民放テレビ黎明期の電電公社マイクロ回線網図の記事は久々に手応えがあった。
冒頭から自画自賛してしまったが、実は別件の調査をしているうちに民放テレビ黎明期の電電公社テレビ用マイクロ回線網の地図(東仙札幹線、東名阪幹線、阪広福幹線)ができてしまい、せっかくなので1つの独立した記事として公開したのである。
別件というのは、秋田放送(ABS)はTBS系列に入りたかったがマイクロ回線の都合で日本テレビ系にしたという説の真相の調査である。
そのために電電公社マイクロウェーブ伝送回線を調べようと考え、全国の色々な社の社史や「民間放送十年史」の史録、電電公社発行の資料、果てはNTT技術史料館への問い合わせなどを行っているうちに、あの記事ができてしまったのである。ただ秋田放送(ABS)について知りたかっただけなのに。
先に結論からいうと、真相は不明だった。
だって、ABSは社史を発行していないし、「民間放送十年史」や「日本放送年鑑'66」の各社の史録でABSが書いた文章にも、系列選択について記録が何も書かれていないんだもん。
とりあえず、今回も長くなりそうなので以下にポイントというか目次をまとめるので、適宜ハイパーリンクから該当箇所へ移動して頂ければと思う。
【Wikipedia「秋田放送」当該部分のスクリーンショット】
で、冒頭の「秋田放送(ABS)はTBS系列に入りたかったがマイクロ回線の都合で日本テレビ系にしたという説」ってのはネットで色々見かけるが、代表的なものとしてWikipediaの秋田放送のページの文章を引用したい。
上のスクリーンショットの通りだが、「当初はラジオで結びつきが強かったラジオ東京テレビ（現・TBSテレビ）系列への加盟が有力とされていたが、マイクロ回線が1本しかなく、回線を先行して使用していた山形放送（YBC）と同じ系列にならざるを得なかったこと(中略)から日本テレビ系列に参加することになった。」とある。
この他にもGoogleで検索してみると、
などなど、紹介しきれない珍説奇説を含め色々な説があり、南隣の山形の山形放送(YBC)や服部天皇(服部敬雄)、果ては本県(青森)の青森放送(RAB)が犯人原因かのように語られているが、否定しているものを含め概ね電電公社マイクロ回線に触れているのが興味深い。
それで電電公社マイクロウェーブ伝送回線を調べたら、前回の記事が出来てしまったという経緯にになる。
【RAB本社(青森市)】
ともかく、まずは手っ取り早く、青森に言及する説を否定したい。
前回の民放テレビ黎明期の電電公社マイクロ回線網図の記事で触れたとおり、ABSテレビが開局した1960(昭和35)年時点で、秋田−青森間の電電公社マイクロ回線は存在しない。
青森放送(RAB)は北海道放送(HBC)と札幌テレビ放送(STV)が使っていた東京発札幌行の回線が2本通っていた東仙札幹線の甲地無線中継所(上北郡東北町)から分岐したテレビ回線を、青森市の青森東統制電話中継所(現在のNTT青森支店)までVSB方式の搬送ケーブルで受けていたのである。搬送ケーブルをテレビ回線に利用したのは甲地−青森が全国でも数少ない事例の一つである。
ABSの利用した電電公社マイクロ回線と青森は全く関係が無い。
関係ないけどもRABの系列選択にも軽く触れておこう。
RABが1980(昭和55)年に発行した社史「青森放送二十五年史」を読むと、当初はTBS系加盟を模索し概要合意案を交わす段階まで行ったらしいが、「KRT(筆者注：TBSのこと)番組のネット関係収入については足立ラジオ東京社長と当社担当幹部との会談で、概要の方向を合意していたにもかかわらず、スタート直前に示されたKRTの案が概要合意案と相違し、当社の予定より月額約一，〇〇〇万円も少なかったためである。当時の月額一，〇〇〇万円といえば、地方局のテレビ第一陣としてスタートした局の月額に相当し、当社の浮沈にかかわる額であった。これでは契約できないと、竹内社長は病後の身を押して鹿倉専務らラジオ東京幹部と直接折衝にあたったが、なお交渉せず物別れとなった。」という。
TBSが最初に言っていた額が、いざ契約する段階になって「1000万円も安い額しか払わない」となればRABが怒って交渉決裂するのも当然であり、RAB社長の竹内俊吉とNTV社長の正力松太郎が会談の結果、巨人戦中継など営業収入で有利と判断しNTV系加入を決定した経緯が書かれている。
【山口放送三十年史】
前回は社史の「山口放送三十年史」の内容を少し酷評してしまった山口放送(KRY)もRABと開局日は同じ1959年10月1日だが、「山口放送三十年史」の63ページにはラジオ東京のネットワーク保証金額はNTVと「かなりの開き」があり縮まらなかった旨が書かれており、どうもこの時期のTBSはネット加盟を希望する地方局に対し金払いを渋る傾向があったようだ。
一応RABやKRYに批判的に書かれたTBSの名誉のために書くと、同1959年4月10日に放送した「皇太子ご成婚パレード」に要因がありそうだ。
「民間放送十年史」の363〜364ページのTBSの史録の一部によれば、「こうした特別番組は莫大な製作費を食うものであるが、これをカバーする制度に「特別放送基金」がある。三十二年上半期決算の利益処分中、一千万円をもって設定された」とあり、「皇太子ご成婚パレード」を契機としたネットワーク競争激化の状況下で「この基金はアジア競技大会、オリンピック放送、芸術祭参加作品、(中略)一流海外音楽家の招聘等に惜しみなく投入」するための流れが出来たという。
TBSが決定した「特別放送基金」に惜しみなく金を使う方針が、「皇太子ご成婚パレード」後に新規の系列局になるかもしれなかったRABに突然の減額通告をしたり、KRYに少額の提示しかできなかった理由だろうと推測する。
【秋田市大森山から望む道川・鳥海・酒田方面】
北隣の青森は関係ないが、南隣の山形はどうだろうか。
ABSテレビが開局した1960(昭和35)年時点で、東仙札幹線の仙台の国見無線中継所から分岐した山形・秋田方面は回線数が1本少なく、国見−笹谷−山形(-YBC)−長沢−清川−酒田−鳥海−道川無線中継所(当時の由利郡岩城町)までが“単線”だったのは確かである。
当時、秋田県内最北端の電電公社マイクロ有人局であった電電公社道川無線中継所から秋田市のABS演奏所までは自社マイクロ回線で繋いだという。
回線経路の距離でおよそ230km先の新潟放送(BSN)までは、東金阪幹線の薬師無線中継所から分岐したTBS系主体の回線が来ているが、新潟−酒田間のマイクロ回線がまだ無いため、仙台・国見無線中継所からの“単線”しか選択肢がない。
ということで、当時の地理情報から秋田のABSが選択可能な系列は山形のYBC次第だったらしいことは確定する。
笹谷越えの山形ルートしかないのだから、マイクロ回線の都合で他県に左右されることはなくTBSやフジも選べたという説も否定されたと思う。
議論の余地があるとすれば尾山−鳥取間の電電公社マイクロ回線開通前に開局した日本海テレビジョン放送(NKT)のように全部をフィルムで対応するとか、鹿児島−那覇間の国際回線が開通前の沖縄テレビ放送(OTV)や琉球放送(RBC)のようにテープを空輸するとかなら話は別だが、道川までマイクロ回線が来てるのにABSがわざわざそんなことするだろうか。
まあ、ABSの系列選択が山形のYBC次第だったらしいことは確定にしても、解せないのは下表のとおり。
YBCとABSは開局年月日が同じ。
YBCが「回線を先行して使用していた」とは？
一応、民放連の民放テレビ開局一覧ではYBCが1960年3月16日に開局したことになっており、ABSより16日早く開局したことになっているが、当のYBCの会社概要ではABSと同じく1960年4月1日開局となっているし、後述の「山形放送三十三年誌」では3月16日は本免許が下りた日となっている。
仙台から山形・秋田方面に分岐した電電公社マイクロ回線の民放用テレビ回線が1本しかないので、秋田のABSと山形のYBCで同じ系列選択になるだろうことは間違いないのだが、同じ日に開局し、人口や経済の規模も大差ない秋田と山形の2局間でYBCの事情が優先されるなんてことはあるのだろうか。
阪広福幹線でNTV系の回線が北九州・八幡のテレビ西日本(TNC)(電電公社のマイクロ回線では管岳無線中継所)までしか来ていなかった時代、九州各県の民放1局目が福岡のRKB毎日放送と同じTBS系になったという実例は確かにあるが、RKBは九州で最初にテレビ放送を開始した老舗中の老舗であり、TBSや大阪・朝日放送(ABC)、名古屋・中部日本放送(CBC)、札幌・北海道放送(HBC)とともに5社連盟の一角に君臨するTBS系の基幹局である。
山形のYBCに、ABSの系列選択の生殺与奪の権を握るほどの実力があったとは信じがたい。
【1965年度の北海道東北TV局の営業収入高】
TV開局当初の営業成績のデータが見つからないので1965年4月〜1966年3月決算のデータになるので、ABSテレビ開局時には存在しない仙台放送(OX)と福島テレビ(FTV)も掲載する点はご注意を。
とりあえず「日本放送年鑑'66」によれば、1965年度の営業収入はABSが803,144,703円に対しYBCが829,439,232円で確かに大きいが、ABSを100とすればYBCは103という比率に過ぎない。
他県と比較すれば北海道と宮城は言うまでもなく規模が大きいし、福島のFTVや青森のRABなど10億を超える営業収入を計上している局と比較しても桁一つ違うが、ABSだって岩手のIBCには負けておらず、決して突出して弱い局ではなかったと思われる。
ほぼどんぐりの背比べの8億円前後のYBCがABSの意思決定に影響を及ぼすほどの力関係が生じるのだろうか？
疑問を解決するため、YBCの社史「山形放送三十三年誌」を紐解いてみる。
【山形放送三十三年誌】
ネットを見ると山形の首領とか服部天皇と揶揄された服部敬雄(当時の山形新聞社主、YBC社長)を礼賛しているという評価もみられる「山形放送三十三年誌」だが、145〜146ページにかけてキー局選定の経緯が記載されている。抜粋するとこうだ。
この文章から読み取れることをまとめると、
�，亘槓犬鬚修里泙淨匹瓩仆颪い討△觧�実であるが、実際のところ東仙札回線を札幌行のNTV系とTBS系が寡占しているので、CX系とNET系を取るには、札幌のSTVが使う時間に合わせるかテープネット(≒遅れネット)せざるを得なかったのが理由だろう。
�△篭�力なネット体制を取ることを約束したのがNTVとCXとNETの三局であったという文章を逆説的に読めば、YBCに対しTBSは非協力的だったということである。
��は当時の山形の隣接県の民放の関係性を理解する必要があるが、宮城と新潟はTBS系のTBCとBSNで、南隣の福島にはまだ民放が無い状況である。秋田は山形と同じ系列となるのだから、YBCはTBS系を避けることで対宮城・新潟との差別化を図ったということだろう。
【山形放送テレビ開局前夜の隣県の民放たち】
「山形放送三十三年誌」の147ページには当時のNHK調べのデータとして「山形県内テレビ普及率(受信契約台数)」の記録がある。
これを見ると、1956(昭和31)年3月にNHK仙台(HK)が開局した時点で山形県は村山地区が「可視圏」──すなわち受信可能地区に入り、1958(昭和33)年12月時点で置賜地区がNHK新潟(QK)の可視圏、1959(昭和34)年4月時点で村山地区が宮城のTBCの可視圏に入ったことになり、YBCは開局時点で仙台と新潟という敵と戦う必要があったのだ。
「山形放送三十三年誌」の内容がいささか大本営発表的なことを差し引いても、YBCの日テレ系選択の論理は破綻しておらず、少なくともYBCがABSの系列選択を意図し妨害したということはなかろう。
ABSがNTV系になったことを「服部天皇のせい」というのも短絡的と思う。
それどころか一方的にYBCがABSに影響を与えたわけではなさそうな記述も「山形放送三十三年誌」の156ページにあり、
東京から来る回線ルート上、秋田の手前に位置するとはいえYBCが好き勝手出来たわけではないのだろう。
仙台の国見無線中継所までは札幌行のNTV系とTBS系の回線が両方来ているので、国見ー笹谷ー山形でNTV系とTBS系のどちらを分岐させるか選ぶことは物理的には出来たはずだが、YBCは背後のABSとの協議なしに意思決定が出来なかっただろうと推測する。
【東北の系列選択とマイクロ回線】
甲地でNTV系かTBS系か好きな方を選べたRABと、背後にABSもいたYBCに系列選択という点で同等の自由があったとは思えない。
電電公社マイクロウェーブ回線の少なさゆえ秋田と山形で同じ系列を選ばざるを得ない制約があったのは事実だが、ABSがYBCの影響に盲従せざるを得ない状況ではなく、割と対等に系列選択の交渉が出来ていたのではないか。
先述の通りABSに社史は無いが、「民間放送十年史」の史録(342ページ)には開局当初を振り返りABS自らが執筆した記録があり、当時の気風(社風)を知り得るヒントもある。ABSが山形を意識してテレビ登録台数に言及した文章がこれだ。
1960年の国勢調査の人口では秋田県が1,335,580人で山形県が1,320,664人なので秋田県の方が14,916人多かったのは確かだが、テレビ台数差が4,000台弱なら秋田県の方がテレビ普及率は高かったことになる(といっても差は僅かだが)。
隣県の山形を名指しして文化県秋田の面目とまで書くくらいなのだから、ABSだってYBCに好き勝手やらせることは無かったのではないか。
ABSは「民間放送十年史」の史録において、前身のラジオ東北(RTB)時代のテレビ放送免許の競願社「北日本テレビジョン」について「噂された黒い影」があったことまで記録しており、敵に対する態度は甘くない。
もしYBCの意向でABSの方針が曲げられるようなことがあれば、ABSはYBC批判を載せただろうという気がする。
そして「民間放送十年史」や「日本放送年鑑'66」などに、ABSがYBCを批判した記録はない。
東北地方で民放1局目の繋がりということで、岩手のIBC岩手放送が2003年に発行した社史「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」も貴重な資料である。
青森・RABと同じく札幌行の東仙札回線からNTV系かTBS系か選択する自由度があった地域の局でありながら、TBS系を選択したIBCの系列選択の経緯と、その後の顛末が興味深い。
【苦労して発見したIBC岩手放送の社史「IBC岩手放送小史」】
「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」からはTBS(KRT)の系列局拡大戦略のようすが垣間見える。同書より一部抜粋する。
「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」は北海道東北地区で最大手のテレビ局であるSTVを札幌放送と誤記していたり(逆にHBCを北海道テレビと誤記しなくて良かった)、わざわざRABがJNN加盟の動きからNTV系に転換したことに言及するなど他社を引き合いに出す文章ではあるが、YBCの「山形放送三十三年誌」が服部天皇を主人公にした勇壮な軍記物なら、IBCの「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」はJNNに忠誠を誓った忠臣蔵である。
ともあれ「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」は既存の電電公社マイクロ回線普及状況とローカルテレビ局の系列選択の関係性の考え方に一石を投じる貴重な資料である。
NHKメディア研究部の村上聖一が2010年に発表した「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」では「マイクロ回線が2本以上ある都市の放送局では，「ニュースはJNN，野球ナイターは日本テレビ」という選択が可能」と書いてあるが、JNN発足後に開局したIBCにはそのような自由な選択肢は存在しない。
IBCはNTVが放送する後楽園の巨人戦のネットが出来ず、かろうじてキリンビール提供の「日本シリーズ」の第1戦だけがNTVネット可能という状況だったという。
【IBC岩手放送の親局】
他系列ニュースを排除するというJNN協定の排他性のくだりは、YBCのオープンネット要望に対しTBSが非協力的だったという話との整合性が取れる。
IBCは半年、RABは5か月YBCやABSより早い開局になるので、スポンサード番組が半減という憂き目をみたIBCの惨状や、TBSから協定締結直前にネット収入額を月額1000万も減らすという通告を受けたRABのNTV系転換判断が、開局準備中のYBCやABSの系列選択検討の参考になった可能性はあろう。
【1960年の阪広福幹線方面のマイクロ回線網】
そしてTBS系・JNNが発足する1959年8月を境に、東北以外でもTBS系を選択する局の伸びが鈍化し、NTV系を選ぶ局が伸び始めている。
キー局を除くローカルのVHF局は43局開局したが、JNN発足前は27社中14社と過半数がTBS系を選択することになったが、JNN発足後に開局した16社でTBS系を選んだのはIBCのほかに大分放送(OBS)、山陰放送(BSN)、琉球放送(RBC)、宮崎放送(MRT)の計5局だけである。
このうち、1959年10月1日開局のOBSと1960年10月1日開局のMRTの2社は、開局時点で電電公社マイクロ回線の阪広福幹線の終点・福岡以南にTBS系主体の回線しかなく、選択の余地なくJNN加入するしかなかったものである。
前回の繰り返しになるが当時の阪広福幹線でNTV系主体の回線はTNCのあった北九州・八幡向けの菅岳無線中継所までであり、四国経由の知松線と松分線も開通前である。
また、当時アメリカ施政下の沖縄のRBCはJNNを選択している。一足先に開局した沖縄テレビ放送(OTV)がCX系を選択すると決めていたし、国際回線の出発点となる鹿児島まで来ている電電公社のマイクロ回線が南日本放送(MBC)向けのTBS系主体回線だったのだから、ある意味RBCも選択の余地なくJNN加入するしかなかった例だろう。なお、当初は鹿児島・那覇間の国際回線が未整備(開通は1964年)だったのでテープネットだった。
【MRT本社(2014年撮影)】
島根県に開局したBSSの系列選択については阪広福幹線の広島からNTV系を分岐させて選ぶ余地もあった。
BSSのTBS系加盟には様々な理由があるようだが、ラジオの放送区域(鳥取・島根)に合わせて鳥取県東郷町に放送局開設の免許を申請したものの競願の結果日本海テレビジョン(NKT)に敗れたのが大きな要因の一つと推測する。鳥取県側でNKTが1959年3月3日に開局して6月1日にNTV系に加盟しており、これで12月15日に開局するBSSもNTV系を選択すると米子・松江で番組重複が発生する事情があった。
こうしてみると、JNN発足後に開局して、NTV系という選択肢があってTBS系を選んだというのは、IBCとBSSの2局だけなのではないか。
福島テレビ(FTV)も昔はTBS系だっただろう、という人もいるだろう。次の項で触れたい。
FTVは確かにJNNに加盟した時期もあるのだが、開局当初はオープンネットで、1965年に東京放送社史編集室から刊行された「東京放送のあゆみ」によれば1964年時点でネット番組の過半数を占めていたのはNTV系であり、ほぼNTV系で開局したとみている。
福島県の民放TV1局目の歴史について軽く触れると、ラジオ福島(RFC)がテレビ開局を目指したが失敗し、その後に福島県庁が50%出資する形でFTVが1963年4月1日開局しており、ローカルVHF局では最後発である。ネットチェンジを経て現在はCX系である。ともあれ福島でのFTV開局はIBCのテレビ開始から4年半も遅れてしまった。
【ジャーナリズム＆メディア第7号】
日本大学法学部の学術刊行物であるジャーナリズム＆メディア第7号(2014年3月発行)に、2014年当時のFTV糠澤修一社長の談話があり、「1963年(昭和38年)4月の開局当時、(中略)オープンネットということで、4系列(日本テレビ・TBS・日本教育テレビ・フジテレビ)の高視聴率番組と人気番組を全て収容するという豪華編成でした。但し、ニュースは、各系列から収容するという事になり、朝ニュースは、日本教育テレビ系列の「あさ7時のニュース」、お昼のニュースは、「フジテレニュース」、夕方帯は、日本テレビの「ニュースフラッシュ」、夜帯にはTBSのニュースというように各系列のニュースを時間帯に応じて収容していました」ということで、NTVの逆鱗に触れてスポンサード番組半減の憂き目をみたIBCや、YBCのオープンネット要望に非協力的だった頃に比べれば、「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」をして「排他的」と書かれたJNNも幾分か態度を軟化させたのだろう。
ニュースも一切交流しないとしたはずのJNNなのに、ほぼNTV系のFTVに夜帯だけTBSのニュースを認めている。
排他的なJNN発足後、テレビでは従来のオープンネットが出来なくなり、ラジオ兼営の放送局がそれを好ましく思わずNTV系を選択する方向に傾いたのではないかと推測する。
結果として、JNN発足後にTBS系を選ぶ地方局の数が伸び悩み、国盗り合戦でNTV系優勢の流れが出来てしまった。
各社の社史にはプロ野球とプロレスの人気がNTV系選択の理由として上げられているが、結局はネット保証料金の安さやJNN協定の排他性とか、TBSの対応が好ましく思われていなかったのではないか。
TBSも自社系列への加盟を希望する社の伸びが鈍化したことへの危機感から、後発のFTVにはオープンネットを容認する措置を認め、器の大きそうなところを見せたのではないかと推測する。そして実際にFTVは後年TBS系に加盟する時期も来る。
各社の社史などに時間を割いたが、ここで再び山形・秋田方面の電電公社マイクロ回線に話を戻すと、驚きの事実も見えてくる。
ABSテレビやYBCテレビが開局した1960(昭和35)年時点では電電公社マイクロ回線の仙台・国見無線中継所−笹谷−山形間は"単線"だったが、1965年に東京放送社史編集室が発行した「東京放送のあゆみ」などによれば、仙台・国見−笹谷−山形間は1964(昭和39)年までに"複線化"を果たすのである。
【1960年8月、1964年8月時点の仙台ー青森・秋田方面のテレビ用マイクロ回線図】
1964(昭和39)年頃から、ABSとYBCは別系列の選択も可能になったのだ。
FTVも開局してTBSも少し態度を軟化させているらしい時期なのだ。ABSがどうしてもTBS系を希望するなら待ちに待ったチャンスではないか。
しかし「東京放送のあゆみ」によれば国見−山形の"複線化"以降もABSとYBCはNTV系である。
東京から見て手前に位置するYBCにしても、仙台−山形間で2本あるうちの1本を自社で使用し、もう1本は秋田までABSに自由に使ってもらった方が番組編成の自由度も上がったはずだが、ABSがTBS系にならなかったのは事実である。
資料が見つからないので推測に過ぎないが、ABSも仙台−山形−秋田間を一括で自社で使って電電公社にマイクロ使用料を払うより、仙台−山形間は可能な限りYBCと回線を共用してマイクロ使用料を軽減したかったのではないかと思う。
いずれにせよ、1964年のマイクロ回線の線増でTBS系選択が可能になってもABSはNTV系であり続けたのである。
ここまで他社の社史など色々調査したが、肝心のABSが社史を発行していないので、TBS系を希望していたかどうかを知る直接的な手掛かりがない。
秋田県立図書館のレファレンスに申し込みして、ABS開局当初の秋田魁新報のABS関連の記事を探しても、そのような事実を記した記事が見つからなかった。
藁にも縋る思いで取り寄せたのが、岩城ゴルフ場問題を暴露して秋田魁新報社を退職した市川雅由が開いた(株)市川総合文化企画研究所が秋田県内で発行していた雑誌「KEN」である。
言うまでもなくABSは秋田魁新報と資本関係にある。
秋田魁新報の内部事情にも詳しいであろう市川雅由の発行していた雑誌に期待を懸けた結果、TBS系を希望していた証拠は見つからなかったが、ABSの系列戦略のヒントを見つけた気がする。
1993(平成5)年2月に発行された「KEN」の平成5年2月号の記事、「追跡１、AAB厳冬の船出「ABS AKT連合」の危機感」から一部抜粋して紹介する。なお、この記事の著者は市川雅由ではなく専属ライター・津田浩司である。
AABが開局したことで、ABSに対するNTVのご意向──つまり影響力が強くなるということをABSも認識していたことを示唆する記事である。
「KEN」の言葉を借りれば「切り札」だが、ABSがNTVと交渉するにあたって、要望を通すためにEXの存在をチラつかせるという戦法が使えなくなるということである。
YTSが行使した最終兵器・ネットチェンジや、AKTが使ったニュースネットチェンジまで使わずとも、EXのネットを増やしてみせるくらいでもNTVに対する武器になっていたわけである。
【(株)市川総合文化企画研究所「KEN」 平成5年2月号】
「ABSがTBS系を希望していた」という説も、もともとは対NTVの交渉で使う「切り札」だったのではないか。
AKTやABSは"朝日カード"を二度と使えなくなったと「KEN」は書くが、いわばABSにとっては"TBSカード"を使うことでNTVを牽制し、交渉を優位に進めたかったのだろうと推測する。
実際、ABSはNTVの「ズームイン!!朝!」を長い間ネットせずTBSの朝番組をネット受けしてきたなどの歴史もある。
もともとは「NTVではなくTBSの番組をネットする」という形でNTVのネットワーク担当を相手にABSが使っていた戦略が、いつの間にか「ABSがTBS系を希望していた」にすり替わったのではないかというのが当ブログの見解である。
秋田県立図書館のレファレンスサービスを利用しても、「ABSがTBS系を希望していた」という説の根拠は見つけられなかった。
1959年10月1日に開局する青森・RABの歴史から、ABSがTBS系を希望した場合もネット保証料金はかなり安く、NTV系を選択して結果的にも良かっただろう。
RABの影響でABSもNTV系になったという説は、電電公社マイクロ回線の秋田−青森間が繋がっていないのだから、明らかに誤りである。
電電公社のマイクロ回線(仙台・国見−山形−秋田)が"単線"だったため、開局当時のABSテレビがYBCテレビと同一系列になる必要性があったのは確実だが、YBCにとってもABSの存在が制約になっていたことは「山形放送三十三年史」の記録にも残っており、ABSテレビとYBCテレビは対等だったと推測する。
そして1964(昭和39)年に電電公社のマイクロ回線(仙台・国見−山形)が"複線化"してYBCとABSで異なる系列を選択できるインフラが整っても、双方ともNTV系主体のネット回線であったのは「東京放送のあゆみ」の記録から紛れもない事実である。
1959年9月1日に開局した岩手・IBCはTBS系を選択したがためにNTVからキラーコンテンツである後楽園の巨人戦をふくめほぼ全ての番組ネットを拒否され、スポンサード番組数も半減の憂き目を見て1965年度は北海道東北で売上最下位の成績に沈んでいるが、ABSもIBCのようになりたかったとは思えない。
JNN発足以降、電電公社マイクロ回線の都合でNTV系かTBS系か選べる地域では、ほとんどの局がNTV系を選択したという歴史的事実もある。
1993年当時のABSの常務・黒丸幹夫が雑誌・「KEN」で「キー局のご意向は日増しに強くなるでしょうね」と語っていたのは間違いないが、対キー局(NTV)の交渉が難しくなることを認識しているだけで、TBS系を希望している記載は一切ない。
以上より、当ブログの見解としては、「電電公社マイクロ回線の都合でABSがYBCと同じ系列選択となったのは事実だが、ABSがTBS系を希望していたという事実は無く、単に対NTVの交渉でTBS系の存在をブラフに使っていたもの」である。
【秋田放送(ABS)秋田局(秋田市大森山)】
ということで当ブログはABSがTBS系を希望していたというネット上の説には懐疑的な立場である。
「KEN」には「NNN(日テレ系列)の中では独立度の高いABS」という指摘もあるが、「独立度が高い≠NTVが嫌い」である。
ただ単にNTVから役員の天下りを受け入れたくないとか、NTVから経営に干渉されたくないという意味であろうと思う。
以上より、懐疑的ではあるのだけれど、ここでABSが社史とか対外的な社報を突然出してきて「当社はTBS系を希望していたがYBCが云々……」と会社の歴史資料を証拠にして書かれた日には全部ひっくり返る。
秋田放送(ABS)も去年2023年で開局70周年だったので、そろそろ社史を出すんじゃないかと期待していたのだが……
軍記物や忠臣蔵とは異なる、平田篤胤や佐藤信淵を生んだ文化県秋田らしい社史をABSにはそろそろ出してほしいものである。
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冒頭から自画自賛してしまったが、実は別件の調査をしているうちに民放テレビ黎明期の電電公社テレビ用マイクロ回線網の地図(東仙札幹線、東名阪幹線、阪広福幹線)ができてしまい、せっかくなので1つの独立した記事として公開したのである。
別件というのは、秋田放送(ABS)はTBS系列に入りたかったがマイクロ回線の都合で日本テレビ系にしたという説の真相の調査である。
そのために電電公社マイクロウェーブ伝送回線を調べようと考え、全国の色々な社の社史や「民間放送十年史」の史録、電電公社発行の資料、果てはNTT技術史料館への問い合わせなどを行っているうちに、あの記事ができてしまったのである。ただ秋田放送(ABS)について知りたかっただけなのに。
先に結論からいうと、真相は不明だった。
だって、ABSは社史を発行していないし、「民間放送十年史」や「日本放送年鑑'66」の各社の史録でABSが書いた文章にも、系列選択について記録が何も書かれていないんだもん。
とりあえず、今回も長くなりそうなので以下にポイントというか目次をまとめるので、適宜ハイパーリンクから該当箇所へ移動して頂ければと思う。
◆ABSは本当にTBS系を希望したのだろうか？ 目次
ネットで確認できるABSの系列選択に関する言及
原因は青森・RAB説は誤り
電電公社マイクロに関係なくTBSやフジも選べた説も誤り
ABSの生殺与奪の権を握れるほどYBCは強大な先発局でない
山形放送三十年史に記されたYBCのNTV系選択の理由
YBCにとってもABSという存在が制約になっていた
IBC岩手放送のTBS系選択の顛末
JNN発足・IBC加盟以降、地方局のTBS系選択は鈍化する
福島テレビ(FTV)も当初はほぼNTV系
国見−笹谷−山形間の"複線化"
雑誌『KEN』にヒントを見つけた ABSの"TBSカード"
むすびに
ネットで確認できるABSの系列選択に関する言及
原因は青森・RAB説は誤り
電電公社マイクロに関係なくTBSやフジも選べた説も誤り
ABSの生殺与奪の権を握れるほどYBCは強大な先発局でない
山形放送三十年史に記されたYBCのNTV系選択の理由
YBCにとってもABSという存在が制約になっていた
IBC岩手放送のTBS系選択の顛末
JNN発足・IBC加盟以降、地方局のTBS系選択は鈍化する
福島テレビ(FTV)も当初はほぼNTV系
国見−笹谷−山形間の"複線化"
雑誌『KEN』にヒントを見つけた ABSの"TBSカード"
むすびに
ネットで確認できるABSの系列選択に関する言及
で、冒頭の「秋田放送(ABS)はTBS系列に入りたかったがマイクロ回線の都合で日本テレビ系にしたという説」ってのはネットで色々見かけるが、代表的なものとしてWikipediaの秋田放送のページの文章を引用したい。
上のスクリーンショットの通りだが、「当初はラジオで結びつきが強かったラジオ東京テレビ（現・TBSテレビ）系列への加盟が有力とされていたが、マイクロ回線が1本しかなく、回線を先行して使用していた山形放送（YBC）と同じ系列にならざるを得なかったこと(中略)から日本テレビ系列に参加することになった。」とある。
この他にもGoogleで検索してみると、
「ABSもTBS系になりたかった」
「RAB・YBCと同じ日テレ系にならざるをえなかった」
「当時のマイクロ回線は一つしか選択できず、YBCが日テレ系にしたためABSはTBS系になれなかった」
「服部天皇のせいで日テレ系にさせられた」
「TBS系を希望していた秋田と青森が巻き込まれた」
「マイクロ回線の都合で青森放送、秋田放送、山形放送は同一系列を選ばざるを得ず、青森放送が日テレ系になったので秋田、山形も日テレ系になった」
「マイクロ回線の都合ではなく、ABSがテレビ放送を開始するときに秋田には日テレ以外にTBSやフジの回線が来ていて他県に左右されることはなかった」
「RAB・YBCと同じ日テレ系にならざるをえなかった」
「当時のマイクロ回線は一つしか選択できず、YBCが日テレ系にしたためABSはTBS系になれなかった」
「服部天皇のせいで日テレ系にさせられた」
「TBS系を希望していた秋田と青森が巻き込まれた」
「マイクロ回線の都合で青森放送、秋田放送、山形放送は同一系列を選ばざるを得ず、青森放送が日テレ系になったので秋田、山形も日テレ系になった」
「マイクロ回線の都合ではなく、ABSがテレビ放送を開始するときに秋田には日テレ以外にTBSやフジの回線が来ていて他県に左右されることはなかった」
などなど、紹介しきれない珍説奇説を含め色々な説があり、南隣の山形の山形放送(YBC)や服部天皇(服部敬雄)、果ては本県(青森)の青森放送(RAB)が
それで電電公社マイクロウェーブ伝送回線を調べたら、前回の記事が出来てしまったという経緯にになる。
原因は青森・RAB説は誤り
ともかく、まずは手っ取り早く、青森に言及する説を否定したい。
前回の民放テレビ黎明期の電電公社マイクロ回線網図の記事で触れたとおり、ABSテレビが開局した1960(昭和35)年時点で、秋田−青森間の電電公社マイクロ回線は存在しない。
青森放送(RAB)は北海道放送(HBC)と札幌テレビ放送(STV)が使っていた東京発札幌行の回線が2本通っていた東仙札幹線の甲地無線中継所(上北郡東北町)から分岐したテレビ回線を、青森市の青森東統制電話中継所(現在のNTT青森支店)までVSB方式の搬送ケーブルで受けていたのである。搬送ケーブルをテレビ回線に利用したのは甲地−青森が全国でも数少ない事例の一つである。
ABSの利用した電電公社マイクロ回線と青森は全く関係が無い。
関係ないけどもRABの系列選択にも軽く触れておこう。
RABが1980(昭和55)年に発行した社史「青森放送二十五年史」を読むと、当初はTBS系加盟を模索し概要合意案を交わす段階まで行ったらしいが、「KRT(筆者注：TBSのこと)番組のネット関係収入については足立ラジオ東京社長と当社担当幹部との会談で、概要の方向を合意していたにもかかわらず、スタート直前に示されたKRTの案が概要合意案と相違し、当社の予定より月額約一，〇〇〇万円も少なかったためである。当時の月額一，〇〇〇万円といえば、地方局のテレビ第一陣としてスタートした局の月額に相当し、当社の浮沈にかかわる額であった。これでは契約できないと、竹内社長は病後の身を押して鹿倉専務らラジオ東京幹部と直接折衝にあたったが、なお交渉せず物別れとなった。」という。
TBSが最初に言っていた額が、いざ契約する段階になって「1000万円も安い額しか払わない」となればRABが怒って交渉決裂するのも当然であり、RAB社長の竹内俊吉とNTV社長の正力松太郎が会談の結果、巨人戦中継など営業収入で有利と判断しNTV系加入を決定した経緯が書かれている。
前回は社史の「山口放送三十年史」の内容を少し酷評してしまった山口放送(KRY)もRABと開局日は同じ1959年10月1日だが、「山口放送三十年史」の63ページにはラジオ東京のネットワーク保証金額はNTVと「かなりの開き」があり縮まらなかった旨が書かれており、どうもこの時期のTBSはネット加盟を希望する地方局に対し金払いを渋る傾向があったようだ。
一応RABやKRYに批判的に書かれたTBSの名誉のために書くと、同1959年4月10日に放送した「皇太子ご成婚パレード」に要因がありそうだ。
「民間放送十年史」の363〜364ページのTBSの史録の一部によれば、「こうした特別番組は莫大な製作費を食うものであるが、これをカバーする制度に「特別放送基金」がある。三十二年上半期決算の利益処分中、一千万円をもって設定された」とあり、「皇太子ご成婚パレード」を契機としたネットワーク競争激化の状況下で「この基金はアジア競技大会、オリンピック放送、芸術祭参加作品、(中略)一流海外音楽家の招聘等に惜しみなく投入」するための流れが出来たという。
TBSが決定した「特別放送基金」に惜しみなく金を使う方針が、「皇太子ご成婚パレード」後に新規の系列局になるかもしれなかったRABに突然の減額通告をしたり、KRYに少額の提示しかできなかった理由だろうと推測する。
電電公社マイクロに関係なくTBSやフジも選べた説も誤り
北隣の青森は関係ないが、南隣の山形はどうだろうか。
ABSテレビが開局した1960(昭和35)年時点で、東仙札幹線の仙台の国見無線中継所から分岐した山形・秋田方面は回線数が1本少なく、国見−笹谷−山形(-YBC)−長沢−清川−酒田−鳥海−道川無線中継所(当時の由利郡岩城町)までが“単線”だったのは確かである。
当時、秋田県内最北端の電電公社マイクロ有人局であった電電公社道川無線中継所から秋田市のABS演奏所までは自社マイクロ回線で繋いだという。
回線経路の距離でおよそ230km先の新潟放送(BSN)までは、東金阪幹線の薬師無線中継所から分岐したTBS系主体の回線が来ているが、新潟−酒田間のマイクロ回線がまだ無いため、仙台・国見無線中継所からの“単線”しか選択肢がない。
ということで、当時の地理情報から秋田のABSが選択可能な系列は山形のYBC次第だったらしいことは確定する。
笹谷越えの山形ルートしかないのだから、マイクロ回線の都合で他県に左右されることはなくTBSやフジも選べたという説も否定されたと思う。
議論の余地があるとすれば尾山−鳥取間の電電公社マイクロ回線開通前に開局した日本海テレビジョン放送(NKT)のように全部をフィルムで対応するとか、鹿児島−那覇間の国際回線が開通前の沖縄テレビ放送(OTV)や琉球放送(RBC)のようにテープを空輸するとかなら話は別だが、道川までマイクロ回線が来てるのにABSがわざわざそんなことするだろうか。
ABSの生殺与奪の権を握れるほどYBCは強大な先発局でない
まあ、ABSの系列選択が山形のYBC次第だったらしいことは確定にしても、解せないのは下表のとおり。
| キー局・北日本・甲信越 1960年8月時点の民放TV局一覧 | |||
| 放送局名 | 所属系列 | TV放送開始年月日 | 皇太子成婚特番参加の有無 |
| 日本テレビ放送網 | NTV | 1953-08-28 | NTV系 |
| 東京放送 | TBS | 1955-04-01 | TBS系 |
| 北海道放送 | TBS | 1957-04-01 | TBS系 |
| 信越放送 | TBS | 1958-10-25 | TBS系 |
| 新潟放送 | TBS | 1958-12-24 | TBS系 |
| 日本教育テレビ | NET | 1959-02-01 | TBS系 |
| フジテレビジョン | CX | 1959-03-01 | NTV系 |
| 札幌テレビ放送 | NTV | 1959-04-01 | NTV系 |
| 東北放送 | TBS | 1959-04-01 | TBS系 |
| 岩手放送 | TBS | 1959-09-01 | 無 |
| 青森放送 | NTV | 1959-10-01 | 無 |
| 山梨放送 | NTV | 1959-12-20 | 無 |
| 山形放送 | NTV | 1960-04-01 | 無 |
| 秋田放送 | NTV | 1960-04-01 | 無 |
YBCとABSは開局年月日が同じ。
YBCが「回線を先行して使用していた」とは？
一応、民放連の民放テレビ開局一覧ではYBCが1960年3月16日に開局したことになっており、ABSより16日早く開局したことになっているが、当のYBCの会社概要ではABSと同じく1960年4月1日開局となっているし、後述の「山形放送三十三年誌」では3月16日は本免許が下りた日となっている。
仙台から山形・秋田方面に分岐した電電公社マイクロ回線の民放用テレビ回線が1本しかないので、秋田のABSと山形のYBCで同じ系列選択になるだろうことは間違いないのだが、同じ日に開局し、人口や経済の規模も大差ない秋田と山形の2局間でYBCの事情が優先されるなんてことはあるのだろうか。
阪広福幹線でNTV系の回線が北九州・八幡のテレビ西日本(TNC)(電電公社のマイクロ回線では管岳無線中継所)までしか来ていなかった時代、九州各県の民放1局目が福岡のRKB毎日放送と同じTBS系になったという実例は確かにあるが、RKBは九州で最初にテレビ放送を開始した老舗中の老舗であり、TBSや大阪・朝日放送(ABC)、名古屋・中部日本放送(CBC)、札幌・北海道放送(HBC)とともに5社連盟の一角に君臨するTBS系の基幹局である。
山形のYBCに、ABSの系列選択の生殺与奪の権を握るほどの実力があったとは信じがたい。
TV開局当初の営業成績のデータが見つからないので1965年4月〜1966年3月決算のデータになるので、ABSテレビ開局時には存在しない仙台放送(OX)と福島テレビ(FTV)も掲載する点はご注意を。
とりあえず「日本放送年鑑'66」によれば、1965年度の営業収入はABSが803,144,703円に対しYBCが829,439,232円で確かに大きいが、ABSを100とすればYBCは103という比率に過ぎない。
他県と比較すれば北海道と宮城は言うまでもなく規模が大きいし、福島のFTVや青森のRABなど10億を超える営業収入を計上している局と比較しても桁一つ違うが、ABSだって岩手のIBCには負けておらず、決して突出して弱い局ではなかったと思われる。
ほぼどんぐりの背比べの8億円前後のYBCがABSの意思決定に影響を及ぼすほどの力関係が生じるのだろうか？
疑問を解決するため、YBCの社史「山形放送三十三年誌」を紐解いてみる。
山形放送三十年史に記されたYBCのNTV系選択の理由
ネットを見ると山形の首領とか服部天皇と揶揄された服部敬雄(当時の山形新聞社主、YBC社長)を礼賛しているという評価もみられる「山形放送三十三年誌」だが、145〜146ページにかけてキー局選定の経緯が記載されている。抜粋するとこうだ。
「山形放送は、テレビのネットワークについて検討を急いでいたが、開局目前の三十五年(筆者注：昭和35=1960年)初め、オープンネット方式を採用することを決めた。
ネットワークは、日本テレビ(NTV)、フジテレビ(CX)、東京放送(TBS)、日本教育テレビ(NET)(中略)から自由に番組をネットする"オープンネット"を要望していた。
その結果、各キー局とも山形放送の番組編成に協力する態度を明らかにし、なかでもNTV、CX、NETの三局は、強力なネット体制を取ることを約束した。
(中略)YBCテレビの番組編成は、視聴率の高いスポーツ中継、なかでもプロ野球を大幅に組み入れ、人気のプロレスのほか、娯楽番組も隣接各県の民放にない意欲的な番組を多く採り入れたのが特徴であった。
報道番組も県内ニュースはもちろん、全国ニュースはNTVをキー局とするネットワークを結んだ。このため間もなく、NTVから流れる番組が約八〇パーセントとなり、NTV系列局となった。」
ネットワークは、日本テレビ(NTV)、フジテレビ(CX)、東京放送(TBS)、日本教育テレビ(NET)(中略)から自由に番組をネットする"オープンネット"を要望していた。
その結果、各キー局とも山形放送の番組編成に協力する態度を明らかにし、なかでもNTV、CX、NETの三局は、強力なネット体制を取ることを約束した。
(中略)YBCテレビの番組編成は、視聴率の高いスポーツ中継、なかでもプロ野球を大幅に組み入れ、人気のプロレスのほか、娯楽番組も隣接各県の民放にない意欲的な番組を多く採り入れたのが特徴であった。
報道番組も県内ニュースはもちろん、全国ニュースはNTVをキー局とするネットワークを結んだ。このため間もなく、NTVから流れる番組が約八〇パーセントとなり、NTV系列局となった。」
この文章から読み取れることをまとめると、
�．�ープンネットを要望したが実際にはNTV系列局になったということと、
��YBCのオープンネット要望に対しTBSは他キー局より消極的だったことと、
��YBCが隣接県の民放──つまりTBS系を避けようとしたことの3点になろうかと思う。
��YBCのオープンネット要望に対しTBSは他キー局より消極的だったことと、
��YBCが隣接県の民放──つまりTBS系を避けようとしたことの3点になろうかと思う。
�，亘槓犬鬚修里泙淨匹瓩仆颪い討△觧�実であるが、実際のところ東仙札回線を札幌行のNTV系とTBS系が寡占しているので、CX系とNET系を取るには、札幌のSTVが使う時間に合わせるかテープネット(≒遅れネット)せざるを得なかったのが理由だろう。
�△篭�力なネット体制を取ることを約束したのがNTVとCXとNETの三局であったという文章を逆説的に読めば、YBCに対しTBSは非協力的だったということである。
��は当時の山形の隣接県の民放の関係性を理解する必要があるが、宮城と新潟はTBS系のTBCとBSNで、南隣の福島にはまだ民放が無い状況である。秋田は山形と同じ系列となるのだから、YBCはTBS系を避けることで対宮城・新潟との差別化を図ったということだろう。
「山形放送三十三年誌」の147ページには当時のNHK調べのデータとして「山形県内テレビ普及率(受信契約台数)」の記録がある。
これを見ると、1956(昭和31)年3月にNHK仙台(HK)が開局した時点で山形県は村山地区が「可視圏」──すなわち受信可能地区に入り、1958(昭和33)年12月時点で置賜地区がNHK新潟(QK)の可視圏、1959(昭和34)年4月時点で村山地区が宮城のTBCの可視圏に入ったことになり、YBCは開局時点で仙台と新潟という敵と戦う必要があったのだ。
「山形放送三十三年誌」の内容がいささか大本営発表的なことを差し引いても、YBCの日テレ系選択の論理は破綻しておらず、少なくともYBCがABSの系列選択を意図し妨害したということはなかろう。
ABSがNTV系になったことを「服部天皇のせい」というのも短絡的と思う。
YBCにとってもABSという存在が制約になっていた
それどころか一方的にYBCがABSに影響を与えたわけではなさそうな記述も「山形放送三十三年誌」の156ページにあり、
「編成番組は日本テレビを中心に、フジテレビ、日本教育テレビのフリーネットだったが、東京−仙台−山形−秋田間を結ぶマイクロウェーブ回線が一本だけだったため、その制約を受けなければならなかった」
ということで、YBCもABSの都合による編成の制約があったらしいことがわかる。東京から来る回線ルート上、秋田の手前に位置するとはいえYBCが好き勝手出来たわけではないのだろう。
仙台の国見無線中継所までは札幌行のNTV系とTBS系の回線が両方来ているので、国見ー笹谷ー山形でNTV系とTBS系のどちらを分岐させるか選ぶことは物理的には出来たはずだが、YBCは背後のABSとの協議なしに意思決定が出来なかっただろうと推測する。
甲地でNTV系かTBS系か好きな方を選べたRABと、背後にABSもいたYBCに系列選択という点で同等の自由があったとは思えない。
電電公社マイクロウェーブ回線の少なさゆえ秋田と山形で同じ系列を選ばざるを得ない制約があったのは事実だが、ABSがYBCの影響に盲従せざるを得ない状況ではなく、割と対等に系列選択の交渉が出来ていたのではないか。
先述の通りABSに社史は無いが、「民間放送十年史」の史録(342ページ)には開局当初を振り返りABS自らが執筆した記録があり、当時の気風(社風)を知り得るヒントもある。ABSが山形を意識してテレビ登録台数に言及した文章がこれだ。
「秋田県の登録テレビ受像機台数は、三十六年(筆者注：昭和36=1961年)三月末現在五万二千二百十五台で、同時にテレビ放送の開始された隣県山形より四千台近くも多い。文化県秋田の面目というものだろうか。」
1960年の国勢調査の人口では秋田県が1,335,580人で山形県が1,320,664人なので秋田県の方が14,916人多かったのは確かだが、テレビ台数差が4,000台弱なら秋田県の方がテレビ普及率は高かったことになる(といっても差は僅かだが)。
隣県の山形を名指しして文化県秋田の面目とまで書くくらいなのだから、ABSだってYBCに好き勝手やらせることは無かったのではないか。
ABSは「民間放送十年史」の史録において、前身のラジオ東北(RTB)時代のテレビ放送免許の競願社「北日本テレビジョン」について「噂された黒い影」があったことまで記録しており、敵に対する態度は甘くない。
もしYBCの意向でABSの方針が曲げられるようなことがあれば、ABSはYBC批判を載せただろうという気がする。
そして「民間放送十年史」や「日本放送年鑑'66」などに、ABSがYBCを批判した記録はない。
IBC岩手放送のTBS系選択の顛末
東北地方で民放1局目の繋がりということで、岩手のIBC岩手放送が2003年に発行した社史「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」も貴重な資料である。
青森・RABと同じく札幌行の東仙札回線からNTV系かTBS系か選択する自由度があった地域の局でありながら、TBS系を選択したIBCの系列選択の経緯と、その後の顛末が興味深い。
「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」からはTBS(KRT)の系列局拡大戦略のようすが垣間見える。同書より一部抜粋する。
「33年8月(筆者注：昭和33=1958年)(中略)あたりから“系列化”への動きが強まり、NTV、KRT(筆者注：TBS)は以後各県1局の地方局を自社系列とするため、激しく競争していくことになる。KRTは、まず33年6月、CBC、OTV(筆者注：現在の沖縄テレビ放送ではなく、後に朝日放送と合併する大阪テレビ放送のこと)、RKB、HBCと5社でテレビニュースに限って他系列と一切交流しないという排他性を打ち出した。ラジオのニュースはオープンネットの考え方ができたが、これが通用しなくなった。(中略)キー局間の系列社競争はさらに激しさを増した。
民放が2本使えるようになった北回線は、34年4月1日に札幌放送(STV)と東北放送(TBC)テレビが開局し、それまでクロスネットしていたHBCも後楽園ナイターを含むNTV番組をSTVのために返上した。(中略)KRTは、更に昭和34年8月1日、16社によるジャパン・ニュース・ネットワーク(JNN)協定を発足させ、(中略)JNN協定の骨子は、ニュースその他の報道取材、制作上の協力体制をつくり、他系列ニュースを排除することで貫かれていた。9月1日の開局予定の岩手放送(IBC)テレビも、これに加盟した。ところが、これがNTVの逆鱗に触れる。(中略)JNN協定に加盟した新局には番組を一切流さない方針を新たに打ち出したのだ。(中略)
(中略)NTVは、岩手を必要とするスポンサーには番組を降りてもらっていいとまでいう強硬な態度に出た。結局これに抵抗するスポンサーの動きは無かった。
(中略)スポンサード(クロ)の番組が半分になってしまった。(中略)
北海道の札幌まで、両キー局の番組が流れているのに、盛岡で自由に降ろせない。(中略)KRTのネットポリシーの前に、犠牲を強いられた格好のIBCであった。丁度、1ヶ月後、開局予定であった青森放送(RAB)テレビは、一端JNN加盟の動きを見せたが、結局、NTVを選択した。
民放が2本使えるようになった北回線は、34年4月1日に札幌放送(STV)と東北放送(TBC)テレビが開局し、それまでクロスネットしていたHBCも後楽園ナイターを含むNTV番組をSTVのために返上した。(中略)KRTは、更に昭和34年8月1日、16社によるジャパン・ニュース・ネットワーク(JNN)協定を発足させ、(中略)JNN協定の骨子は、ニュースその他の報道取材、制作上の協力体制をつくり、他系列ニュースを排除することで貫かれていた。9月1日の開局予定の岩手放送(IBC)テレビも、これに加盟した。ところが、これがNTVの逆鱗に触れる。(中略)JNN協定に加盟した新局には番組を一切流さない方針を新たに打ち出したのだ。(中略)
(中略)NTVは、岩手を必要とするスポンサーには番組を降りてもらっていいとまでいう強硬な態度に出た。結局これに抵抗するスポンサーの動きは無かった。
(中略)スポンサード(クロ)の番組が半分になってしまった。(中略)
北海道の札幌まで、両キー局の番組が流れているのに、盛岡で自由に降ろせない。(中略)KRTのネットポリシーの前に、犠牲を強いられた格好のIBCであった。丁度、1ヶ月後、開局予定であった青森放送(RAB)テレビは、一端JNN加盟の動きを見せたが、結局、NTVを選択した。
「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」は北海道東北地区で最大手のテレビ局であるSTVを札幌放送と誤記していたり(逆にHBCを北海道テレビと誤記しなくて良かった)、わざわざRABがJNN加盟の動きからNTV系に転換したことに言及するなど他社を引き合いに出す文章ではあるが、YBCの「山形放送三十三年誌」が服部天皇を主人公にした勇壮な軍記物なら、IBCの「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」はJNNに忠誠を誓った忠臣蔵である。
ともあれ「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」は既存の電電公社マイクロ回線普及状況とローカルテレビ局の系列選択の関係性の考え方に一石を投じる貴重な資料である。
NHKメディア研究部の村上聖一が2010年に発表した「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」では「マイクロ回線が2本以上ある都市の放送局では，「ニュースはJNN，野球ナイターは日本テレビ」という選択が可能」と書いてあるが、JNN発足後に開局したIBCにはそのような自由な選択肢は存在しない。
IBCはNTVが放送する後楽園の巨人戦のネットが出来ず、かろうじてキリンビール提供の「日本シリーズ」の第1戦だけがNTVネット可能という状況だったという。
他系列ニュースを排除するというJNN協定の排他性のくだりは、YBCのオープンネット要望に対しTBSが非協力的だったという話との整合性が取れる。
IBCは半年、RABは5か月YBCやABSより早い開局になるので、スポンサード番組が半減という憂き目をみたIBCの惨状や、TBSから協定締結直前にネット収入額を月額1000万も減らすという通告を受けたRABのNTV系転換判断が、開局準備中のYBCやABSの系列選択検討の参考になった可能性はあろう。
JNN発足・IBC加盟以降、TBS系選択は鈍化する
そしてTBS系・JNNが発足する1959年8月を境に、東北以外でもTBS系を選択する局の伸びが鈍化し、NTV系を選ぶ局が伸び始めている。
キー局を除くローカルのVHF局は43局開局したが、JNN発足前は27社中14社と過半数がTBS系を選択することになったが、JNN発足後に開局した16社でTBS系を選んだのはIBCのほかに大分放送(OBS)、山陰放送(BSN)、琉球放送(RBC)、宮崎放送(MRT)の計5局だけである。
このうち、1959年10月1日開局のOBSと1960年10月1日開局のMRTの2社は、開局時点で電電公社マイクロ回線の阪広福幹線の終点・福岡以南にTBS系主体の回線しかなく、選択の余地なくJNN加入するしかなかったものである。
前回の繰り返しになるが当時の阪広福幹線でNTV系主体の回線はTNCのあった北九州・八幡向けの菅岳無線中継所までであり、四国経由の知松線と松分線も開通前である。
また、当時アメリカ施政下の沖縄のRBCはJNNを選択している。一足先に開局した沖縄テレビ放送(OTV)がCX系を選択すると決めていたし、国際回線の出発点となる鹿児島まで来ている電電公社のマイクロ回線が南日本放送(MBC)向けのTBS系主体回線だったのだから、ある意味RBCも選択の余地なくJNN加入するしかなかった例だろう。なお、当初は鹿児島・那覇間の国際回線が未整備(開通は1964年)だったのでテープネットだった。
島根県に開局したBSSの系列選択については阪広福幹線の広島からNTV系を分岐させて選ぶ余地もあった。
BSSのTBS系加盟には様々な理由があるようだが、ラジオの放送区域(鳥取・島根)に合わせて鳥取県東郷町に放送局開設の免許を申請したものの競願の結果日本海テレビジョン(NKT)に敗れたのが大きな要因の一つと推測する。鳥取県側でNKTが1959年3月3日に開局して6月1日にNTV系に加盟しており、これで12月15日に開局するBSSもNTV系を選択すると米子・松江で番組重複が発生する事情があった。
こうしてみると、JNN発足後に開局して、NTV系という選択肢があってTBS系を選んだというのは、IBCとBSSの2局だけなのではないか。
福島テレビ(FTV)も昔はTBS系だっただろう、という人もいるだろう。次の項で触れたい。
福島テレビ(FTV)も当初はほぼNTV系
FTVは確かにJNNに加盟した時期もあるのだが、開局当初はオープンネットで、1965年に東京放送社史編集室から刊行された「東京放送のあゆみ」によれば1964年時点でネット番組の過半数を占めていたのはNTV系であり、ほぼNTV系で開局したとみている。
福島県の民放TV1局目の歴史について軽く触れると、ラジオ福島(RFC)がテレビ開局を目指したが失敗し、その後に福島県庁が50%出資する形でFTVが1963年4月1日開局しており、ローカルVHF局では最後発である。ネットチェンジを経て現在はCX系である。ともあれ福島でのFTV開局はIBCのテレビ開始から4年半も遅れてしまった。
日本大学法学部の学術刊行物であるジャーナリズム＆メディア第7号(2014年3月発行)に、2014年当時のFTV糠澤修一社長の談話があり、「1963年(昭和38年)4月の開局当時、(中略)オープンネットということで、4系列(日本テレビ・TBS・日本教育テレビ・フジテレビ)の高視聴率番組と人気番組を全て収容するという豪華編成でした。但し、ニュースは、各系列から収容するという事になり、朝ニュースは、日本教育テレビ系列の「あさ7時のニュース」、お昼のニュースは、「フジテレニュース」、夕方帯は、日本テレビの「ニュースフラッシュ」、夜帯にはTBSのニュースというように各系列のニュースを時間帯に応じて収容していました」ということで、NTVの逆鱗に触れてスポンサード番組半減の憂き目をみたIBCや、YBCのオープンネット要望に非協力的だった頃に比べれば、「IBC岩手放送小史(開局五十周年記念誌)」をして「排他的」と書かれたJNNも幾分か態度を軟化させたのだろう。
ニュースも一切交流しないとしたはずのJNNなのに、ほぼNTV系のFTVに夜帯だけTBSのニュースを認めている。
排他的なJNN発足後、テレビでは従来のオープンネットが出来なくなり、ラジオ兼営の放送局がそれを好ましく思わずNTV系を選択する方向に傾いたのではないかと推測する。
結果として、JNN発足後にTBS系を選ぶ地方局の数が伸び悩み、国盗り合戦でNTV系優勢の流れが出来てしまった。
各社の社史にはプロ野球とプロレスの人気がNTV系選択の理由として上げられているが、結局はネット保証料金の安さやJNN協定の排他性とか、TBSの対応が好ましく思われていなかったのではないか。
TBSも自社系列への加盟を希望する社の伸びが鈍化したことへの危機感から、後発のFTVにはオープンネットを容認する措置を認め、器の大きそうなところを見せたのではないかと推測する。そして実際にFTVは後年TBS系に加盟する時期も来る。
国見−笹谷−山形間の"複線化"
各社の社史などに時間を割いたが、ここで再び山形・秋田方面の電電公社マイクロ回線に話を戻すと、驚きの事実も見えてくる。
ABSテレビやYBCテレビが開局した1960(昭和35)年時点では電電公社マイクロ回線の仙台・国見無線中継所−笹谷−山形間は"単線"だったが、1965年に東京放送社史編集室が発行した「東京放送のあゆみ」などによれば、仙台・国見−笹谷−山形間は1964(昭和39)年までに"複線化"を果たすのである。
1964(昭和39)年頃から、ABSとYBCは別系列の選択も可能になったのだ。
FTVも開局してTBSも少し態度を軟化させているらしい時期なのだ。ABSがどうしてもTBS系を希望するなら待ちに待ったチャンスではないか。
しかし「東京放送のあゆみ」によれば国見−山形の"複線化"以降もABSとYBCはNTV系である。
東京から見て手前に位置するYBCにしても、仙台−山形間で2本あるうちの1本を自社で使用し、もう1本は秋田までABSに自由に使ってもらった方が番組編成の自由度も上がったはずだが、ABSがTBS系にならなかったのは事実である。
資料が見つからないので推測に過ぎないが、ABSも仙台−山形−秋田間を一括で自社で使って電電公社にマイクロ使用料を払うより、仙台−山形間は可能な限りYBCと回線を共用してマイクロ使用料を軽減したかったのではないかと思う。
いずれにせよ、1964年のマイクロ回線の線増でTBS系選択が可能になってもABSはNTV系であり続けたのである。
雑誌『KEN』にヒントを見つけた ABSの"TBSカード"
ここまで他社の社史など色々調査したが、肝心のABSが社史を発行していないので、TBS系を希望していたかどうかを知る直接的な手掛かりがない。
秋田県立図書館のレファレンスに申し込みして、ABS開局当初の秋田魁新報のABS関連の記事を探しても、そのような事実を記した記事が見つからなかった。
藁にも縋る思いで取り寄せたのが、岩城ゴルフ場問題を暴露して秋田魁新報社を退職した市川雅由が開いた(株)市川総合文化企画研究所が秋田県内で発行していた雑誌「KEN」である。
言うまでもなくABSは秋田魁新報と資本関係にある。
秋田魁新報の内部事情にも詳しいであろう市川雅由の発行していた雑誌に期待を懸けた結果、TBS系を希望していた証拠は見つからなかったが、ABSの系列戦略のヒントを見つけた気がする。
1993(平成5)年2月に発行された「KEN」の平成5年2月号の記事、「追跡１、AAB厳冬の船出「ABS AKT連合」の危機感」から一部抜粋して紹介する。なお、この記事の著者は市川雅由ではなく専属ライター・津田浩司である。
「対キー局の"切り札"がなくなる
『県下に民放が二つか三つしかないところでは、山形テレビのネット換え(筆者注：1993年4月に山形テレビ(YTS)が所属系列をCX系からEX系に変更したこと)のようなことが常に起こりうる。キー局とすれば、ドスを突きつけられているようなものです。しかしこれが四局になればその心配はなくなる』
キー局のネットワーク担当者はこのように言って、郵政省の進める「一県四局化構想」が、結果的にキー局−地方局の力関係をキー局優位に変えつつあることを指摘した。
(中略)
十年ほど前、AKTではそれまで流していたFNN(フジテレビ系列)のニュース番組を、ANN(テレ朝系列)に変更したことがある。この"異常事態"は八一年四月から八七年三月まで、六年の長きに渡って続いた。最終的には秋田魁新報の主導でFNNに復帰はしたが、しこりは残った。当時、フジテレビの役員は、
「ニュースはテレビの"血"のようなものです。それを入れ換えられた。今回は幸いもとに戻ったけれど、この騒動の恨みは絶対忘れない」
と語っていたほどだ。
(中略)
ここで昔話を持ち出したのは、ことさらにAKTのドタバタ劇を思い出すためではない。それが弱小地方局にとって、巨大なキー局との交渉を少しばかり優位に運ぶための最後の"切り札"であったこと、そしてAABが誕生した今、AKTは二度とこの"朝日カード"を使えなくなったことを説明するためである。
ことはAKTだけの問題ではない。今回、ABSも、放送時間中十数%を占めていたテレ朝系の番組を日テレ系のものに入れ換えた。
(中略)NNN(日テレ系列)の中では独立度の高いABSではあるが、(中略)黒丸(筆者注：当時のABSの黒丸幹夫常務)は「キー局のご意向は日増しに強くなるでしょうね」と率直に認める。
『県下に民放が二つか三つしかないところでは、山形テレビのネット換え(筆者注：1993年4月に山形テレビ(YTS)が所属系列をCX系からEX系に変更したこと)のようなことが常に起こりうる。キー局とすれば、ドスを突きつけられているようなものです。しかしこれが四局になればその心配はなくなる』
キー局のネットワーク担当者はこのように言って、郵政省の進める「一県四局化構想」が、結果的にキー局−地方局の力関係をキー局優位に変えつつあることを指摘した。
(中略)
十年ほど前、AKTではそれまで流していたFNN(フジテレビ系列)のニュース番組を、ANN(テレ朝系列)に変更したことがある。この"異常事態"は八一年四月から八七年三月まで、六年の長きに渡って続いた。最終的には秋田魁新報の主導でFNNに復帰はしたが、しこりは残った。当時、フジテレビの役員は、
「ニュースはテレビの"血"のようなものです。それを入れ換えられた。今回は幸いもとに戻ったけれど、この騒動の恨みは絶対忘れない」
と語っていたほどだ。
(中略)
ここで昔話を持ち出したのは、ことさらにAKTのドタバタ劇を思い出すためではない。それが弱小地方局にとって、巨大なキー局との交渉を少しばかり優位に運ぶための最後の"切り札"であったこと、そしてAABが誕生した今、AKTは二度とこの"朝日カード"を使えなくなったことを説明するためである。
ことはAKTだけの問題ではない。今回、ABSも、放送時間中十数%を占めていたテレ朝系の番組を日テレ系のものに入れ換えた。
(中略)NNN(日テレ系列)の中では独立度の高いABSではあるが、(中略)黒丸(筆者注：当時のABSの黒丸幹夫常務)は「キー局のご意向は日増しに強くなるでしょうね」と率直に認める。
AABが開局したことで、ABSに対するNTVのご意向──つまり影響力が強くなるということをABSも認識していたことを示唆する記事である。
「KEN」の言葉を借りれば「切り札」だが、ABSがNTVと交渉するにあたって、要望を通すためにEXの存在をチラつかせるという戦法が使えなくなるということである。
YTSが行使した最終兵器・ネットチェンジや、AKTが使ったニュースネットチェンジまで使わずとも、EXのネットを増やしてみせるくらいでもNTVに対する武器になっていたわけである。
「ABSがTBS系を希望していた」という説も、もともとは対NTVの交渉で使う「切り札」だったのではないか。
AKTやABSは"朝日カード"を二度と使えなくなったと「KEN」は書くが、いわばABSにとっては"TBSカード"を使うことでNTVを牽制し、交渉を優位に進めたかったのだろうと推測する。
実際、ABSはNTVの「ズームイン!!朝!」を長い間ネットせずTBSの朝番組をネット受けしてきたなどの歴史もある。
もともとは「NTVではなくTBSの番組をネットする」という形でNTVのネットワーク担当を相手にABSが使っていた戦略が、いつの間にか「ABSがTBS系を希望していた」にすり替わったのではないかというのが当ブログの見解である。
むすびに
秋田県立図書館のレファレンスサービスを利用しても、「ABSがTBS系を希望していた」という説の根拠は見つけられなかった。
1959年10月1日に開局する青森・RABの歴史から、ABSがTBS系を希望した場合もネット保証料金はかなり安く、NTV系を選択して結果的にも良かっただろう。
RABの影響でABSもNTV系になったという説は、電電公社マイクロ回線の秋田−青森間が繋がっていないのだから、明らかに誤りである。
電電公社のマイクロ回線(仙台・国見−山形−秋田)が"単線"だったため、開局当時のABSテレビがYBCテレビと同一系列になる必要性があったのは確実だが、YBCにとってもABSの存在が制約になっていたことは「山形放送三十三年史」の記録にも残っており、ABSテレビとYBCテレビは対等だったと推測する。
そして1964(昭和39)年に電電公社のマイクロ回線(仙台・国見−山形)が"複線化"してYBCとABSで異なる系列を選択できるインフラが整っても、双方ともNTV系主体のネット回線であったのは「東京放送のあゆみ」の記録から紛れもない事実である。
1959年9月1日に開局した岩手・IBCはTBS系を選択したがためにNTVからキラーコンテンツである後楽園の巨人戦をふくめほぼ全ての番組ネットを拒否され、スポンサード番組数も半減の憂き目を見て1965年度は北海道東北で売上最下位の成績に沈んでいるが、ABSもIBCのようになりたかったとは思えない。
JNN発足以降、電電公社マイクロ回線の都合でNTV系かTBS系か選べる地域では、ほとんどの局がNTV系を選択したという歴史的事実もある。
1993年当時のABSの常務・黒丸幹夫が雑誌・「KEN」で「キー局のご意向は日増しに強くなるでしょうね」と語っていたのは間違いないが、対キー局(NTV)の交渉が難しくなることを認識しているだけで、TBS系を希望している記載は一切ない。
以上より、当ブログの見解としては、「電電公社マイクロ回線の都合でABSがYBCと同じ系列選択となったのは事実だが、ABSがTBS系を希望していたという事実は無く、単に対NTVの交渉でTBS系の存在をブラフに使っていたもの」である。
ということで当ブログはABSがTBS系を希望していたというネット上の説には懐疑的な立場である。
「KEN」には「NNN(日テレ系列)の中では独立度の高いABS」という指摘もあるが、「独立度が高い≠NTVが嫌い」である。
ただ単にNTVから役員の天下りを受け入れたくないとか、NTVから経営に干渉されたくないという意味であろうと思う。
以上より、懐疑的ではあるのだけれど、ここでABSが社史とか対外的な社報を突然出してきて「当社はTBS系を希望していたがYBCが云々……」と会社の歴史資料を証拠にして書かれた日には全部ひっくり返る。
秋田放送(ABS)も去年2023年で開局70周年だったので、そろそろ社史を出すんじゃないかと期待していたのだが……
軍記物や忠臣蔵とは異なる、平田篤胤や佐藤信淵を生んだ文化県秋田らしい社史をABSにはそろそろ出してほしいものである。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・アイビーシー岩手放送(2003)「IBC岩手放送小史」
・青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」JNNネットワーク協議会
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
・高橋昭編著(1987)「山形放送三十三年誌」山形放送
・津田浩司(1993)「追跡・テレビ局の台所事情 AAB厳冬の船出『ABS AKT連合』の"危機感"(KEN 平成5年2月号)」市川総合文化企画研究所
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊 連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ５／積滞電話解消へ／増える回線 テレビも伝送」
・東京放送社史編集室(1965)「東京放送のあゆみ」
・東北放送株式会社(1962)「東北放送十年史」
・東北放送株式会社(1972)「東北放送二十年史」
・永森四郎(1960)「日本の電信電話(少年産業博物館 ; 25)」ポプラ社
・南海放送「南海放送50年史」https://web.rnb.co.jp/event/60th/main/ebook1/html5.html#page=22
・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
・日本民間放送連盟(1966)「日本放送年鑑 1966(昭41)年版」
・高橋昭編著「山形放送三十三年誌」山形放送
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊 連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ５／積滞電話解消へ／増える回線 テレビも伝送」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・村上聖一(NHKメディア研究部)(2010)「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」https://www.nhk.or.jp/bunken/research/title/year/2010/pdf/001.pdf
・山口放送株式会社(1987)「山口放送三十年史」
・アイビーシー岩手放送(2003)「IBC岩手放送小史」
・青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」JNNネットワーク協議会
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
・高橋昭編著(1987)「山形放送三十三年誌」山形放送
・津田浩司(1993)「追跡・テレビ局の台所事情 AAB厳冬の船出『ABS AKT連合』の"危機感"(KEN 平成5年2月号)」市川総合文化企画研究所
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊 連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ５／積滞電話解消へ／増える回線 テレビも伝送」
・東京放送社史編集室(1965)「東京放送のあゆみ」
・東北放送株式会社(1962)「東北放送十年史」
・東北放送株式会社(1972)「東北放送二十年史」
・永森四郎(1960)「日本の電信電話(少年産業博物館 ; 25)」ポプラ社
・南海放送「南海放送50年史」https://web.rnb.co.jp/event/60th/main/ebook1/html5.html#page=22
・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
・日本民間放送連盟(1966)「日本放送年鑑 1966(昭41)年版」
・高橋昭編著「山形放送三十三年誌」山形放送
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊 連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ５／積滞電話解消へ／増える回線 テレビも伝送」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・村上聖一(NHKメディア研究部)(2010)「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」https://www.nhk.or.jp/bunken/research/title/year/2010/pdf/001.pdf
・山口放送株式会社(1987)「山口放送三十年史」
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コメント
コメント一覧
RABとKRYはTBS(ラジオ東京)より日本テレビの方がネット保証金が高かったため、日本テレビ系列を選択しました。
ABS、YBC、FBCはラジオ東京(TBS)のニュース協定やネット保証金を呑んでTBS系列入りすると大手スポンサーが付かなくなる懸念から日本テレビ系列を選択したと推測されます。
日本テレビは巨人戦ナイター中継やプロレス中継などのスポーツ中継が人気で、カラー放送の技術も持っていました。ABS、YBC、FBCは営業面や将来のカラー放送を考慮して日本テレビ系列を選択したのでしょう。
「福井放送五十年のあゆみ」によれば、FBCはラジオ開局時に朝日放送(ABC)や中部日本放送(CBC)の支援を受けたため、テレビもABCやCBCと同じTBS系列になることが有力とされていたようです。
コメントありがとうございます。
そちらのコメントに沿って返信いたしますが、長くなるので分けて返信します。
>『IBCとOBSはJNN発足後のテレビ開局でTBS系列を選択したため、巨人戦ナイター中継をネット出来なくなるなど日本テレビから冷遇されました。』
OBSは1960年10月1日の開局時点で阪広福回線の終点の福岡以南にTBS系主体の回線しかなく、開局時にNTV系の選択も出来たのに自らの意志でTBS系を選んでしまったIBCと同列にみるのは難しいです。
知松線と松分線の開通で四国回りの回線が大分でも"物理的には可能"になるのは1961年4月ですが、四国回線でOBSがNTVを取ろうと考えれば、KRYの関門局の免許問題(NTV系のTNCと、NETとCXの混成のKBCと、KRY関門局は同じ番組を一日の1/3以下とすることが義務)との調整も避けられず、NTVとしては先に加盟してくれたKRYを尊重したでしょう。「東京放送のあゆみ」で1964年の四国回線の現況もみることが出来ますが、高知→松山→大分の回線はCXとNETの混成となっており、NTV系主体の回線は高知止まりでしたので(大阪−高知まで複線、高知以西は単線)、OBSは1961年4月以降、四国回り回線を受けることが"物理的には可能"とはいえ、NTVというよりは山口行のCXとNETの混成した回線を受けることになったでしょう。
>『RABとKRYはTBS(ラジオ東京)より日本テレビの方がネット保証金が高かったため、日本テレビ系列を選択しました。』
当記事本文の趣旨と同じと理解します。
(続きます)
続きです。
>『ABS、YBC、FBCはラジオ東京(TBS)のニュース協定やネット保証金を呑んでTBS系列入りすると大手スポンサーが付かなくなる懸念から日本テレビ系列を選択したと推測されます。』
TBS系を選んでしまったIBCの惨状が、開局準備中のYBCやABSの系列選択検討の参考にした可能性があるというのは当記事本文でも触れておりますので、趣旨は同じと理解します。FBCについては当記事で触れていませんので、言及はしません。
>『日本テレビは巨人戦ナイター中継やプロレス中継などのスポーツ中継が人気で、カラー放送の技術も持っていました。ABS、YBC、FBCは営業面や将来のカラー放送を考慮して日本テレビ系列を選択したのでしょう。』
カラー放送について「山形放送三十三年誌」等のYBC発行史料でカラー放送が理由だという記載を見つけていませんし、ABSも社史が無く、私はカラー放送が系列選択の理由だという確証が持てませんのでこれ以上の言及は避けます。
『「福井放送五十年のあゆみ」によれば、FBCはラジオ開局時に朝日放送(ABC)や中部日本放送(CBC)の支援を受けたため、テレビもABCやCBCと同じTBS系列になることが有力とされていたようです。』
>ABSに関して言えることは、「民間放送十年史」でABSが「秋田魁新報社が、創立のための実質的な発起人」とし、1992年時点の株主構成でも上位10位までに他県の放送局は1社もないことが挙げられます。「KEN」平成5年2月号によれば筆頭株主が魁で支配比率8.3%、2位が秋田県で6.7%、3位が秋田市で3.1%、それ以下は8位の東北電力(1.5%)を除き4位から10位まで個人株主です。
RKCは当初はTBS系を希望していましたが、1959年当時の四国のマイクロ回線が1回線しかなくJRT、RNC、RNBが日本テレビ系を選択したことやスポーツ中継の人気から日本テレビ系にならざるを得なくなりました。
当初はフジテレビ系で開局予定だったKUTVへの対策も兼ねて、RKCはTBS系へのネットチェンジも模索していましたが、KUTVがフジテレビ系からTBS系に変更したためにRKCのネットチェンジ構想は頓挫しました。
その件については「高知放送三十年史」にも記述されています。
仮にABSがTBS系を希望していたならば、AKT開局のタイミングでTBS系へのネットチェンジを模索していたでしょう。
RNBに言及されていますが、1958年12月に開局したRNBがNTV系の回線を受けたのは阪広福回線の広島から分岐して松山に結んだルートであり、大阪−信達−眉山−雲辺寺−有沢−高知の経路にあったRKCはまったく関係ありません。
そしてそもそも1959年4月のRKC開局時点で、高知と松山を結んだ電電公社マイクロ回線の知松線もありません。
RKCは当初はTBS系を希望していましたが、大阪〜徳島〜高知の電電公社マイクロ回線が1回線しかなく、同じ回線を使うJRTが日本テレビ系を選択したためにRKCも日本テレビ系にならざるを得なくなりました。「高知放送三十年史」を調べて下さい。
「FBCがTBSではなく日本テレビを選んだ理由」、「マイクロ回線の関係でTBS系に加盟出来なかったRKC」の記事もお願いします。
福井や高知も調べてありますが、記事にする予定がありません。