英文なのだが、こちらの記事「Communication experiments at 5600 MHz and 10 GHz using the Icom IC-905」を見ていたところ、注目したい一節を発見した。

 ❝The experiment revealed that mountain diffraction phenomena occur even on mountains with relatively gentle peaks such as the Ikoma Mountains.❞

 直訳すると、「実験で明らかになったのは、生駒山地のような比較的なだらかな(gentle)尾根(peaks)でも山岳回折は起こるということである」とかになるのだろうか。
 記事の要旨は、アマチュア無線で有名なアイコム(株)が、大阪市の本社と奈良県や京都府との間で生駒山地の山岳回折によるSHFの伝搬実験に成功したというものであるが、なだらかな尾根でも山岳回折は起こるという結果は自分の無線知識では驚きだった。
 gentle peaksという言葉とは対照的な、knife edge──急峻な尾根によるナイフエッジ効果こそ重要な要素だというのは一アマの試験問題などでも出てくる訳だが、そういえば自分にも思い当たる節が。

 五所川原市下岩崎に何故か秋田テレビ(AKT)が映る場所がある、と。

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【五所川原市下岩崎 県道36号沿いのAKT受信確認地点】

 2020年7月の記事。五所川原市下岩崎の県道36号五所川原金木線沿いで、AKTがストラーダのアンテナレベル31でワンセグに至ったという記事であるが、全くknife edgeではない尻高森の山岳回折というもの。

 アイコムの実験結果との違いももちろんあって、アイコムではSHF(5600MHzと10GHz)だが地デジのAKTはUHF(521MHz)。
 また、アイコムは「if the peaks are not visible, communication is difficult」──つまり、山頂が見えなければコミュニケーションは困難と指摘しているが、下岩崎から尻高森は見えない(洪水森に遮られる)などの点もある。

 ただ、全くknife edgeではない条件でも尻高森の山岳回折が有用なのかを確認しておきたいと考えて、伝搬路上での受信実験を実施した。
受信実験してみた。

鶴田中野〜広田
【北津軽郡鶴田町中野北原〜五所川原市広田(みどり町)の位置関係】

 尻高森の山岳回折伝搬路のルート上で、北津軽郡鶴田町中野北原の水田と、五所川原市広田(みどり町7丁目)、五所川原市唐笠柳藤巻の3か所が、比較的見通しも良く接近難易度も低いと考え、鶴田側から順に実験して行った(上図参照)。

 いつも通り受信機材はマスプロ電工・LS56(利得+8dB)にサイトウコムウェア・AMP-UK(+21dB)、ケーブルその他(損失-0.6dB)を組み合わせである。

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【北津軽郡鶴田町中野北原の水田から尻高森方面を遠望】

 尻高森山岳回折波の伝搬路の横幅は狭く、伝搬路からずれるとまるで受からない。
 狭いストライクゾーンで可能な限り正確に位置を見極めつつ、住宅とかりんご果樹園とか障害物が少なく、交通量も少ない場所で受信実験するとなると、なかなか適地がないものである。
 夏場なら砂利の畦道でも入れないことも無いが、冬場は本当に限られてくる。五所川原都市圏で適地を探しているうちに、鶴田でも南寄りの中野北原まで下がってきてしまった。

鶴田中野北原 AKT受信データ(2023/12/3)
FEM表示画面表示値
尻高森鶴田秋田テレビ(AKT)
AntLV=55
POWER=-60dBm
C/N=21dB
BER 0.00E-0

 尻高森伝搬路でもAKT復調した。
 C/N=21dBと決して高い値ではないが、BERは0.00E-0のエラーフリーという好成績である。
 推定受信電界強度は41.0dBμV/m前後だろう。

 位置的にはスズキの佐藤板金塗装から東側の、細い用水路と農道・鶴舞ロードが交差する地点である。数m程度の幅で受かるようだったが、10mもずれれば反応が厳しく、やはり尻高森伝搬路のストライクゾーンは狭いのだ。

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【五所川原市広田(みどり町7丁目)の十川土手】

 鶴田の勢いそのままに五所川原・広田団地に向かうも、尻高森方面を望めそうな十川の土手はいや高く、上がれそうな適地が無い。
 夏場なら徒歩でテレビと受信機材を担いで土手に上がるところだが、雪は厳しい。
 残念だが、広田の受信可否の判定は春まで持ち越すとして次の実験地に行く。

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【五所川原市唐笠柳藤巻の市道脇】

 次は五所川原市唐笠柳藤巻である。エルムの街の東側、コメリパワー五所川原店のさらに東側の水田に面した市道で南南西を向いて受信実験を行った。
 後述するが、尻高森伝搬路無添くら寿司五所川原店を直撃している。
 くら寿司五所川原店の駐車場で実験できれば良いが、南南西側が道路敷地であり受信に適さないため、裏手の住宅地と水田の境目の市道を受信実験地としたのである。

五所川原市唐笠柳藤巻 AKT受信データ(2023/12/3)
FEM表示画面表示値
尻高森五所川原秋田テレビ(AKT)
AntLV=57
POWER=-59dBm
C/N=22dB
BER 0.00E-0

 五所川原市内でも尻高森伝搬路でもAKT復調だ!
 C/N=22dBBERは0.00E-0のエラーフリー推定受信電界強度は42.0dBμV/m前後だから鶴田中野北原と差はほとんどない。

 鶴田中野と五所川原唐笠柳の2地点の受信データから推測するに、ほとんど同じような電波の強度・品質で広田受信点(みどり町7丁目)も伝搬路が通過しているのだろう。
 広田から唐笠柳の間は、五所川原市のDID(人口集中地区)の南東端を掠めるようなルートではあるが、それなりに住宅地や商業地の集積がある地域である。
 具体的にどこならAKTの受信可能性がある地域となるか、尻高森伝搬路の図を下に掲載する。

広田〜唐笠柳
【五所川原市街 AKT尻高森山岳回折推定受信電界強度図】

 北津軽郡鶴田町方面から北上して来て、五所川原市みどり町7丁目付近で十川を渡河したAKT尻高森山岳回折波は、オートアリーナ7や寺田フルーツの倉庫の付近で国道101号と交差する。
 近隣にはほっかほっか亭広田店や宮川歯科もあるが、尻高森山岳回折の伝搬路は幅が狭いのでそちらでも厳しいかもしれない。
 2020年にゲーム機賭博で摘発され閉店してしまった喫茶店のポルシェや、エロビデオ屋のカルチャーボーイの辺りではもう無理だろう。そのくらい、尻高森山岳回折波の伝搬路幅はシビアである。
 稲実米崎の住宅地を貫いて、介護サービスまごころや中田整骨院付近を通過後、上記の唐笠柳藤巻の受信点に達し、さらに先述した無添くら寿司五所川原店が伝搬路のストライクゾーンど真ん中にある。

唐笠柳〜下岩崎
【五所川原市街北東部 AKT尻高森山岳回折推定受信電界強度図】

 無添くら寿司五所川原店以北を見ていこう。
 唐笠柳皆瀬の集落(五所川原ガスと八幡宮の中間付近)から米田八ツ橋集落北部の墓地を通って漆川浅井の住宅地の最東端付近へ。
 漆川浅井から松野木川を渡ってほくとう五所川原営業所付近から一野坪集落を通過。
 その後は水田地帯の通過となり住宅地や集落の通過が無いのが残念であるが、件の下岩崎の県道36号の受信点に至り、後は津軽半島の脊梁山脈に消えていくのである。

 というわけで、尻高森山岳回折で五所川原市でAKT秋田局の受信も可能であることが分かった。
 五所川原市では陣場岳山岳回折でのAKT秋田局受信可能地域も確認済みなので、もう1本の伝搬路の確認となる。
 gentleなpeaksどころか多重回折の疑いも払拭できないような尻高森山岳回折であるが、五所川原市唐笠柳藤巻や下岩崎などでAKT秋田局の受信は可能である。

大森山ーくら寿司五所川原店
AKT秋田局無添くら寿司五所川原店山岳回折伝搬路地形断面図】

 ちなみに秋田市大森山のAKT秋田局から無添くら寿司五所川原店山岳回折伝搬路地形断面図は上図のようになる。
 knife edgeとは程遠い地形となっているのが、スーパー地形の断面図でも明らかである。
 じゃあ陣場岳田代岳ならknife edgeなのかと言われれば、北アルプスの立山連峰とかに比べればgentle peaksであろうし、やはり山岳回折は奥が深い。
 
 一つの仮説としては、上に凸に飛ぶUHFが尻高森を超えて青森県側の別の見通しの良い山で回折している可能性も考えているが、そうご都合よく飛ぶものだろうか。

 尻高森陣場岳田代岳と比べてもgentle peaksでありながら、AKT秋田局受信可能性がある珍しい例として、まさに五所川原に対してgentle mountainである存在と言うべきだろうか。

 仲の良い兄弟のような山と称される陣岳・陣場岳、神の田とも呼ばれる池塘を従え人々の信仰も篤い田代岳連峰、そしてgentle──紳士のような尻高森と、津軽にAKT秋田局の恵みをもたらす県境地帯の峰々のキャラクターは実に富んでいる。
  
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