東北電気通信局(1982)「東北の電信電話 : 公社30周年」と仙台無線通信部(1978)「東北無線史」を古本屋でやっと手に入れた。
これまで、甲地−青森間が搬送ケーブルのVSB方式からマイクロウェーブ伝送回線に変わった時期や、新潟−酒田と秋田−青森間の開通時期などは複数の資料から推測する状況だったが、この2冊のお陰で具体的な時期がわかったので図示していこうと思う。
「東北無線史」の128頁などによれば、甲地−平内−青森間のマイクロ回線の開通は1965(昭和40)年8月16日である。
先に日琉マイクロ回線の建設について記事化した際、時の首相・池田勇人が「これでオリンピックも沖縄でみられます。これは本土からのなによりの贈り物だと思います」とスピーチしたことを紹介したが、甲地−青森間のマイクロ回線化も東京オリンピック1964が間接的に関わっている。
というのは国策として東京オリンピック1964に合わせて全国テレビ回線のカラー化が進められることになり、電電公社も「東京オリンピックをカラーで」の合言葉のもと、マイクロ回線は当初の白黒規格から高規格化への過渡期を迎えることになったからである。搬送ケーブルによるVSB方式ではカラー放送は無理だということで、甲地−青森間もマイクロ回線の建設が決まったのである。
東京オリンピック1964時点(1964年10月10日)で、東仙札幹線では暫定規格ながら札幌までNHK用のカラーテレビ回線が通ったので、NHK札幌(JOIK)とNHK盛岡(JOQG)、NHK仙台(JOHK)と、民放では唯一東北放送(TBC)が東京オリンピック1964に間に合った。
【北海道・青森周辺電電公社マイクロ回線網1965】
一方で青森県ではNHK青森(JOTG)も青森放送(RAB)も、東京オリンピック1964までに電電公社のカラー放送回線が来るのは叶わなかった。甲地−青森間がまだ搬送ケーブルのVSB方式だったので、甲地無線中継所をカラー回線が通過しているのに青森市まで引き込めなかったのである。
VSBではないが、仁山無線中継所から分岐するNHK函館(JOVK)や、越河無線中継所から分岐するNHK福島(JOFP)も分岐回線が旧規格なのでカラー化できなかった。
札幌と仙台と並んで盛岡のQGがカラー化を達成できたのは、電電公社の新山無線中継所からQGの新山親局送信所が距離にしてわずか180mと近接し、同軸ケーブルで直結されていたことが奏功したのである。
結局青森県は東京オリンピック1964にカラーのマイクロ回線が間に合わなかったものの、1965(昭和40)年8月16日の甲地−青森間のマイクロ回線開通によってTGがカラー放送のネット可能となり、1965(昭和40)年9月10日の甲地−青森間のマイクロ回線の線増と同時に、同区間の搬送ケーブルによるVSB方式運用も廃止になったという。
民放のカラー回線が仙台以北に延伸したのは1966(昭和41)年になるが、この時には甲地−平内−青森の高規格マイクロ回線も開通済みなので、青森放送(RAB)も北海道放送(HBC)や札幌テレビ放送(STV)と並んでカラー対応できた。
当ブログではこれまで複数の資料から新潟−青森間の日本海側マイクロの開通を1967(昭和42)年だと推測していたが、「東北無線史」の103頁から、新潟−酒田間が1967(昭和42)年11月、それに次ぐ秋田−青森間の開通で東京−新潟−青森間が開通したのは1967(昭和42)年12月だと裏付けることができた。
参考までに、新潟−青森間の無線中継所は新潟−中条−温海−酒田−鳥海−道川−秋田−森山−十ノ瀬−黒森−青森となる。
【北海道・青森周辺電電公社マイクロ回線網1967】
当ブログではおなじみの地図かもしれない。
この地図のマイクロ回線網の体制で、翌1968(昭和43)年の十勝沖地震による甲地無線中継所の通信途絶に至るのである。
何度も同じことを言うのも気が引けるが、通信途絶の原因がパラボラずれだという事実は存在せず、キー局から札幌へテープ空輸が行われたというのも偽情報であることは言うまでもなかろう。「東北無線史」や「東北の電信電話 : 公社30周年」にも原因は発電機が台座からずれ落ちたことと、通信途絶時間は2時間であることが明記されている。
回線途絶の被害を受けた当事者であるHBCもSTVも社史にテープ空輸があったなどという記録が一切なく、日本放送出版協会(1967)「放送文化 23(7)」や八戸市(1969)「地震：'68十勝沖地震の記録」など複数の文献が「復旧が早かったため一応ことなきをえた」と記録しているのだ。
とはいえ電電公社としても十勝沖地震での通信途絶を教訓に、以後、伝送路の二重化など冗長性構築を施策していくことになるのは事実であり、東仙札幹線の甲地−近川−汐首に続く津軽海峡越えの区間も生まれていくことになる。
続きは次回で。
←クリックでブログランキングに投票！
これまで、甲地−青森間が搬送ケーブルのVSB方式からマイクロウェーブ伝送回線に変わった時期や、新潟−酒田と秋田−青森間の開通時期などは複数の資料から推測する状況だったが、この2冊のお陰で具体的な時期がわかったので図示していこうと思う。
【甲地−青森間のマイクロウェーブ伝送回線開通は1965(昭和40)年】
「東北無線史」の128頁などによれば、甲地−平内−青森間のマイクロ回線の開通は1965(昭和40)年8月16日である。
先に日琉マイクロ回線の建設について記事化した際、時の首相・池田勇人が「これでオリンピックも沖縄でみられます。これは本土からのなによりの贈り物だと思います」とスピーチしたことを紹介したが、甲地−青森間のマイクロ回線化も東京オリンピック1964が間接的に関わっている。
というのは国策として東京オリンピック1964に合わせて全国テレビ回線のカラー化が進められることになり、電電公社も「東京オリンピックをカラーで」の合言葉のもと、マイクロ回線は当初の白黒規格から高規格化への過渡期を迎えることになったからである。搬送ケーブルによるVSB方式ではカラー放送は無理だということで、甲地−青森間もマイクロ回線の建設が決まったのである。
東京オリンピック1964時点(1964年10月10日)で、東仙札幹線では暫定規格ながら札幌までNHK用のカラーテレビ回線が通ったので、NHK札幌(JOIK)とNHK盛岡(JOQG)、NHK仙台(JOHK)と、民放では唯一東北放送(TBC)が東京オリンピック1964に間に合った。
一方で青森県ではNHK青森(JOTG)も青森放送(RAB)も、東京オリンピック1964までに電電公社のカラー放送回線が来るのは叶わなかった。甲地−青森間がまだ搬送ケーブルのVSB方式だったので、甲地無線中継所をカラー回線が通過しているのに青森市まで引き込めなかったのである。
VSBではないが、仁山無線中継所から分岐するNHK函館(JOVK)や、越河無線中継所から分岐するNHK福島(JOFP)も分岐回線が旧規格なのでカラー化できなかった。
札幌と仙台と並んで盛岡のQGがカラー化を達成できたのは、電電公社の新山無線中継所からQGの新山親局送信所が距離にしてわずか180mと近接し、同軸ケーブルで直結されていたことが奏功したのである。
結局青森県は東京オリンピック1964にカラーのマイクロ回線が間に合わなかったものの、1965(昭和40)年8月16日の甲地−青森間のマイクロ回線開通によってTGがカラー放送のネット可能となり、1965(昭和40)年9月10日の甲地−青森間のマイクロ回線の線増と同時に、同区間の搬送ケーブルによるVSB方式運用も廃止になったという。
民放のカラー回線が仙台以北に延伸したのは1966(昭和41)年になるが、この時には甲地−平内−青森の高規格マイクロ回線も開通済みなので、青森放送(RAB)も北海道放送(HBC)や札幌テレビ放送(STV)と並んでカラー対応できた。
【新潟−酒田、秋田−青森間のマイクロウェーブ伝送回線開通は1967(昭和42)年】
当ブログではこれまで複数の資料から新潟−青森間の日本海側マイクロの開通を1967(昭和42)年だと推測していたが、「東北無線史」の103頁から、新潟−酒田間が1967(昭和42)年11月、それに次ぐ秋田−青森間の開通で東京−新潟−青森間が開通したのは1967(昭和42)年12月だと裏付けることができた。
参考までに、新潟−青森間の無線中継所は新潟−中条−温海−酒田−鳥海−道川−秋田−森山−十ノ瀬−黒森−青森となる。
当ブログではおなじみの地図かもしれない。
この地図のマイクロ回線網の体制で、翌1968(昭和43)年の十勝沖地震による甲地無線中継所の通信途絶に至るのである。
何度も同じことを言うのも気が引けるが、通信途絶の原因がパラボラずれだという事実は存在せず、キー局から札幌へテープ空輸が行われたというのも偽情報であることは言うまでもなかろう。「東北無線史」や「東北の電信電話 : 公社30周年」にも原因は発電機が台座からずれ落ちたことと、通信途絶時間は2時間であることが明記されている。
回線途絶の被害を受けた当事者であるHBCもSTVも社史にテープ空輸があったなどという記録が一切なく、日本放送出版協会(1967)「放送文化 23(7)」や八戸市(1969)「地震：'68十勝沖地震の記録」など複数の文献が「復旧が早かったため一応ことなきをえた」と記録しているのだ。
とはいえ電電公社としても十勝沖地震での通信途絶を教訓に、以後、伝送路の二重化など冗長性構築を施策していくことになるのは事実であり、東仙札幹線の甲地−近川−汐首に続く津軽海峡越えの区間も生まれていくことになる。
続きは次回で。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
・仙台無線通信部(1978)「東北無線史」
・電波監理委員会 編(1950)「日本無線史 第1巻」
・日本電信電話公社運用局管理課(1953)「電気通信業務研究 (47)」
・日本電信電話公社施設局 編(1959)「電気通信施設 11(10)」
・日本電信電話公社東北電気通信局(1964)「東北電信電話史資料 〔第10 第1〕」
・日本電信電話公社東北電気通信局編(1982)「東北の電信電話 公社30周年」
・日本電信電話公社二十五年史編集委員会(1978)「日本電信電話公社二十五年史 別巻」
・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
・日本放送協会(1969)「NHK年鑑'69」
・日本放送協会青森放送局(1993)「歳月 あおもりふれあいの五十年」
・日本放送出版協会(1967)「放送文化 23(7)」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
・八戸市(1969)「地震：'68十勝沖地震の記録」
・林新二(1957)「マイクロウェーブ通信方式」
・北海道電気通信局 編(1964)「北海道の電信電話史」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
・仙台無線通信部(1978)「東北無線史」
・電波監理委員会 編(1950)「日本無線史 第1巻」
・日本電信電話公社運用局管理課(1953)「電気通信業務研究 (47)」
・日本電信電話公社施設局 編(1959)「電気通信施設 11(10)」
・日本電信電話公社東北電気通信局(1964)「東北電信電話史資料 〔第10 第1〕」
・日本電信電話公社東北電気通信局編(1982)「東北の電信電話 公社30周年」
・日本電信電話公社二十五年史編集委員会(1978)「日本電信電話公社二十五年史 別巻」
・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
・日本放送協会(1969)「NHK年鑑'69」
・日本放送協会青森放送局(1993)「歳月 あおもりふれあいの五十年」
・日本放送出版協会(1967)「放送文化 23(7)」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
・八戸市(1969)「地震：'68十勝沖地震の記録」
・林新二(1957)「マイクロウェーブ通信方式」
・北海道電気通信局 編(1964)「北海道の電信電話史」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
←クリックでブログランキングに投票！
コメント