iwasakimountains
【岩崎沢辺の駐車帯から望む岩崎の沿岸部】

 深浦町岩崎──隣接する深浦町との合併で2005年3月31日を以て消滅した西津軽郡岩崎村は秋田県と接する県境の村であった。
 平成の大合併が取り沙汰され始めた2001年には秋田県側の能代山本地域への合併も検討されたこともあるほど秋田県とのつながりは深く、買い物や通院、進学行動も能代指向が非常に強い。
 1992年の夏の甲子園に出場した能代高校の試合を岩崎村で観戦していたという岩崎出身の能代高校OBの寄稿文には「父は食堂の仕事をしながら(中略)集まっていたお客さんと一喜一憂していて、勝利の瞬間小さな食堂で大声で能代高校の校歌を歌っていた」「父が自分に『能代高校の校歌っていいべ、いい歌だべ』と言いました」「自分は能代高校で野球をやって甲子園に行く」などとあり、能代との繋がりの深さが岩崎の地域コミュニティ・各世代に浸透している様子が伝わってくる。

 そんな岩崎は秋田県の放送局を遠距離受信する『本場』である。

iwant1
コン柱上の普及型20素子
iwant2
屋根馬上の普及型14素子
 
 陣場岳の山岳回折波を受信する津軽平野の当地ではマスプロ電工が「超高性能型」として売り出しているパラスタック型20素子のLS206TMHを使ってやっと受信できるところだが、岩崎は普及型アンテナ、それも14素子でも何とかなってしまうのが秋田に接する県境の村らしくて良い。

 アナログ放送時代に岩崎の民家のテレビで秋田の放送を見させてもらったことがあるが、VHFもUHF局も青森県内の放送と遜色ない鮮明な画面で、感動したのを覚えている。
 岩崎で受信するのも当地と同じ秋田送信所(大森山の親局)の電波であるが、岩崎までの距離は約103kmで函館送信所−青森都心部の距離とあまり変わらない。
 
DSC_1177
【旧岩崎村役場周辺は海抜7m】

 秋田−岩崎間も函館−青森間もほぼ同じ距離なのに、青森市で受信する北海道の放送にはノイズがあった。
 岩崎では秋田の放送を鮮明に受信できるのに、青森市では鮮明な受信が叶わないことについては、能代方面にも送信アンテナが向いている秋田送信所と、青森市方面には向いていない函館送信所の送信指向性に理由があると長いあいだ考えていた。
 秋田と函館の送信所の指向性の違いも理由として正しいとは思うが、それにしても秋田送信所の見通し距離は函館送信所よりかなり短いのである。

 UHF電波の見通し距離について触れたこちらの記事で作成した表を再掲する。

青森周辺 主要県外局見通し(伝搬)距離 推定値()
受信高
(m)
送信所・中継局
秋田鶴岡函館渡島
福島
二戸
055.374.880.382.4123.6
159.479.084.486.5127.7
564.584.189.591.6132.8
1068.387.993.395.4136.6
1571.290.896.398.4139.6
2073.793.398.7100.8142.0
10096.5116.0121.5123.6164.8
300126.6146.2151.7153.8195.0
1250200.9220.5226.0228.0269.3

 AKT秋田局180mUHB函館局380mと仮に設定し計算したものだが、秋田局の見通し距離は函館局より25kmくらい短いのである。
 実際、A-PABのエリアのめやすで秋田局のエリアをみても明らかなように、秋田−能代間に高い山などなく平坦なのに能代市中心部は秋田局のエリアに入れないのである。
 実効輻射電力は秋田も函館も11kW前後だから電波の強さに大差はないが、見通し外であれば基本的に受信困難になる。青森市内で函館局を受信しようと思ってもほぼ不可能であることは前回の記事で述べたとおりである。

 見通し外の岩崎でなぜ秋田テレビが映るのか?

akt-iwsk
秋田局−岩崎中心部
akt-swb
秋田局−岩崎沢辺

 Radio mobileで解析してみたところ、この通り山岳回折がキマッていた。

 シミュレーションで岩崎中心部の受信地は陸奥岩崎郵便局、沢辺の受信地は国道101号ゆとりの駐車帯である。

 岩崎中心部(郵便局、陸奥岩崎駅、旧村役場周辺)の場合、秋田・大森山から約86km地点の山で回折するらしい。県境の集落・板貝の東側の海抜約300mの地点(40度26分6.30秒 139度56分54.61秒)周辺が回折点のようである。
 今回はシミュレーションしなかったが、中心部でも岩崎漁港周辺だと少し西にずれて県境の須郷岬至近の50.3m高地周辺が回折点となる。

 沢辺地区になると須郷岬より西側の海上を伝搬する為、山岳回折点はさらに南に移って、秋田・大森山から約53kmの三種町八竜から能代市南西部の標高30〜50m前後の丘陵地帯(40度7分21.29秒 139度58分46.70秒)が回折点になるようだ。
 八竜・能代境界付近の砂丘の回折点から岩崎沢辺までは52kmの海上伝搬となり、見通しは辛うじてある感じである。
 沢辺のゆとりの駐車帯の標高は45mだが、回折点の標高も42mしかない。クルマのフロントガラスのフィルムアンテナが地面から1mの高さを稼ぐとして受信高46mで計算しても、見通し距離は54.64kmなので2km程度しか余裕がない。

DSC_1176
【陸奥岩崎駅周辺の岩崎中心部】

 岩崎のAKT受信も山岳回折だったとは。
 すっかり、秋田から日本海上を飛んでくる直接波受信だとばかり思っていたが、山岳回折で間違いない。
 ほぼ同じ伝搬距離(約103km)でも、海面反射波受信による青森市内の函館遠距離受信はほぼ不可能になっているのに対し、間に僅かな盛り上がりでも良いから回折点になりうる陸地があれば山岳回折で岩崎から秋田の遠距離受信を可能にするんだな。

 海面反射より山岳回折の方が地デジの遠距離受信には向いているのかもしれない。
 見通し外の海上伝搬で、海面反射で地デジの遠距離受信が成立する地域というのは今のところ知らない(ワンセグでも良いならあるのだろうが)。
◆青森県のフジ系遠距離受信発祥の地・岩崎
DSC_1193
【岩崎沢辺の宿泊施設のアンテナ設備】

 沢辺に宿を取り、岩崎のテレビを楽しむことにした。
 津軽平野の当地と違い、「本場」岩崎は秋田局の受信条件は良い。
 受信条件が良いだけではなく、秋田テレビフジテレビ系列正式加盟は1969年なので、1972年の北海道文化放送(UHB)の開局よりも早く、つまり岩崎は青森県内で最も長くフジ系を見ている歴史があるということになる。
 歴史もまた「本場」と言わせるに十分である。

iwsk8
AKT
受信レベル=49
iwsk5
AAB
受信レベル=32
iwsk1
NHK-G
受信レベル=41
iwsk2
Eテレ
受信レベル=45

 沢辺の宿のアンテナはパラスタックではない20素子アンテナで、角度的にはどうやら岩崎局と秋田局の中間に向けているらしい。混合を避け、アンテナ1本で青森と秋田の放送を一網打尽にする作戦か。
 秋田にはTBS系がないので、岩崎の人はATVを受信する必要がある。これが大間とかになると「HBCがあるからいらない」と青森にはアンテナを向けない家もごく少数あったりするが、岩崎ではそうはいかない。
 往年の『土8戦争』はATVの「全員集合」とAKTの「ひょうきん族」による、県境を越えた戦争だったのだ。

 宿のアンテナはおそらくUHF全チャンネルが受けられるモデルなのだろう。
 ハイチャンネルのNHK総合秋田Eテレ秋田も視聴できたが、当地でも滅多に復調しない秋田放送(ABS)はEPGにすら入っておらず、当地では冬の間もっとも安定していた秋田朝日放送(AAB)は復調できないレベルだった。

 食事の時に女将に聞くと「アンテナに木がかかってきてるから、ここはあまり映りは良くない」と言うが、そんな悪条件でも映ることに感心する。LS206TMHとかLS306TMHを使えば極めて安定するのだろう。
 
 女将に話を聞くと、買い物は能代。だいたい1時間ちょっとで着くという。
 テレビは「朝日も秋田を見ていた」というので、ABA岩崎局が無かった時代はAAB秋田局(アナログ31ch)で見ていたのだろう。
 天気予報も「『津軽』ではなく『秋田沿岸』のを見ています」という。
◆春はAKTが安定するのか?
antlv
【当地の受信CHレベル一覧】

 岩崎から青森への帰りにそのまま津軽平野に立ち寄って、当地の受信状況も記録。

秋田民放3波受信データ(2020/3/13)
FEM表示画面表示値
3138秋田テレビ(AKT)
AntLV=53
POWER=-47dBm
C/N=20dB
BER 5.20E-5
3135秋田朝日放送(AAB)
AntLV=46
POWER=-44dBm
C/N=17dB
BER 2.73E-3
3134秋田放送(ABS)
AntLV=35
POWER=-54dBm
C/N=13dB
BER 2.20E-2

 前回に続き、春に向かうにつれてAABよりAKTが安定する傾向が出ている。
 ただ、降雨時にAKTもダメになることがあるらしく、どうも季節の変わり目の悪天候時には受信不良が訪れるような気もしている。
 
 岩崎も、津軽平野と同じ山岳回折AKTを見ていることが分かった今回の記事。終わり。

blog_rankingクリックでブログランキングに投票!