■東京以北最初のテレビ局・HBCの函館実験局
北海道放送(HBC)は東京以北で最初にテレビ放送を開始した民放である。札幌手稲山からの本放送開始は1957(昭和32)年4月1日で、全国でみても5位という早さであった。
そればかりではない。HBCは札幌での本放送開始から遡ること3年、1954(昭和29)年7月10日から8月31日まで函館市の北洋博覧会でテレビの実験放送も実施している。北海道放送社史編集委員会 編(1963)「北海道放送十年」によれば、送信点は函館公園に置かれ、VHF3ch、送信出力は映像50W・音声25W、空中線はスーパーターンスタイル3段、エリア半径8kmであったという。また、HBCは函館市内に48台、函館近隣町村に20台のテレビ受像機を配置したという。
函館で実験放送を行ったというなら、青森県側での受信例もあったのだろうかと気になるが、HBCがテレビを配置した函館近隣町村の中に、どうやら青森県下北郡大間町は含まれていないらしい。大間町が1992(平成4)年に発行した「大間町史」にも、実験局を受信したという記録はない。送信点が函館山ではなく麓の函館公園だったということもあり、大間は電波の見通し距離限界を越えていたように思われる。送信高などの詳しい情報はないが「北海道放送十年」に掲載された写真をみると、地上高10m程度だっただろう。
【HBC北洋博函館実験局の電波伝搬シミュレーション】
アンテナの利得情報もないので適当にスーパーターンアンテナ3段の利得を＋14dBと仮定し、函館公園の標高23m＋鉄塔10mで送信高33mでRadio mobileでシミュレーションしてみたのが上図である。
これをみると大間も赤くなっているので実験局のエリアに入ったのかと誤解しそうだが、アナログ放送で必要だった電界強度は70dBμV/mだったので実験局のエリアはピンクの部分に限られる。
実験局のエリアはおおむね旧亀田市と合併前の旧函館市の市街地周辺に限られるシミュレーション結果が出た。送信点の函館公園が函館山東麓のため、山影になる西部地区や北ふ頭、七重浜方面はあまり良くなかったようだ。青森県側に、実験局を受信するためだけにテレビを持つような世帯は無かっただろう。
ではHBCの函館実験局は青森県側に全く無関係かというと、さにあらず。
青森県側で受信した世帯はおそらく0であろう。しかし、HBCの実験局は函館を訪れた青森県の人々の動静も記録したらしい(今のように録画機材がないから文字記録に限られるが)ので紹介したい。
■HBC函館実験局が放送した青森関係者──県勢高校野球中継は初か
【太宰治の生家・斜陽館(2007年撮影)】
まずは、青森県知事・津島文治。
津島文治は文豪・太宰治(本名・津島修治)の実兄であり、1947(昭和22)年に初の公選知事として青森県知事に就任、函館の北洋博当時は通算3期目にあたる。津島文治は、北海道初の公選知事にして同じく青森県出身の田中敏文や、函館市長の宗藤大陸らと共に座談会に臨み、その模様をHBCが「北洋博と東北経済を語る」と題し番組化、実験局で放送したという。
我が国のテレビ放送自体は1953(昭和28)年に東京でNHK(JOAK-TV)と日本テレビ放送網(NTV)が放送を開始しているので、津島文治が上京時などにそれらのテレビ局のカメラに映っていれば話は別だが、青森県知事を初めてテレビに映したのはHBC函館実験局の可能性がある。
もう一つは、青森市立青森第一高等学校硬式野球部。
青森一高は今の青森県立青森北高校に相当する。1954年の北海道国体に出場した全国の野球部12校の一つであり、一回戦で東京都代表・早稲田実業と対戦し残念ながら16-5で敗れた。「北海道放送十年」は「全国から選抜された十二高校による国体高校野球の熱戦を、函館市千代ヶ岱球場から実況放送」したと記録している。HBCは今の函館オーシャンスタジアムで行われた青森一高の試合をテレビで実況中継したというのである。
青森県勢の高校野球をテレビ実況中継したのはHBCが最初ではないか。
我が国の高校野球のテレビ中継は1953(昭和28)年からNHKが開始したとされるが、1953年の夏の甲子園(第35回大会)の奥羽代表は秋田県立秋田高等学校(秋高)で、翌1954年の春のセンバツは東北から出場無し(東北大会の優勝は秋田市立秋田商業)、第36回大会も秋高が連続出場し、この間の青森県勢は甲子園に出場できなかった。つまり、1954年の北洋博時点でNHKによる青森県勢のテレビ中継はまだ行われていないのである。今日では高校野球のイメージが強い青森朝日放送(ABA)も1954年ではまだ影も形も無いどころか、NHK青森(JOTG)や青森放送(RAB)でさえもテレビ開局前である。
当ブログは、青森県勢の高校野球を初めてテレビ中継したのは、1954年の北海道国体の青森一×早実を中継した北海道放送(HBC)函館実験局とみている。
■HBC函館実験局はRABも視察していた
【HBCのテレビ実験(青森放送二十五年史131頁より引用転載)】
北洋博で沸き立つ函館市を訪れていたのは、津島知事や青森一高ナインだけではなかった。ともに青函連絡船発着点として後に姉妹都市となる対岸・青森市のラジオ青森(RAB、のちの青森放送)も、HBCの先進的なテレビ実験放送が気にならないはずがない。RABも北洋博の会場を訪れ、函館実験局のパラボラアンテナを撮影した白黒写真が1980(昭和55)年発行の「青森放送二十五年史」に掲載されている。
RAB撮影の写真のバックに移る船舶には「YOTEI」の文字がみえ青函連絡船の函館桟橋かと想像されるが、事実、HBCは1954年8月7日、昭和天皇皇后両陛下がお召し船の洞爺丸で函館に上陸される様子の生中継も実施しており、「北海道放送十年」によれば翌8月8日の北海道新聞は一面で「圧巻HBCテレビの実況、夜の大門、天皇ブーム現出」と、大きく激賞したという。HBCの母体たる道新も、テレビで天皇行啓を生中継という革新的な快挙に鼻高々だったのである。
北洋博にともなうHBCの実験放送が華々しく終了したのは1954年8月31日。洞爺丸が函館湾で悲劇を迎えるのは、HBCによる昭和天皇函館行啓の生中継からわずか50日後のことであった。
■HBCと対峙する対岸・RABのテレビ放送
【函館山から望む函館市街(2008年撮影)】
HBCテレビが本放送開始で函館に帰ってきたのは1958(昭和33)年12月だった。これに先立ち函館地区ではNHK函館(JOVK)も1957(昭和32)年3月に本放送を開始しており、「北海道放送十年」には送信所建設時にNHKから妨害があったことが記録されているが、当ブログが焦点を当てたいのはNHKよりも対RABの方である。
札幌手稲山の親局の1chの放送波が非常に良好に伝搬することから、NHKや札幌テレビ放送(STV)が中継局の開設時に回線の一工夫、二工夫を要する時でもHBCは不要で済むことから、「北海道放送二十年」で「第1チャンネルの威力」と自認するほどである。「北海道放送十年」によれば、HBCは函館放送局(JOHO-TV)の設置でも、当初は「第1チャンネルの威力」を武器に七飯山(七飯岳のことか？)で手稲山の親局1chを受信する案もあったという。
ところが、対岸の青森でRABも手稲山と同じVHF1chが割り当てられたことが判明し、「第1チャンネルの威力」作戦は、「受信所におよぼす影響などを考えてとりやめ、電電公社のマイクロを使用、室蘭局(JOQF-TV)とも共用することにした」という。
青森でRABがテレビ放送を開始したのは1959(昭和34)年9月、HBC函館の本放送開始から9か月遅れだった。
HBCはRABを社史で名指しで批判している部分は無いが、内心、面白くないとは思っていたのかもしれない。このとき函館と一緒に開局したHBC室蘭はVHF11chだったが、後に「北海道放送二十年」でRAB八戸局11chの混信によるオフセットビート障害があったと記載しており、電波をめぐる制空権の争いは両社のあいだで燻っていたようだ。
■青森もエリアだと公式に宣言していたHBC
【外ヶ浜町平舘石崎地区で受信したHBCの映像の乱れ】
地デジの今となっては、青森県でHBCはテレビ北海道(TVh)と共に受信難易度が高い局になったように思うが、「北海道放送十年」を読むと、アナログ放送が開始したばかりの頃は青森県もエリアの一部に入れたかったのだろうという思惑が垣間見える時がある。実際、HBCが函館放送局テレビ(JOHO-TV)の免許申請時に北海道電監に提出した「放送区域及び放送区域内世帯数」の総世帯数110,404世帯のうち10,024世帯は青森県下北郡の一部のものである。公式に下北の一部はエリアであると国に申請し、実情は下北以外に津軽半島北部の今別や三厩もエリアに入っていたのは言うまでもない。
テレビではなくラジオの統計であることに留意が必要だが、1961(昭和36)年時点のHBCラジオの放送局管内別聴取世帯数が「北海道放送十年」に記載されている。
もちろん世帯数トップは道都を擁する札幌放送局管内で473,000世帯だが、それに次ぐ世帯数は函館放送局──いや、正確には第2位は旭川放送局の146,000世帯であるが、第3位の函館放送局は道内の129,000世帯に「その他(青森県)」の106,000世帯を加え235,000世帯にも達し、札幌管内に次ぐ世帯数だ(青森県は一部釧路局エリアに入るとされるが誤差の範囲とした)。
「その他(青森県)」の世帯数は釧路、帯広、網走、北見、名寄の放送局管内を上回り、HBCラジオのエリア世帯数の上積みに大きく寄与していたのである。
【HBCラジオ放送局別世帯数(1961年)】
HBCテレビは青森県でAMラジオほど広くエリアを持てなかったが、それでも函館送信所が稼ぐ青森県側のエリア世帯数の上積みに期待する部分もあったのだろう。松前や福島、江差、大成、北檜山などは細やかに中継局を建てなければエリアに入らないが、青森県は函館から電波を出しておけば津軽海峡側や、場合によっては青森市の一部でもエリアに入るのだから、効果的に世帯数を上積みするのに好適だったわけである。
1959(昭和34)年8月、HBCは全道テレビ局サービスエリアおよび受像調査を、「道南・青森地区」で実施している。「北海道放送十年」には受像調査の結果の詳細が無いが、HBCは公然と青森も受像調査の対象エリアだと言うわけである。翌月にテレビ開局を控えたRABにしてみれば面白くない話であったに違いない。
【超長距離受信用テレビを販売するNECの広告】
RABテレビの本放送開始の10日前、1959(昭和34)年9月20日の東奥日報のテレビ欄の下方にあるのは日本電気─NECのテレビの広告である。売り出しているのは“超長距離用”のテレビ機種である。つまり、放送局公式のエリアから離れた遠隔地でテレビを視聴したい人に向けた機種である。
これが意味するのは、青森ではエリア外のHBCを見るために感度の高い“超長距離用”テレビが売れるとNECが想定していたということだろう。もちろん、いくら“超長距離用”とは言え実際に青森で全く映らないのであればNECもマーケティングに動くことは無かろう。恐らく、HBCは「道南・青森地区」で実施した受像調査の結果を、広告業界やテレビメーカー、アンテナメーカー等にも伝えていて、NECも青森ではHBCが映る──商機ありと確信していたのだろう。
■道新・HBCを迎撃する東奥・RAB
【東奥日報社本社(青森市)】
ここで青森側(東奥日報・RAB)が道新・HBCをどのように受け止めていたか、みていきたい。
RABが、──というより出資主体である東奥日報社がRABを通じて出している声明のようにも思うが、「青森放送二十五年史」においてHBCを念頭に置き北海道新聞の対応を批判的に記述している一節があるので引用する。
宮城県紙・河北新報社による東北放送(TBC)の青森局設置計画を東奥日報・RABが阻止に成功した話は比較的知られているかと思われるが、実際のところ青森県の電波制空権をめぐって交戦状態にあったのは道新・HBCの方だろう。日本一広い県・岩手のさらに向こうにある宮城の電波は青森に届かないが、津軽海峡を挟んだだけの北海道の電波は容易に青森に届くのである。
【RAB本社(青森市)】
NHK青森テレビ(JOTG-TV)が開局した翌日1959(昭和34)年3月23日、東奥日報は「県下一帯と秋田県北に鮮明な映像を結んだ。これまでのNHK函館テレビや、北海道放送テレビの電波で満足できなかった聴視者は、これでやっと"雨降りテレビ"に別れをつげ、千秋楽の大相撲実況に同市内のラジオ店前は黒山の人だかりだった」と、映像が鮮明でないNHK函館(VK)やHBCとはお別れだと大々的に報じた。表向きは青森県初のテレビ放送開始を慶事として取り上げているようにもみえるが、約半年後にテレビ開局を控えたRABが順調に滑り出せるよう東奥日報が“援護射撃”しているようにも受け取れる。
RABテレビがサービス放送を開始すると、翌日1959(昭和34)年9月15日の東奥日報は以下のように報じた。
東奥日報はまさに自画自賛という感じで、「チャンネルを選べる日が来た」とまで書いており、まるでそれまで選ぶことが出来たHBCの存在が無かったかのような書きぶりで出資したRABテレビを持ち上げている。とはいえ実際のところ、同日の東奥日報のテレビ欄にあるのはNHK��とHBC��の2チャンネルのみであるし、青森でHBCの視聴が出来た人たちが「お別れ」よりも「関係継続」を選んでいたことの証左だろう。RAB��がテレビ欄に出てくるのは9月20日からであるが、下の方に追いやられながらもHBC��は残っている。
本放送開始後、RABテレビはNTV系列、HBCはTBS系列で番組の住み分けも相当あったので、やがてUHFの放送が始まってからは北海道テレビ(HTB)や北海道文化放送(UHB)、TVhの受信へと移行していった人たちもいたことは、火を見るよりも明らかである。
■青森に戦前から進出していたHBCの設立母体・北海道新聞社
【北海道新聞社旧本社ビル(札幌市中央区)】
現在の感覚では道新が青森を勢力圏に入れているかと言えば疑問に感じるところだが、1964(昭和39)年に発行した「北海道新聞二十年史」をみると実際、道新は1942(昭和17)年に青森支局を設置、翌1943(昭和18)年には下北郡大湊町(現むつ市)に大湊通信部も設立している。1948(昭和23)年1月からは函館支社管内で「青森版」を発行し、1950(昭和25)年10月に「道南・青森版」に改め、1951(昭和26)年1月に廃止するまで青森を意識した紙面作りをした記録がある。
1963(昭和38)年時点で、函館支社管内の道新発行部数は青森県発行分を込みで9万部だったといい、青森県内に道新の定期購読世帯がどれだけあったかは不明だが、当時は北海道と東京を1日がかりで国鉄で移動する人々が、連絡船乗換の青森駅で道新を買うことも珍しくなかった。「北海道新聞二十年史」には、本州出張の帰りに連絡船で道新を読むのが楽しみだという函館市の会社社長や、会議で上京しても行き帰りの函館と青森で必ず道新を買うという小樽市の団体役員の声が紹介されている。2024(令和6)年現在でも青森駅で道新が販売されているし、RAB・東奥日報社からは、道新と同様にHBCも青森県に電波で進入を試みるライバル社と敵視されていたのだろう。
北海道新聞青森支局は青森市大町(現在の本町2丁目付近)の最初の拠点を青森空襲で焼失後、一時閉鎖し野内村(現青森市)、青森市浪打、長島(町名変更で古川町)と幾度か移転を経て1972(昭和47)年には青森市安方2丁目に青森支局を移転させている。善知鳥神社の北側、現在のローソン青森安方二丁目店付近が最後の支局所在地で、1987(昭和62)年3月頃までに閉鎖されたようである(道新側発行資料での確認ができていないが、東奥日報社の「東奥年鑑」や河北新報社の「河北年鑑」に記載がある在青新聞社のリストをみると、1986年度時点では道新青森支局があるが1987年度時点では無くなっており、1987年3月頃の撤退と推測している)。
■青森市にあったHBC青森支局→東北支社の変遷をみてみる
HBC青森支局(のち東北支社と改称)は1966(昭和41)年2月に青森市浦町奥野に最初の青森支局を開設し、1975(昭和50)年に青森市長島2丁目に移転し東北支社と改称、2003(平成15)年に閉鎖された。
【1967年頃の青森市の空中写真に道新とHBCの拠点遍歴をプロットした図】
上図は1967(昭和42)年に撮影された青森市の航空写真に、道新やHBCが青森市に置いた拠点のおおよその位置をプロットしたものである。
戦災で焼失後に短期間だけ移転した道新の野内と浪打は別にして、HBC青森支局が所在した青森市浦町奥野315(当時)という位置は異色に映る。大町(本町)、古川、長島などは青森市都心部に近く、いずれも青森周辺での営業活動や国鉄・青函連絡船で函館や秋田、仙台方面へのアクセスにも便利な位置であろうが、浦町奥野315のHBC青森支局は当時ではいささか街外れという位置である。
なぜHBC青森支局が浦町奥野315に置かれたのか、「北海道放送二十年」にある「酸ヶ湯をはじめとする青森県下の観光地、和田寛かねさ津軽三年味噌など醸造会社の出稿があり、函館放送局営業マンが月に一、二度出張プロモートに当たっていた」という記載がヒントである。青森県内の主要スポンサーへのアクセスという点で、浦町奥野315は適地である。
上の航空写真の図のとおりHBC青森支局が最初に置かれた当時の浦町奥野315は、味噌メーカーのかねさ味噌(青森市浜田玉川)と醤油メーカーの和田寛食料工業(青森市松原)のほぼ中間に位置した。当時はまだ観光通り(後の国道103号)の整備前で原形になる道路は一応あるものの、主要地方道・青森県道1号青森十和田湖線が青森市堤町から浦町奥野を経て見性寺前を通っていた時代であり、青森から酸ヶ湯に向かうメインルートであった(今の主要地方道・青森県道27号青森浪岡線の妙見交差点以北である)。
さらにいえば、桜川を経由してRABも比較的近い位置にあった。
【かつてHBC青森支局は現在のリオネル動物病院の奥(西側)の方にあった】
「北海道放送二十年」によれば、酒造関係の広告出稿を狙って秋田市に支局開設をという意見も社内にあったとされるが、従来の函館支社が担当していた青森との関係性や、前述の通り味噌や醤油メーカーがスポンサーとして存在することから青森に拠点を置き、「秋田、山形、遠く新潟まで活動範囲」にしていたという。
秋田の日本酒メーカーは数社あるが、美酒爛漫の秋田銘醸など今でも首都圏で放送するスポンサーもあるし、山形も節分シーズンとなればでん六のCMは広く放映される。そして新潟と言えば洋菓子のブルボン(当時は北日本食品工業)や煎餅・柿の種で有名な亀田製菓、本州産味噌では道内でかねさに次ぐ流通があったとされるマルダイ味噌、道民の暮らしに必需品となるストーブのコロナなど、錚々たるスポンサーが幾つも存在する。
それらをHBC青森支局が担当していたのかもしれないと思えば、営業範囲は非常に壮大で、重要な営業拠点だったのだろうと思わずにいられない。
■かねさの北海道内流通拡大に貢献したHBC青森支局──RABも間接的に寄与
現在でこそ北海道は都道府県別の味噌生産量で全国五指に入るが、寒冷な気候ゆえ本州と同じ醸造方法では良質な味噌を製造できず低迷した時代があり、かつては本州、その中でもとりわけ青森県からの味噌の移入量が非常に大きなウェイトを占めていた。
北海道庁の企画振興部経済調査室が1986(昭和61)年に発行した「北海道経済調査」に沓沢隆が寄稿した「農産物加工業の市場構造に関する調査--北海道の味噌･醤油を対象として」によれば、北海道を主な販売市場とする味噌製造会社として青森県のK味噌�蠅�挙げられているが、かねさ味噌のことであることは明らかである。沓沢(1986)は歴史的に北海道で味噌製造業が興る以前からかねさ味噌が北海道を主要な販売市場として深く係わり、特に昭和40年代後半から急速にシェアを拡大したと指摘している。
まさにHBC青森支局が営業活動を盛んに行っていた時代と、かねさの道内シェア急拡大期はリンクするのである。
1995(平成7)年6月23日付の日本食糧新聞の記事「94年の地区別味噌需要、青森県産シェアが北海道で低下」によれば、1994(平成6)年の北海道における青森県産味噌のシェアは低下したと言っても40%を越えており、平成に入ってなお北海道では青森県産味噌の流通が非常に盛んだったのである。その多くが、かねさ味噌(三年ね太郎)であったことは言うまでもない。
【淀川長治が激賞したRAB制作のかねさCM(青森放送二十五年史より引用転載)】
そしてRABには、かねさや和田寛のCMを製作し高く評価された歴史がある。「青森放送二十五年史」によれば、1968(昭和43)年に制作した作品「かねさ味噌"冬"」は民放大会賞に入賞し、審査員の映画評論家・淀川長治に「かねさ味噌は、都会人にも郷愁を誘う。民芸の匂い。この味噌ならホンモノと思われてしまう」と評されたと記録されている。和田寛のほか、味噌・醤油関係ではマルサ味噌の作品もACC・CMフェスティバルで入賞した記録があり、RABはテレビ、ラジオともに青森県の味噌や醤油メーカーのCM制作で活躍したのである。味噌や醤油メーカーは青森県所在の貴重なスポンサーだったことの証左だろう。
そうしてRABが制作したかねさ味噌や和田寛のCMのフィルムやテープを、HBC青森支局が受け取って札幌の本社や函館支社に輸送し、北海道で放送したことも当然あったことだろう。
HBCが最初に青森支局を置いた青森市浦町奥野315は、スポンサーであるかねさ味噌や和田寛、それらのCM制作を請け負っていたRABとの位置関係を考えれば、所在地の地理条件として好適だったのである。
【かねさ味噌の旧本社工場跡地にあるイオンタウン青森浜田】
■青森市長島に移転しHBC東北支社へ──報道活動も開始
こうしてHBC青森支局は浦町奥野を拠点に9年間ほど営業活動をしていたのだが、1975(昭和50)年には青森市長島に移転しHBC東北支社となる。
「1968年十勝沖地震 北海道と青森の局がテープ空輸で放送は無かった！」で述べた通り、1969(昭和44)年に青森テレビ(ATV)が開局するまでの間、JNNで青森県内の報道を担当したのはHBCではなく岩手放送(IBC)であったことが青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」に記されている。
ATVも開局しIBCの報道もお役御免といったところだが、なんと営業拠点でしかなかったHBCが青森県内での報道活動も一部担うようになったらしい。
1975(昭和50)年に青森県防災会議が定めた「昭和50年度青森県地域防災計画」の、26“原子力対策” (1)“原子力防災実施要領” イ“災害応急対策” (カ)“一般に対する広報措置” の項によれば、「災害の特殊性を考慮し、住民の不安と動揺、あるいは、流言飛語を防止するため、県災害対策本部長は、関係機関と緊密な連絡のもとに、次の期間に原稿を提供し、広報に努める。」とあり、その対象になるａ“放送局”の項にあるのはNHK青森放送局、RAB青森放送、ATV青森テレビ、そして北海道放送青森支局の4事業者である。
前述の通り1975(昭和50)年時点ではABAはまだ無く、北海道ではTVh以外の民放4局が開局済だったが、HBCが青森県外の放送局で唯一指定されているのである。
無論、HBCは青森に送信施設を持っていなかったので、青森県民に放送を通じて原子力防災広報を行うには函館からのテレビ(VHF6ch)とAMラジオ(900kHz)を送信するほかなかったが、青森県から公式に指定を受けるほどHBCは青森県に広く浸透した放送局だったということであろう。特に、原子力船むつの基地が置かれ後に原子力施設が増えていく下北半島では、HBCが北海道電監に公式に下北の一部はエリアだというくらいなのだから、受信事情的にHBCの存在感はRABに匹敵するほど大きなものだったのだろう。
HBCが東奥日報に雨降りテレビはお別れだと書かれてから16年、北海道新聞青森支局もｂ“新聞社”の項で青森県から指定を受けている。
やはりこの時の東奥日報もRABも面白い話ではなかっただろうと思うが、昭和30年代に比べれば敵対心は薄れていたのかもしれない。
【かつてHBC東北支社があったシンドウビル(青森市長島2丁目)】
■HBC東北支社の閉鎖と、相対的に存在感が増したUHBとTVh
青森県からの指定から年月が経ち、道新は1987(昭和62)年頃、HBCは2003(平成15)年に青森から撤退している。残念ではあるが、青森で商売をする魅力が薄れたのであろう。
HBCがラジオ聴取率で長年守って来た首位から陥落したのは、ライバルのSTVが1998(平成10)年に発行した「こちら どさんこ放送局 ＜札幌テレビ放送創立40周年記念＞」によれば1985(昭和60)年6月の聴取率調査からだという。青森でもSTVラジオリスナーが増え、さらに青森県でも1987(昭和62)年にはエフエム青森が開局し、東北支社ラジオ営業が獲得を目指す青森県のスポンサーを巡るライバルはRABラジオだけに留まらなくなった。
1991(平成3)年になるとテレビ売上高でもSTVが初めて道内民放首位を獲得するなど(出典：「札幌テレビ放送50年の歩み STV」)、それまで道内民放の雄として名を上げていたHBCにも蔭りが見え始める。
青森にもABAが開局し、それまでクロスネットだったRABがNTV系となるなど青森の放送局の所属系列が鮮明化すると、HBCにとっては同じTBS系のATVがあったこともあり、むしろ青森県では系列欠落となるフジテレビジョン系のUHBやテレビ東京系のTVhの存在感が増していった。青森ケーブルテレビは1992(平成4)年からUHB、1993(平成5)年からTVhの区域外再放送を青森で開始したが、HBCの区域外再放送が実施されることはなかった。
2003(平成15)年、地デジ化を待たずHBC東北支局は青森から撤退したが、2007(平成19)年に函館地区の地デジが始まると、従来のアナログ放送に比べて青森側でのHBCのエリアはかなり狭いものに変わってしまった。しかし、青森でそれが騒ぎになることはなかった。
【UHB本社(札幌市中央区)】
地デジ化で青森ケーブルテレビがTVhの区域外再放送を中止することが決まった際、東奥日報は2011(平成23)年6月24日付朝刊4面「フジ系もデジタル視聴可／来月から／青森ケーブルテレビで」と題した記事内で「テレビ東京系列のテレビ北海道の放送をアナログ放送で再送信しているが、地上デジタル放送への移行とともに終了する予定。」と報じた。しかしHBCが地デジ化で青森の受信エリアが狭くなったことを報じる記事は見当たらない。
他方、2015年にTVhの区域外再放送復活が決まると、同年10月22日付の東奥日報朝刊5面「オン・オフ／官民両方での経験生きた」で、「現相談役の三上巽社長時代から、十数回足を運んだ苦労がようやく実を結んだ」と感慨深げなのは、青森ケーブルテレビ(ACT)の佐藤健一社長(65)＝写真。テレビ北海道(TVH)と、そのキー局のテレビ東京をはじめ在京民放局との交渉の末、来年３月からTVHの放送が約５年ぶりに復活する。『アナログ放送時代のTVHの熱心な視聴者の要望と、情報格差をなくしたいとの思い』が、放送再開の原動力だったという。県職員、青森市助役・副市長などを経て2011年にACT入りし、今年4月に社長に就任。「地域全体を考える行政と、個々の経営体が集まり地域経済をつくる民間の両方の経験は、今回の交渉でも生きたと思う」と、毎年度末に県職員の民間再就職を批判的に報じる東奥日報が書いたとは思えない論調で、TVhの復活を実現した県職員OBを称賛しているのである。
このようにUHBやTVhの視聴可否如何については東奥日報も騒ぐほど浸透が進んだ一方で、かつて青森県に浸透した道新・HBCの撤退はまるで報じられず、静かに人知れず青森から去ったのである。
【青森ケーブルテレビの旧TVh受信点(青森市雲谷)】
■道新青森臨時支局の好意的報道は道新・HBCと東奥・RABの対決終焉の象徴である
そんな歴史も忘れ去られた2013(平成25)年、北海道新幹線開業にともない道新が青森臨時支局を青森市長島2丁目10-4ヤマウビル901に開設すると、東奥日報は3月28日付朝刊「新幹線開業控え青森に臨時支局 北海道新聞社」で、道新函館支社報道部長の「青森臨時支局を、青森県をはじめとする北東北の取材拠点とし、『青函新時代』の現状や未来を読者に伝えていきたい」というコメントを好意的に報じ、かつて海峡を挟んで対峙した道新・HBCと東奥・RABの歴史を知る者としては隔世の感を禁じ得ない。
その道新青森臨時支局も今は無く、HBCが青森に残した足跡も人々の記憶から消え去りつつある。
しかし前述の通り、おそらく青森県勢の高校野球を初めてテレビ中継したのはHBC函館実験局である。
そして、本県を代表する味噌醸造会社であるかねさ味噌の北海道内のシェア拡大に寄与したのはHBC青森支局が北海道内で放送したCMだったことも間違いあるまい。
HBCが青森県の政財界とも関わりを持ち、放送・メディア史において燦然と輝く記録を持っているのは間違いないのである。
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北海道放送(HBC)は東京以北で最初にテレビ放送を開始した民放である。札幌手稲山からの本放送開始は1957(昭和32)年4月1日で、全国でみても5位という早さであった。
そればかりではない。HBCは札幌での本放送開始から遡ること3年、1954(昭和29)年7月10日から8月31日まで函館市の北洋博覧会でテレビの実験放送も実施している。北海道放送社史編集委員会 編(1963)「北海道放送十年」によれば、送信点は函館公園に置かれ、VHF3ch、送信出力は映像50W・音声25W、空中線はスーパーターンスタイル3段、エリア半径8kmであったという。また、HBCは函館市内に48台、函館近隣町村に20台のテレビ受像機を配置したという。
函館で実験放送を行ったというなら、青森県側での受信例もあったのだろうかと気になるが、HBCがテレビを配置した函館近隣町村の中に、どうやら青森県下北郡大間町は含まれていないらしい。大間町が1992(平成4)年に発行した「大間町史」にも、実験局を受信したという記録はない。送信点が函館山ではなく麓の函館公園だったということもあり、大間は電波の見通し距離限界を越えていたように思われる。送信高などの詳しい情報はないが「北海道放送十年」に掲載された写真をみると、地上高10m程度だっただろう。
アンテナの利得情報もないので適当にスーパーターンアンテナ3段の利得を＋14dBと仮定し、函館公園の標高23m＋鉄塔10mで送信高33mでRadio mobileでシミュレーションしてみたのが上図である。
これをみると大間も赤くなっているので実験局のエリアに入ったのかと誤解しそうだが、アナログ放送で必要だった電界強度は70dBμV/mだったので実験局のエリアはピンクの部分に限られる。
実験局のエリアはおおむね旧亀田市と合併前の旧函館市の市街地周辺に限られるシミュレーション結果が出た。送信点の函館公園が函館山東麓のため、山影になる西部地区や北ふ頭、七重浜方面はあまり良くなかったようだ。青森県側に、実験局を受信するためだけにテレビを持つような世帯は無かっただろう。
ではHBCの函館実験局は青森県側に全く無関係かというと、さにあらず。
青森県側で受信した世帯はおそらく0であろう。しかし、HBCの実験局は函館を訪れた青森県の人々の動静も記録したらしい(今のように録画機材がないから文字記録に限られるが)ので紹介したい。
■HBC函館実験局が放送した青森関係者──県勢高校野球中継は初か
まずは、青森県知事・津島文治。
津島文治は文豪・太宰治(本名・津島修治)の実兄であり、1947(昭和22)年に初の公選知事として青森県知事に就任、函館の北洋博当時は通算3期目にあたる。津島文治は、北海道初の公選知事にして同じく青森県出身の田中敏文や、函館市長の宗藤大陸らと共に座談会に臨み、その模様をHBCが「北洋博と東北経済を語る」と題し番組化、実験局で放送したという。
我が国のテレビ放送自体は1953(昭和28)年に東京でNHK(JOAK-TV)と日本テレビ放送網(NTV)が放送を開始しているので、津島文治が上京時などにそれらのテレビ局のカメラに映っていれば話は別だが、青森県知事を初めてテレビに映したのはHBC函館実験局の可能性がある。
もう一つは、青森市立青森第一高等学校硬式野球部。
青森一高は今の青森県立青森北高校に相当する。1954年の北海道国体に出場した全国の野球部12校の一つであり、一回戦で東京都代表・早稲田実業と対戦し残念ながら16-5で敗れた。「北海道放送十年」は「全国から選抜された十二高校による国体高校野球の熱戦を、函館市千代ヶ岱球場から実況放送」したと記録している。HBCは今の函館オーシャンスタジアムで行われた青森一高の試合をテレビで実況中継したというのである。
青森県勢の高校野球をテレビ実況中継したのはHBCが最初ではないか。
我が国の高校野球のテレビ中継は1953(昭和28)年からNHKが開始したとされるが、1953年の夏の甲子園(第35回大会)の奥羽代表は秋田県立秋田高等学校(秋高)で、翌1954年の春のセンバツは東北から出場無し(東北大会の優勝は秋田市立秋田商業)、第36回大会も秋高が連続出場し、この間の青森県勢は甲子園に出場できなかった。つまり、1954年の北洋博時点でNHKによる青森県勢のテレビ中継はまだ行われていないのである。今日では高校野球のイメージが強い青森朝日放送(ABA)も1954年ではまだ影も形も無いどころか、NHK青森(JOTG)や青森放送(RAB)でさえもテレビ開局前である。
当ブログは、青森県勢の高校野球を初めてテレビ中継したのは、1954年の北海道国体の青森一×早実を中継した北海道放送(HBC)函館実験局とみている。
■HBC函館実験局はRABも視察していた
北洋博で沸き立つ函館市を訪れていたのは、津島知事や青森一高ナインだけではなかった。ともに青函連絡船発着点として後に姉妹都市となる対岸・青森市のラジオ青森(RAB、のちの青森放送)も、HBCの先進的なテレビ実験放送が気にならないはずがない。RABも北洋博の会場を訪れ、函館実験局のパラボラアンテナを撮影した白黒写真が1980(昭和55)年発行の「青森放送二十五年史」に掲載されている。
RAB撮影の写真のバックに移る船舶には「YOTEI」の文字がみえ青函連絡船の函館桟橋かと想像されるが、事実、HBCは1954年8月7日、昭和天皇皇后両陛下がお召し船の洞爺丸で函館に上陸される様子の生中継も実施しており、「北海道放送十年」によれば翌8月8日の北海道新聞は一面で「圧巻HBCテレビの実況、夜の大門、天皇ブーム現出」と、大きく激賞したという。HBCの母体たる道新も、テレビで天皇行啓を生中継という革新的な快挙に鼻高々だったのである。
北洋博にともなうHBCの実験放送が華々しく終了したのは1954年8月31日。洞爺丸が函館湾で悲劇を迎えるのは、HBCによる昭和天皇函館行啓の生中継からわずか50日後のことであった。
■HBCと対峙する対岸・RABのテレビ放送
HBCテレビが本放送開始で函館に帰ってきたのは1958(昭和33)年12月だった。これに先立ち函館地区ではNHK函館(JOVK)も1957(昭和32)年3月に本放送を開始しており、「北海道放送十年」には送信所建設時にNHKから妨害があったことが記録されているが、当ブログが焦点を当てたいのはNHKよりも対RABの方である。
札幌手稲山の親局の1chの放送波が非常に良好に伝搬することから、NHKや札幌テレビ放送(STV)が中継局の開設時に回線の一工夫、二工夫を要する時でもHBCは不要で済むことから、「北海道放送二十年」で「第1チャンネルの威力」と自認するほどである。「北海道放送十年」によれば、HBCは函館放送局(JOHO-TV)の設置でも、当初は「第1チャンネルの威力」を武器に七飯山(七飯岳のことか？)で手稲山の親局1chを受信する案もあったという。
ところが、対岸の青森でRABも手稲山と同じVHF1chが割り当てられたことが判明し、「第1チャンネルの威力」作戦は、「受信所におよぼす影響などを考えてとりやめ、電電公社のマイクロを使用、室蘭局(JOQF-TV)とも共用することにした」という。
青森でRABがテレビ放送を開始したのは1959(昭和34)年9月、HBC函館の本放送開始から9か月遅れだった。
HBCはRABを社史で名指しで批判している部分は無いが、内心、面白くないとは思っていたのかもしれない。このとき函館と一緒に開局したHBC室蘭はVHF11chだったが、後に「北海道放送二十年」でRAB八戸局11chの混信によるオフセットビート障害があったと記載しており、電波をめぐる制空権の争いは両社のあいだで燻っていたようだ。
■青森もエリアだと公式に宣言していたHBC
地デジの今となっては、青森県でHBCはテレビ北海道(TVh)と共に受信難易度が高い局になったように思うが、「北海道放送十年」を読むと、アナログ放送が開始したばかりの頃は青森県もエリアの一部に入れたかったのだろうという思惑が垣間見える時がある。実際、HBCが函館放送局テレビ(JOHO-TV)の免許申請時に北海道電監に提出した「放送区域及び放送区域内世帯数」の総世帯数110,404世帯のうち10,024世帯は青森県下北郡の一部のものである。公式に下北の一部はエリアであると国に申請し、実情は下北以外に津軽半島北部の今別や三厩もエリアに入っていたのは言うまでもない。
テレビではなくラジオの統計であることに留意が必要だが、1961(昭和36)年時点のHBCラジオの放送局管内別聴取世帯数が「北海道放送十年」に記載されている。
もちろん世帯数トップは道都を擁する札幌放送局管内で473,000世帯だが、それに次ぐ世帯数は函館放送局──いや、正確には第2位は旭川放送局の146,000世帯であるが、第3位の函館放送局は道内の129,000世帯に「その他(青森県)」の106,000世帯を加え235,000世帯にも達し、札幌管内に次ぐ世帯数だ(青森県は一部釧路局エリアに入るとされるが誤差の範囲とした)。
「その他(青森県)」の世帯数は釧路、帯広、網走、北見、名寄の放送局管内を上回り、HBCラジオのエリア世帯数の上積みに大きく寄与していたのである。
HBCテレビは青森県でAMラジオほど広くエリアを持てなかったが、それでも函館送信所が稼ぐ青森県側のエリア世帯数の上積みに期待する部分もあったのだろう。松前や福島、江差、大成、北檜山などは細やかに中継局を建てなければエリアに入らないが、青森県は函館から電波を出しておけば津軽海峡側や、場合によっては青森市の一部でもエリアに入るのだから、効果的に世帯数を上積みするのに好適だったわけである。
1959(昭和34)年8月、HBCは全道テレビ局サービスエリアおよび受像調査を、「道南・青森地区」で実施している。「北海道放送十年」には受像調査の結果の詳細が無いが、HBCは公然と青森も受像調査の対象エリアだと言うわけである。翌月にテレビ開局を控えたRABにしてみれば面白くない話であったに違いない。
RABテレビの本放送開始の10日前、1959(昭和34)年9月20日の東奥日報のテレビ欄の下方にあるのは日本電気─NECのテレビの広告である。売り出しているのは“超長距離用”のテレビ機種である。つまり、放送局公式のエリアから離れた遠隔地でテレビを視聴したい人に向けた機種である。
これが意味するのは、青森ではエリア外のHBCを見るために感度の高い“超長距離用”テレビが売れるとNECが想定していたということだろう。もちろん、いくら“超長距離用”とは言え実際に青森で全く映らないのであればNECもマーケティングに動くことは無かろう。恐らく、HBCは「道南・青森地区」で実施した受像調査の結果を、広告業界やテレビメーカー、アンテナメーカー等にも伝えていて、NECも青森ではHBCが映る──商機ありと確信していたのだろう。
■道新・HBCを迎撃する東奥・RAB
ここで青森側(東奥日報・RAB)が道新・HBCをどのように受け止めていたか、みていきたい。
RABが、──というより出資主体である東奥日報社がRABを通じて出している声明のようにも思うが、「青森放送二十五年史」においてHBCを念頭に置き北海道新聞の対応を批判的に記述している一節があるので引用する。
北海道放送の親会社は北海道新聞(道新)であるが、(中略)道新は全道を、その一県域と考えているばかりでなく、その販売勢力圏を全道に青森県の大部分を合わせたものと宣伝しており、この勢力範囲への中央有力紙の進出を拒んでいた。道新はいち早く二十六年十一月に北海道放送を設立し、翌二十七年三月に本放送を開始している。さらに同年九月には、地形的に聴取不能地域である函館に放送局設置を申請して、他社の北進を許さぬ構えをみせていた。
(中略)東奥日報社も事情の容易ならぬことを知り、放送の免許申請を決意し、その行動を起こした。
(中略)東奥日報社も事情の容易ならぬことを知り、放送の免許申請を決意し、その行動を起こした。
宮城県紙・河北新報社による東北放送(TBC)の青森局設置計画を東奥日報・RABが阻止に成功した話は比較的知られているかと思われるが、実際のところ青森県の電波制空権をめぐって交戦状態にあったのは道新・HBCの方だろう。日本一広い県・岩手のさらに向こうにある宮城の電波は青森に届かないが、津軽海峡を挟んだだけの北海道の電波は容易に青森に届くのである。
NHK青森テレビ(JOTG-TV)が開局した翌日1959(昭和34)年3月23日、東奥日報は「県下一帯と秋田県北に鮮明な映像を結んだ。これまでのNHK函館テレビや、北海道放送テレビの電波で満足できなかった聴視者は、これでやっと"雨降りテレビ"に別れをつげ、千秋楽の大相撲実況に同市内のラジオ店前は黒山の人だかりだった」と、映像が鮮明でないNHK函館(VK)やHBCとはお別れだと大々的に報じた。表向きは青森県初のテレビ放送開始を慶事として取り上げているようにもみえるが、約半年後にテレビ開局を控えたRABが順調に滑り出せるよう東奥日報が“援護射撃”しているようにも受け取れる。
RABテレビがサービス放送を開始すると、翌日1959(昭和34)年9月15日の東奥日報は以下のように報じた。
十四日から始まる サービス放送 ラジオ青森テレビ
長い間県民から待たれていたチャンネル1、ラジオ青森テレビが十四日十一時三十分のテストパターンコンサートを皮切りに、いよいよサービス放送を開始した。地元のテレビとの興味からチャンネル1にダイヤルを合わせた人たちは熱心にこの 処女放送 に見入っていたが、本県にもこれでようやく二つのテレビ局ができ、チャンネルを選べる日が来たわけ。
テスト放送とあって画像に多少のブレがあったが、処女放送としてはまあ合格─というのが一般の声。とくに地元ニュース番組として午後零時から五分間登場した東奥日報ニュースは、身近な出来事がテレビに登場するとあつて、なかなかの好評だつた。
長い間県民から待たれていたチャンネル1、ラジオ青森テレビが十四日十一時三十分のテストパターンコンサートを皮切りに、いよいよサービス放送を開始した。地元のテレビとの興味からチャンネル1にダイヤルを合わせた人たちは熱心にこの 処女放送 に見入っていたが、本県にもこれでようやく二つのテレビ局ができ、チャンネルを選べる日が来たわけ。
テスト放送とあって画像に多少のブレがあったが、処女放送としてはまあ合格─というのが一般の声。とくに地元ニュース番組として午後零時から五分間登場した東奥日報ニュースは、身近な出来事がテレビに登場するとあつて、なかなかの好評だつた。
東奥日報はまさに自画自賛という感じで、「チャンネルを選べる日が来た」とまで書いており、まるでそれまで選ぶことが出来たHBCの存在が無かったかのような書きぶりで出資したRABテレビを持ち上げている。とはいえ実際のところ、同日の東奥日報のテレビ欄にあるのはNHK��とHBC��の2チャンネルのみであるし、青森でHBCの視聴が出来た人たちが「お別れ」よりも「関係継続」を選んでいたことの証左だろう。RAB��がテレビ欄に出てくるのは9月20日からであるが、下の方に追いやられながらもHBC��は残っている。
本放送開始後、RABテレビはNTV系列、HBCはTBS系列で番組の住み分けも相当あったので、やがてUHFの放送が始まってからは北海道テレビ(HTB)や北海道文化放送(UHB)、TVhの受信へと移行していった人たちもいたことは、火を見るよりも明らかである。
■青森に戦前から進出していたHBCの設立母体・北海道新聞社
現在の感覚では道新が青森を勢力圏に入れているかと言えば疑問に感じるところだが、1964(昭和39)年に発行した「北海道新聞二十年史」をみると実際、道新は1942(昭和17)年に青森支局を設置、翌1943(昭和18)年には下北郡大湊町(現むつ市)に大湊通信部も設立している。1948(昭和23)年1月からは函館支社管内で「青森版」を発行し、1950(昭和25)年10月に「道南・青森版」に改め、1951(昭和26)年1月に廃止するまで青森を意識した紙面作りをした記録がある。
1963(昭和38)年時点で、函館支社管内の道新発行部数は青森県発行分を込みで9万部だったといい、青森県内に道新の定期購読世帯がどれだけあったかは不明だが、当時は北海道と東京を1日がかりで国鉄で移動する人々が、連絡船乗換の青森駅で道新を買うことも珍しくなかった。「北海道新聞二十年史」には、本州出張の帰りに連絡船で道新を読むのが楽しみだという函館市の会社社長や、会議で上京しても行き帰りの函館と青森で必ず道新を買うという小樽市の団体役員の声が紹介されている。2024(令和6)年現在でも青森駅で道新が販売されているし、RAB・東奥日報社からは、道新と同様にHBCも青森県に電波で進入を試みるライバル社と敵視されていたのだろう。
北海道新聞青森支局は青森市大町(現在の本町2丁目付近)の最初の拠点を青森空襲で焼失後、一時閉鎖し野内村(現青森市)、青森市浪打、長島(町名変更で古川町)と幾度か移転を経て1972(昭和47)年には青森市安方2丁目に青森支局を移転させている。善知鳥神社の北側、現在のローソン青森安方二丁目店付近が最後の支局所在地で、1987(昭和62)年3月頃までに閉鎖されたようである(道新側発行資料での確認ができていないが、東奥日報社の「東奥年鑑」や河北新報社の「河北年鑑」に記載がある在青新聞社のリストをみると、1986年度時点では道新青森支局があるが1987年度時点では無くなっており、1987年3月頃の撤退と推測している)。
■青森市にあったHBC青森支局→東北支社の変遷をみてみる
HBC青森支局(のち東北支社と改称)は1966(昭和41)年2月に青森市浦町奥野に最初の青森支局を開設し、1975(昭和50)年に青森市長島2丁目に移転し東北支社と改称、2003(平成15)年に閉鎖された。
上図は1967(昭和42)年に撮影された青森市の航空写真に、道新やHBCが青森市に置いた拠点のおおよその位置をプロットしたものである。
戦災で焼失後に短期間だけ移転した道新の野内と浪打は別にして、HBC青森支局が所在した青森市浦町奥野315(当時)という位置は異色に映る。大町(本町)、古川、長島などは青森市都心部に近く、いずれも青森周辺での営業活動や国鉄・青函連絡船で函館や秋田、仙台方面へのアクセスにも便利な位置であろうが、浦町奥野315のHBC青森支局は当時ではいささか街外れという位置である。
なぜHBC青森支局が浦町奥野315に置かれたのか、「北海道放送二十年」にある「酸ヶ湯をはじめとする青森県下の観光地、和田寛かねさ津軽三年味噌など醸造会社の出稿があり、函館放送局営業マンが月に一、二度出張プロモートに当たっていた」という記載がヒントである。青森県内の主要スポンサーへのアクセスという点で、浦町奥野315は適地である。
上の航空写真の図のとおりHBC青森支局が最初に置かれた当時の浦町奥野315は、味噌メーカーのかねさ味噌(青森市浜田玉川)と醤油メーカーの和田寛食料工業(青森市松原)のほぼ中間に位置した。当時はまだ観光通り(後の国道103号)の整備前で原形になる道路は一応あるものの、主要地方道・青森県道1号青森十和田湖線が青森市堤町から浦町奥野を経て見性寺前を通っていた時代であり、青森から酸ヶ湯に向かうメインルートであった(今の主要地方道・青森県道27号青森浪岡線の妙見交差点以北である)。
さらにいえば、桜川を経由してRABも比較的近い位置にあった。
「北海道放送二十年」によれば、酒造関係の広告出稿を狙って秋田市に支局開設をという意見も社内にあったとされるが、従来の函館支社が担当していた青森との関係性や、前述の通り味噌や醤油メーカーがスポンサーとして存在することから青森に拠点を置き、「秋田、山形、遠く新潟まで活動範囲」にしていたという。
秋田の日本酒メーカーは数社あるが、美酒爛漫の秋田銘醸など今でも首都圏で放送するスポンサーもあるし、山形も節分シーズンとなればでん六のCMは広く放映される。そして新潟と言えば洋菓子のブルボン(当時は北日本食品工業)や煎餅・柿の種で有名な亀田製菓、本州産味噌では道内でかねさに次ぐ流通があったとされるマルダイ味噌、道民の暮らしに必需品となるストーブのコロナなど、錚々たるスポンサーが幾つも存在する。
それらをHBC青森支局が担当していたのかもしれないと思えば、営業範囲は非常に壮大で、重要な営業拠点だったのだろうと思わずにいられない。
■かねさの北海道内流通拡大に貢献したHBC青森支局──RABも間接的に寄与
現在でこそ北海道は都道府県別の味噌生産量で全国五指に入るが、寒冷な気候ゆえ本州と同じ醸造方法では良質な味噌を製造できず低迷した時代があり、かつては本州、その中でもとりわけ青森県からの味噌の移入量が非常に大きなウェイトを占めていた。
北海道庁の企画振興部経済調査室が1986(昭和61)年に発行した「北海道経済調査」に沓沢隆が寄稿した「農産物加工業の市場構造に関する調査--北海道の味噌･醤油を対象として」によれば、北海道を主な販売市場とする味噌製造会社として青森県のK味噌�蠅�挙げられているが、かねさ味噌のことであることは明らかである。沓沢(1986)は歴史的に北海道で味噌製造業が興る以前からかねさ味噌が北海道を主要な販売市場として深く係わり、特に昭和40年代後半から急速にシェアを拡大したと指摘している。
まさにHBC青森支局が営業活動を盛んに行っていた時代と、かねさの道内シェア急拡大期はリンクするのである。
1995(平成7)年6月23日付の日本食糧新聞の記事「94年の地区別味噌需要、青森県産シェアが北海道で低下」によれば、1994(平成6)年の北海道における青森県産味噌のシェアは低下したと言っても40%を越えており、平成に入ってなお北海道では青森県産味噌の流通が非常に盛んだったのである。その多くが、かねさ味噌(三年ね太郎)であったことは言うまでもない。
そしてRABには、かねさや和田寛のCMを製作し高く評価された歴史がある。「青森放送二十五年史」によれば、1968(昭和43)年に制作した作品「かねさ味噌"冬"」は民放大会賞に入賞し、審査員の映画評論家・淀川長治に「かねさ味噌は、都会人にも郷愁を誘う。民芸の匂い。この味噌ならホンモノと思われてしまう」と評されたと記録されている。和田寛のほか、味噌・醤油関係ではマルサ味噌の作品もACC・CMフェスティバルで入賞した記録があり、RABはテレビ、ラジオともに青森県の味噌や醤油メーカーのCM制作で活躍したのである。味噌や醤油メーカーは青森県所在の貴重なスポンサーだったことの証左だろう。
そうしてRABが制作したかねさ味噌や和田寛のCMのフィルムやテープを、HBC青森支局が受け取って札幌の本社や函館支社に輸送し、北海道で放送したことも当然あったことだろう。
HBCが最初に青森支局を置いた青森市浦町奥野315は、スポンサーであるかねさ味噌や和田寛、それらのCM制作を請け負っていたRABとの位置関係を考えれば、所在地の地理条件として好適だったのである。
■青森市長島に移転しHBC東北支社へ──報道活動も開始
こうしてHBC青森支局は浦町奥野を拠点に9年間ほど営業活動をしていたのだが、1975(昭和50)年には青森市長島に移転しHBC東北支社となる。
「1968年十勝沖地震 北海道と青森の局がテープ空輸で放送は無かった！」で述べた通り、1969(昭和44)年に青森テレビ(ATV)が開局するまでの間、JNNで青森県内の報道を担当したのはHBCではなく岩手放送(IBC)であったことが青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」に記されている。
ATVも開局しIBCの報道もお役御免といったところだが、なんと営業拠点でしかなかったHBCが青森県内での報道活動も一部担うようになったらしい。
1975(昭和50)年に青森県防災会議が定めた「昭和50年度青森県地域防災計画」の、26“原子力対策” (1)“原子力防災実施要領” イ“災害応急対策” (カ)“一般に対する広報措置” の項によれば、「災害の特殊性を考慮し、住民の不安と動揺、あるいは、流言飛語を防止するため、県災害対策本部長は、関係機関と緊密な連絡のもとに、次の期間に原稿を提供し、広報に努める。」とあり、その対象になるａ“放送局”の項にあるのはNHK青森放送局、RAB青森放送、ATV青森テレビ、そして北海道放送青森支局の4事業者である。
前述の通り1975(昭和50)年時点ではABAはまだ無く、北海道ではTVh以外の民放4局が開局済だったが、HBCが青森県外の放送局で唯一指定されているのである。
無論、HBCは青森に送信施設を持っていなかったので、青森県民に放送を通じて原子力防災広報を行うには函館からのテレビ(VHF6ch)とAMラジオ(900kHz)を送信するほかなかったが、青森県から公式に指定を受けるほどHBCは青森県に広く浸透した放送局だったということであろう。特に、原子力船むつの基地が置かれ後に原子力施設が増えていく下北半島では、HBCが北海道電監に公式に下北の一部はエリアだというくらいなのだから、受信事情的にHBCの存在感はRABに匹敵するほど大きなものだったのだろう。
HBCが東奥日報に雨降りテレビはお別れだと書かれてから16年、北海道新聞青森支局もｂ“新聞社”の項で青森県から指定を受けている。
やはりこの時の東奥日報もRABも面白い話ではなかっただろうと思うが、昭和30年代に比べれば敵対心は薄れていたのかもしれない。
■HBC東北支社の閉鎖と、相対的に存在感が増したUHBとTVh
青森県からの指定から年月が経ち、道新は1987(昭和62)年頃、HBCは2003(平成15)年に青森から撤退している。残念ではあるが、青森で商売をする魅力が薄れたのであろう。
HBCがラジオ聴取率で長年守って来た首位から陥落したのは、ライバルのSTVが1998(平成10)年に発行した「こちら どさんこ放送局 ＜札幌テレビ放送創立40周年記念＞」によれば1985(昭和60)年6月の聴取率調査からだという。青森でもSTVラジオリスナーが増え、さらに青森県でも1987(昭和62)年にはエフエム青森が開局し、東北支社ラジオ営業が獲得を目指す青森県のスポンサーを巡るライバルはRABラジオだけに留まらなくなった。
1991(平成3)年になるとテレビ売上高でもSTVが初めて道内民放首位を獲得するなど(出典：「札幌テレビ放送50年の歩み STV」)、それまで道内民放の雄として名を上げていたHBCにも蔭りが見え始める。
青森にもABAが開局し、それまでクロスネットだったRABがNTV系となるなど青森の放送局の所属系列が鮮明化すると、HBCにとっては同じTBS系のATVがあったこともあり、むしろ青森県では系列欠落となるフジテレビジョン系のUHBやテレビ東京系のTVhの存在感が増していった。青森ケーブルテレビは1992(平成4)年からUHB、1993(平成5)年からTVhの区域外再放送を青森で開始したが、HBCの区域外再放送が実施されることはなかった。
2003(平成15)年、地デジ化を待たずHBC東北支局は青森から撤退したが、2007(平成19)年に函館地区の地デジが始まると、従来のアナログ放送に比べて青森側でのHBCのエリアはかなり狭いものに変わってしまった。しかし、青森でそれが騒ぎになることはなかった。
地デジ化で青森ケーブルテレビがTVhの区域外再放送を中止することが決まった際、東奥日報は2011(平成23)年6月24日付朝刊4面「フジ系もデジタル視聴可／来月から／青森ケーブルテレビで」と題した記事内で「テレビ東京系列のテレビ北海道の放送をアナログ放送で再送信しているが、地上デジタル放送への移行とともに終了する予定。」と報じた。しかしHBCが地デジ化で青森の受信エリアが狭くなったことを報じる記事は見当たらない。
他方、2015年にTVhの区域外再放送復活が決まると、同年10月22日付の東奥日報朝刊5面「オン・オフ／官民両方での経験生きた」で、「現相談役の三上巽社長時代から、十数回足を運んだ苦労がようやく実を結んだ」と感慨深げなのは、青森ケーブルテレビ(ACT)の佐藤健一社長(65)＝写真。テレビ北海道(TVH)と、そのキー局のテレビ東京をはじめ在京民放局との交渉の末、来年３月からTVHの放送が約５年ぶりに復活する。『アナログ放送時代のTVHの熱心な視聴者の要望と、情報格差をなくしたいとの思い』が、放送再開の原動力だったという。県職員、青森市助役・副市長などを経て2011年にACT入りし、今年4月に社長に就任。「地域全体を考える行政と、個々の経営体が集まり地域経済をつくる民間の両方の経験は、今回の交渉でも生きたと思う」と、毎年度末に県職員の民間再就職を批判的に報じる東奥日報が書いたとは思えない論調で、TVhの復活を実現した県職員OBを称賛しているのである。
このようにUHBやTVhの視聴可否如何については東奥日報も騒ぐほど浸透が進んだ一方で、かつて青森県に浸透した道新・HBCの撤退はまるで報じられず、静かに人知れず青森から去ったのである。
■道新青森臨時支局の好意的報道は道新・HBCと東奥・RABの対決終焉の象徴である
そんな歴史も忘れ去られた2013(平成25)年、北海道新幹線開業にともない道新が青森臨時支局を青森市長島2丁目10-4ヤマウビル901に開設すると、東奥日報は3月28日付朝刊「新幹線開業控え青森に臨時支局 北海道新聞社」で、道新函館支社報道部長の「青森臨時支局を、青森県をはじめとする北東北の取材拠点とし、『青函新時代』の現状や未来を読者に伝えていきたい」というコメントを好意的に報じ、かつて海峡を挟んで対峙した道新・HBCと東奥・RABの歴史を知る者としては隔世の感を禁じ得ない。
その道新青森臨時支局も今は無く、HBCが青森に残した足跡も人々の記憶から消え去りつつある。
しかし前述の通り、おそらく青森県勢の高校野球を初めてテレビ中継したのはHBC函館実験局である。
そして、本県を代表する味噌醸造会社であるかねさ味噌の北海道内のシェア拡大に寄与したのはHBC青森支局が北海道内で放送したCMだったことも間違いあるまい。
HBCが青森県の政財界とも関わりを持ち、放送・メディア史において燦然と輝く記録を持っているのは間違いないのである。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」
・青森県防災会議(1975)「昭和50年度青森県地域防災計画」
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・大間町(1992)「大間町史」
・河北新報社編集局 編(1986)「河北年鑑 昭和62年版」
・河北新報社編集局 編(1987)「河北年鑑 昭和63年版」
・沓沢隆(1986)「農産物加工業の市場構造に関する調査--北海道の味噌･醤油を対象として」北海道企画振興部経済調査室「北海道経済調査」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1998)「こちら どさんこ放送局 ＜札幌テレビ放送創立40周年記念＞」
・札幌テレビ放送創立50周年記念事業推進室(2008)「札幌テレビ放送50年の歩み STV」
・東奥日報社(1959)「青森でテレビ初放送」1959(昭和34)年3月23日付東奥日報
・東奥日報社(1959)「十四日から始まる サービス放送 ラジオ青森テレビ」1959(昭和34)年9月15日付東奥日報
・東奥日報社(1986)「東奥年鑑」
・東奥日報社(1987)「東奥年鑑」
・東奥日報社(2011)「フジ系もデジタル視聴可／来月から／青森ケーブルテレビで」2011(平成23)年6月24日付東奥日報
・東奥日報社(2013)「新幹線開業控え青森に臨時支局 北海道新聞社」2013(平成25)年3月28日付東奥日報
・東奥日報社(2015)「オン・オフ／官民両方での経験生きた」2015(平成27)年10月22日付東奥日報
・東京放送社史編集室(1965)「東京放送のあゆみ」
・日興出版青森販売(1970)「青森市住宅地図」
・日本食糧新聞社(1995)「94年の地区別味噌需要、青森県産シェアが北海道で低下」1995(平成7)年6月23日付日本食糧新聞
・北海道新聞社(1964)「北海道新聞二十年史」
・北海道新聞社(1973)「北海道新聞三十年史」
・北海道放送社史編集委員会・編(1963)「北海道放送十年」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・青木貞伸編著(1981)「日本の民放ネットワーク : JNNの軌跡」
・青森県防災会議(1975)「昭和50年度青森県地域防災計画」
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・大間町(1992)「大間町史」
・河北新報社編集局 編(1986)「河北年鑑 昭和62年版」
・河北新報社編集局 編(1987)「河北年鑑 昭和63年版」
・沓沢隆(1986)「農産物加工業の市場構造に関する調査--北海道の味噌･醤油を対象として」北海道企画振興部経済調査室「北海道経済調査」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1998)「こちら どさんこ放送局 ＜札幌テレビ放送創立40周年記念＞」
・札幌テレビ放送創立50周年記念事業推進室(2008)「札幌テレビ放送50年の歩み STV」
・東奥日報社(1959)「青森でテレビ初放送」1959(昭和34)年3月23日付東奥日報
・東奥日報社(1959)「十四日から始まる サービス放送 ラジオ青森テレビ」1959(昭和34)年9月15日付東奥日報
・東奥日報社(1986)「東奥年鑑」
・東奥日報社(1987)「東奥年鑑」
・東奥日報社(2011)「フジ系もデジタル視聴可／来月から／青森ケーブルテレビで」2011(平成23)年6月24日付東奥日報
・東奥日報社(2013)「新幹線開業控え青森に臨時支局 北海道新聞社」2013(平成25)年3月28日付東奥日報
・東奥日報社(2015)「オン・オフ／官民両方での経験生きた」2015(平成27)年10月22日付東奥日報
・東京放送社史編集室(1965)「東京放送のあゆみ」
・日興出版青森販売(1970)「青森市住宅地図」
・日本食糧新聞社(1995)「94年の地区別味噌需要、青森県産シェアが北海道で低下」1995(平成7)年6月23日付日本食糧新聞
・北海道新聞社(1964)「北海道新聞二十年史」
・北海道新聞社(1973)「北海道新聞三十年史」
・北海道放送社史編集委員会・編(1963)「北海道放送十年」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
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