1991(平成3)年、青森県第3の民放テレビ局として青森朝日放送(ABA)が開局した。
 系列は局名のとおりテレビ朝日系で本社は八戸市(現在は青森市に移転)、馬ノ神山の青森親局は34chであった。
 地デジ化が完了した現在では中継局の数は青森放送(RAB)青森テレビ(ATV)と同じであるが、アナログ放送時代はABAのみ中継局がない地域もあった。
 一例をあげれば大間町、佐井村、風間浦村、旧岩崎村、田子町などだが、大間や佐井、風間浦ではABA開局前から北海道テレビ(HTB)函館局が受信可能であったし、岩崎も1992(平成4)年以降は一部地域ながら秋田朝日放送(AAB)秋田局が受信可能であった(「朝日も秋田を見ていた」秋田局遠距離受信の『本場』岩崎を訪ねて)。
 田子も1993(平成5)年、町の8割の世帯が加入する田子ケーブルテレビがABAの区域内再放送を開始したので、県外のHTB、AABやケーブルテレビを介して、テレ朝系は県内のだいたいの範囲で見るのに困らないレベルにあった。

ABAアナログ青森−久栗坂地形断面図
【ABAアナログ青森局−久栗坂地形断面図】

 それでもABAの中継局がなく、大間や岩崎のように県外波が容易に届くことが無ければケーブルテレビもない地域も存在した。
 県都青森市でも、久栗坂地区にはABAのみアナログ中継局がなかった。青森ケーブルテレビもいまだにエリア外である。
 久栗坂は、集落西側の鼻繰崎近傍の山(久栗坂石を砕石している山)が馬ノ神山(UHF)や鷹森山(VHF)の青森局の電波を遮ってしまうため、NHK総合青森(52ch)NHK教育青森(50ch)、先発民放のRAB(54ch)ATV(52ch)が久栗坂中継局を設置していた。

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【青森局と久栗坂局に2本アンテナを向ける家】

 こう書くとABAはけしからんという話になりそうだが、1959(昭和34)年にテレビを開局したRABでも1981(昭和56)年に久栗坂中継局を置くまでに22年も要しているし、何なら放送法第15条で「あまねく日本全国において受信できるように」と定められているNHKでも1973(昭和48)年開設なので14年もかかっている。地デジ化も差し迫る中で、久栗坂のアナログ中継局整備まで行かなかったのだろう。
 ともあれアナログ時代に久栗坂中継局が無かったABAを見たければ、鼻繰崎に遮られてビリビリの映りの親局34chを受信するしか術がなく、実際に今でも久栗坂中継局向きのアンテナと青森局向きのアンテナを2本立てたままの家も複数見つかるのである。
 久栗坂出身者にアナログ時代のABAの映りを聞くと、集落でも東寄りの方では幾分映りは良かったようだが、西寄りのラブホテルのある付近は鼻繰崎の崖下に近いため受信条件は厳しかったようだ。

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【久栗坂集落から馬ノ神山方向に聳える鼻繰崎近傍高地】

 ところで、久栗坂で見られない系列という意味では、青森なので当然フジテレビ系テレビ東京系も含まれる。
 やはり久栗坂でも、青森で欠落する系列を見るためアナログ函館局を受信していた世帯は複数あり、2011年9月のストリートビューを見るとLSL30が函館を向いている家が見つかる。2024年現在でも残存している函館向きアンテナもあるが、かなり古く劣化しているので地デジで映っているかは怪しい。
 青森市内ではABAが34chで開局後、35chだったアナログHTB函館局は隣接混信で受信が難化したが、久栗坂では幸か不幸か鼻繰崎ABA親局波を阻害するので、函館局受信者はHTBテレ朝系視聴もあったという。
 
 さて、なぜ今さらアナログ時代の久栗坂の話をしたかというと、当ブログでもおなじみの八戸の遠距離受信者・ぽいふる氏のX(旧Twitter)の下記ポストによる。


 もしかして今でも地デジの函館局の反応があるのではないか。

 久栗坂集落には水準点が3つあり、標高はおおむね1.4m〜2.6mである。
 これで2階建ての一般家屋で地上7mの高さにアンテナを構えても受信高は10m前後にしかならず、それでは函館局の電波の見通し距離は93kmしか稼げず、実距離の98kmには全然足りない。
 では久栗坂での函館遠距離受信は見通し外の海面反射波受信だったのかというと、さにあらず。
 下北半島の佐井村南部と旧脇野沢村の境界にそびえる湯ノ沢岳の山岳回折である。

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【画像はクリックで拡大します(鯛島灯台の正式名称は陸奥弁天島灯台)】

 上の写真はむつ湾フェリー・蟹田−脇野沢航路の船上から撮影した脇野沢の写真である。
 湯ノ沢岳は函館山の函館局からの距離はほぼ60kmで方角は172.91°方向。平舘海峡から800m前後しか離れていないが標高558mもある急峻な湯ノ沢岳と函館山の間には地形的障害もなく、函館局の地デジ電波も遮るものなく到達する。
 さらに湯ノ沢岳から青森市久栗坂方向にはちょうど脇野沢川の谷筋が発達しており、下北半島で他の陸地に引っかかることなく陸奥湾を越える地形条件が成立するのである。

HTB函館−久栗坂地形断面図
【HTB函館−久栗坂地形断面図】

 ということで、湯ノ沢岳の山岳回折で函館地デジの遠距離受信の可能性があるのか実際に調査した。
 調査日は2024年1月20日。ラジオダクトなど異常伝搬の発生は無い。
 いつも通り受信機材はマスプロ電工・LS56(利得+8dB)にサイトウコムウェア・AMP-UK(+21dB)、ケーブルその他(損失-0.6dB)を組み合わせである。

青森市久栗坂 函館7波受信データ(2024/1/20)
FEM表示画面表示値
HBC久栗坂北海道放送(HBC)
AntLV=27
POWER=-69dBm
C/N=10dB
BER 3.94E-2
STV久栗坂札幌テレビ放送(STV)
AntLV=48
POWER=-60dBm
C/N=18dB
BER 2.33E-4
HTB久栗坂北海道テレビ放送(HTB)
AntLV=43
POWER=-60dBm
C/N=16dB
BER 1.18E-3
UHB久栗坂北海道文化放送(UHB)
AntLV=26
POWER=-67dBm
C/N=9dB
BER 3.94E-2
TVh久栗坂テレビ北海道(TVh)
AntLV=31
POWER=-71dBm
C/N=12dB
BER 3.94E-2
VK久栗坂NHK総合・函館(JOVK)
AntLV=55
POWER=-58dBm
C/N=21dB
BER 1.00E-6
VB久栗坂NHK Eテレ函館(JOVB)
AntLV=49
POWER=-60dBm
C/N=19dB
BER 6.00E-6

 STVHTBNHK総合函館(VK)Eテレ函館(VB)復調した。
 ただし肝心の欠落系列のUHBTVh、そしてHBCワンセグ止まりに甘んじた。

 湯ノ沢岳の山岳回折による函館局の伝搬自体は地デジの今でもあるのだが、本県の欠落系列の補完に威力を発揮できるかは確認できなかったことになる。

DSC_1815
【久栗坂の受信実験実施個所】

 前述の通り久栗坂地区は青森ケーブルテレビのエリア外となっており、本県の欠落系列たるフジ系テレ東系地上波を視聴するためにはなんとか函館局を遠距離受信する他ないのだが、地デジでは上手く行かないのだろうか。
 ご覧の通り、地上2mにマスプロ電工・LS56(利得+8dB)にサイトウコムウェア・AMP-UK(+21dB)の組み合わせなので、久栗坂の一般家屋の屋根上に、より高性能なアンテナとブースターを構えればUHBTVhが受信できるのかもしれないが、お勧めは出来ない。

DSC_1831
【久栗坂集落の風景】

 久栗坂地区はアナログ放送時代は確かに函館局遠距離受信と見られる函館向きの30素子アンテナの設置家屋が複数見られたが、ほとんどが撤去済みで、残存しているものも発見できている限りにおいてかなり劣化が進んでいる。
 言うまでもなく、地デジ化を境にUHBTVhが映らなくなってしまったから、久栗坂で函館遠距離受信をしていた世帯が激減したのだろう。
 HTBなら受信可能と思われるが、ABAも中継局を置いた今、わざわざ北海道からテレ朝系を取るというのは遠距離受信の動機づけとして乏しいように思う。

kugurizakayunosawadake
【久栗坂海岸から望む下北半島・湯ノ沢岳】

 UHBTVhは映らないかもしれないが久栗坂で遠距離受信をしたいと考えるのであれば、目印となるのは下北の脇野沢の湯ノ沢岳である。
 脇野沢沖で見るのと、久栗坂から見るのでは大きさこそ違うが、山の形は比較的判別しやすいのではないか。
 つい、何もない平舘海峡の海の隙間を狙いたくなるが函館局の方向ではない。可能性があるとすれば山岳回折である。

久栗坂函館局推定受信電界強度
【湯ノ沢岳山岳回折波電界強度シミュレーション図】

 最後に、Radio mobileで湯ノ沢岳から172.91°方向へのシミュレーション図を作成したので掲載する。
 かつてのアナログでの函館遠距離受信世帯の分布実績からみると、シミュレーションで色が付かない集落西側でも多少の可能性はあるかもしれないが、いずれにせよ久栗坂でUHBTVhの受信は難しい。

 確かに湯ノ沢岳の山岳回折で、久栗坂でSTVHTBVKVBの4局なら受信可能と思われるが、欠落系列のUHBTVhが見れない可能性が高い以上、遠距離受信はお勧めできない。
 
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