今回の記事は、地デジの遠距離受信が成立する受信電界強度の下限値を推定していく話に関連して、下限は親局と中継局で違うのではないかという話。

 最初に断っておくと、ボクにもわかる地上デジタルさんにも書いているとおり、地デジの受信で重要視されるのはC/N値の方である。
 Radio mobileでは電界強度のシミュレーションは出来てもC/N値の推測はできない。

函館7波13地点平均相関図
【函館局7波の青森市内13地点平均受信データ】

 しかし受信電界強度(受信電力)の強さとC/N値の高さには相関性もありそうだというのが、青森市内で函館局の移動受信実験をしてきて得られた実感である(UHBHTBが上北局との混信によって受信電力が跳ね上がって電界強度の参考にならないというケースもある)。
 ある程度は、受信電界強度の下限値が推定できれば、遠距離受信が可能かどうかの目安になると思うのである。

 電界強度の下限値が親局と中継局で違うと思ったのはなぜか。 

 当地(五所川原都市圏内、旧西津軽郡地域)では、AKT秋田親局受信電界強度が29dBμV/m程度である。
 固定受信設備と受信実験用の設備で利得・損失値は異なるが、どちらの設備でもAKT秋田親局は安定して復調する。

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【鯵ケ沢簡裁裏での渡島福島局受信実験】

 だが、受信実験用の設備で鯵ヶ沢簡易裁判所裏で実施したUHB渡島福島中継局の受信実験では、推定電界強度が35.5dBμV/mもありながら復調に失敗した。
 狙っている局は違うが、当地よりも受信電界強度は6デシも高いのだ。
 青森市内での函館局受信を参考にすれば、上北局のような混信で受信電界強度が跳ね上がっているのかと疑いたくなるが、UHB渡島福島局の使用する38chは、過去にATVアナログ親局が地デジ完全移行まで使用していた。このため現在でも青森県の広範囲に38chの地デジの中継局がなく、重複波による妨害の可能性は低いだろうと推測している。

 AKT秋田親局の遠距離受信を成功させ3年以上受信データを見てきた経験的には、鯵ヶ沢簡裁裏のUHB渡島福島局も復調に持ち込める受信電界強度と思うのだが、復調しないのはなぜか?

 調べたらこんな論文を見つけた。
 平川 靖紀 島田 博樹 日本放送協会技術局(2003)「地上デジタル放送における回線設計の一考察」
 天下のNHK様が今から20年前の地デジ黎明期に出した論文であるが、非常に参考になるのでポイントを。

親局の放送波はC/N劣化が生じず、送信された時点での電波の品質の指標となるC/Nは非常に良い状態である。
●フェージングや受信電力低下、局発の位相雑音など様々な要因で、親局の放送波が中継局に届いた時点でC/Nは劣化している。
●このため中継局では送信された時点で親局よりC/Nが劣化し、そもそも電波の品質が良くないことがある。
●中継局の段数が増えるほどC/Nの劣化が蓄積されることがある。

 この論文に載っている回線設計例の表をみると、親局送信時点で42.9dBあった出力C/Nが、4段目の中継局送信時点では28.0dBまで落ちるという。親局に比べて末端の中継局では出力C/Nが15dBも劣化するケースもあるということか。

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【函館山・NHK函館放送局(JOVK)函館親局(2008年撮影)】

 親局とは、青森でいえば馬ノ神山の青森送信所、秋田なら大森山の秋田送信所である。
 北海道の民放は厳密には手稲山の札幌送信所が親局になるが、函館山の函館送信所も親局のようなものだろう(NHK函館放送局(JOVK)なら紛れもなく函館送信所は親局である)。
 青森送信所、秋田送信所、函館送信所のいずれも、送信される電波の品質は非常に良いのだろう。

 これに対して渡島福島中継局の場合、函館送信所(事実上の道南の親局)からの伝送ルートは不明だが、渡島福島中継局のC/Nは送信された時点で函館送信所のそれより劣化している可能性がある。
 品質が良い親局波(函館送信所や秋田送信所)の場合は復調に至る受信電界強度でも、品質が劣化している中継局の場合は復調に至らない可能性もあるということだ。

渡島福島局−函館送信所断面図α
【渡島福島中継局ー函館送信所間の地形断面図】

 函館送信所〜渡島福島中継局間約46kmは見通し内受信が可能な地理条件でなので、1段の放送波中継かと思われるので、NHKの論文の例でいう2段目→3段目の44.5dB→37.3dBという7.2dBのC/N劣化例を参考にしてみたい。
 鯵ヶ沢簡裁裏のUHB渡島福島局の受信データではC/Nが12dBだが、劣化した7.2dBを加算すればC/N=19.2dBとなり、これなら普通に地デジが復調する品質である(BERが破綻していれば話は別だが)。

 送信された時点で劣化している(可能性のある)中継局の放送波は、復調させるのも難易度が高いということになるのだろう。
 同じ強さの電波を受けていても、親局のそれより中継局のそれは品質が落ちているからである。

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山岳回折で津軽平野にAKTの恵みをもたらす陣場岳と陣岳】

 ここまでは海上伝搬(見通し内受信)の渡島福島局受信の話だったが、山岳回折受信だったらもっと厳しいかもしれないと思っている。

 山岳回折の場合、回折時に電波の強さのみならず品質も大きく劣化すると考えられるため、地デジの遠距離受信が成立するのは親局波のようにもともと品質の良い電波に限られるのだろうと思う。

 なにせ、Radio mobileでシミュレーションすると、青森と秋田を隔てる白神山地や大鰐山地の稜線の時点では、大森山の秋田局に限らず鷹巣中継局や大館中継局、花輪中継局などの受信電界強度も同じくらいの数値が見込まれているのだ。
 それが県境を越えて津軽平野でも復調可能なのが大森山の秋田局に限られるというのは、やはり中継局の電波は回折時点で劣化が限度を超えて死んでしまうのだろう。

 本当は青森に近くて指向性的にも相性が良いのは秋田県北の鷹巣局や花輪局だが、そちらの局の遠距離受信の成功者は寡聞にして知らない。中継局の電波は段数が進むごとにC/N劣化が蓄積されるというNHKの論文の証左のような気がする。

 山岳回折の遠距離受信の成功例は、親局を対象にしている例が殆どなのではないかと思うのである。
 普通に考えても中継局レベルで簡単に山越えしてたら、みんな困らないもんな。

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