6月23日に公開した平舘・今別でTVhの送信指向性を分析したの記事で、TVh函館局は185°方向を境に送信アンテナ利得が大きく変わるのではないかと考えた。

TVHアナログ函館局水平指向性特性図
【再掲・TVh函館アナログ局送信指向性図】

 函館山のTVh函館局は時計回りに恵山方向(90°)、渡島福島方向(260°)、木地挽山方向(350°)方向の3方向に送信しているとみている。
 青森市や東津軽郡、また山岳回折で津軽平野方面で受信される電波は260°方向の送信波のおこぼれである。

 260°方向のおこぼれの電波の強さが、185°方向より東側でガクンと落ちるのは平舘蟹田での実験でも実測してきたが、「260−185=75」だとすれば、恵山方向に送信されるTVh函館局の90°方向の送信波も「90+75=165」°付近を境に利得が大きく変わるのではないかと推定し、下北で実験を行ったのである。

下北北通受信実験地
【受信実験を実施した下北半島・北通の沿岸部図】

 下北で北通といえば厳密にはむつ市の関根や旧大畑町も含まれるが、大間と風間浦、佐井の北通3町村を対象として上図の12か所で実験を行った。
 津軽半島での実験と同じように、送信指向性によってTVhの受信電界強度がどのくらい変わるかを見ていくことにしたのである。
 TVh函館局の周波数は509MHzで、マスプロ電工・LS56の利得が8dB、サイトウコムウェア・AMP-UKのブースター利得が21dB、ケーブルその他の損失が0.6dBとして、AQUOSのFEM画面の受信電力から推定受信電界強度を算出した。
◆受信実験風景

 下北半島の大動脈・国道279号を北上し、風間浦村から大間町を経て佐井村にかけ順に調査した。

下風呂
FEM表示画面受信風景
風間浦下風呂DSC_0561

 下風呂選手、先頭打者初球特大ホームランみたいな超好成績を出してビビる。
 TVhがアンテナレベル99(推定受信電界強度=66.8dBμV/m)でC/N=40dBって、今別でも見たことが無い。

 推定受信電界強度は66.8dBμV/m(受信実験に使っているAQUOSは受信電力値が7dB下振れする)なので、今別の元宇田川河口受信点と電波の強さは同じくらいだと思うが、TVhのC/N=40dBは驚愕である。

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【大橋巨泉「下風呂の朝は早い」】

 いやしかしだ、青森からノンストップで北を目指す札幌ナンバーの長距離トラック野郎と一緒に飛ばして下北まで来てだ。ここ下風呂の素晴らしい朝風呂を堪能している暇もない。
 我々の目的地は牛滝なのである。自分で組んだ予定とはいえ、せっかく下北に来ているのに観光要素ゼロである。

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本州北海道連絡橋の看板が出迎えてくれる大間町】

 風間浦村の易国間、蛇浦を抜けて本州最北の町・大間に突入する。
 大間町に入る直前で「大間崎」と標識が出る旧道・町道へと曲がって行くと出会えないが、国道279号大間バイパスを直進すると本州北海道連絡橋の看板が出てくる。
 大間は北海道の隣町なのである。

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【大間崎−汐首岬は17.5km】

 亀田半島の旧戸井町の汐首岬と下北半島の大間崎の間は17.5kmなので、青函トンネルが貫く津軽半島の竜飛崎と松前半島の白神岬の間よりも短い。
 海峡幅が17km前後だと聞くと、フェリーでも1時間でお釣りが来そうな感じもするが、函館のフェリー埠頭が七重浜側にあるので函館山をぐるっと回り込む関係で1時間40分かかってしまう。高速道路なら、戸井−函館間を加えても大間−函館が30分台になるだろうから、大間の人が熱望するのもわかる。
 なお、函館山のTVh函館局から大間町役場の伝搬距離は約31.2kmである。

大間崎
FEM表示画面受信風景
大間崎DSC_0574

 2019年にカーナビのテレビで受信実験を行った大間崎第2駐車場で受信実験した。
 ここもC/N=40dBとは恐れ入った。
 推定受信電界強度は65.8dBμV/mである。
 アンテナを構える前から、電源入れた途端にTVhが復調しちゃうもんだからさすが大間である。

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【普及型アンテナを函館局と大間局に向ける大間の民家】

 下風呂など風間浦村は全世帯が村の共同アンテナに加入しているが、大間町中心部は各世帯でアンテナを上げての受信で、今別と同様で普及型アンテナで函館局を受信している。
 さすがにVHFのアンテナは塩を含んだ風雪に晒され老朽化して姿を消しつつあるが、UHFのアンテナは函館向きも新しそうなのが付いていて頼もしい。青森市だと腐って終わりのパターンだ。

大間フェリー埠頭
FEM表示画面受信風景
大間フェリーターミナル・フェリー無しDSC_0584

 大間崎の次は町の中心部を抜けて大間フェリー埠頭で実験。
 C/N=40dBを見た後だから霞むが、C/N=39dBも十分凄い。
 さて、地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究会(2002)「地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究」によれば、大間−函館間の定期フェリーの発着時刻とリンクするように電界変動と遮蔽障害や反射波の位相差損がみられるというが、どうやら爆走旅はこれに間に合ったようだ。

大間フェリー埠頭(フェリー有)
FEM表示画面受信風景
大間フェリーターミナル・フェリー有りDSC_0590

 津軽海峡フェリー大間7時00分発5便、出航。
 フェリーがアンテナの方向に来た時点で受信電力が10dBほど下がり(写真記録時は9dBダウン)、C/Nは39から25dBまで落ちた(それでもBERはエラーフリーだし良いのだが)。
 函館から30km程度しか離れていない大間でも影響が出るのであれば、大間の比ではない数の船舶や高層ビルが沿岸部に建つ青森市で、函館局の遠距離受信に致命的な影響を与えるのは無理もない。
 函館行フェリーに乗って行った北海道行の長距離トラック運ちゃんの旅の無事を祈り、大間からさらに南下する。

大間奥戸
FEM表示画面受信風景
大間奥戸DSC_0597

 建設中の大間原発を内陸に迂回する国道338号バイパスで奥戸漁港に移動。
 こちらでもC/N=40dBが出てしまい、本当に佐井方面で指向性が如実に影響してきて減衰する現象が起こるのか不安になってくる。
 奥戸漁港は函館山からみて149.15°方向なので、90°方向の恵山方面に向いた送信アンテナから約60°ずれるので、もうちょっと減衰しても良いと思うのだが、約135°方向(45°ずれ)にある下風呂並みの数値が出ている。

大間材木
FEM表示画面受信風景
大間材木DSC_0602

 大間町最南の集落、材木の漁港でも相変わらずというか、受信電力が下風呂より3dB強い。
 事前の予測では、大間から佐井に向けて国道338号を南下するにつれて成績がじわじわ落ちて、165°方向付近からガクンと成績が悪化するだろうと思っていたが、見立てが外れてしまった。

佐井村 アルサス
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 大間から佐井村に入って佐井港のアルサスに到着。
 写真左は正面のもの。青森ゆき高速船発着所のペイントがまだ残っているが、残念ながら青森港と佐井港を結んでいたシィラインは2023年春で廃止になってしまった。
 一応、仏ヶ浦観光船で仏ヶ浦まで行き、仏ヶ浦からはむつ市の「夢の平成号」に乗り継いで脇野沢港まで行くことが出来、脇野沢港からむつ湾フェリーで蟹田に渡れば津軽線で青森に出るルートがあるにはあるが、シィラインに比べればだいぶ不便である。

佐井港
FEM表示画面受信風景
佐井港DSC_0606

 佐井港は函館山からの方位角が160°に達する。やっぱり、恵山方面への90°方向から角度差が大きくなれば少しずつ受信電力は下がるはずである。大間崎や大間フェリー埠頭より受信電力が3dBほど下がった。
 それでも佐井でもC/N=37dBという高数値が出ており、佐井中心部は函館局の受信には全く困らないだろう。アルサスも函館にアンテナを向けているくらいなのである。

佐井矢越
FEM表示画面受信風景
佐井矢越DSC_0614

 165°付近から急激に受信電力が落ち込むのではないかという予測のもと、佐井港から南は可能な限り細かく実験をしていった。
 まずは矢越漁港。願掛岩の北側で函館局は見通し内。佐井港から直線で2.3kmほどの距離しかないが、どれだけ微調整しても受信電力で佐井港より4dBは差がついた。
 下風呂からスタートして、C/Nも初めて35dBを割り込んだ(大間のフェリー有の場合を除く)。

矢越の風景
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 矢越漁港には地元の漁業者も何人かいたので会話してみたところ、函館の受信は問題ないが、青森の受信がダメだという。
 矢越だと佐井中継局もギリギリなようで、青森の親局の方がマシだという人もいれば、願掛岩(写真右)があるから青森局もダメだという人もいる。それぞれの人によって答えも様々だが、青森の受信は共同アンテナか、共同アンテナがなければ試行錯誤が必要なようである。

願掛岩の坂と津軽半島
【津軽半島を望む願掛岩から下る坂は風情がある】

 国道338号を磯谷に向かっていくと、前方右手に津軽半島の陸地が見えて来た。
 日ごろ、蟹田や平舘から「すぐ近くに見えても遠い下北」というのを眺めているが、今日ばかりは逆である。青森から磯谷まで来ると最果ての感じがあるのに、津軽が近くに見えるという不思議な土地である。

磯谷北
FEM表示画面受信風景
磯谷北方DSC_0620

 磯谷の北側の海岸は函館山からの方位角が164.47°である。165°に利得減の崖があるなら、この付近から受信電力に大きな差が出てくるはず。
 磯谷北では受信高が17mと高いのはあるが、受信電力は直前の矢越と同値が出た。

磯谷漁港
FEM表示画面受信風景
磯谷漁港DSC_0626

 165°線を越えて165.18°となる磯谷漁港。
 磯谷北や矢越と比べて受信電力は6dBも落ちた。
 津軽半島の平舘の石崎・弥蔵釜間ほど激しくないが、磯谷付近にも利得減の壁はあるのだろう。

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【磯谷の漁港道路】

 磯谷はTVh函館局からの距離が41kmである。下風呂より4kmほど函館に近いにもかかわらず受信電力が14dBも低いのは、ひとえに指向性の問題である。
 受信データをみる限りでは、磯谷集落でTVh函館局の受信に困ることもないだろうが、これより先は厳しい戦いのゾーンとなる。

長後漁港
FEM表示画面受信風景
佐井長後DSC_0629

 長後はこれまでの集落と違い、海岸に沿って家々が建ち並ぶ立地ではなく、津軽海峡に注ぐ長後川の谷沿いに河口から下流にかけ集落が伸びる地形である。
 谷沿いの地形ゆえに、どうやら共同アンテナになっているようだが、河口の漁港付近なら函館局の見通しにあるので、アンテナを振ってみると受信電力は磯谷とほぼ同値のようだ。

福浦の風景と推定受信電界MAP
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 磯谷の南隣の集落・福浦。西に湾口が開く福浦は集落北側に100mを越える急傾斜の山があり、函館局からの電波が遮断されてしまう。
 以前ウニ丼を食べたぬいどう食堂もこの福浦の店であるが、集落内に受信実験の適地が無いので通過せざるを得なかった。
 右図はRadio mobileでシミュレーションしたTVh函館局の推定受信電界のMAPだが、福浦は受信電界強度が0dBμV/m未満ということで色塗りが無い。

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【八柄間山の北側で函館方面が開ける地点があった】

 それでもTVhにチャンネルを合わせて国道338号を走行すると、八柄間山の北側でワンセグが入感したので受信実験をしてみる。
 八柄間山は南側斜面に仏ヶ浦展望台を有する山であり、北方面も眺めは良いのである。

八柄間山北
FEM表示画面受信風景
佐井八柄間山DSC_0633

 標高が220mを超えるという、今回の旅では異色の高標高受信点である。
 受信電力こそ久しぶりに回復したが、いよいよBERがE-5まで悪化してきた。
 これまで受信電力は下がってきても、磯谷も長後もBERはエラーフリーのE-0だったのである。
 八柄間山北側の受信点は169.99°なので、恵山方面への送信アンテナ方向との角度差はほぼ80°になる。方位ずれが直角近くともなれば、高標高で見通しがあっても品質は伸びなやむのだろう。

牛滝の風景(1)
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 いよいよ最終目的地の牛滝に到着した。
 牛滝の集落内を歩くと退役した消防車が何台か停まっているのを見かけるが、漁網など漁具の汚れを消防車の強力な放水で洗浄するのに使っているらしい。
 集落内に水田は無く、わずかに畑地があるくらいの漁村である。これより南の津軽海峡側には集落は無く、陸奥湾側に回って脇野沢の九艘泊が次の沿岸集落となる。

牛滝の風景(2)
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 集落内を流れる牛滝川の水の透明さと、牛滝の海の青の鮮やかさも紹介せずには居られない。
 今回の遠征の最終目的地まで到着してようやく時間的余裕が生じ、しばし牛滝の集落と自然を眺め休憩した。

牛滝の風景(3)
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 集落内を見渡すと、どの家も屋根の上にアンテナが無く、休校中の牛滝小中学校の屋上にもアンテナが見えない。小中学校はNHK教育テレビ(Eテレ)を児童生徒に見せるため何か受信設備があるはず。牛滝は共同アンテナだろう。
 そう予測しつつ受信実験の適地を探していると、漁港施設の屋上に共同アンテナらしきものを発見した。変に迷惑をかけてはならないので、そそくさと準備し実験をして撤収した。

牛滝漁港
FEM表示画面(TVh)FEM表示画面(UHB)
牛滝TVh
TVh
牛滝UHB
UHB

 共同アンテナのすぐそばで実験したが、TVhの受信電界強度は計算上50dBμV/mを下回るらしい。UHBなら7dBくらい上回っているが、TVhは大間から比べると受信電力で15dB前後は下がるのだろう。

DSC_0643
【牛滝漁港の共同アンテナと受信実験の風景】

 牛滝の共同アンテナと思われるアンテナをみると、函館向きが20素子の2段スタック、それに青森向き1本の混合のようだ。
 実際に共同アンテナの測定をしたわけではないので憶測にすぎないが、青森の雲谷とあまり変わらないような数値である。牛滝では北海道の放送も映るのだろうが、もしかすると雲谷のように時々フェージングで負けるときもあるのではないか。


◆推定受信電界強度を算出してまとめる

下北半島 北通TVh函館局受信データ(2023/8/20)
受信点函館局から電界強度
(dBμV/m)
地名受信高(m)方角(°)距離(km)
下風呂2.0134.7945.6166.8
大間崎3.0143.9529.4265.8
大間フェリー埠頭3.0147.9730.6465.8
大間奥戸4.0149.1533.2166.8
大間材木3.5154.3335.6869.8
佐井港3.5160.0338.4762.8
佐井矢越5.0163.1539.4058.8
佐井磯谷北17.0164.4740.7258.8
佐井磯谷漁港3.0165.1841.4152.8
佐井長後5.0166.6044.4252.8
八柄間山北227.0169.9949.3558.8
佐井牛滝10.0171.2852.4649.8

 やはり下北半島においても、送信面から75°差の線を境にTVhの電界強度の落ち込みはあり、それは佐井の矢越・磯谷間付近だろう。
 下風呂から矢越付近まではおおむね60dBμV/m以上が確保できそうだが、磯谷から南は60dBμV/mを割り込み、牛滝以南では50dBμV/m未満だろう。

TVh函館 方位線
TVh函館局を中心とした方位線】

 TVh函館局から90°方向、260°方向への送信線から75°差のラインを境に受信電力が落ち込む現象は、下北半島でも津軽半島でもみられる。
 下北半島の矢越・磯谷間においては、津軽半島の石崎・弥蔵釜間のような13dBもの激しい受信電力の落ち込みは観測されなかったが、津軽半島でおおむね60km以上の伝搬距離に対し磯谷でも40km程度であり、下北の方が津軽半島より多少なりとも函館に近いことが、磯谷での落ち込みが緩やかな理由かもしれない。
 
 上図で165°線と185°線の間のエリアでは、TVhを筆頭に函館局の遠距離受信の難易度が高いエリアと言える。
 もちろん、青森市の雲谷など受信可能地点は存在するが、例外的な貴重な地点なのだろう。

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【牛滝漁港の先端部はTVh函館局から約53kmの見通し内】

 牛滝のように函館から53km程度の見通し内の集落でも、BERがE-5になるくらいの指向性の厳しさがTVh函館局にはあるのである。
 青森市となると、牛滝の倍の100kmを超える伝搬距離になるのである。函館局を受信しようと思っても無理なわけである。

脇野沢九艘泊と蟹田
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 牛滝より南に津軽海峡に面した集落は無いが、北海岬の先の脇野沢の九艘泊を訪問。
 九艘泊は函館の受信も二戸の受信も叶わない、下北では珍しい青森波しか映らない地域である。
 脇野沢からむつ湾フェリーに乗船し、蟹田には昼前に到着した。

 弾丸下北北通受信調査はこうして終わったのである。

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