘭、右が七戸だ。
 盛り上がる地形は左から測量山、亀田半島、下北半島(釜臥山)、七戸周辺の陸地だ。

D室蘭局 青森県上北地域でのCH重複状況
CH室蘭上北八戸青森三沢
16IZTG
20HTBTG
22HBCRAB
24IQABA
26TVhRAB
29VK
31STV
33UHBMCTV1
 「七戸で受信できていた」と過去形にしたのは理由があって、上の表をみての通り。
 当地でフジ系を見たいのならMIT(めんこいテレビ)二戸局を狙っておけばよいわけで、敢えて室蘭に向けたというのはやはりUHBではなくテレ東系のTVhテレビ北海道狙いだったと見るべきだろう。
 残念なことに、TVh室蘭局26chRAB上北局ch重複になるため、七戸から北にアンテナを向けるとRAB上北局が受かってしまい、TVh室蘭局は受信できなくなる。
 反射器が壊れたままで、輻射器も外しているのはそういう事情があるのだろう。

 ただ、重複がなければ受かる可能性はあり、31chSTV29chNHK総合渡島局を対象に移動受信実験を行ったのである。

tenma
 件の北向きのLSL30の設置がある地区の周辺で、北方面の見通しの良さそうな標高の高い点で、31chに合わせながらうろうろ。

stvm 7nohe
STV札幌テレビ
室蘭局物理ch=31ch
レベル:8
dem 7nohe
Eテレ函館
渡島局物理ch=29ch
レベル:0

 まさか本当に南部で室蘭のSTVが受かるとは。
 ワンセグながら復調してしまうとはなあ。

 ぶっちゃけると、この日はいくらかラジオダクトも発生しており、陸上短距離でいう「追い風参考記録」ではあるが、それでも収穫。
 出力1kWでERPが10.5kWのSTV室蘭局は受かったが、出力500WでERPが8.1kWのEテレ函館 渡島局は受からず。
 同一周波数とはいえ三沢のMCTVの1セグ放送は出力が小さいので、UHB室蘭局もどうかなと思ったが受からず。県内に重複がある他の5局も反応は無かった。
◆ 釜臥山の回折点周辺の地形をみておく

 最後に、室蘭測量山からの電波を山岳回折させる下北半島釜臥山周辺の地形断面図をみておく。
 伝搬ルートは風間浦村の下風呂からむつ市城ヶ沢にかけて下北半島を通過する。

SHIMOKITA ROUTE
【画像はクリックで拡大します】

 なかなか芸術的に釜臥山で回折するわけだが、100mも東にずれれば荒川岳の山頂と釜臥山の東の裾で複数回ひっかかることになり、山岳回折は上手くいかないだろう。

 一方で西側の北国山や障子山なら、釜臥山同様に山岳回折は上手く決まるようだ。
 ただ、見通しがよく伝搬条件が良いからこそ、釜臥山も北国山も障子山も電波塔だらけであり、山岳回折する電波の通り道としては干渉もあって決して良くはないかもしれない。

 それでも、条件さえ良ければ今回の受信点から西側のエリアにも、北国山や障子山による山岳回折での室蘭局受信可能地点はあるかもしれない。
 山岳回折は限られた地域だけが享受できる「飛び道具」的な現象で、やっぱり面白い。

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