4月22日公開の「ABSは本当にTBS系を希望したのだろうか？」の記事の公開後、4月26日に当ブログとしては数年ぶりに1日PV数が4桁に届きそうな995PVというところまで伸びました。

　その反響の大きさに驚いているところですが、“電電公社がマイクロ回線を福島→山形→秋田→青森はNTV系で整備し、福島→仙台→盛岡→青森はTBS系にした”というような説や、“1959年当時の四国のマイクロ回線が1回線しかなくJRTとRNCとRNBがNTV系を選択”というような説を披露しに来られる方もおられます。

　そういった方々には4月17日公開の「民放テレビ黎明期の電電公社マイクロ回線網図」の記事をご参照頂き、それでも疑義があれば電電公社職員だった永森四郎が著した「日本の電信電話(少年産業博物館 ; 25)」や、四国電気通信局が発行した「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」などで1960年当時の電電公社マイクロ網や開通年度を確認していただければと思うのですが、私自身も調査前まで“東北の太平洋側をTBS系、日本海側をNTV系が通過”という誤った認識を持っていたことも恥ずかしながら事実であります。

　NHKメディア研究部の村上聖一氏の「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」にも「九州と太平洋側を網羅するTBS系と，日本海側各局と四国に強い日本テレビ系」という指摘もあります。その指摘自体は正しく、実際にNTV系列局は日本海側や四国、TBS系は太平洋側に置局がなされた傾向はあります。

黎明期民放1局目の所属系列
【民放テレビ黎明期(〜1964年)の系列別国盗り図】

　実際に各県の民放1局目の所属系列を図示すると上図のようになります。
　
　ただし、日本海側に強いNTV系とはいっても電電公社マイクロ回線網は、鉄道でいう羽越・奥羽本線沿いや山陰本線沿いの回線がミッシングリンク状態でした。
　これだけで、別にNTV系回線が日本海側を縦貫していた訳ではないことがわかるかと思います。

　また、民放1局目がすべてNTV系になった四国も、「民放テレビ黎明期の電電公社マイクロ回線網図」で述べたとおりですが、NTV系を受けた回線経路は別々です。
　徳島のJRTと高知のRKCは大阪(信達無線中継所)から紀伊水道越え、高松のRNCは岡山(常山無線中継所)から備讃瀬戸越え、松山のRNBは広島から安芸灘越えの海上伝搬ルートで、3通り別々の経路で四国に渡っています。
　そして、徳島−高知間以外、四国の県都同士を結ぶ回線は1960年時点で存在しません。高知−松山−大分間が開通するのは1961年であり、そこを通過した回線を占めていたのは、CX系とNET系が主だったことは、1965年に東京放送社史編集室が発行した「東京放送のあゆみ」などでも明らかです。

　確かに系列局の置局位置だけみれば、日本海側や四国をNTV系の電電公社マイクロ回線が通っていたかのように錯覚してもおかしくはないのですが、実際に電電公社のマイクロウェーブ伝送路図を見れば間違いだと気づきます。

　実際のところ、国土軸に対する枝にあたる地域──すなわち電電公社マイクロウェーブ回線網の整備が遅れた地域ほどNTV系になる傾向があった、ということではないかと考えています。

　東仙札幹線、東名阪幹線、阪広福幹線など、国土軸を縦貫する幹の区間は電電公社マイクロ網の整備が先行し、札幌のHBCや岡山のRSK、福岡のRKBなど、キー局である日本教育テレビ(NET、現在のテレビ朝日(EX))やフジテレビジョン(CX)などより古い歴史を持つ地方局も誕生しました。

　一方、枝にあたる地域は幹の区間沿線に比べ電電公社マイクロ回線の整備が遅れます。
　のちに相互乗り入れでエリアが岡山県と統合されることになる、香川県の高松に開局したRNCは、香川にも電波が届く対岸の岡山・RSKとは異なるNTV系を常山無線中継所から受けるため、電電公社に阪広福幹線の予備線開放を求める交渉をしていたことも「民間放送十年史」に記録があります。
　愛媛県・松山のRNBも、対岸の広島・RCCとは異なる番組を求めNTV系を受けることになったと「民間放送十年史」に記録があります。

　東北地方に目を向ければ、「山形放送三十三年誌」にもYBCが隣県(TBS系のTBCやBSN)とは異なる番組を求めた記録があります。
　また、1959年8月以降はIBC岩手放送が「IBC岩手放送小史」でも「排他的」と書いたJNNの発足でTBS系でのオープンネットが事実上困難となり、後の地方局がオープンネットでの編成自由度の高いNTV系を選択しがちになることもあります。

　こうした事情が、日本海側や四国はNTV系回線が一本だったという誤解に繋がったのだろうとみています。

　もっとも、「山口放送三十年史」の61頁の「テレビ全国ネット回線図」や、「南海放送50年史」の24頁の「懸案であったマイクロ回線も徳島−高知−松山ルートが広島から分岐できる見通しがついた」という記述など、放送局の書いた社史でもマイクロ回線網を正しく把握していたとは思えない記述が多々ありますので、誤解してしまうのも無理がないものと思います。
　放送局も、社史を書こうという時期になれば、30年や50年前のことなど正しく記憶を思い出せないということでしょう。

　その点、高松のRNC、北九州・八幡のTNC、福岡のKBCなどが「民間放送十年史」に残してくれたマイクロ回線網に関する正しい記述は、たいへん貴重なものであると思っています。

◆引用文献・参考文献・ウェブサイト

・アイビーシー岩手放送(2003)「IBC岩手放送小史」
・青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」JNNネットワーク協議会
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
・高橋昭編著(1987)「山形放送三十三年誌」山形放送
・津田浩司(1993)「追跡・テレビ局の台所事情　AAB厳冬の船出『ABS AKT連合』の"危機感"(KEN 平成5年2月号)」市川総合文化企画研究所
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊　連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶　５／積滞電話解消へ／増える回線　テレビも伝送」
・東京放送社史編集室(1965)「東京放送のあゆみ」
・東北放送株式会社(1962)「東北放送十年史」
・東北放送株式会社(1972)「東北放送二十年史」
・永森四郎(1960)「日本の電信電話(少年産業博物館 ; 25)」ポプラ社
・南海放送「南海放送50年史」https://web.rnb.co.jp/event/60th/main/ebook1/html5.html#page=22
・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
・日本民間放送連盟(1966)「日本放送年鑑 1966(昭41)年版」
・高橋昭編著「山形放送三十三年誌」山形放送
・東奥日報社(2009)「2009年3月26日付夕刊　連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶　５／積滞電話解消へ／増える回線　テレビも伝送」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・村上聖一(NHKメディア研究部)(2010)「民放ネットワークをめぐる議論の変遷」https://www.nhk.or.jp/bunken/research/title/year/2010/pdf/001.pdf
・山口放送株式会社(1987)「山口放送三十年史」

　

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