6月23日に公開した平舘・今別でTVhの送信指向性を分析したの記事と、8月24日に公開した下北半島・北通でTVhの送信指向性を分析したで、TVh函館局は送信方向から75°差方向を境に送信アンテナ利得が大きく変わるらしい結果が出た。

TVh函館 方位線
【再掲・TVh函館局を中心とした方位線】

 下北半島の場合、恵山方向の90°方向送信面から75°ずれる165°線が通過するのは佐井村矢越・磯谷間であり、津軽半島の場合、渡島福島方向の260°方向送信面から75°ずれる185°線が通過するのは旧平舘村石崎・弥蔵釜間である。

 165°線と185°線の間においては、TVh函館局はもとより函館局の民放各局とも受信が難しいことは過去の受信実験(外ヶ浜町蟹田の例)や、青森市で遠距離受信する人が減ってしまった事実からも明らかだろう。

 今回は、送信面の方角差が小さければどうなるかを見ていきたい。
 恵山方向の90°方向送信面に近くなる下北半島・東通村の津軽海峡沿岸と、渡島福島方向の260°方向送信面に近くなる青森市と津軽半島・竜飛方面の津軽海峡沿岸で受信実験を実施した。
 東通と青森市戸山、雲谷での実験日時は2023年9月3日、青森市後潟と竜飛での受信日時は2023年9月10日である。
 TVh函館局の周波数は509MHzで、マスプロ電工・LS56の利得が8dB、サイトウコムウェア・AMP-UKのブースター利得が21dB、ケーブルその他の損失が0.6dBとして、AQUOSのFEM画面の受信電力から推定受信電界強度を算出した。
◆受信実験風景(東通)

 北通の調査から約3週間、再び下北半島の大動脈・国道279号を北上し、むつ市関根漁港から尻屋崎にかけ順に調査した。

関根漁港
FEM表示画面受信風景
関根漁港DSC_0743

 本当は関根浜港で実験したいのだが、日本原子力研究開発機構の管理で入れないので、西に隣接する関根漁港で受信実験を行ったが、結果的には漁港の方が面白い結果が出たと思っている。
 というのは、TVh函館局からみた関根漁港の方位角度は134.70°で、134.79°方向の下風呂とわずか0.9°差と近似しているのだが、下風呂とは異なり間に木野部峠などの地形的障害があり、見通しが無いという相違点があるからだ。
 推定受信電界強度は55.8dBμV/mと算出され、C/N値も下風呂の40dBに比べるとだいぶ見劣りする32dBに留まった。

sekine
TVh函館局ー関根漁港伝搬路断面図】

 関根は大畑と共に、例の地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究会(2002)「地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究」によれば、“地形の影響により、所要の受信電界の確保が困難と思われるが高利得受信アンテナの活用や受信対策により改善が見込まれる。”とされる地域に当たる。
 関根漁港は、旧下風呂小学校のあった海岸段丘や木野部峠などの地形的障害が障害となってTVh函館局の見通しが無いのだ。
 その見立て通り、ブースターを使うことでTVh函館局が普通に復調可能な条件であることがわかるが、やはり完全に見通しのある条件に比べるとC/N値や受信電力などは見劣りする結果が出た。

大畑・関根TVh推定受信電界強度
【Radio mobileでシミュレーションした大畑・関根付近のTVh函館局推定受信電界強度】

 参考までにRadio mobileで推定受信電界強度図を見てみる。
 関根浜港ならTVh函館局から見通し内伝搬が成立するので、受信電界強度が60dBμV/mを得ることが出来る。
 しかし約1km西北西に位置する関根漁港では木野部峠などの地形的障害で見通し内伝搬が成立せず、40〜60dBμV/mの受信電界強度のオレンジ黄色で塗られている。実測値から算出した55.8dBμV/mという値とも合致する。

 とりあえず、尻屋方面は北通とは異なり細かく角度差を気にして行く必要は薄いと考え、次の地へ進んだ。

岩屋
FEM表示画面受信風景
岩屋郵便局DSC_0752

 次にやって来たのは尻屋崎の手前の岩屋集落。
 岩屋は恵山方向の90°方向送信面からのずれが35°程度しかなく、方向的な相性は非常に良くなってきており、C/Nが39dBという大間や下風呂に匹敵する超高成績を出してきた。
 推定受信電界強度は63.8dBμV/mで、佐井よりも強い。佐井が函館から38km程度なのに対し岩屋は約72kmもあるのに電界強度は強いのだ。やはり指向性のなせる業だ。

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【受信点は岩屋駐在所手前の海岸】

 岩屋は東通村にある29集落中9番目の人口規模であるが、その割には商店や飲食店、宿泊施設が多いような気がする。古河電工や川崎重工、宇部興産といった大企業の指定旅館であると看板を掲げる網元もあったり、やはり尻屋鉱山の経済が岩屋を潤すのだろう。
 そして駐在所のアンテナも函館を向いているのが興味深い。
 尻屋という行き止まりの手前に位置しながら、岩屋は外との交流が活発そうな感じがある不思議な土地である。

尻屋 テキサスゲート
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 尻屋崎に向かうには、テキサスゲートを越えて行かなければならない。
 尻屋崎周辺で飼育され、県の天然記念物に指定されている寒立馬が脱走しないためのものだが、馬はテキサスゲートの隙間に脚が落ちるのを嫌って避けるのだという。
 テキサスゲートを抜けて岬を目指し、尻屋崎灯台前で受信実験を実施した。

尻屋崎
FEM表示画面受信風景
尻屋崎DSC_0768

 C/N=40dB、そして出ました受信電力=-28dBm!
 受信実験に用いているアクオスは受信電力が7dB下振れするので、POWER=-35dBmということは-28dBmである。受信電界強度は72.8dBμV/mもあるのか!
 この電界強度値は大間でも出ておらず、当ブログの実測史上最高記録となった。

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【尻屋崎灯台】

 尻屋崎はTVh函館局から119.92°の方角にあり、3方向ある送信面のうち、半値幅(=主方向の利得値から-3dB以内)に収まる青森県内で唯一の土地である。渡島福島方向の260°送信面の方では青森県内に半値幅内に収まる地域は存在しない。
 言い換えれば、尻屋は恵山方向の90°方向送信面からの方角差が29.92°しかないということであり、まともに恵山向けのビームを受けられる土地と言ってよいのだ。
 TVh函館局からの伝搬距離はなんと73kmもあり、大間の倍を優に超える。津軽半島でいえば、旧平舘村南部の舟岡付近と同じ距離になる訳だが、舟岡の北の平舘漁港でもTVh函館局は受信できない
 あまりこういう言い方はしたくないが、ここまで指向性で如実に成績が変わると、尻屋は「指向性の暴力」、大間は「距離の暴力」という感じである。

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【尻屋崎灯台目の前の売店】

 売店に入ると、AMながらクリアな音質で軽快な音楽が流れており、レジカウンター越しに白いラジオをのぞき込むとSTVラジオ函館局。北海道のタレントしろっぷの「イイ加減にしろっぷサンデー」が流れていた。
 津軽半島の高野崎の売店ではHBCラジオが流れていたが、これでHBCラジオSTVラジオは1対1の同点である。

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【尻屋崎の寒立馬】

 さて、売店前で帰ろうかと身支度をしていると、密漁を監視する漁協関係者のお爺さんが軽自動車から降りて来て、アンテナを見て不思議そうに何か言いたそうな感じで近づいて来て、意を決したように「寒立馬は向こうですよ」と言ってきたので寒立馬も一応見ておいて、県内最速県道の248号国道338号で青森市への帰路に就いた。
◆受信実験風景(青森市戸山・雲谷)

戸山団地(脇野沢111m高地山岳回折)
FEM表示画面受信風景
111高地山岳回折戸山DSC_0814

 尻屋から青森市に戻って脇野沢111m高地の山岳回折が成立する戸山団地に。
 2022年5月6日にはTVh函館局がC/N=23dBという好成績が出た場所だが、この日はかなり苦戦してようやく受信できるポイントに落ち着いた。C/N=16dBとかなりギリギリではあるが、見通し外で受信高34mで受かるのはひとえに山岳回折が成立可能な地形だからである。
 前回は何か追い風参考記録的なもので、今回の成績が通常時の成績なのかもしれない。
 推定受信電界強度は36.8dBμV/mか。

青森雲谷
FEM表示画面受信風景
雲谷DSC_0782

 夕暮れに何とか間に合い、雲谷へ。旧ホテルヴィラシティ雲谷の出口があった、上の方の国道103号から折れた砂利の広場で測定した。
 測定日が違うのと、受信高が違うので何とも言えないが、8月20日に測定した佐井村牛滝より青森市雲谷の方が1dBほど受信電界強度が高いようだ。
 福浦の八柄間山でも前後の長後漁港や牛滝漁港より高い受信電界強度が出ていたが、雲谷も高標高だからこそ奇跡的に良い数値が出るのだろう。青森平野では上手くいくまい。
 函館山のTVh函館局から雲谷への方位角度は176.33°であり、恵山方面への輻射中心から約86°、渡島福島方面への輻射中心から約84°と、いずれの送信面からも最も離れた条件の受信点と言ってよく、指向性の条件的には最悪である。
 ちなみに函館・青森市雲谷間の距離は約114kmだが、それに近似した距離である約104kmの鶴岡・秋田市大森山間ではさくらんぼテレビ(SAY)鶴岡局が推定受信電界強度57.6dBμV/mで受信できるわけで、函館局も指向性が青森に向いていれば秋田のように相当良い成績になるはずである。
◆受信実験風景(青森市後潟・竜飛)

 日を改めて翌週9月10日、青森市後潟と旧三厩村で受信実験を実施した。

青森後潟
FEM表示画面受信風景
後潟DSC_0812

 後潟、爆死。
 C/N=0dB。まったくダメだ。無反応である。前回の2022年5月6日にはC/Nが6dBはあったのだが、今回は全然さっぱり。
 もっとも、漁港でマストを上げても高さが足りず函館局の見通し外になってしまうので、想定通りと言えば想定通りの惨敗結果だが、これでは後潟の一般家庭で屋根の上とかコン柱の上にアンテナを構えても受からないだろう。
 青森市の平野や丘陵で函館局を受信しようと思っても話にならない訳である。

かつてフェリーの有った三厩港
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 かつて渡島福島へのフェリー航路があった三厩港の旧フェリー埠頭に行くと、何やらデカいモノを建設中。まさかフェリー航路が復活してターミナルを、なんてことは無いだろうが、気になる。
 なお、東日本フェリーの古い錆びた案内看板は健在。

旧三厩フェリー埠頭
三厩フェリー埠頭DSC_0800

 三厩の旧フェリー埠頭は、函館山のTVh函館局からほぼ200°方向である。渡島福島方面への面からの角度差が60°まで寄って来た。
 期待して謎のデカい建造物の隣で受信実験を行ったが、6月19日に実験した今別港とあまり変わらない成績である。もうちょっと今別より良い数字になるような気はしていたのだが……
 しかし、下北でC/N=40dB台を見てくると、C/N=30dBでも物足りなく感じてしまう。

鐇泊
FEM表示画面受信風景
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 三厩港から5°ズレの205°の鐇泊を次の受信実験地にする。ちょうど国道339号の鐇泊トンネルを205°線が通過するが、トンネル内で受信実験は出来ないので竜飛方の開けた海沿いで実験。
 受信電力は三厩港から1dB上がったが、C/Nが28dBで三厩港を下回ってしまった。
 竜飛崎に向かうにつれ渡島福島方面への輻射中心との角度差が小さくなり、少しずつ受信電界強度は伸びてきているようだが、これは想定より伸び悩む印象だ。

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【龍飛漁港】

 大間や尻屋に比べれば呆気なく竜飛に到着。
 TVh函館局から龍飛漁港は208.40°方向に62.97km。渡島福島方面への面との角度差は52°なので、恵山方面でいうと風間浦の蛇浦あたりの角度差と同じになる。
 蛇浦といえば下風呂と大間の間の土地であり、そこと同じくらいの角度差なら期待できるか。龍飛。

龍飛
FEM表示画面受信風景
龍飛DSC_0808

 龍飛、惜しくもC/N=40dBに届かず。
 津軽でTVh函館局をC/N=40dB台で受信できる場所は無いのか!
 高ささえ変えればC/N=40dB台を達成できる地点もあるのかもしれないが、海辺の低地で簡単に40dBが出ていた尻屋や下風呂、大間を思えば、津軽半島の受信は伸び悩む感が否めない。
 下北では普及型の14素子を函館に向けていることが多いと思うが、津軽半島はパラスタックの30素子が珍しくなく、実際に遠距離受信している現地の住民の行動にも受信状況の違いが表れているのだろう。


◆推定受信電界強度を算出してまとめる

 せっかくなので、これまでの受信結果をすべて一つの表にまとめておく。

 尻屋〜関根漁港、戸山、雲谷は2023年9月3日。
 下風呂〜牛滝は2023年8月20日。
 蓬田瀬辺地〜平舘漁港は2022年8月28日。
 石崎〜今別港は2023年6月19日。
 後潟、三厩フェリー埠頭〜竜飛は2023年9月10日。
 五所川原市長橋は2023年5月4日、つがる市車力下牛潟は2022年9月29日、つがる市稲垣は2021年3月26日である。

 本来は各地で同時にやるのが良いのだろうが、個人レベルでは不可能なのであくまでも目安として記録しておきたい。

青森県各地 TVh函館局受信データ
受信点函館局から電界強度
(dBμV/m)
地名受信高(m)方角(°)距離(km)
尻屋崎17.0119.9273.0272.8
岩屋5.0124.9571.7563.8
関根漁港5.0134.7061.4955.8
下風呂2.0134.7945.6166.8
大間崎3.0143.9529.4265.8
大間フェリー埠頭3.0147.9730.6465.8
大間奥戸4.0149.1533.2166.8
大間材木3.5154.3335.6869.8
佐井港3.5160.0338.4762.8
佐井矢越5.0163.1539.4058.8
佐井磯谷北17.0164.4740.7258.8
佐井磯谷漁港3.0165.1841.4152.8
佐井長後5.0166.6044.4252.8
八柄間山北227.0169.9949.3558.8
佐井牛滝10.0171.2852.4649.8
戸山(山岳回折)34.8175.67107.5436.8
青森雲谷285.0176.33113.9450.8
青森後潟4.0182.1091.5020.8
蓬田瀬辺地3.0183.1083.4028.8
蟹田港3.0183.6078.9031.8
平舘漁港3.0184.6066.6032.8
平舘石崎ふ頭2.5184.9264.0845.8
平舘弥蔵釜4.6186.3162.9258.8
平舘元宇田5.1186.8062.5656.8
平舘綱不知6.0187.7561.2357.8
今別岩谷観音8.6188.8361.0063.8
今別奥平部4.0190.0260.5157.8
今別砂ケ森2.9191.8660.6561.8
五所川原長橋(山岳回折)9.0191.96105.7136.8
今別高野崎36.1192.2060.5766.8
今別袰月2.5193.1361.5161.8
今別鋳釜崎27.4193.7861.5964.8
今別中宇田6.5194.3564.0966.8
稲垣(山岳回折)4.4195.16101.6646.8
今別山崎6.0195.1765.4858.8
今別漁港4.6196.3666.6857.8
車力下牛潟(山岳回折)3.4196.8996.8747.8
旧三厩フェリー埠頭3.5199.7966.4757.8
三厩鐇泊5.0205.0063.4558.8
龍飛2.5208.3862.9765.8

 送信面の輻射中心からの角度差が小さいほどTVhの電界強度は高めになる傾向があり、恵山方面への輻射中心と渡島福島方面への輻射中心からそれぞれ75°ズレとなる165°〜185°の間は成績が著しく悪いといえる。
 山岳回折の場合は、回折時に受信電力がおおむね10dB〜25dBくらいの減衰になりそうと推測する。

TVh函館局水平指向性特性図 方向別地名入り
TVh函館アナログ局送信指向性図をトレースして加工した図】

 最後に、例の、地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究会が2002年に公表した「地上デジタルテレビジョン放送の津軽海峡対岸中継に関する調査研究報告書」の11頁に掲載された図3-2「送信空中線水平指向特性」の図を引用して加工してみた。

 送信空中線水平指向特性に、各受信点の方位を書き加えてみると、一目瞭然というか。
 尻屋なんて思いっきり恵山向けのビームの中を飛んでくるし、青森市は本当に谷間の中の谷間という感じの方向なのだ。
 青森ケーブルテレビが区域外再放送の受信点を移設した先が、青森市から近い今別ではなく大間としたのも、指向性の相性が良いのが今別よりも断然大間だからなのだろう。
 
 こんな感じでとりあえずまとめてみたが、函館山の送信所でTVhと同じ鉄塔を使っているHBCも一緒に調査すればよかった。
 HBCもたぶんTVhと同じような傾向が出たはず。
 
 STVとかHTBUHBNHK函館では飛び方──もしかすると送信角度が違うかもしれない気がしているので、あくまでもアナログTVhの水平指向特性を基に調査してみましたよ、ということで読んでもらえれば。

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