秋田県の各放送局が鹿角市の水晶山に設置している花輪中継局は送信出力=10W、実効輻射電力(ERP)=95Wで、秋田放送(ABS)秋田テレビ(AKT)秋田朝日放送(AAB)NHK総合秋田(UK)Eテレ秋田(UB)の5局で共通である。
 送信高は中継局の地上高で545mだが、ネットで出てくる局舎の画像を見た限り鉄塔はそれほど高くないので、鉄塔込みで570mくらいと推定する。

 この花輪局は津軽で遠距離受信に実用的なのだろうか?

 無論、米代川水系に位置する花輪局と、岩木川水系の津軽地方の間には分水嶺となる坂梨峠炭塚森などの稜線が存在し、さらに津軽側の碇ケ関や大鰐も阿闍羅山など複雑な山岳地系となっている。
 これらの山々のいずれかでも上手く山岳回折1回で津軽地方に到達させられるルートはあるのか?

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【2021年に花輪SAから遠望した水晶山の花輪局】

 山岳回折のシミュレーションをするにも、花輪局の指向性情報が全くないので推測で行うしかないが、当ブログ相互リンクで実際に現地に行ったことがあるぽいふる氏の情報では、送信方向は2面で方位角は30°、120°らしい。
 A-PAB 放送エリアのめやすでも花輪局から北の小坂町方面にもエリアが広がるので、ある程度の北方向にも送信指向性があるのは間違いない
 一方で花輪盆地西縁の水晶山からさらに西の山岳地帯に送信指向性を向けるとも思えないので、北方面のビーム方角は最も西寄りに取っても0°から、ぽいふる氏の情報の30°の間だろうと推測する。

 さっそく、Radio mobileでomni.ant(無指向)で送信シミュレーションしてみる。

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【画像はクリックで拡大します】

 見やすくするため、従来のGoogle earth Proからスーパー地形で作図した。
 さらに、花輪局の直接波の範囲(ほぼ秋田県側になる)は60dBμV/m以上の赤いエリア50dBμV/m台のオレンジのエリア40dBμV/m台の黄色のエリアのみの色分けとした。
 坂梨峠近傍の炭塚森や、矢立峠の南南東の552m高地周辺甚吉森大日影山、津軽側に入って阿闍羅山などが60dBμV/m以上の赤いエリアとしてプロットされてくる。

 だがあくまでもomni.antで実施したシミュレーションである。

 炭塚森は約350°方向なので、北方面ビーム方向が0°だとすれば角度差は10°、ビーム方向30°だとすれば40°差になる。
 ここは実際のomni.antではなく指向性のあるアンテナでシミュレーションしても60dBμV/m以上の赤いエリアになるのではないかと思われるが、炭塚森ルートでは黒石市浅瀬石付近まで山中の無人地帯ばかり通過し、炭塚森の見通しが満足に得られる地域はもはや梵珠山地手前という位置になり、そもそも遠距離受信に適した集落や住宅地を通過できない。

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【阿闍羅山から約340°、炭塚森から約350°方向に回折シミュ】

 ならば更に西に目を転じて想定してみるが、矢立峠南南東高地で約338°、甚吉森で335°、大日影山で約330°などとなる。
 0°方向だとしても角度差が30°近くあり、30°方向だとすると角度差は60°近くにもなってしまう。
矢立、甚吉、大日影方面の回折だと弘前都市圏方面にも相性は悪くないのだが、角度差が大きすぎるので花輪局から回折点まで良好な電波が届いていないものと思われる。
 さらに青森県側で大鰐山地も待ち構えており万事休す。矢立、甚吉、大日影方面のルートはほぼ絶望的だろう。

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【阿闍羅山から約340°方向に回折シミュレーションした津軽平野南東部】

 唯一、可能性があるとすれば阿闍羅山の回折ルートではないかと思われる。
 県境からおよそ10kmも青森側に位置しながら、海抜709mの山頂は花輪局から見通し内となり、さらに津軽平野方面への眺望も開け、山岳回折には適した地形である。
 ただし、阿闍羅山は花輪局からみて約340°方向であり、ビーム方向0°なら20°差だが、ぽいふる氏の情報通りビーム方向30°だとすれば50°も方角ずれが生ずる。
 地形的には申し分ないかもしれないが、回折点まで良好な電波が届くかどうかという花輪局自体の送信指向性の問題に、阿闍羅山が本当に適合している位置かどうかは未知数である。

 実際はここまで上手く行かないのではないか。

 電界強度40dBμV/m以上を示す黄色電界強度30dBμV/m以上を示す黄緑色のラインが広がるシミュレーションマップではあるが、阿闍羅山で花輪局の受信電界強度が60dBμV/m以上あればこうなるかも、というものである。

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【花輪局−阿闍羅山−藤崎町矢沢の地形断面図】

 かつてAKT秋田局の受信実験に成功した南津軽郡藤崎町矢沢の農道上が花輪局の伝搬路になるようだが、花輪局は反応が無かったような。

 これまで、当ブログは山岳回折で秋田局を筆頭に、函館局や室蘭局、盛岡局などの事例も発見してきたが、いずれの回折点も受信電界強度が60dBμV/m以上の事例ばかりであり、60dBμV/mを下回るような回折点での山岳回折は未発見である。そんなものは無いのではないかとさえ思いたいほど、成功例が見つからないのである。

 時折、津軽で花輪局の遠距離受信の噂を目にするが、自分の知っている限り、秋田局にアンテナを向ける世帯は津軽平野や弘前台地にも複数あるものの、花輪局に向ける世帯は見つかっていないのである。

受信実験してみた。

 北津軽郡鶴田町横萢の水田と、南津軽郡藤崎町西中野目池田──通称・萢子集落西方の北津軽郡板柳町内の水田の2か所で受信実験した。
 阿闍羅山の山岳回折伝搬路のルート上で、都市ノイズの影響も少なそうで見通しも良い水田地帯を選定したのである(下図参照)。
花輪局受信実験地
【受信実験地は北津軽郡鶴田町と板柳町の2か所】

 花輪局のch構成は秋田放送(ABS)が27ch秋田テレビ(AKT)が29ch秋田朝日放送(AAB)が31chNHK総合秋田(UK)が25chEテレ秋田(UB)が23chである。
 23chと25chは上北局や鰺ヶ沢赤石局、大戸瀬局、函館局など青森県内外の中継局の微弱波が到達の可能性があり、27chは鶴岡局の微弱波が到達する可能性がある。
 ということで、重複による影響が最も無い31chのAAB花輪局と、フジ系ということで29chのAKT花輪局をみてきた。

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【北津軽郡鶴田町横萢の水田から阿闍羅山を遠望】

 まずは北津軽郡鶴田町横萢の水田地帯に来たが、なんとエフエム秋田親局82.8MHzが少々ノイズはあるものの聴取できる受信状態。
 ということは、大森山の親局からも条件は良くないながら山岳回折(多重回折)波が到達しているということである。

鶴田町横萢
AAB花輪局AKT花輪局
AAB花輪梅沢AKT花輪梅沢

 AAB花輪局AKT花輪局ワンセグ止まり
 どちらもワンセグ止まりなので固定受信の実用性としては不可という判定になるが、AKT花輪局の方が受信電力で10dBほど高く、やはり29chには大森山AAB親局が重なってくるのだ。

 もし本当に津軽に花輪局の遠距離受信者がいるのだとすれば、最大の目的となるフジ系AKTは29ch同士でAAB親局の混信との戦いになる可能性もある。

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【北津軽郡板柳町(藤崎町萢子西方)の水田から阿闍羅山を遠望】

 続いてやって来たのは南津軽郡藤崎町西中野目池田──通称・萢子集落西方の北津軽郡板柳町内の水田。ここはエフエム秋田親局82.8MHzがほぼノイズなく、エフエム青森との違いは音量が大きいか小さいかくらいしかなかった。

AAB花輪板柳
【板柳町(藤崎町萢子西方)のAAB花輪局受信FEM画面】

 鶴田に続き板柳もワンセグ止まり
 やはり花輪局は阿闍羅山の時点で60dBμV/mの受信電界強度が無いのだろう。
 阿闍羅山回折した(ぶつかった)時点で損失してしまうので、津軽ではフルセグ受信に持ち込めないのだろう。
 29chのAKT花輪局はどうしたのかって、お察しの通りだが、AAB親局が受かってしまった。

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【藤崎町萢子】

 現場からわずか300mほど東にずれると藤崎町の萢子の集落に入るが、ここは烏帽子岳山岳回折が極めて良好に受信できるスポットの一つである。
 この延長線上にあるのが板柳町常海橋の東小学校の受信点である。

AKT親局萢子
【藤崎町萢子のAKT親局受信FEM画面】

 C/N=32dBというほど強烈にAKT親局復調可能なのである。

 萢子周辺なら普通は大森山AKT親局を狙うのがファーストチョイスである。
 確かに、大森山から親局波が上手く入ってこない地域もあるが、それでも微弱ながら津軽には29chでAAB親局波が入ってくる状況であり、それと重複するAKT花輪局を受信するというのはいささか無理があるのではないか。

 そもそも阿闍羅山まで花輪局の電波は良好に届いていないのだろう。
 陣場岳田代岳の山頂で受信できるAKT親局波に比べると、阿闍羅山の花輪局の電波は強度はもとより品質も劣っているはずである。

 花輪局を遠距離受信で成功に持ち込むのだとすれば、相当に地理条件が良い位置で、最高の受信機材を揃えでもしない限り難しいのではないかと思うのである。

NHK室蘭シミュレーションに自作した2面ANTを使ってみた
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【Radio mobileで自作したNHK総合・室蘭の指向性アンテナ推定図】

 下北半島で室蘭局の遠距離受信の記事で登場した、NHK総合・室蘭のシミュレーション用に自作した2面アンテナを花輪に流用してみる(推測で自作したので、実際のNHK総合・室蘭の送信指向性と合っているかどうかはわからない)。
 これをRadio mobileで30°方向に設定すれば、阿闍羅山の推定受信電界が出るはず。

ajara
【阿闍羅山のAKT花輪局推定受信電界強度MAP】

 というわけで30°方向に送信シミュレーションをしたが、やはり阿闍羅山時点で60dBμV/mの受信電界強度は無いのだろう。
 参考までにだが、自作NHK室蘭アンテナで310°方向の利得は-9dBであるので、30°方向に傾けて送信した場合は340°方向の阿闍羅山のそれにあたる。
 回折点で受信電界強度が50dBμV/m台以下では厳しいんだろうなあ、という感じがする。
  
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