目次
・はじめに〜津軽の塔とは何か〜
津軽の塔の現況
旧電電公社・NTTマイクロウェーブ伝送回線とは
津軽の塔以前の青函間の電報・電話回線
・若き日の米澤滋の足跡(日本経済新聞「私の履歴書」から)
関東大震災を被災
有線派にも顔が利く無線波
電電公社発足 内紛と政治
マイクロウェーブ回線網の発達
殉職者の名を冠した有沢無線中継所
井戸水でブランデーの水割りを発明
・米澤滋総裁時代
十勝沖地震 甲地無線中継所電源途絶
沖縄へのマイクロ建設─記録映画「孤島に築く」
わずか1年の運用となった先島への白黒テレビ回線
「電電公社の天皇」
・津軽の塔の建設
建設の背景
津軽の塔以後のマイクロルート
記念して作られた開通の地碑
津軽の塔完成と時を同じく成功した光ファイバーケーブル伝送試験
記録映画「津軽の塔」と新沼謙治「津軽恋女」の不思議な縁
石崎無線中継所の終焉─平舘海峡大橋風況調査も木村守男が辞任
石崎無線中継所が2018年まで果たしてきた役目とは
米澤・秋草体制の終わりの始まり
米澤は都市一極集中を憂い、技術革新による国土分散を提唱していた
・はじめに〜津軽の塔とは何か〜
津軽の塔の現況
旧電電公社・NTTマイクロウェーブ伝送回線とは
津軽の塔以前の青函間の電報・電話回線
・若き日の米澤滋の足跡(日本経済新聞「私の履歴書」から)
関東大震災を被災
有線派にも顔が利く無線波
電電公社発足 内紛と政治
マイクロウェーブ回線網の発達
殉職者の名を冠した有沢無線中継所
井戸水でブランデーの水割りを発明
・米澤滋総裁時代
十勝沖地震 甲地無線中継所電源途絶
沖縄へのマイクロ建設─記録映画「孤島に築く」
わずか1年の運用となった先島への白黒テレビ回線
「電電公社の天皇」
・津軽の塔の建設
建設の背景
津軽の塔以後のマイクロルート
記念して作られた開通の地碑
津軽の塔完成と時を同じく成功した光ファイバーケーブル伝送試験
記録映画「津軽の塔」と新沼謙治「津軽恋女」の不思議な縁
石崎無線中継所の終焉─平舘海峡大橋風況調査も木村守男が辞任
石崎無線中継所が2018年まで果たしてきた役目とは
米澤・秋草体制の終わりの始まり
米澤は都市一極集中を憂い、技術革新による国土分散を提唱していた
・はじめに〜津軽の塔とは何か〜
津軽の塔の現況
「津軽の塔」という検索ワードでここへ来た方なら大体何のことかお察しだとは思うが、正式名称は石崎無線中継所という。日本電信電話公社(電電公社)によって1978(昭和53)年11月に竣工、その後の電電公社の民営化を経てNTT石崎無線中継所となり、無線施設としては2001(平成13)年6月まで運用されていた無線中継所のことである。
一般的に無線局の塔と言えば、東京タワーのような鉄塔や、市街地でも比較的よくみかける携帯電話の基地局の鉄塔をイメージする人も多かろう。あるいは、街中に聳えるNTTビルの鉄塔を思い浮かべる人もいるかもしれない。東京や大阪など超高層タワーが林立する大都市ならともかく、地方都市では今でも「わが町で一番高い建物はNTTの鉄塔」という所も数多く、鉄塔が街のランドマークの一つという景観を呈することもある。
石崎無線中継所は青森県東津軽郡外ヶ浜町平舘石崎に所在する。竣工当時は平成の大合併の前で、東津軽郡平舘村に誕生した塔ということになる。平舘村は津軽半島北東部に位置し、石崎は津軽海峡に面する漁村である。
取り壊し前の時点で石崎無線中継所の高さは89mあり、2024(令和6)年7月現在でも青森県内にこれより高い高層ビルは存在しなかった。県庁所在地・青森市のランドマーク的な建造物である青森県観光物産館アスパムの76mを凌ぐ巨大な無線塔が、津軽海峡に面する平舘村にあるということ自体が驚くべきことかもしれない。
とはいえ、無線塔としては89m程度なら全国的には珍しい高さではない。前述の東京タワーは300mを超え、東京スカイツリーに至っては津軽の塔の7倍の634mもある。にもかかわらず、石崎無線中継所が「津軽の塔」という特別な愛称をもって取り上げられるのは、その独特な形状によるものと言う他ないのではないか。
石崎無線中継所は写真2のように、正面や背面から見ると、平面の巨大な壁のような姿をしている。長方形の細長い平面から想像されるその姿は、遠方から見れば直方体のような立体形状を思い浮かべてしまうかもしれないが、側面からみると塔の下方は地面に向かって円弧を描きながら広がるスカートのような姿である。無線塔は鉄骨や金属柱で組み上げられた鉄塔に違いないという先入観で思い込んでいれば、鉄筋コンクリート造であるその姿自体が信じられないかもしれない。
世間一般の無線塔のイメージからは、とても似ても似つかない姿である。そして何より特筆すべきは周囲の漁村風景がミニチュア模型かと錯覚するような巨大な姿ではないだろうか。高層ビルなど全くない漁村に、四角いコンクリート無線塔が悠然とたたずんでいたのが平舘村石崎の景観なのである。
一般的な無線塔のイメージを覆すであろう石崎無線中継所は、電電公社やNTTが建設した無線中継所の中でも特別な存在であるに違いない。石崎無線中継所の対向局は、青森市の青森統制無線中継所(現NTT青森支店ビル)と北海道上磯郡上磯町(現北斗市)の渡島当別無線中継所であり、その前後にいくつもの無線中継所が駅伝の襷を繋ぐように東京と札幌を結んでいたが、国土地理院の地形図上で無線中継所の名前が記載されているのは石崎が唯一である。
学術的にも優れた建造物であることが認められ、竣工から2年後には、コンクリート工学協会賞(1980年度)も受賞している。歴代の受賞建築物をみると、東京都新都庁第一本庁舎建設工事(1991年度)、首都高速中央環状線大橋ジャンクション(2011年度)、東京オリンピック2020の国立競技場(2022年度)など錚々たる有名建築物やインフラ施設とともに石崎無線中継所の名が刻まれているのである。
この石崎無線中継所に魅せられた愛好家も少なくない(筆者もその一人であるが)。WEBサイト「電話局の写真館(https://denwakyoku.jp/ishizaki.html)」の管理人氏は、全国各地の電電公社やNTTの施設を紹介している中で、石崎無線中継所を「存在の全てが素晴らしい傑作電電遺産」と激賞している。
「Mr.Jのブログ」を運営するMr.J氏は、「番外編その2・石崎無線中継所（津軽の塔・石崎コンクリートタワー）(https://mrj501.blog.shinobi.jp/jnr-shf/bangai2)」の記事内で、「作りたくて作ったような気もします」という通りすがり氏のコメントに「コメントの通り作りたくて作ったのかもしれません」と返答しているが、私も彼らと同じように「電電公社が作りたくて作ったのかもしれない」と考えている。
残念ながら、石崎無線中継所は2023(令和5)年度から取り壊し工事が開始されており、間もなくこの世から姿を消す運命にある。WEBサイトやX(旧Twitter)の書き込みを見ていると、その取り壊しを惜しむ人も、一人や二人ではなく、2024年7月15日付の東奥日報紙面にも「『津軽の塔』解体進む」という記事が掲載され、平舘のシンボルの消滅を「寂しい」とする見出しが飾った。
国土地理院の地形図に名が載り、コンクリート工学協会賞を受賞し、愛好家から「傑作電電遺産」、「作りたくて作ったのでは」と評される石崎無線中継所─津軽の塔を、当ブログの電電公社マイクロネタシリーズの〆に取り上げてみたいと思う。
旧電電公社・NTTマイクロウェーブ伝送回線とは
石崎無線中継所という用語には、2通りの意味がある。一つは、本稿で取り上げて来た「津軽の塔」の愛称を持つ現・石崎無線中継所だが、1940(昭和15)年5月から1961(昭和36)年8月1日まで存在した超短波無線電話回線の無線局としての石崎無線中継所も存在する。本稿ではこれを初代石崎無線中継所と記したいが、こちらは超短波無線、すなわちVHF帯の無線回線だったのでマイクロウェーブ伝送回線には当たらない。
初代石崎無線中継所は、北海道電気通信局 編(1964)「北海道の電信電話史」によれば、「わが国のような島国の通信連絡には、従来は、海底線を布設しなければならなかったが、それには多額の費用を要し、いったん障害となった場合には修理に相当の期間を要した」ことを考慮し、津軽海峡を隔てた青森と函館を結ぶ無線電話回線の無線局として整備されたものである。
実験段階から初代石崎無線中継所に携わったのが、後に東海大学創設者となる松前重義と、電電公社総裁に登り詰める米澤滋である。米澤滋は後に日本経済新聞紙上の「私の履歴書」欄で石崎での出来事を述懐しており、1977(昭和52)年に日本経済新聞社から発行される「私の履歴書」に収録されている。米澤滋は後年、仏教への造詣を深めていくが、実験中に滞在した石崎で印象的な出来事もあったという。
超短波回線電話の開通式典では、遠藤後一札幌逓信局長と田倉八郎仙台逓信局長による祝いの俳句が記録に残されている。「波たたみ 津軽海峡 暖かし」と詠んだ遠藤後一は俳人・遠藤吾逸の本名である。無線工学の快挙というべき式典に、帝大法科卒業の逓信省の文官が俳句の応酬という華を添えたのは、我が国がアメリカに宣戦布告する1年7か月前の出来事であった。
敗戦後、我が国の無線電話回線は、GHQからの研究禁止命令や戦災で壊滅した有線回線の復活・台頭もあって一旦停滞の様相を見せる時期もあったが、マイクロウェーブ伝送回線に移行し、長距離通信の花形となっていく。
マイクロウェーブ伝送回線は超短波(VHF)や極超短波(UHF)よりさらに波長が短いSHF帯の電波を用いるため、伝送できる情報量が非常に大きい。現在われわれがスマホやタブレットで利用する5GHz 帯のWi-FiもSHFの電波である。電電公社はマイクロ回線の黎明期において4GHz帯の回線網を構築し、我が国では1954(昭和29)年4月に東京・名古屋・大阪間で開通した東名阪幹線が最初とされる。青森県にも、東京・仙台・札幌を結ぶマイクロウェーブ幹線─通称・東仙札幹線が1956(昭和31)年10月に開通した。
以後、本州と北海道を結ぶ無線電話回線はマイクロ回線が主力を担うことになる。初代石崎無線中継所の超短波回線の重要性は薄れ、1961(昭和36)年8月1日に回線区間の廃止と共に無線局としても廃止された。
初代石崎無線中継所はじめ超短波回線の無線局で働いていた無線技士は、マイクロ回線の無線局への配置転換となった者が多く、同じ青森県内の甲地統制無線中継所に転勤し、下北半島経由で北海道・亀田半島に渡るマイクロ東仙札幹線の運用に携わった者もいたという。
マイクロウェーブ伝送回線も当初は長距離電話回線としての性格を持っていたが、1953(昭和28)年にNHKと日本テレビ放送網がテレビ放送を開始し、間もなくテレビの全国放送実現のための中継回線としての性格を強めていく。通信興業新聞社が1962(昭和37)年に発行した「電電十年のあゆみ」は、巻頭に初代電電公社総裁の梶井剛による「発刊を祝って」や、当時総裁の大橋八郎による「推薦のことば」を記録しており、電電公社の10年史的な書籍といってよかろう。この「電電十年のあゆみ」で、後に技師長に登り詰める黒川広二が「NHKおよび民間放送会社の全国テレビジョンネットワークの要求を満たすには、同軸ケーブルでは工事に時間がかかり過ぎて間に合わず、マイクロ回線を作成するより方法がなかった」と解説していて、我が国のテレビ放送の普及と電電公社マイクロ回線は不可分の関係であることがわかる。
1959(昭和34)年4月10日の「皇太子ご成婚パレード」は電電公社マイクロ回線網の急速な整備によって、一部の県を除いて北海道から鹿児島まで全国ネットでの中継が達成された。引き続き、カラー放送に向けマイクロ回線の高規格化も行われ、1964(昭和39)年10月10日開幕の東京オリンピック1964は東京のほか札幌、名古屋、大阪、福岡など全国主要都市とその他一部地域で暫定規格ながらカラーで中継された。
以後も全国各地に電電公社マイクロウェーブ伝送回線網が張り巡らされていく過程で、「津軽の塔」の愛称で知られる石崎無線中継所も、新たな回線を繋ぐ無線中継所の一つとして、1978(昭和53)年に産声を上げるのである。
津軽の塔以前の青函間の電報・電話回線
無論、テレビネットワーク実現のための回線としての性格が強かったとはいえ、マイクロウェーブ伝送回線は長距離電話通信を担っていたのも事実である。石崎無線中継所の誕生前の本州・北海道間の電話や電信(電報)の経路もまとめておく。
当ブログで過去に作成した記事をご覧いただければと思うが、マイクロ東仙札幹線は下北半島の近川無線中継所(青森県むつ市)から亀田半島の汐首無線中継所(北海道亀田郡戸井町、現函館市)を結んだ。また、東仙札幹線に続き1968(昭和43)年に開通する青森・札幌間マイクロ回線は、津軽半島の蓬田無線中継所(東津軽郡蓬田村)から松前半島の知内無線中継所(上磯郡知内町)を結んだ。マイクロ回線以前の回線となると、超短波電話回線が初代石崎による青函間のほか、戦後1948(昭和23)年から1959(昭和34)年まで下北半島の釜臥無線中継所(むつ市)から北海道・日高の笹山無線中継所(静内郡静内町、現新ひだか町)を結ぶ回線が存在した。
さらに遡ると海底ケーブルによる有線通信となり、北海道電気通信局 編(1964)「北海道の電信電話史」163頁によれば、青函間の電話は1926(大正15)年4月24日に開通したのが最初である。この時に陸揚局が置かれたのも平舘村石崎である。どうも、NTTは石崎には逓信省時代からの縁があるようだ。
余談ながら、本州と北海道を結んだ電信回線(電報)となると1874(明治7)年まで遡ることになる。まだ江戸時代が終わって7年という時であった。
・若き日の米澤滋の足跡(日本経済新聞「私の履歴書」から)
関東大震災を被災
石崎に超短波電話回線、そしてやがて全国各地に広がるマイクロ回線網を築き上げた礎と言うべき存在として、本稿では米澤滋の人生に焦点を当てたい。米澤滋は津軽海峡で世界初の無線多重電話の実用化を発明した工学博士にして、電電公社史上最長となる3期12年に渡って総裁を務めあげた人物である。米澤滋はいくつかの自著も出版しているが、1960(昭和35)年出版の「對山荘雑記」(小壺天書房刊)と1977(昭和52)年出版の「私の履歴書」(日本経済新聞社刊)を基に、米澤滋の人生を紐解いていきたい。
米澤滋は、父の与三七が逓信省長野通信管理局に勤務していた1911(明治44)年2月1日に長野県で生誕した。滋自身も1960(昭和35)年“頃”、富山県下新川郡入善町の米澤元健町長から手紙が届くまで出身地は長野県としていた。“頃”という理由は後述するが、同年5月に米澤滋が電電公社技師長に就任した際、長野県出身と報じた新聞を見た入善町の米澤元健町長から“抗議調”の手紙を受け取っており、その要旨は、米澤与三七が入善町出身であり、電電公社技師長となった米澤滋も郷土の誇りだと思っているのに長野県出身とは「はなはだ遺憾至極」というもので、「私の履歴書」によれば、以来富山県出身としているという。米澤滋自身は長野で出生後、幼稚園時代を神戸市と大阪市で過ごし、小学校2年からは東京都育ちである。富山県で暮らしたことはない。「對山荘雑記」で米澤滋は唱歌「ふるさと」に掛けて、兎を追いかけたり小鮒を釣ったような故郷は無いとも記している。
しかし米澤滋も展墓のため、子供の頃は毎年父に連れられ入善を訪れていて、米澤家の菩提寺など自身のルーツに触れて来たらしい。幼稚園入園前に離れた長野県ではなく、出身地を富山県とすることは自然なことだったのかもしれない。米澤滋が富山県出身と名乗る契機となった入善町長の手紙より3か月ほど前、2月15日発行の「入善町報」に「郷土出身の名士に聞く」と題する米澤滋の寄稿がある。その中で米澤滋は、「富山県下にもいつか超短波ひいてはマイクロをひく時がくるのを夢見ていたが、遂に日本海を廻るマイクロ回線が富山県下を縦断することになった」とし、1958(昭和33)年の富山国体にマイクロ回線の建設が間に合い、県や富山市に嬉ばれたことが忘れ難いことだと、郷土の名士という立場で述懐している。入善町長から手紙を受け取る前から、どこか富山県出身を名乗る機会もあったのかもしれない。
米澤滋は旧制官立東京高校尋常科時代の1923(大正12)年9月1日に関東大震災を経験している。「私の履歴書」を執筆していた1977(昭和52)年時点でも「今でも、突き上げるような揺れははっきり記憶しており、その後、色々な地震にあっているが、あの時の揺れ方と比較して、これなら大したことは無い、とあまり動揺することはない」と語っている。1968(昭和43)年の十勝沖地震でマイクロ回線途絶という出来事を電電公社総裁として経験していても、関東大震災を乗り越えた米澤滋の述懐にはどこか余裕すらも感じる。
有線派にも顔が利く無線波
帝大電気工学科を卒業した米澤滋は、無装荷ケーブルで学会に旋風を起こしていた松前重義に憧れ、1933(昭和8)年、逓信省に入省する。当初は父の与三七が逓信省工務局長のため工務局に入れず電気試験所研究員として勤務していたが、入省2年目の1934(昭和9)年10月、工務局長が梶井剛に交代し工務局無線課調査係に異動となる。梶井剛は日本−朝鮮間の長距離海底電信ケーブルの開発で知られ、後に初代電電公社総裁となる人物である。
1935(昭和10)年4月、工務局無線課調査係主任の松前重義の下で無装荷ケーブルによる電話の新方式の開発と建設計画に取り組むことになり、逓信技師として最初の仕事が函館−青森間にあった電信ケーブルの通信特性を調べることであった。米澤滋は「私の履歴書」で、当時、トップレベルにあった有線の搬送技術に接することができ、その後の電話の大衆化に欠かせないマイクロウェーブの研究、実用化に大いに参考となったとしている。そしてこの有線の搬送技術─有線派に接したことが、やがて米澤滋が総裁へ登り詰めるにあたって追い風となる。
電電公社を痛烈に批判する郡司和夫が1981年に著した「電電公社・悪の構図」によれば、電電公社内には事務屋と技術屋の対立があったとされ、米澤滋は「私の履歴書」の中で逓信省内に有線派と無線派の対立もあったことを記録している。1972(昭和47)年の沖縄へのカラーテレビ回線工事を巡っても、「九州無線史」でマイクロ無線部長の川原田安夫が有線派と無線派の「激しい計画競争の時代」だったと述懐しており、逓信省から電電公社にかけて事務屋と技術屋、さらに技術屋の中で有線派と無線派の派閥対立があったようだ。
「私の履歴書」によれば当時の逓信省の主流は有線派で、不安定でしかも音質の悪い無線を使って、無線多重電話を作ろうという試みは全く無謀な考え方で、予算化自体に猛烈な反対があったというが、着手できたのは米澤滋自身が有線派でスタートしていればこそだろう。この平舘石崎での豪雪の中での実験は米澤滋にとって多くの印象的な出来事があったようで、1936(昭和11)年の二・二六事件の際は、石崎の海底ケーブル引揚庫から上司の松前重義に電話し東京の様子を聞いたという。また石崎に隣接する宇田で泊まった宿屋の、高さ一丈(約三メートル)もある黄金色の仏壇が忘れられないという。仏間で寝た人は決まって深夜うなされるという怪談めいた話が広がり、若き日の米澤滋も不気味に思っていたようだが、後年、米澤滋は仏教に傾倒し、この時の出来事を印象深く振り返ることとなる。面白いことに、宇田の仏壇の件は、米澤滋が49歳で著した「對山荘雑記」には出てこず、66歳で著した「私の履歴書」で露わとなる一節である。この間に仏教に対する思想の変化があったのだろうか。
ともあれ実験は無事に成功をおさめ、超短波多重電話回線を石崎−当別間に建設することが決まるが、完成直前の1940(昭和15)年2月、米澤滋は台北への出張中に航空機が尖閣諸島の魚釣島に不時着する事故に遭う。幸い九死に一生を得たが、後年「すっかり飛行機嫌いになってしまった」と振り返る出来事となる。私は、この時、米澤滋の身に万が一のことがあれば、後の電電公社総裁には別の人物が就任し、その後のマイクロ回線網は違った形になり、津軽の塔は生まれなかったかもしれないと考えている。
尖閣諸島からの生還から3ヶ月後、超短波多重電話回線が初代石崎無線中継所と当別無線中継所間で開通し、青函間の無線電話が開通した。この出来事は世界初の快挙とされ、札幌と仙台の両逓信局長が出席する記念式典が挙行された。俳人として知られる遠藤後一が華を添えたのは前述の通り。米澤滋は無線技術者として一躍名を上げるのである。
かくして、松前重義と梶井剛の下で有線派としてスタートし、石崎で世界初の超短波多重電話回線を開発した米澤滋は、有線派と無線派のどちらにも顔が利く逓信省内の貴重な人材という座を手にする。「私の履歴書」で米澤滋自身が「両者の間に立って、調整役を買って出ることもできた」と自負する言葉に嘘は無かろう。その後、米澤滋は津軽海峡に続いて宗谷海峡にも超短波多重電話回線を建設する実験に着手するが、こちらは猿払−女麗間の海底ケーブル敷設で決着し、無線派の連勝とはならなかった。戦中、米澤滋の周囲に明るい話題はあまりない。米澤滋は二男一女を儲けたが、疎開先で疫痢のために幼い長女を亡くしており、「私の履歴書」にも長女の死を悼み、今のような良い薬があればと、当時の科学技術の遅れを嘆く悲痛な一節もある。
敗戦を経て、我が国はGHQからインパルスやテレビジョンに関連する研究を禁止されてしまう。無線派の研究が停滞しそうなものだが、四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」によれば戦争で荒廃した有線の電信電話回線網に代わる国内幹線として、超短波や短波の拡充が行われ、無線派は戦後まもなくから有線復興まで、代替通信手段確保の使命を負い、忙しかったらしい。米澤滋は無線による電信・電話の復興に携わりながら、アメリカに派遣されAT&Tの技術に触れ研鑽を積む。
電電公社発足 内紛と政治
1952(昭和27)年8月1日、逓信省に代わって日本電信電話公社(電電公社)が発足すると、初代総裁には梶井剛が就任した。米澤滋にとっては父・与三七の後任工務局長にして、入省2年目で異動した工務局時代の上司である。梶井剛は発足したばかりの電電公社の経営を軌道に乗せた功労者だが、1958(昭和33)年頃から副総裁の靭勉や技師長の中尾徹夫との関係が悪化する。副総裁靭は逓信官僚出身の事務屋で、技術屋出身の総裁梶井を支えてきたが、末期は梶井が右を向けば靭は左を向き、梶井が左を向けば靭は右を向くというような状況であったと米澤滋は述懐している。電電公社トップの内紛がエスカレートする事態に、筆頭理事として米澤滋が自民党三役に面会し状況説明する場面があり、次期技師長は米澤とする新聞の憶測報道も出たという。結局、内紛は初代総裁梶井剛の辞任で幕を閉じるが、自民党三役と面会していた米澤滋の行動が二代目総裁となる大橋八郎の不興を買うことになってしまう。内紛当時、米澤滋は筆頭理事にして施設局長だったが、1958(昭和33)年9月27日に電気通信研究所長(通研所長)に転出した。
米澤滋が通研所長から電電公社に復帰するのは1960(昭和35)年である。「私の履歴書」によれば、その頃には人事発令をした寺尾豊郵政大臣も本当の事情を知っていたからだ、という書きぶりであるが、郡司和夫は「電電公社・悪の構図」で、米澤滋が有吉義弥や柴田達夫と縁戚という家柄にあったことを指摘している。有吉義弥は日本郵船社長を務めた人物で、三女が柴田達夫建設省事務次官の妻、四女が米澤滋の妻にあたる。電電公社内の有線派、無線派という垣根を超えた工学博士という稀有な存在にして、政治・人脈的な後ろ盾を持っていたことが米澤滋の早期復帰をもたらした可能性がある。
マイクロウェーブ回線網の発達
電電公社のマイクロウェーブ回線網の第1号は、東京−名古屋−大阪を結ぶ東名阪幹線の開通で、公式には1954(昭和29)年4月15日開通とする資料が多い。しかし実際には1953(昭和28)年度時点の電電公社の図面として東名阪を結ぶ4000Mc(Mc=メガサイクル。現在のMHzのこと)の回線が「日本電信電話公社二十五年史 別巻」に掲載されていることを当ブログの過去記事(電電公社・逓信省 超短波/極超短波方式電話回線図)で紹介している。私は、マイクロ波構想をぶち上げた正力松太郎への対抗と、テレビの全国中継を要求する民間放送への対応として、電電公社がマイクロ波の存在を急ぎアピールする狙いがあったのだろうと考えている。民放連は1961(昭和36)年発行の「民間放送十年史」で、電電公社にはマイクロ回線網の「計画らしい計画もなかった」と批判し、前述の通り1962年刊行「電電十年のあゆみ」で黒川広二が、テレビの全国中継網の構築には電電公社の同軸方式では時間的に間に合わないのでマイクロになったと「同軸・マイクロ論争」の“決着”について言及している。民放連の記録に電電公社のマイクロは「計画らしい計画もなかった」とみえたのは、有線派の梶井剛が総裁として君臨していたからだろうか。「民間放送十年史」は海外旅行中の梶井剛総裁が正力マイクロ構想でハッパをかけられたという、若干の悪意を感じる論調であるが、同じ83頁に「二月中旬には電電公社の東京 大阪間のマイクロ施設二回線が完成した」と、1953(昭和28)年度内に4000Mc回線が存在したことの証左も記録されている。電電公社は民放連に求められ急造した4000Mc回線を「昭28」の回線網として図面に残したのであろう。
テレビ側からの要請や正力マイクロ構想を受け、電電公社の有線派と無線派による「同軸・マイクロ論争」が決着し進んだマイクロ東名阪幹線に際し、米澤滋がどの程度関与していたかは明らかではない。私はむしろ、この時期の米澤滋はマイクロ回線網の構築にあまり関与できていないのではないかとさえ思う。米澤滋は東名阪幹線に着工した1953(昭和28)年度には電電公社理事・保全局長となっていて、この時期の大きなテーマは、終戦直後から「質より量」で進められてきた電信電話回線の復旧の反省で、電話機や回線の品質向上に取り組んでいたと「私の履歴書」に記載がある。先の「入善町報」にある富山県下にマイクロ波をという記述についても、富山国体があった昭和33(1958)年といえば梶井総裁末期の電電公社トップ内紛期で、米澤滋は筆頭理事として自民党三役と折衝していた頃で、そして大橋新総裁に通研に転出させられる年である。どうもマイクロ東名阪幹線や、それに続いて整備される東金阪幹線などのマイクロ網の建設に米澤滋が携わっていた具体的な様子は見えない。
殉職者の名を冠した有沢無線中継所
黎明期の電電公社マイクロ網に米澤滋の足跡はあまり感じられない一方、悲劇的な事故が四国で発生する。1956(昭和31)年6月30日、高知県香美郡槙山村(物部村を経て現香美市)で、徳島−高知のマイクロルート調査のためトラックに乗車していた有沢一郎高知通信部長が山道から80m下の谷川に転落し死亡する事故が起きたのである。事故からほぼ2年後の1958(昭和33)年6月29日に徳島−高知間マイクロルートが開通するが、雲辺寺無線中継所と高知統制無線中継所間には所在地名の松尾ではなく、「有沢」を冠する無線中継所が完成した。「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」によれば、有沢一郎高知通信部長の生前の業績を後世に伝えるための命名だという。安全管理体制が向上し、殉職者の発生自体が少ない現在の価値観で推し量るのは難しいが、当時は殉職者の名前を公的施設に命名し後世に残そうという風土があり、社会もそれを容認する時代だったのである。徳島−高知間マイクロ開通の翌日、有沢一郎部長の三周忌にあたる1958(昭和31)年6月30日、事故現場と有沢無線中継所、高知電話局の3カ所に顕徳碑を建て、除幕式が盛大に行われたという。
井戸水でブランデーの水割りを発明
米澤滋は1960(昭和35)年の公社復帰と技師長就任から2年後、1962(昭和37)年9月には横田信夫と交代する形で副総裁となる。技師長時代は電話や電報の交換機自動化、技術職の待遇改善に取り組み、副総裁となってからは労使交渉の担当に苦心した。深夜に及ぶ全電通労組との労使交渉は米澤滋にとって、不眠をもたらす程のストレスであったらしい。「私の履歴書」で米澤滋は、この頃にブランデーの水割りを「発明(?)」したと述べている。水道水ではカルキ臭いので、転居した際に非常用に掘った井戸水を汲み上げてブランデーを割り、就寝前の神経をほぐすことを愛したという。米澤滋の邸宅住所は明らかにしないが、東京23区内でも清冽な地下水が湧き出るとされる地区である。非常用の井戸を掘ったというのが関東大震災を経験した米澤滋らしいと思うが、「私の履歴書」執筆中の時点で管轄保健所からは「飲まない方が良い」という判定を受けており、都市化の進行とともに悪化する環境を憂い、あと何年井戸を使えるか懸念している。
副総裁就任からおよそ2年半、大橋八郎が総裁を辞任するのを受け、米澤滋は昭和40(1965)年4月21日、総裁に就任した。54歳での総裁就任は電電公社史上最年少記録であり、NTT民営化で電電公社が消滅するまで破られることはなかった。
・米澤滋総裁時代
十勝沖地震 甲地無線中継所電源途絶
かくして米澤滋は電電公社総裁の座を掴んだ。大橋前総裁時代からの労使紛争の対応は総裁就任後も続いており、組合側のマンモス訴訟やパルチザン戦術に腐心した。合理化のため電電公社内の施設の少人数化、配置転換、無人化などが進められる時期であり、職員側の反発も大きかった。青森県の電電公社各施設においても同様であり、2009年3月30日付東奥日報「連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ８／震災を越えて（下）／ケーブル工事３年がかり」によれば、八戸局では当時、電報部門などの合理化も進められ労使関係がぎくしゃくしていた中で、1968(昭和43)年5月16日の十勝沖地震後の復旧に懸命に当たったという。
1968(昭和43)年十勝沖地震では、青森県上北郡東北町の甲地無線中継所でマイクロウェーブ伝送回線の途絶が発生し、本州と北海道の間で長距離市外電話やテレビの中継回線が途絶し、これが大問題となる。福岡無線通信部が1984(昭和59)年に発行した「九州無線史」で、無線部門担当調査役の室谷正芳は「札幌が地震で全滅した、などというデマが飛ぶほど、大きな社会問題となった」と振り返っている。
実際のところは地震の強い揺れのため東北電力の配送電網が停電となり、さらに非常用自家発電機も台座からずり落ちたことで排気ダクトが外れ排熱ができず、発電機が非常停止し無線機も電源喪失で停止し、通信途絶に至ったものである。しかしパラボラアンテナのズレで電波が送受信できなくなったとか、北海道の放送局にテープ空輸大作戦が行われたなどの誤情報を未だに信じる人がいることが嘆かわしい。当時北海道と青森に存在したNHK札幌放送局、北海道放送(HBC)、札幌テレビ放送(STV)、NHK青森放送局、青森放送(RAB)のいずれの社史にもテープ空輸の記録は無いし(テープ空輸は事実でないのだから当然である)、日本放送出版協会が1968(昭和43)年に発行した「放送文化23(7)」や、八戸市が1969(昭和44)年に発行した「地震：’68十勝沖地震の記録」の記述から、テープ空輸は計画されたが実際は電電公社の懸命の作業でマイクロ回線の復旧が早かったためことなきを得たというのが真相である。電電公社内の労使紛争でぎくしゃくした中でも、青森県内の職員たちが懸命の復旧に当たったというのが事実である(1968年十勝沖地震 北海道と青森の局がテープ空輸で放送は無かった！)。
ともあれ、十勝沖地震による3時間前後の通信途絶で、札幌が全滅というデマが流れ、後に出版物で誤情報を流布する者(岡村黎明著「テレビは変わる」マイクロ波記述への指摘)まで現れる始末である。社会を相当な混乱に陥らせた事実には変わりなく、小林武治郵政大臣が米澤滋を呼び出し、相当にお叱りになったということが同年5月21日の参院逓信委員会第18号に記録されている。かつて、石崎−当別間に超短波多重無線電話回線を実現させた米澤滋は、津軽海峡を越えるマイクロ回線が東仙札幹線(甲地−近川−汐首)の1本しかないことを電電公社総裁としてどう思ったのだろうか。地震から35年後の2003(平成15)年7月26日付の朝日新聞東京地方版は「『津軽の塔』(あおもり不思議ツアー:29)/青森」と題した記事で石崎無線中継所に触れ「十勝沖地震で、当時使われていた県内の無線中継所が壊れ、石崎に再び脚光が当たったのだ。」と書いた。十勝沖地震がきっかけで石崎無線中継所が生まれたという朝日新聞の記事の趣旨は正確ではないが(嘘とも言えないが)、米澤滋も十勝沖地震のあと、石崎を思い浮かべた可能性は否定できない。
電電公社が1978(昭和53)年に発行した「日本電信電話公社二十五年史 中巻」によれば、十勝沖地震後の対策として企図されたのは、既設海底ケーブルへ短距離搬送方式を適用し電話回線の増設を図ることと、本州−北海道間2ルート化の一環として進めて来た青森−札幌間マイクロ回線の完成時期を前倒しし1968(昭和43)年9月に供用開始することなどである。青森−札幌間マイクロ回線は過去に当ブログが記事化した通り、津軽半島から松前半島に渡るルートではあるが、青森−蓬田−知内−鶉経由で札幌に至る経路であり、津軽の塔─石崎無線中継所とは無関係である。
下北半島から亀田半島に渡る東仙札幹線と、津軽半島から松前半島に渡る青森−札幌間回線の2ルート化が図られた後も、電電公社は経路多重化で回線冗長化を進め、青森県内のマイクロ回線網は複雑に変容していく。隣県の秋田や岩手は県内を南北に縦断する区間に一部経路の多重化がある程度だが、青森県は分岐点や経由する無線中継所の新設、経路変更などが度々発生しており、北海道に渡る手前の地理的拠点性を背景に電電公社は重点的に無線中継所や新経路を構築していった。これを、世界初の超短波多重無線電話開通の地である青森に対する米澤滋総裁の影響だと言い切る根拠はないが、北日本ループ回線の完成後、1971(昭和46)年に青森統制無線中継所(現NTT青森支店)に超短波多重通信回線開通記念碑が建立され、総裁として米澤滋が青森市を来訪し、記念式典に出席した記録が仙台無線通信部(1978)「東北無線史」に残されている。米澤滋総裁や彼を慕う電電公社の無線派にとって青森が記念すべきゆかりの地であることは間違いないのだろう。
沖縄へのマイクロ建設─記録映画「孤島に築く」
十勝沖地震後の青函圏のマイクロ回線建設に米澤滋の影響がどの程度だったのか直接的な根拠は見つけられていないが、米澤滋の意向が関与したことが明らかなのは1972(昭和47)年に日本に復帰した沖縄へのカラー放送方式のマイクロ回線建設である。
アメリカ占領下の沖縄には日本電信電話公社と琉球電信電話公社によって、白黒方式のマイクロ回線が1964(昭和39)年に開通していた。東京オリンピック1964に間に合わせるための措置で、当時の首相・池田勇人は「これでオリンピックも沖縄でみられます。これは本土からのなによりの贈り物だと思います」と祝辞を述べている。ところが東京オリンピック1964時点でも主要都市ではカラー放送も実施されているし、その後は青森や鹿児島など全国各地にもカラー放送が普及した。沖縄のみがカラー放送の同時ネットが叶わない状況が続いたのである。
この背景には、鹿児島−那覇間のマイクロ回線の伝搬方式がOH(Over Horizon)方式─すなわち山岳回折伝搬(回折点は中之島、徳之島)による見通し外伝搬であり、カラー放送での品質規格に耐えられないという日本電電公社の判断があった。琉球電電公社は多少画質が悪くても良いから鹿児島以南にもカラー放送を、と要望したこともあったという。状況が一変したのは1971(昭和46)年、沖縄の日本復帰が決まり、佐藤栄作首相が復帰までにカラー回線を沖縄にという指示を電電公社に下したことによる。
この経緯は「九州無線史」が詳しい。同書に寄稿された川原田安夫マイクロ無線部長の述懐によれば、“有線派”の電電公社の高官が川原田の元を訪れ「無線屋の諸君は、沖縄にLSで回線をつくれると盛んに言っているが、本当かね。この区間は海底同軸ケーブルでなければ無理だ」と話したことがあるという。恐らくこの時、有線派は海底同軸ケーブル方式で沖縄復帰にカラーテレビ放送を実現し、マイクロ─無線派に押されていた立場の再逆転を夢見たに違いない。しかし電電公社総裁の米澤滋は佐藤栄作首相にLS(Line of Sight)方式──見通し内通信方式のマイクロウェーブ伝送方式でなければ沖縄でのカラーテレビ回線は実現不可だと言明するのである。川原田安夫マイクロ無線部長は「沖縄の日本復帰時までに費用はいくらかかってもよいから突貫工事でこのルートを完成させよ」と総裁命令が下ったとし、南西諸島の島々を繋ぐようにマイクロ回線網が完成したのである。OH方式の白黒回線の回線経路は九州本土−中之島−奄美大島−徳之島−沖縄本島だったのが、米澤滋が総裁命令を下したLS方式は九州本土−屋久島−悪石島−奄美大島−徳之島−沖永良部島−沖縄本島と経由する島の数も増え、九州本土や沖縄本島内の無線中継所も新設され増加した。なお、このカラー回線建設に際して電電公社は記録映画「孤島に築く」も制作していて、後日幹部会議で上映した際に「電電公社の作成らしくない良い映画だ」と妙なほめられ方をしたと川原田は述懐している。
わずか1年の運用となった先島への白黒テレビ回線
沖縄本島のカラー回線までなら、1950年代の民放連のテレビ全国中継回線整備要請に対し「有線では間に合わない」ことを理由にマイクロになったという往年の黒川広二技師長の説明のように「マイクロでなければ復帰に間に合わなかった」という説もまだ当てはめることも出来たかもしれない。
不可解なのは、沖縄本島からさらに先島諸島に延伸された白黒のOH方式回線の存在である。
沖縄本島−宮古島間は280kmもの絶海の区間で、途中に山岳回折が期待できる島もないため出力2kWの対流圏散乱伝搬方式による白黒テレビのマイクロ回線を通すことになり、1975(昭和50)年7月15日にNHK用回線が供用された。そしてわずか1年5か月後の1976(昭和51)年12月22日、豊見城−平良間に海底同軸ケーブルが開通し先島のテレビ回線はカラー化するのである。海底同軸ケーブル移行後、沖縄本島−宮古島間のOH方式マイクロ回線は長距離電話回線用に転用されたとはいうものの、テレビ回線としてはわずか1年の運用のために電電公社がマイクロ回線を新設したのである。川原田安夫自身が「九州無線史」で、同軸かマイクロかいずれか一つをやる激しい計画競争の時代だったと振り返る中、技術的に優れた海底同軸ケーブルによるカラー回線工事と、たった1年の使用となる白黒のマイクロ回線の工事が両立されたというのが腑に落ちない。
無論、一日でも早くテレビの同時ネットが実現して欲しいという先島諸島民の要望も理解できるが、1年後にカラー回線の同軸ケーブルが来るのに、対流圏散乱伝搬方式という珍しい方法でまで実現した白黒テレビのマイクロ回線は、冒頭の津軽の塔ではないが「作りたくて作ったのではないか」と思いたくなる。
「電電公社の天皇」
米澤滋が電電公社総裁を退任するのは1976(昭和51)年度、年が明けて1977(昭和52)年1月である。対流圏散乱伝搬方式による先島への白黒回線建設は米澤滋の総裁退任1年度前で、カラーの同軸ケーブルが先島に開通したのは退任1か月前の出来事であった。
電電公社内には前身の逓信省以来の派閥対立があったのは前述の通りである。マイクロにこだわった米澤滋総裁率いる“無線派”に押された有線派や、事務屋の派閥はどのように米澤総裁体制をみていたのだろう。事務屋のトップにいた秋草篤二は、米澤滋が総裁を務めた3期12年に渡って女房役として副総裁を務め、米澤滋の跡を継いで第4代総裁になるので互いの信頼も厚かったのではないかと考えているが、任期末期に不祥事で退任に追い込まれてしまう。今のところ「電電公社・悪の構図」の郡司和夫の文章でしか見たことはない表現だが、米澤滋を電電公社の「天皇」と呼ぶ者もいたらしい。「○○の天皇」といえば、電電公社と同じ公営企業たる国鉄から発足した東海旅客鉄道で「JR東海の天皇」と呼ばれた葛西敬之や、政界にも強い影響力を持つ経団連会長を「財界天皇」と呼ぶ例、山形新聞社長にして県内で「山形の天皇」と呼ばれた服部敬雄などを思い出すが、いずれも強い権力を持つ者を揶揄する表現であり、米澤滋を好ましく思っていない者もいたのであろう。1977(昭和52年)度時点で電電公社は職員数325,507人という巨大組織ゆえ、その頂点たる総裁の権力は常人には想像し難く、またそれに反発する思想を持った職員がいても不思議ではないだろう。
・津軽の塔の建設
建設の背景
津軽の塔−石崎無線中継所は1977(昭和52)年3月31日着工、1978(昭和53)年11月30日完成した。着工日が米澤滋の総裁退任から約2か月後であるので、事前の調査・計画立案や予算申請、稟議決裁などは米澤滋総裁下で行われたものだろうと推測する。
ちょうど日本電信電話公社東北電気通信局(1982)「東北の電信電話：公社30周年」や仙台無線通信部(1978)「東北無線史」が刊行された時期に近いのだが、両誌とも石崎無線中継所の建設についての記載はほぼ無いに等しい。お隣北海道の電電公社札幌無線通信部と民営化後のNTT札幌無線支社が発行した「北海道無線史」(1979年)と「北海道無線史・続」(1985年)も同様で、マイクロウェーブ伝送経路の確認には使えるが、工事史としては札幌、仙台両管内とも対外的な資料を多く残さなかったのかもしれない。私が資料を探して発見した限りにおいては、日本電信電話公社施設局 編(1978)「電気通信施設 30(12)」に、望月一郎・電電公社建築局特殊建築工事事務所調査役が寄稿した「樽前・石崎コンクリートタワー」の記事が最も精度の高い石崎無線中継所の工事記録かと思うので、同書をもとに建設の背景など詳細を紐解いていきたい。
電電公社のマイクロ回線の無線塔は鉄塔が主であったが、1974(昭和49)年に横浜市に建設された仏向無線中継所を皮切りにコンクリート無線塔の建設が行われるようになった。1975(昭和50)年12月発行の「電気通信施設 27(12)」の「横浜仏向無線中継所コンクリートタワーの施工」によれば、都市郊外や公園内などの環境に素直に融和できるよう、テクスチャーに暖かさや柔らかさがあり親しみやすいコンクリートタワーを建設するようになったとされる。仏向無線中継所に続いて建設されたコンクリート無線塔が樽前無線中継所(北海道苫小牧市)と石崎無線中継所の2カ所で、東京・仙台・札幌を結ぶ東仙札幹線第2ルートを構成する無線中継所となった。
望月一郎は「電気通信施設 30(12)」の「樽前・石崎コンクリートタワー」で、社会的要請に基づく伝送路増強からアンテナ搭載量も大幅に増加している機能的な背景を挙げた上で、市民意識の高揚に伴い、厳しい法規制の下に自然環境の保全問題と対決するためには、地域社会への調和に重点をおき、その環境を一層向上させる必要があったと指摘しており、石崎無線中継所も従来の鉄塔ではなくコンクリート無線塔として造られたことを説明している。建設工事を担当した清水建設も1984年に発行した社史「清水建設百八十年」で石崎無線中継所の建設背景に触れており、同書255頁によれば「同地域の市外通話の増加に対応し、かつ地震などの非常事態に備えて本州と北海道の間の連絡ルートを確保するために建設された。(中略)対候性・耐震性などの面から従来の鉄塔に替え鉄筋コンクリート造りとなった。」とあり、齟齬は無い。
望月一郎は同書で、「(2)設計意図および成果」として、石崎の四角い形状になった経緯を以下のようにまとめているので引用する。
石崎のコンクリートタワーは樽前と異なり、固有の設計条件による特殊解といえる。つまりスタンスの比較的小さい、機械室を塔内に取り込んだ長方形平面のこのようなコンクリートタワーを設計した意図は下記のとおりである。
(A) 遊休地を有効に利用した。つまり周辺隣地は無番地の土地や公図のない土地が多く、敷地買収に日時がかかり買収が困難であった。また対局である青森、当別への電波伝搬方向がおおよそ一直線上に向いており、かつ海上伝搬上SDアンテナが必要でその整備取替スペースを含めると、平面的に2本分の鉄塔が並ぶ状態となり、とても通常の鉄塔スタンスでは社有地内に収まらなかった。
(B) 国定公園特別地域内という自然環境を特に考慮し、造形として優れたものを建設する。
(C) 寒冷地における無線保全業務の改善を図った。
(D) 海岸近接地の鋼材の塩害を避ける。
(A) 遊休地を有効に利用した。つまり周辺隣地は無番地の土地や公図のない土地が多く、敷地買収に日時がかかり買収が困難であった。また対局である青森、当別への電波伝搬方向がおおよそ一直線上に向いており、かつ海上伝搬上SDアンテナが必要でその整備取替スペースを含めると、平面的に2本分の鉄塔が並ぶ状態となり、とても通常の鉄塔スタンスでは社有地内に収まらなかった。
(B) 国定公園特別地域内という自然環境を特に考慮し、造形として優れたものを建設する。
(C) 寒冷地における無線保全業務の改善を図った。
(D) 海岸近接地の鋼材の塩害を避ける。
これが、石崎無線中継所が四角い平面状の建造物として竣工するに至った経緯の、電電公社の公式見解であろう。
津軽の塔以後のマイクロルート
津軽の塔─石崎無線中継所や樽前無線中継所などによって、東仙札幹線第2ルートが誕生した。従来の東仙札幹線が下北半島から亀田半島に渡るルートであったが、東仙札第2ルートは津軽半島から松前半島に渡るルートで、十勝沖地震後に開通した青森−札幌マイクロルートと近い経路で津軽海峡を渡っている。北海道に渡った後は函館から噴火湾を越え、室蘭、樽前から苫小牧経由で札幌へ向かう経路を採り、北海道では東仙札幹線に並行する新線という位置関係に見える。一方で本州側は、東仙札幹線が仙台から八戸まで岩手内陸を経由するのに対し、東仙札第2ルートは三陸沿岸を経由して八戸で東仙札幹線と交差、八戸からは八甲田を越える新ルートで青森に至り、石崎から北海道へ繋ぐ形を採っている。
当時のマイクロルートについては「北海道無線史・続」と「東北の電信電話：公社30周年」に記載があるのでまとめることが出来たが、電電公社やNTTが作成した図面を私はまだ見つけることが出来ていない。電電公社が1978年に発行した「日本電信電話公社二十五年史」の時点で、別巻に付録したマイクロウェーブ伝送回線図から無線中継所の名称や距離、標高などの詳細情報は秘匿され始めているし、1990年代に入るとマイクロ回線が伝送するテレビ中継回線を傍受し東京のキー局の放送を見る者が現れ始め、NTTはマイクロウェーブ伝送路を対外的に公表しなくなるので、存在しても一般人が到達するのが難しい資料だろう。
石崎無線中継所の対向局は、東京方が青森市の青森統制無線中継所(現NTT東日本青森支店ビル)、札幌方は北海道上磯郡上磯町(現北斗市)の渡島当別無線中継所であった。2024年7月時点では青森と渡島当別の双方とも現存しているが、マイクロウェーブ伝送回線の空中線は鉄塔から撤去済である。
青森県内関係では、八甲田山中に所在した滝の沢無線中継所は鉄塔が現存し、青森市内からも遠望出来る。十和田八幡平国立公園の指定区域を外れ、青森市と南部地方の双方に通信可能な絶妙な位置にある。上北郡東北町に所在した乙供無線中継所は鉄塔撤去済で、建屋のみ現存しているものの取付道路が濃密な笹藪状態なことから、既に機能停止状態と推測している。八戸市の八戸統制無線中継所(旧NTT東日本八戸支店ビル)と、三戸郡階上町の岩手県境に位置する階上無線中継所は鉄塔が現存するが、NTT東日本八戸支店は組織上廃止されており、階上無線中継所も中継所建物は取り壊されている。八戸、階上とも立派なマイクロ鉄塔に小さなNTTドコモの基地局アンテナが搭載されているという外観である。
記念して作られた開通の地碑
米澤滋総裁の任期中に計画立案されたと思われる津軽の塔−石崎無線中継所だが、米澤滋の意向が建設に強く反映されているのかどうか、知る術は見つからない。しかし、1940(昭和15)年に米澤滋が発明した超短波多重無線電話回線という快挙を、石崎無線中継所の完成に関連付けたらしいことは資料から読み取れる。望月一郎の「樽前・石崎コンクリートタワー」の “５ その他”に於いて、「石崎無線中継所の地は、超短波多重通信方式の実験が米澤前総裁等の手で成功した記念すべき場所であり、新無線塔の完成に際し記念碑を計画した」と明記されているのである。望月の文書では「計画した」とあるのみだが、実際に現地には「超短波多重通信回線開通の地」の石碑が存在する。平舘石崎に現存する碑文を引用する。
のとは世界のどの国でも考えていなかった頃に、北海道当別と
の間で電話３回線の多重通信方式の実験に成功し、引続き昭和
１５年には超短波による６回線方式を世界にさきがけて実用化
したゆかりの地です。その技術は、１波で 3600 回線もの電話
を同時に送ることができる今日のマイクロ波通信技術の基礎と
なっております。石崎無線中継所・石崎無線中継所・津軽の塔
昭和５３年９月 新無線塔の完成を記念して
日本電信電話公社
前述の通り、超短波多重電話回線の発明を讃える記念碑は、津軽の塔の誕生の7年前の1971(昭和46)年に青森統制無線中継所(現NTT東日本青森支店ビル)敷地に建立済みで、米澤滋総裁自ら除幕式に出席した記録が「東北無線史」にある。記念碑が既にあるのに石崎無線中継所の建設に際しまた作ったというのは、米澤滋総裁の意向だったのか、あるいは米澤滋を慕う電電公社“無線派”の忖度か、知る由もないが、いずれにせよ米澤滋の偉業と関連付けたかったのだろう。
ここで思い出してほしいのは、不幸な事故で殉職した有沢一郎高知無線通信部長の生前の業績を後世に伝えるため、所在地名の松尾ではなく有沢無線中継所と名付けた前例である。我が国にマイクロウェーブ伝送回線網が整備され始めた1950年代後半から1960年代前半にかけ、米澤滋は電話機や回線の品質向上、電電公社トップ内紛期における自民党三役との折衝、電気通信研究所長への転出、電話や電報の交換機自動化、技術職の待遇改善、労使交渉などに取り組んでいたとされ、マイクロウェーブ伝送回線に直接的に携わった形跡が薄いのである。米澤の名前を無線中継所に命名することは無理でも、せめて石崎無線中継所の建設に関連して偉業を讃えることを企図したのではないかと私は考えるのである。
郡司和夫の著書から電電公社の天皇という呼び名も紹介したが、反対に米澤滋を強く支持するような職員の記録もある。津軽の塔の完成から6年後の1984(昭和59)年に政策時報社が発行した「電電公社 : その人と組織 昭和60年版」455頁に掲載された福井昭一・仙台市外電話局長の自己紹介文は、「天空高くそびえる電電公社の四角なコンクリートタワー、“津軽の塔”と愛称され、地元民からこよなく愛されているが、その地元が私の郷里、平舘村。後の米沢総裁が訪れ、超短波多重電話を世界に先がけて成功させた「ゆかり」の地でもある」、とある。総裁退任から7年経った米澤の名を挙げ、郷土の誉れと言わんばかりであるが、見方によっては、電電公社史上初めて外部(石川島播磨重工業)から就任した総裁にしてNTT初代社長となる真藤恒を刺激しないギリギリのラインを攻めている表現のようにも感じる。
津軽の塔完成と時を同じく成功した光ファイバーケーブル伝送試験
米澤滋は「私の履歴書」において、電電公社の通信網を交通になぞらえて、マイクロウェーブ伝送回線を情報の「ハイウェー」だと評している。東京から津軽海峡を渡って札幌に至る幹線を、東北自動車道や道央自動車道のように21世紀の今日でも自動車交通の大動脈として供用される高速道路のような存在に思っていたのだろう。通信機械工業会が発行する雑誌「通信工業」の1977年1月号の年頭のあいさつで、総裁退任直前の米澤滋は超LSIや光ファイバー伝送の発展にも期待を込めていることからマイクロ一辺倒ではないにせよ、飛行機や新幹線と高速道路が両立するように、マイクロ回線網も永く続くものだと無線派も同じように考えていたのかもしれない。
日本電信電話公社の最後の社史は、民営化されNTTが発足した翌年1986年の「日本電信電話公社社史(昭52.4〜60.3) 経営形態変更までの八年の歩み」である。同書巻末の年表欄の44頁、「昭53年(1978)9月」の欄には「マイクロ無線用コンクリートタワー(樽前・石崎)完成(石崎局については55年度コンクリート工学協会賞受賞)」という短い文章が慎ましくも誇らしげに記載されている。
そして同じ「昭53年(1978)9月」欄の隣にあるのは、「唐ヶ崎局−浜町局間の約20kmの区間で光ファイバーケーブル伝送方式の総合伝送試験に成功」の一文である。
無線派が米澤滋の偉業を讃える記念碑を建てた石崎無線中継所の誕生と時を同じくし、有線派は後にマイクロウェーブ伝送回線から“ハイウェー”の座を奪取する光ファイバーケーブルの伝送試験を成功させていたのであった。
記録映画「津軽の塔」と新沼謙治「津軽恋女」の不思議な縁
津軽の塔−石崎無線中継所の形状が特殊なのは、望月一郎によれば、遊休地の有効利用、対通常の鉄塔スタンスでは社有地内に収まらなかったこと、国定公園特別地域内に造形として優れたものを建設する必要があったこと、寒冷地における無線保全業務改善、海岸近接地の鋼材の塩害対策などになる。
一方で、既に記念碑が青森統制無線中継所敷地に存在し記念式典に米澤滋総裁が出席した事実がありながらも石崎無線中継所の敷地に新たに記念碑を建立したこと、高知の有沢無線中継所のように功労者(殉職者)の名前を無線中継所に冠することで後世に業績を伝えようという社内風土が電電公社に存在したことから、マイクロウェーブ伝送回線の礎とも言うべき超短波多重無線電話回線を発明した米澤滋総裁の功績を残すために、石崎無線中継所─津軽の塔を他に例のない特殊な形状にしたのではないかと思うのである。
望月一郎が説明した理由は建前で、本音は米澤滋の功績を後世に伝えるための記念碑的な形状に電電公社が作りたくて作ったのではないか、というのが私の予測である。
佐藤栄作首相から沖縄へのカラーテレビ回線整備要請を受け、米澤滋が総裁命令を下しLS方式のマイクロウェーブ回線を構築した際、記録映画「孤島に築く」が制作されたのと同じように、石崎無線中継所の建設に際しても記録映画「鉄筋コンクリート造無線塔の建設 津軽の塔 石崎無線中継所」が制作されている。電電公社の無線派にとって石崎無線中継所の建設は、沖縄復帰のカラーテレビ回線建設と同格のような扱いであったのだろう。
同じ記録映画でも「孤島に築く」と異なるのは、「津軽の塔」という主題歌の楽曲制作まで行われていることである。作詞は映画の脚本・演出を務めた永井俊一、作曲して唄ったのは牛車茂とクレジットされているが、同映画を鑑賞したことがある人は新沼謙治の大ヒット曲「津軽恋女」に瓜二つのことに驚くだろう。作曲した牛車茂という人物は、日本テレビ放送網の「スター誕生！」から1973年にデビューした男性デュオ「鷲と鷹」メンバーの小林茂のことであり、新沼謙治の「津軽恋女」の作曲家として知られる大倉百人のことである。1999(平成11)年1月17日付の宮城県紙・河北新報の記事「うたの風景／津軽恋女（津軽）／「七つの雪」の叙情 今もなお心解かす」が詳しく、「本州最北端の津軽半島で鉄塔工事に取り組む電電公社(現NTT)職員の姿を描いたPRフィルムの音楽を担当したのが当時20代の大倉さんだった。」という。牛車茂として1978(昭和53)年に作曲した「津軽の塔」は本人もすっかり忘れていたというが、1986(昭和61)年暮れに大倉百人としてレコード会社に売り込み認められ、1987(昭和62)年2月21日に新沼謙治の「津軽恋女」として発売されるに至ったのだという。「津軽の塔」と「津軽恋女」で歌詞が一部異なるのは、新沼謙治に楽曲提供するにあたって作詞家の久仁京介が「肉付け」したことによる。主題歌が8年後に新沼謙治の大ヒット曲になったという話は偶然に過ぎないが、他の記録映画では制作されていないオリジナルの主題歌まで制作されていたということも石崎無線中継所の特筆すべきことでなかろうか。
主題歌まで作られる豪華な記録映画「鉄筋コンクリート造無線塔の建設 津軽の塔 石崎無線中継所」の存在も、電電公社が津軽の塔─石崎無線中継所に破格の扱いをしていたという傍証かと私は思うのである。破格の扱いに至る理由は米澤滋総裁の功績を後世に伝えることであり、米澤滋総裁下で3期12年に渡って副総裁を務めた秋草篤二が第4代総裁の椅子に座っていたからできたのではなかろうか。“メザシの土光”こと土光敏夫の薫陶を受けた民間出身・真藤恒総裁下であれば、果たされなかった事業ではないかと思う。
石崎無線中継所の終焉─平舘海峡大橋風況調査も木村守男が辞任
石崎無線中継所の完成以後、1985(昭和60)年に日本電信電話公社は民営化しNTTが発足する。NTT発足以後の社史なども複数読み込んでみたが、石崎無線中継所の動静を詳細に記録した資料は見つけ出せなかった。それどころか、NTTが1995(平成7)年に発行した「NTTの10年 : 1985→1995 資料編」では、58頁から「海と陸、情報を運ぶ“通信のハイウェー”」として華々しく紹介されているのは光ファイバケーブルなのである。
「NTTの10年 : 1985→1995 資料編」は59頁で、1986(昭和61)年6月の北海道苫小牧〜青森県八戸間(282km)の海底中継光ファイバケーブル敷設がエポックメーキングな出来事であったと記録している。これ以降、国内主要通信網の基幹伝送路を光ファイバー網が担うことになったというのである。記録映画まで作った津軽の塔・石崎無線中継所の完成から8年後の出来事である。米澤滋が「ハイウェー」と呼んでいたマイクロ回線網が、ゆかりの地・津軽海峡を3本通過するようになってから僅か8年で、八戸−苫小牧に光ファイバーが通って基幹伝送路の主役を奪ったのである。さらに石崎−渡島当別に並行するように津軽半島と松前半島を結ぶ光ファイバケーブルも開通しており、何という皮肉だろうか。そして「NTTの10年 : 1985→1995 資料編」の発行から6年後の2001(平成13)年、津軽の塔・石崎無線中継所は無線施設としての運用を停止するのである。
前出の朝日新聞の2003(平成15)年7月26日付の東京地方版「『津軽の塔』(あおもり不思議ツアー:29)/青森」は運用停止2年後の記事である。同記事によれば、石崎無線中継所が役目を終えたのは2001(平成13)年6月で「通信手段は無線から光ファイバーを使った方式に変わり、塔だけがぽつんと取り残された。」と、津軽の塔の無線塔としての引退を記録している。一方で、平舘海峡大橋構想を掲げた当時の青森県知事・木村守男により、青森県道路課が風況調査のため風速計を石崎無線中継所に設置していた時期があったのだという。2003(平成15)年5月の木村守男辞任後、青森県知事になった三村申吾は平舘海峡大橋構想を白紙に戻しており、その後、携帯電話の基地局やその他の無線局が賃借することも無かったらしい。
朝日新聞の同記事には当時の平舘村民のインタビューが載っており、「塔を目当てに観光客が来ますか?」との記者の問いに、「中に入れるわけでもないし、どうしようもないよ」、「ペンキで『平舘村』とでも大きく塗ってくれれば、観光名所になるかも知れないね」と笑われたとあり、朝日新聞の記事だけを読むと地元の反応は冷ややかなようにも思えてしまう。ところが、2024年7月15日付の東奥日報記事「『津軽の塔』解体進む」では平舘のシンボルの消滅を「寂しい」とする村民の声や、完成当初に塔に上った村民の思い出などが語られている。日本電信電話公社施設局 編(1979)「電気通信施設 31(12)」P22-24で沖塩荘一郎・建築局特殊建築工事事務所長は、「塔そのものは青森から北海道への単に通過するだけの中継所で地元にプラスは何もない」と冷静に分析しながらも、「石崎無線塔は、そのコンクリート打を近所の村の人たちが手伝った関係から、村の人たちが『自分たちのタワー』『我が村のシンボル』といった感じを持ってくれている。漁村なので、海からの目印になるという点でも喜ばれている。」と記録している。平舘村民にとって石崎無線中継所は建設工事が雇用を生んだことも含め、歓迎されていたのだろう。1970年代といえば、近隣の東津軽郡今別町や三厩村が青函トンネル工事で活況を呈した時期でもあり、国鉄のトンネルと電電公社のマイクロウェーブの違いこそあれ、海峡横断を目指すインフラ工事、そして完成した津軽の塔を平舘村民が今別や三厩と同じように歓迎したのは容易に想像できる。
石崎無線中継所が2018年まで果たしてきた役目とは
2001(平成13)年のマイクロウェーブ伝送回線の終了と、2003(平成15)年に就任した青森県知事・三村申吾による平舘海峡大橋構想の白紙化で青森県道路課の風速計が撤去されてから、海からの目印とか、平舘村民にとってのシンボル的存在であった以外、津軽の塔が何の役割も担っていない存在だったのか、といえば答えは否である。
望月一郎の「樽前・石崎コンクリートタワー」によれば、寒冷地におけるコンクリートの凍害が課題だったといい、実際の外的気象条件下でのコンクリートの温度挙動から凍結融解現象を把握し長期的な耐凍害性を判定する目的もあったといい、28日、1年、2年、3年、5年、7年、10年、20年、40年のタイムスパンで耐凍害性試験を実施することにしたという。予定が途中変更されていなければ、竣工40周年の2018(平成30)年に最後の試験が行われたはずである。NTTは青森県より寒冷な北海道に、樽前無線中継所と帯広木野無線中継所のコンクリートタワー2基を2024年時点でも現有していることから、石崎で40年目の耐凍害性試験を実施したのではないだろうか。その役目を果たし、いよいよ解体されることになったのだろうと私は考えているのである。
望月一郎は「樽前・石崎コンクリートタワー」の文末を、「将来不要になった際の壊し方を検討する必要がある」と結んでおり、耐凍害性試験の予定から40年程度は稼働すると見込みながらも、いずれ津軽の塔が不要になることを冷静に見越していたようにも思う。望月一郎が「石崎無線中継所の地は、超短波多重通信方式の実験が米澤前総裁等の手で成功した記念すべき場所であり、新無線塔の完成に際し記念碑を計画した」と明記したのは、「近い将来、光ファイバーの発達でマイクロウェーブが不要になるのに、米澤滋を讃えるために無線派が作りたくて作ったのだ」と後世の我々に読み取って欲しい意図をもって書いたと思うのは、考えすぎだろうか。
米澤・秋草体制の終わりの始まり
以上のように書くと、あたかも米澤滋ないし電電公社の無線派が、我欲をもって米澤滋の功績を讃える無線中継所として津軽の塔を作らせたのかという誤解を招きかねないが、そのような根拠はない。自分の名誉を後世に誇示したいという顕示欲を米澤滋が持っていたのかというと、私は違うように思う。
郡司和夫(1981)「電電公社・悪の構図」によれば、1977(昭和52)年度の電電公社の黒字額は4390億円、完成した1978(昭和53)年度の黒字額は3908億円にも及び、津軽の塔を建設するにあたって十分余裕のある財務状況であった。無論、これは公社ゆえ非課税(法人税、事業税、住民税)で、競争相手もいない独占企業だったからなしえたものであり、電電公社トップの人事権を持つ福田赳夫、大平正芳の両首相と事務方トップの秋草篤二(77、78年度総裁)の関係も良好だったことも背景にあるが、当時の日本の法制度上、何ら問題のないことではなかろうか。財政、人事とも津軽の塔の建設に支障となる状況は無かったのである。
これが電電公社に足場のない鈴木善幸(1980年首相就任)にとっては「目の上のたんこぶ」と映る。電電公社の大きな黒字を狙って打ち出した電電納付金引き上げ策に、秋草篤二が「電話料金の値上げをせざるを得ない」と国民世論に訴え対抗したことで鈴木善幸の逆鱗に触れる。秋草篤二は大平正芳首相時代に一期限りで総裁勇退の意思を伝えていた中、公社で発覚した総額13億円あまりの不正経理問題の責任を取らせるため、鈴木善幸は秋草篤二の任期切れを前に「詰め腹を切」らせる形で辞任に追い込んだのだと郡司和夫は「電電公社・悪の構図」で説明している。米澤滋の下で3期12年副総裁を務めた女房役の秋草篤二総裁の辞任で、石川島播磨重工業出身の真藤恒総裁が就任し、民営化─NTT誕生という次の時代に向かい始めるのである。
当時の国民は鈴木善幸による秋草更迭劇や、土光敏夫の薫陶を受けた真藤恒総裁就任を電電公社の改革として好意的に受け止めたのだろうが、1989(平成元)年にリクルート事件で真藤恒も未公開株1万株の譲渡を受けたとしてNTT法違反で逮捕され、懲役2年執行猶予3年の判決を受けるわけだから皮肉と言うほかない。
NTT法違反での逮捕・有罪判決に至る真藤恒に対し、米澤滋は総裁退任後の1982(昭和57)年に勲一等瑞宝章(現在の瑞宝大綬章に相当)を受章している。郡司和夫が言うように米澤滋に政治・人脈的な後ろ盾があったことは事実で、「電電公社の天皇」という揶揄も存在したものの、やはり余人をもって替えがたい優秀な総裁でもあったのではないか。
電電公社とともに三公社と呼ばれた日本専売公社と日本国有鉄道の歴代総裁24名の在位日数を比較すると、米澤滋の在位日数は突出している。「新幹線の父」と称される十河信二の国鉄総裁在位日数を1,300日も上回り、国鉄にも専売にも3,000日を越えた総裁がいない中で、米澤滋は三公社総裁の中で唯一、在位4,000日を越えるのである。
1965(昭和40)年の全電通労組のストでは職員14万人を対象に戒告という処分を行い、1968(昭和43)年の十勝沖地震ではマイクロ回線途絶という事故を起こしながらも、国鉄のように労使紛争が深刻化することも無ければ、政府側から総裁職を罷免されることもなく、米澤滋が3期務めたのは特筆すべきことである。技術職員の待遇改善を図ったことや、経営を安定化し大幅な黒字を計上したことなど、任命する政府側からも、支える職員側からも米澤滋に対する信頼があったのだろう。
米澤は都市一極集中を憂い、技術革新による国土分散を提唱していた
米澤滋は副総裁時代に担当した労使交渉のストレスから愛飲し始めたブランデーの水割りに使う井戸水が、東京の都市化進行で飲用に適さなくなりつつある現状を憂いていた。米澤滋は若いころは仏教の形式的なところに反発したとするが、後年は仏教に共鳴することが多くなったと「私の履歴書」の95頁〜の「科学と仏教」の中で説いている。米澤滋が特に感じていたことは、科学技術の進歩により、人間生活は豊かになる半面、人間疎外がひどくなっていることである。公害の発生や環境の破壊とともに、都市化に伴って人間疎外が進む。自然と調和し社会に適合した新しい科学、技術の方向を見いだすことができないか。電話、電信、画像通信、データ通信を含む総合通信網を活用することにより地方に中核都市をつくることができる。これにより、巨大都市のこれ以上の過密化を防ぎ得るのではないか。電気通信を先駆とする列島改造を、みんなで研究することが望ましいと思う──以上のようなことを米澤滋は思っていたという。
米澤滋は晩年、若き日に超短波多重無線電話回線開発のため滞在した平舘・宇田の宿の大きな仏壇の怪談めいた話を語り「一度も仏壇の中を正視できなかった」としているが、「仏教に関心を持つようになった今ならこのような感じは持たなかった」と振り返っている。戦後の復興、高度経済成長、東京一極集中の時代の流れで、仏教に触れた米澤滋が電電公社総裁末期に辿り着いたのは、情報通信網の活用で地方に分散し、進行する人間疎外にあがなうことであった。
前出の通信機械工業会の「通信工業」の1977(昭和52)年1月号は総裁として最後の米澤滋のあいさつがしたためられている。米澤滋は、ここでも人間疎外の問題に触れ、通信技術発展によって解決をめざしたいとし、「ヒューマニズムに基づくサービス精神の自主的実践を行い、一体となって電信電話事業の発展のために尽くしたい」と読者や公社職員に言葉を贈っている。
米澤滋は科学技術の進歩によって、都市環境の悪化や人間疎外など数多の問題を解決することを目指していたのだろう。良い薬があれば疫痢で命を落とすことなく救えただろう娘への愛も、科学技術のさらなる進歩への期待とともに昇華させたのではないか。
米澤滋が礎を築いたマイクロウェーブ伝送回線網は消え、津軽の塔も間もなくこの世から消えるが、NTTは2022(令和4)年度に航空機通勤も可とする社内制度を打ち出した。リモートワークが可能になり、直接会う必要がある業務なら地方都市から航空機での通勤も良しとする制度は、米澤滋の目指した地方分散の実現であり、人間疎外の解消に向けた動きではないだろうか。
津軽の塔という、形あるものは石崎から消えても、石崎をゆかりの地とした米澤滋の理念や思想は、民営化されたNTTによって未来に引き継がれていくのである。
電電公社から受注を受け施工したのは清水建設だったが、NTTコムによる取り壊し工事は大林組が受注。
完成した直後から望月一郎に「将来不要になった際の壊し方を検討する必要がある」と冷徹に評されていた津軽の塔はマイクロウェーブ伝送回線、平舘海峡大橋の風況調査、旧電電公社以来2018(平成30)年まで40年に及んだ凍害試験といった役目をすべて終え、2024(令和6)年、姿を消す。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・青森放送社史編纂委員会(1980)「青森放送二十五年史」
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・河北新報社(1999)「1999(平成11)年1月17日付朝刊 『うたの風景／津軽恋女（津軽）／「七つの雪」の叙情 今もなお心解かす』」
・郡司和夫(1981)「電電公社・悪の構図」Yell books
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・清水建設(1984)「清水建設百八十年」
・政策時報社(1984)「電電公社 : その人と組織 昭和60年版」
・通信機械工業会(1977)「通信工業 1977年1月号」
・通信興業新聞社(1962)「電電十年のあゆみ」
・電波監理委員会 編(1950)「日本無線史 第1巻」
・東奥日報社(2009)「2009年3月30日付夕刊 連載／ふるさとあの瞬間（とき）／電信電話の記憶 ８／震災を越えて（下）／ケーブル工事３年がかり」
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・永森四郎(1960)「日本の電信電話(少年産業博物館 ; 25)」ポプラ社
・日本電信電話株式会社(1986)「日本電信電話公社社史(昭52.4〜60.3) 経営形態変更までの八年の歩み」
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・日本電信電話株式会社研究開発本部 [編](1982)「電気通信研究所研究発表会論文集 (40)」ディジタルマイクロ波方式の方式設計 / 山本平一 ; 村瀬武弘/
・日本電信電話株式会社札幌無線支社続北海道無線史編集／編(1985)「北海道無線史 続」
・日本電信電話公社運用局管理課(1953)「電気通信業務研究 (47)」
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・日本電信電話公社四国電気通信局(1973)「四国電信電話事業史 : 公社発足20年」
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望月一郎「樽前・石崎コンクリートタワー」
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・日本電信電話公社仙台無線通信部(1978)「東北無線史」
・日本電信電話公社東北電気通信局(1964)「東北電信電話史資料 〔第10 第1〕」
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・日本電信電話公社二十五年史編集委員会(1978)「日本電信電話公社二十五年史 中巻」
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・日本電信電話公社福岡無線通信部(1984)「九州無線史」
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・日本放送協会(1969)「NHK年鑑'69」
・日本放送協会青森放送局(1993)「歳月 あおもりふれあいの五十年」
・日本放送出版協会(1967)「放送文化 23(7)」
・日本民間放送連盟(1961)「民間放送十年史」
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・野辺地町史編纂委員会 編(1977)「野辺地町郷土史年表」
・八戸市(1969)「地震：'68十勝沖地震の記録」
・林新二(1957)「マイクロウェーブ通信方式」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
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・米澤滋(1960)「對山荘雑記」小壺天書房
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・米澤滋(1977)「私の履歴書」日本経済新聞社
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コメント
コメント一覧
お盆の暇な時間に、良い文章が読めて幸せでした。
米澤滋さんの名前は初めて知ったのですが、こんな歴史があったのですねえ。
塔じたいも初めて存在を知りましたが、ちょっと見て見たかった気もします…
お褒めのコメントありがとうございます。長文になり過ぎて、石崎無線中継所─津軽の塔というより米澤滋電電公社総裁の人生に焦点を当てる文章になってしまったと反省しています。
厳しい評価もあるようですが(私もそう思う部分もある)、米澤滋電電公社総裁はドラマ化する価値のある昭和戦後期の偉大な人物であると思います。
私は継続的に石崎無線中継所のことを追っていたわけではないのですが。このブログ投稿 (2024/07/29) から比較的日の浅い今日 (2024/08/25)、無線の調べごとをしていて偶然に出会いました。嗚呼、神様という気持ちです。
10年近く前の Mr. J 氏の記事および私のつたないコメントを拾っていただいたこと、また同じ考え (作りたくて作った) をされている方にはじめて出会えたことに素直に驚きました。ただ、私の下衆の勘ぐりの飲み屋での話とは異なり、ブロ玉さんのブログは各種資料から具体的、多面的に考察、検証し、解像度の高い話にまとめられており、当時の状況がよく分かり心が震えています。
自分は無線史に興味がありちょろちょろと調べたりしています。ですので、このブログ記事を作り上げるのに要した時間や労力が半端無いことを理解できるつもりです。本当に感服していますし、出会えて良かったと心から思っております。感謝申し上げます。
コメントありがとうございます。私も通りすがり様からコメントいただけて驚いております。
「作りたくて作った」のではないかという、通りすがり様とMr.J様の会話を初めて読んだ時、非常にしっくりきました。
電電公社の資料を読むと、望月一郎氏によって四角い形状での建設に至った理由は述べられていますが、当の望月氏が完成したばかりの津軽の塔の将来の壊し方の検討に言及していますので、従来型の無線塔ではだめだったんだろうかという風に思い、やはり「作りたくて作った」のではと思うのです。
もっとも、電電公社が作りたくて作ったのか根拠はないのですが、作りたくて作ったんだろうなあというのが私の思いです。
コメントありがとうございました。