■今は無き北海タイムス系のテレビ局だったSTV
前回の「HBCの青森県での足跡を追う回」が好評だったので続編である。
北海道放送(HBC)が北海道新聞(道新)系であれば、札幌テレビ放送(STV)は道新のライバル・北海タイムス系であった。タイムス系だったという過去形なのは、同紙が既に廃業し存在しないからである。
戦前から青森県内に支局を設置し、戦後の一時期は青森版を発行した記録もあるブロック紙の道新と異なり、北海タイムスは道内の地方紙という性質が強く、青森県内での活動記録はほとんど無いに等しい。
タイムスは道外での活動も道新に比べると小規模で、さすがに東京と大阪に支社はあったが、仙台にあった東北支社は1959(昭和34)年2月から同年12月のわずか11カ月で閉鎖に至っている。
青森県内で積極的に活動した道新・HBCとは対照的な歴史をタイムス・STVは歩んできたのである。しかしタイムス・STVが意図的に青森を避けて来たという訳ではなさそうだ。
【STV本社(札幌市中央区)】
■ラジオタイムス以来の放送免許の不遇
タイムス・STVの特徴の一つとして、我が国の放送全体の歴史の黎明期において、ラジオでの不遇があったことを挙げたい。
道新がHBCを設立しラジオ放送に進出したのと同じく、タイムスも1952(昭和27)年に北海道電監にラジオタイムスの免許を申請した歴史がある。北海タイムス社(1981)「北海タイムス三十五年史」で同社元社長の武田厳道は「問題にされず却下された。北海道でのラジオは北海道放送一社で結構である、という当局の方針であった」と述懐し、監督官庁の郵政省にまるで相手にされずラジオ構想が頓挫した様子が窺がえる。
東奥日報社が道新・HBCの青森進出を敵視していたことは、前回、青森放送(1980)「青森放送二十五年史」の引用で紹介した通りだが、紙媒体(新聞)としても電波媒体(ラジオ)としても津軽海峡を渡ってこないのだから東奥日報からも無警戒の扱いを受けていて、青森放送(1980)にタイムスの名前は出てこない。
ラジオタイムスの構想却下から4年、テレビの免許申請でもタイムスは苦戦を強いられる。前出の北海タイムス社(1981)の武田厳道の述懐によれば、テレビも「北海道は現在の北海道放送一社でよろしい。あと一社をつくることは経営的にもむずかしい」と衆議院逓信委員会が報告したといい、全く暗澹たる気持ちの中で巻き返しを図るべく、道選出の自民党代議士団のみならず社会党の横路節雄(後に道知事となる横路孝雄の父)にもお願いをしたという。
代表発起人の選定でも北海道炭礦汽船(北炭)社長の萩原吉太郎を説得するのに難航し、1957(昭和32)年10月、ようやく郵政大臣の田中角栄から予備免許を与えられた。こうしてSTVは1959(昭和34)年4月1日に札幌でテレビ局として開局し、テレビ→ラジオの順で放送を開始した全国唯一の放送局となる。
【北海タイムスの題字】
■ラジオ斜陽期にも強かったHBCラジオと難産だったSTVラジオ
ところが、長谷川想(2023)「「日本の広告費」の歴史から読み解く、時代の変化」(電通「電通報」)によればSTVテレビが開局した1959(昭和34)年度は、ラジオ広告が162億円に対しテレビ広告が238億円に達し、初めてテレビがラジオを逆転した年でもある。
当のSTVも、札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」で「民放テレビの著しい進出に押されて、既設の民放ラジオは過去に築きあげたマスメディアの花形の地位を追われて、その行くてに翳りさえ出はじめていた」と、ラジオ業界が苦しい状況でラジオ開局に着手したことを認めている。
にもかかわらずラジオ開局した理由を「札幌テレビ放送二十年史」は「ラジオがテレビについで地元北海道の発展に欠かせない役割を果たす媒体であるという認識と使命感にほかならなかった」と殊勝なことのように述べているが、同じころ親会社のタイムスは「すでに経営上苦しい立場にあり、新社屋を建設したものの、エレベーターを付設できないほど資金繰りがひっ迫していた」状況にあった。
ラジオ斜陽期、しかも親会社のタイムスも経営不振に陥っている状況でSTVがラジオ開局の意志を貫徹した理由は、やはりHBCに営業で対抗するためラジオ開局せざるを得ないという高度な経営判断があったのだろう。
「札幌テレビ放送二十年史」で、1962(昭和37)年8月に開局したSTV釧路放送局の初代局長を務めた新保貞一取締役東京支社長は「ラ・テ兼営の強みをフルに発揮して展開する相手局の牙城に喰いこんでいく努力は並大抵でなかった」と、ラジオを持つHBCを相手に苦戦したことを述懐している。さらに札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1998)「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」には「当社創立の昭和33年、すでに全国各地のラジオ局の売上げはただ一局の例外を除いてテレビ局に逆転されていた。唯一の例外、それがわれわれが追いつき追い越す宿命を負ったHBCラジオであった。(中略)HBCラジオは(中略)昭和32年に開局したテレビ部門の赤字を当面支えたという。」という核心的な一文がある。
つまり全国でラジオが斜陽に差し掛かった時点でも北海道ではラジオ文化が根強く、HBCに対抗するためにはラジオ・テレビ兼営局(ラ・テ兼営局)にならざるを得ないとSTVは考えたのだろう。こうして1962(昭和37)年12月、STVラジオが札幌で放送開始するが、ラジオタイムスの構想から数えれば10年の月日が流れていた。
【STVアナログ函館局無指向性シミュレーション(Radio mobileで作成)】
■ラジオ出力はHBCより弱く、函館局も容易に青森まで届かず
ようやくラジオが始まるSTVだが、不遇はまだ続いている。
「札幌テレビ放送二十年史」によれば、1959(昭和34)年に初めてラジオ放送の免許を申請した際の出力は10kWだったが、申請拒否にあっている。このため、出力を一旦3kWに切り替えて再度申請、最終的に出力5kWで札幌局の免許を得たが、北海道放送社史編集委員会 編(1963)「北海道放送十年」によればHBCは1953(昭和28)年時点で札幌局の出力が10kWに増力されており、開局時点で免許上での格差があったのである。
青森に隣接する函館のラジオ局も同様である。「北海道放送十年」によれば、HBC函館ラジオは1956(昭和31)年10月1日から出力1kWの免許を得ているが、1964(昭和39)年2月3日に開局したSTV函館ラジオは出力100Wで、HBCの10分の1しかなかった。
以上のような郵政省が下付したラジオ放送免許におけるHBCとSTVの出力格差は、STVの青森側への進出を抑制する要因の一つになったと考えられる。
「札幌テレビ放送二十年史」のテレビ送信所にかんする部分では、1961(昭和36)年12月の函館放送局の開設で「本州青森県の北部の一部をエリアに含み(35頁)」、「エリアは青森県北部の一部を含む渡島半島全域に及び(448頁)」など、テレビ電波は青森県側にも届いたことが記録されているが、一方のラジオのエリアには青森という文字の記載がまるで存在しない。
「北海道放送十年」には青森県側のHBCラジオエリア世帯数が106,000世帯あることが明記され、北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」では釧路局が八戸市でも良好に聴取されたことが記録されたり、HBCラジオが青森県側でも広く聴取されていた歴史とは対照的である。黎明期のSTVラジオを青森県で受信し聴取するのは、出力が大きいHBCラジオと異なり容易でなかったのだろう。東奥日報にもSTVラジオの番組表が掲載されることはなかった。
1971(昭和46)年、STVラジオも札幌局のみHBCラジオと同じく出力50kWに増力されたことで、夜間なら青森で札幌局を受信することも出来るようになったようだが、最寄りの函館局の出力がHBCラジオに並ぶのはまだ先の話である。
【1964年2月4日の東奥日報ラテ欄 HBCはあるがSTVは無い】
■STVラジオは深夜以外、聴取率も奮わず
これでSTVラジオが面白ければ青森県民も聴取して、何らかの記録もあったのだろうが、STVラジオは1985(昭和60)年まで聴取率でHBCラジオに連敗が続いた。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」に1983(昭和58)年の聴取率の情報があるが、「平日では午前0時から2時までの深夜帯でのみSTVはHBCに大差をつけている」といい、それ以外の時間は悉く負けている状況だった。平日にSTVラジオがHBCラジオに勝てる時間は「アタックヤング」と「オールナイトニッポン」のみだったというのか。
札幌テレビ放送創立50周年記念事業推進室(2008)「札幌テレビ放送50年の歩み」で、後にSTVラジオで大活躍するパーソナリティたちが遠慮なく振り返る文章が面白い。1974(昭和49)年3月まで故郷・足寄町で生活した松山千春は「学生時代、我が足寄町はSTVラジオは入らなかった。電波が弱くて…。その頃、STVは「オールナイトニッポン」とか、オレらの聞きたい番組やってたんだけど、山のテッペンで酪農やってる奴とか、高い所に住んでいる奴しか聞けなくて、オレら市街地に住むおぼっちゃんは聞けなかったのよ。(笑い)」と、出力が低かったゆえにSTVラジオ難聴地域だった足寄の昔を冗談交じりに嘆き、日高晤郎には「当時この会社は2番手でいいという意識が蔓延していました」と厳しく評されるような状態であった。
STV自社制作の「アタヤン」(1970年放送開始)はともかく、「オールナイトニッポン」はRABラジオでも放送しているのだから、STVは番組内容的にも青森側への訴求力を開局から長い間にわたって持てなかったのである。
【日高晤郎のサイン色紙と写真(釧路市で撮影)】
■青函2市の行政交流のきっかけはSTVラジオか
ラジオ聴取、テレビ視聴では青森県民の支持獲得が広まらなかったものの、行政レベルではSTVの番組が今日の青函ツインシティ交流締結の嚆矢になったと思われる部分はある。
STV十年史編集委員会 編(1968)「STV10年の歩み」にはSTVがラジオで「青函経済圏首長会議」を主催した記録がある。放送日は1967(昭和42)年7月6日である。
函館財界問題研究所が1986(昭和61)年に発行した「はこだて財界 新年特大号」に「矢野函館市長と、奈良岡青森市長が42年7月6日におけるSTVの青函経済圏を語ると題する対談番組がきっかけとなり」青函圏経済文化振興協議会が発足し、そして青函経済圏促進協議会が発足したと指摘し、「函館市史デジタル版 通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み」にも函館市が「函館市は昭和42年10月、対岸の青森市と「青函経済圏促進協議会」を結成した」という記録がある。函館市としては「青函経済圏促進協議会」の結成についてSTVの寄与を記録していないものの、函館財界としてはSTVの番組がきっかけであるという認識なのかもしれない。HBCに比べSTVの青森との関わりを示す歴史的資料が少ないのは否めないが、「青函経済圏首長会議」が「青函経済圏促進協議会」のきっかけとなったというのはSTVによる青森とのかかわりを示す貴重な記録である。
【青森放送二十五年史283頁より引用転載 RABニュースレーダー】
■RABニュースレーダーに触発された「二時のワイドショー」に星澤幸子が出ていた
東奥日報・RABの陣営も、タイムスの新聞も海を越えてこなければ、STVラジオの電波も微弱で青森までまともに届かない上に聴取率でも奮わないのだから、道新・HBCに対して抱いていたような警戒感や敵視を持たなかったようだ。
青森側の一部地域に電波が届いたSTV函館テレビも、RABと同じ日本テレビ放送網(NTV)系列に所属し番組の多くが重複しており、雨降りテレビだと東奥日報に揶揄されながらも東京放送(TBS)系列の番組見たさに青森にも視聴者がいたHBCとは事情が異なる(1969年以降は青森テレビ(ATV)も開局して青森におけるTBS系列局としてHBCの訴求力は落ちる)。
RABも、STVはHBCのように自社の縄張りを荒らす商売敵になることはない相手だと認識していたのだろう。
実際、両社の社史を読むと、STVとRABの関係は悪くないどころか、良好だったと思わされる部分もある。「札幌テレビ放送二十年史」は338頁で、「二時のワイドショー」(大阪のよみうりテレビ(YTV)の同名番組とは異)の制作のきっかけとして、「昭和四十五年四月からはじまった青森放送の「RABニュースレーダー」」と名指しで、RABの成功を指摘している。
「RABニュースレーダー」に触発されてSTVが平日14時台に制作した「二時のワイドショー」から星澤幸子が生まれ、やがて大成功する「どさんこワイド」という大河に合流し大きな流れを生む一滴になるのだから面白い。
RABも「青森放送二十五年史」で、1972(昭和47)年6月3日に放送された「土曜特集」でSTVと共同企画した青函トンネル工事現場中継を成功だったと記録し、文末を「トンネル貫通の瞬間、STVとRABはテレビ二元ナマ中継を成功させるだろう」と熱い友情を感じさせる文章で締めくくっている。
STVとRABは同じ系列なのだから関係が良好なエピソードがあるのは当然だろうと思うかもしれないが、「青森放送二十五年史」にテレビ岩手(TVI)や宮城テレビ放送(当時はMTB)の話題はほぼ存在しない(秋田放送(ABS)の話題はいくつかある)。話題がないから関係が悪いという意味ではないが、RABにとって近隣系列局の中でもSTVは関係が良好なエピソードが多かったのだろう。
【RABが「日曜特集」で中継した青函トンネル竜飛口坑内】
■追いつけないHBCの背中と、追い越していくUHB
論を青森から北海道側の視点に戻す。1968(昭和43)年に北海道テレビ放送(HTB)、1972(昭和47)年に北海道文化放送(UHB)が開局し、北海道は関東以北で最も早く民放4局化を達成し競争が激化した。1970年代において、視聴率、聴取率、売上──いずれも首位をひた走るHBCにSTVは追いつけない。それどころか1980年代に入るとフジテレビジョン(CX)が軽チャー路線で成功し、同系列のUHBの猛追も受ける。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」は、1988(昭和63)年上半期にHBCとUHBに視聴率で負け、「HTBとしんがりを並走」する「開局以来最悪」の状況に追い込まれたと記録している。要因はキー局のNTVの視聴率の不振もあり、「キー局がくしゃみをすれば系列局は風邪をひく」と恨み節で表現している。
民放テレビ黎明期にNTVが地方系列局を集める強力な武器となった巨人戦ナイター中継も、王・長嶋のV9時代は良かったが巨人が負けこむようになると視聴率が低迷したという。一方で阪神がいたYTV、中日がいた中京テレビ放送(CTV)、カープがいた広島テレビ放送(HTV)などの地区は、「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」によれば「地元ファンが激増」したというが、当時まだ北海道日本ハムファイターズがなかった北海道は引き続き巨人ファンが大半を占めていた。1988年のセ・リーグ優勝球団は中日であり、負けこんだ巨人ファンに代わって視聴率を下支えする地元球団ファンなど存在しなければアンチ巨人も少ない北海道で、STVは巨人低迷による視聴率低下の猛威が直撃したのであろう。
■難産のSTVラジオがHBCに勝った
そんなSTVのテレビの苦境を脱出するきっかけの一つになるのが、ラジオ斜陽期に難産したラジオであるから歴史は面白い。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」や「札幌テレビ放送50年の歩み」は、聴取率でHBCを逆転するまでの試行錯誤を豊富に記録している。一例を挙げれば、木村洋二はカップル退出直後のラブホテルの部屋から生中継するとか、河村通夫による“便秘解消”・“男にしてくれる”と男女を引き付けた米ぬかのエピソード、中高生からアカシと呼び捨てにされ人気を誇る明石英一郎など、現在もSTVラジオで活躍する面々の若き日の数多の戦功が出てくる。テレビとは別個にラジオ部門が1984(昭和59)年に開始した「ラジオ活性化プロジェクト」が結実し、1985(昭和60)年に聴取率で初めて首位に立ち連勝し続ける記録は、まるでSTVの青春群像劇のようである。
STVの「ラジオ活性化プロジェクト」での成功はテレビの関係者にも影響を与え、「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば「ラジオに学べ」の大合唱が社内に巻き起こったという。
「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」は、当時のHBCラジオの人気番組として「はい！松永俊之です」や「ハロードライバー」、「ベストテンほっかいどう」など様々挙げているが“最強番組”として名指ししたのが「テレフォン人生相談」(ニッポン放送)である。「わがSTVの社員たちですら、出張の途時など車中でこの番組を楽しみにしていたほどである」という「テレフォン人生相談」に、自社制作番組「河村通夫の桃栗3年」が勝ったという事実が、NTVの視聴率低迷に振り回されるテレビ関係者を奮い立たせたのだろう。
【かつて最下位を並走したHTBは2024年視聴率首位を獲得した】
■STVテレビの躍進 ついに青森にも進出
テレビの視聴率競争において、1980年代後半から1990年代前半は全国的にはフジテレビ系が強くなっていたというが、北海道は最先発のHBCが強く、平日午後から夕方帯は自社制作の「パック2」から「水戸黄門(再放送)」、「テレポート6」への流れが強かったという。
STVはここに既にラジオで人気を誇っていた木村洋二と明石英一郎を投入し、さらには一度広島に転居し「二時のワイドショー」を降板していた星澤幸子が北海道に帰って来たのを知り料理コーナーに招聘。現在も続く「どさんこワイド」の成功の基礎を築きあげる。
「どさんこワイド」の成功によって夕方帯でHBCに勝利し、キー局のNTVもCXに対抗し開始した新番組が人気番組へと育ち始め、STVは1992(平成4)年にとうとう全日視聴率で北海道首位に立った。
ラジオの「日高晤郎ショー」で人気を誇った日高晤郎は、テレビのゴールデンタイムで「日高晤郎のスーパーサンデー」を成功に導いた。番組で最も多くゲスト出演したのはタレントでRAB社員の伊奈かっぺい。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」によれば伊奈かっぺい出演時の視聴率は18.0%に達したことが記録されている。ゲストによって視聴率は乱高下したというが、「中央番組に負けない自信をスタッフのみならずに植え付けた」といい、「札幌テレビ放送50年の歩み」には日高晤郎と伊奈かっぺいの2ショットの写真も掲載されているほどである。
「日高晤郎のスーパーサンデー」は1992年度にはRABにも同時ネットされることになり、名実ともにSTVは青森県に進出を果たすのである。戦前から道新が青森に進出していた道新・HBC陣営から遅れること半世紀、すでにSTVは北海タイムスの親元を離れた状態にあったが、タイムス・STV陣営もついに青森進出を果たすのである。
【1992年9月の東奥日報ラテ欄「日高晤郎のスーパーサンデー」吉幾三出演回】
快進撃にあるSTVで日高晤郎と絡んだ伊奈かっぺい以外の青森県人として存在感が大きいのは演歌歌手の吉幾三である。むしろ全国的には吉幾三の方が日高晤郎よりも有名であろう。吉幾三も「日高晤郎のスーパーサンデー」や「日高晤郎ショー」に度々ゲスト出演したが、「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば1991(平成3)年にスタートした年1回の特別番組「Oh!盆ふるさとワッショイ!!」は日高晤郎と伊奈かっぺいを司会進行役、吉幾三をゲストに起用し、RABや宮城のMMTなど東北各局はもとよりキー局のNTVも含めネットされたという(「札幌テレビ放送50年の歩み」発行の2008年時点でも継続)。STVが北海道のローカル局という枠組みを超え、北日本随一の基幹局としての性格を強めたのもこの頃かもしれない。
また、歴史の順序としては逆になるが、1983(昭和58)年から1991(平成3)年にかけて「アタヤン」を担当した田中義剛も八戸市出身であることを忘れずに記録したい。1994(平成6)年の「月刊民放3月号」(日本民間放送連盟 編)や1997(平成9)年の「企業と広告2月号」(チャネル)で、STVの伊坂重孝社長や山崎甲子男東京支社次長が田中義剛と共に名を挙げているのが松山千春(伊坂、山崎)と中島みゆき(伊坂)、KAN(山崎)なのだから、田中義剛もSTVの功労者の一人なのだろう。
こうした青森県出身タレントの列記をこじつけと感じる人もいるかもしれないが、NHK青森放送局の局史(1993)「歳月 あおもりふれあいの五十年」でも冒頭で記録されているのは、NHK函館放送局やNHK仙台放送局の番組に出演していた青森県人の記録なのであるから、同じようにSTV発信の資料にも存在することを明記しておきたい。
【RAB夕方生ワイド開始を報じる東奥日報夕刊(1995年2月10日付)】
■RAB「出会いふれあい生テレビ」と「どさんこワイド212」
STVの「どさんこワイド212」が北海道で大成功を収めたことで、追随してローカル情報番組を開始する地方局が1990年代は全国的に出現するようになる。
かつて「RABニュースレーダー」の成功でSTVにも影響を与えたRABも1995年4月から新番組の編成を決定し、番組開始に先立って1995(平成7)年2月10日の東奥日報夕刊が「夕方の街角から生中継 [RAB]4月新番組「情報なんでもワイド」 “生活ネタ”ふんだんに 双方向性テレビ目指す」と題してRABの新番組をPRしている。2月時点では「情報なんでもワイド」が主タイトルだったのか。
同記事を抜粋すると「夕方のローカル生ワイド番組は全国的に増えつつあり、現在は二十一局で放送中(同局調べ)だが、県内ではこれが初の試み。先駆けとなった札幌テレビ「どさんこワイド212」のような成功例もあるが、視聴率、営業面で苦戦しているケースが多いのも事実。」と、STVの「どさんこワイド212」に言及している。全国21局で放送している同種の番組がほとんど成功していないと言うのだから、RABがSTVの「どさんこワイド212」の成功に着想を得て番組を開始するのだろうことは何となく想像できる(他にも理由はあるだろうが)。
「どさんこワイド212」を成功に導いたMCがSTVラジオで活躍していた木村洋二と明石英一郎なら、RABもラジオから岡田照幸と橋本康成を「出会いふれあい生テレビ」に連れて来る。このように「どさんこワイド212」を想起させる共通点もあるが、RABがSTVを参考にしたとか目標にしたとは一切書いていないことに注目だ。
どうも1995(平成7)年前後から、RABとSTVの友好的な関係性が従前に比べると退潮したのではないかという気がしてくるのである。実際、伊奈かっぺい(RAB社員)が度々出演していた「日高晤郎のスーパーサンデー」も、RABは1993(平成5)年4月以降、STVからの同時ネットを解消しているのである。
【RAB出会いふれあい生テレビ広告を掲載する東奥日報朝刊(1995年3月9日付)】
■STVラジオの出力格差が解消 青森にもエリア拡大
1995(平成7)年3月、STVは郵政省より道内ラジオ中継局の出力を増力することが認められ、青森に隣接するSTVラジオ函館放送局(JOWN)も出力5kWとHBCに並び、周波数を639kHzに変更し放送を開始した。
HBCラジオ函館局(JOHO)が草創期から青森県の広い範囲をラジオのエリアに含んだように、STVラジオも青森県を広くカバーする形を整えたのである。放送広告代理店中央連盟が発行する「'2002全民放電波広告料金表」に、2002年当時のSTVラジオのエリアマップが載っているので引用転載する。
【STVラジオエリアマップ(「'2002全民放電波広告料金表」から引用転載)】
ご覧の通りで北海道に加えて青森県全域が描かれる地図となっており、エリアの境界を示すラインは青森県の広域に秋田県大館市付近、岩手県九戸郡種市町付近(現洋野町)までカバーする形になっている。青森県でエリアにならない地域は西津軽郡岩崎村(現深浦町)や三戸郡内陸部くらいか。
現在、STVラジオのエリアマップは公式HPで公表されていないが、2025年1月現在もエリアマップを公表しているHBCラジオの図(https://www.hbc.co.jp/hbc/hbc-guide/radio-area/)と比較しても遜色ない範囲をエリアに含むのである。
RABは「青森放送二十五年史」で、青森県の広域をエリアに含むことになるHBCラジオ函館局の開局を「事情の容易ならぬこと」だと東奥日報社が受け止めていたことを記録している。かつてのHBCラジオ函館局の開局と同じように、RABはSTVラジオ函館局のエリア拡大を好ましからざるものと受け止めていたことだろう。
RABの設立母体である東奥日報社は、1995(平成7)年の函館局増力で青森県内で受信状況が改善したSTVラジオの周波数情報や番組表をラテ欄に載せることをしなかった。HBCラジオ函館局の900kHzと番組表が引き続き掲載されていてもSTVラジオの存在は黙殺されたのである。
■青森市本町にSTV東北支社開設
RABの受け止めを知ってか知らずか、STVとしては当然、増力に伴いエリアが拡大した函館放送局周辺での営業活動を活発にしていく。函館財界問題研究所が1995(平成7)年に発行した「はこだて財界6月号」に、「聴取率ナンバーワンを誇るSTVラジオ 函館放送局増力記念感謝パーティー開催 伊坂札幌テレビ放送社長、ローカル局の増力は第二の開局と意義を強調 青森まで届く電波のなか、青函ツインシティ振興にも貢献と語る」と題した特集記事がある。これを抜粋したい。
青森市のみならず弘前市と八戸市、秋田の大館市もエリアに入ることをPRし、青森市に支局を置いて函館支社と一体で営業すると表明しているのだ。そのうえで、ラジオ放送にCMを出すならSTVを選ぶことで効果が出る──つまりHBCやRABより効果が上がると言っているようなものである。
「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば、青森市本町1丁目2-20住友生命柳町ビル(現・青森柳町ビル)への東北支局設置は1995(平成7)年3月1日であり、函館局出力5kW化でのエリア拡大と青森進出を合わせたことになる。東北支局の電話番号の下4桁は函館局の周波数(=639kHz)と同じく0639。ここまでやれば、いくら同じNTV系列とはいえRABもSTVに警戒心を抱かない方が不思議というものだろう。
【雪に埋もれた2025年の棟方志功記念館】
■40周年記念事業は「棟方志功の世界展」
1998(平成10)年、STVは創立40周年記念事業で「棟方志功の世界展」を北海道立函館美術館(1月6日〜2月1日)と北海道立近代美術館(2月6日〜3月19日)で開催した。棟方志功も青森市出身の版画家である。札幌だけではなく函館でも開催しており、青函一体で営業という1995(平成7)年の伊坂社長の発言と相違ない内容である。協賛社の存在など詳細な資料を発見できていないが、函館支社と青森市の東北支社も活躍したことだろう。
STVも東山魁夷や横山大観、イサム・ノグチなど多くの芸術家の展覧会を行っているので、棟方志功もそのうちの一人といえば一人なのかもしれないが、どうもSTVは棟方志功がお好きなのではと思いたくなることもある。
60周年の2018(平成30)年にも札幌テレビ放送と分社化したSTVラジオが主催で、北海道立近代美術館で「棟方志功展『わだば、ゴッホになる』」を開催しているのである。『わだば、ゴッホになる』の主催共催者はタイムスのライバルだった北海道新聞社であり、歴史の移り変わりを感じさせる関係となっている。そして協力社として青森市の棟方志功記念館とRABサービスが名を連ねているが、本体のRABではなく子会社のRABサービスというのが、2社の関係のぎこちなさを感じずにいられない。同展示会の協賛社にはみちのく銀行の名もあり、青森でのロケを実施した特別番組「棟方志功物語」も放送したという。
この2018(平成30)年に開催された「棟方志功展『わだば、ゴッホになる』」が、STVと青森の関わりを示すエピソードとしては久々のものだったように思える。
■仙台に移転したSTV東北支社の歴史は4年間
STV東北支社は青森に置かれてから9年後の2004年1月、仙台市青葉区大町1丁目2-1ライオンビルに移転した。同じく青森にあったHBC東北支局の撤退の翌年であり、青森県人としては悲しいが2003(平成15)〜2004(平成16)年頃は北海道民放が青森での商売に限界を感じ始めた時期のようだ。
ならば移転先の東北最大都市仙台でなら業績回復を果たせたのかというと、仙台でもさほど好転しなかったのだろう。2008年2月時点では同社ホームページ会社概要(当時のURLはhttp://www.stv.ne.jp/info/annai/index.html)に仙台の東北支社の存在が確認できたが、3月時点では消滅しており、2004年1月から2008年2月頃まで約4年で仙台から撤退したとみられる。かつての北海タイムス東北支社の11ヶ月という記録よりは長いが、仙台も魅力的なマーケットではなかったのだろう。「'2002全民放電波広告料金表」をみると、2002(平成14)年頃は新潟の民放も仙台に支社を置いていたが、2025(令和7)年現在では新潟の局でも残っている社は無く、スポンサーの存在に乏しかったのだろう。前身の青森時代の9年間から通算で13年、東日本大震災をみることなくSTV東北支社は東北地方から撤退した。
【STVラジオが東奥日報に初掲載されたのは2003年度から(2003年4月1日付)】
HBCが青森から撤退し、STVが仙台への転出を検討していたであろう2003(平成15)年になると、東奥日報もラテ欄にSTVラジオ 639kHzをようやく掲載開始した。函館開局から39年、5kW化からでも8年も経過していたが、2003(平成15)年というのは偶然なのだろうか。
STV東北支社としても、ラジオ営業が青森県内のスポンサーに売り込むにあたって青森県紙・東奥日報に番組表が載っていないというのはマイナスである。自社の知名度アップのためにならないばかりか、敵対するHBCの番組表は毎日載っていたのだ。
ここからは推測および仮説であるが、STVも東奥日報にラテ欄への自社番組表の掲載を依頼したこともあったのだろう。それを東奥日報が拒んでいたのだとすれば、1995(平成7)年以降、青森県の広い範囲をエリアとし脅威的な存在となったSTVラジオの攻勢からRABを援護したということではないだろうか。繰り返すがあくまでも推測である。
東奥日報・RAB陣営としては、北海道から電波で攻め込む主敵が、かつての道新・HBC陣営から強くなりすぎたSTVに変わった──という受け止めがあったのかもしれない。脅威たるSTVが青森の営業拠点を閉めて仙台に出て行こうとしている──ならば、もうラテ欄にSTVラジオを載せても問題ないだろうと東奥日報・RAB陣営が判断したのが2003(平成15)年だったのではないかと思うのである。
【かつてSTV東北支社が入居していた青森柳町ビル】
戦前から道新が青森県に進出し、函館テレビ実験局が青森県勢初の高校野球テレビ中継(北海道国体・青森一×早実)を放送したり、RABに先立って青森で初めて視聴された民放テレビであったり、北海道市場で急速に成長したかねさ味噌との関わりがあったり、原子力災害発生時の広報機関として青森県から指定を受けたなど様々な歴史をもつHBCに比べると、STVが青森県に関わった足跡は薄い。
しかしSTVにも現在の青函ツインシティに通ずる「青函経済圏首長会議」を主催した歴史があり、伊奈かっぺいや吉幾三、田中義剛、棟方志功など青森県出身者を人気番組やイベントに起用し、青森県民への訴求力はHBCよりも長けた局だったという印象はある。
1995(平成7)年〜2003(平成15)年まで青森に支局を置いていたSTVもまた、青森県のメディア史を振り返るにあたっては存在感のある一社であることに間違いないのである。
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前回の「HBCの青森県での足跡を追う回」が好評だったので続編である。
北海道放送(HBC)が北海道新聞(道新)系であれば、札幌テレビ放送(STV)は道新のライバル・北海タイムス系であった。タイムス系だったという過去形なのは、同紙が既に廃業し存在しないからである。
戦前から青森県内に支局を設置し、戦後の一時期は青森版を発行した記録もあるブロック紙の道新と異なり、北海タイムスは道内の地方紙という性質が強く、青森県内での活動記録はほとんど無いに等しい。
タイムスは道外での活動も道新に比べると小規模で、さすがに東京と大阪に支社はあったが、仙台にあった東北支社は1959(昭和34)年2月から同年12月のわずか11カ月で閉鎖に至っている。
青森県内で積極的に活動した道新・HBCとは対照的な歴史をタイムス・STVは歩んできたのである。しかしタイムス・STVが意図的に青森を避けて来たという訳ではなさそうだ。
■ラジオタイムス以来の放送免許の不遇
タイムス・STVの特徴の一つとして、我が国の放送全体の歴史の黎明期において、ラジオでの不遇があったことを挙げたい。
道新がHBCを設立しラジオ放送に進出したのと同じく、タイムスも1952(昭和27)年に北海道電監にラジオタイムスの免許を申請した歴史がある。北海タイムス社(1981)「北海タイムス三十五年史」で同社元社長の武田厳道は「問題にされず却下された。北海道でのラジオは北海道放送一社で結構である、という当局の方針であった」と述懐し、監督官庁の郵政省にまるで相手にされずラジオ構想が頓挫した様子が窺がえる。
東奥日報社が道新・HBCの青森進出を敵視していたことは、前回、青森放送(1980)「青森放送二十五年史」の引用で紹介した通りだが、紙媒体(新聞)としても電波媒体(ラジオ)としても津軽海峡を渡ってこないのだから東奥日報からも無警戒の扱いを受けていて、青森放送(1980)にタイムスの名前は出てこない。
ラジオタイムスの構想却下から4年、テレビの免許申請でもタイムスは苦戦を強いられる。前出の北海タイムス社(1981)の武田厳道の述懐によれば、テレビも「北海道は現在の北海道放送一社でよろしい。あと一社をつくることは経営的にもむずかしい」と衆議院逓信委員会が報告したといい、全く暗澹たる気持ちの中で巻き返しを図るべく、道選出の自民党代議士団のみならず社会党の横路節雄(後に道知事となる横路孝雄の父)にもお願いをしたという。
代表発起人の選定でも北海道炭礦汽船(北炭)社長の萩原吉太郎を説得するのに難航し、1957(昭和32)年10月、ようやく郵政大臣の田中角栄から予備免許を与えられた。こうしてSTVは1959(昭和34)年4月1日に札幌でテレビ局として開局し、テレビ→ラジオの順で放送を開始した全国唯一の放送局となる。
【北海タイムスの題字】
■ラジオ斜陽期にも強かったHBCラジオと難産だったSTVラジオ
ところが、長谷川想(2023)「「日本の広告費」の歴史から読み解く、時代の変化」(電通「電通報」)によればSTVテレビが開局した1959(昭和34)年度は、ラジオ広告が162億円に対しテレビ広告が238億円に達し、初めてテレビがラジオを逆転した年でもある。
当のSTVも、札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」で「民放テレビの著しい進出に押されて、既設の民放ラジオは過去に築きあげたマスメディアの花形の地位を追われて、その行くてに翳りさえ出はじめていた」と、ラジオ業界が苦しい状況でラジオ開局に着手したことを認めている。
にもかかわらずラジオ開局した理由を「札幌テレビ放送二十年史」は「ラジオがテレビについで地元北海道の発展に欠かせない役割を果たす媒体であるという認識と使命感にほかならなかった」と殊勝なことのように述べているが、同じころ親会社のタイムスは「すでに経営上苦しい立場にあり、新社屋を建設したものの、エレベーターを付設できないほど資金繰りがひっ迫していた」状況にあった。
ラジオ斜陽期、しかも親会社のタイムスも経営不振に陥っている状況でSTVがラジオ開局の意志を貫徹した理由は、やはりHBCに営業で対抗するためラジオ開局せざるを得ないという高度な経営判断があったのだろう。
「札幌テレビ放送二十年史」で、1962(昭和37)年8月に開局したSTV釧路放送局の初代局長を務めた新保貞一取締役東京支社長は「ラ・テ兼営の強みをフルに発揮して展開する相手局の牙城に喰いこんでいく努力は並大抵でなかった」と、ラジオを持つHBCを相手に苦戦したことを述懐している。さらに札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1998)「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」には「当社創立の昭和33年、すでに全国各地のラジオ局の売上げはただ一局の例外を除いてテレビ局に逆転されていた。唯一の例外、それがわれわれが追いつき追い越す宿命を負ったHBCラジオであった。(中略)HBCラジオは(中略)昭和32年に開局したテレビ部門の赤字を当面支えたという。」という核心的な一文がある。
つまり全国でラジオが斜陽に差し掛かった時点でも北海道ではラジオ文化が根強く、HBCに対抗するためにはラジオ・テレビ兼営局(ラ・テ兼営局)にならざるを得ないとSTVは考えたのだろう。こうして1962(昭和37)年12月、STVラジオが札幌で放送開始するが、ラジオタイムスの構想から数えれば10年の月日が流れていた。
■ラジオ出力はHBCより弱く、函館局も容易に青森まで届かず
ようやくラジオが始まるSTVだが、不遇はまだ続いている。
「札幌テレビ放送二十年史」によれば、1959(昭和34)年に初めてラジオ放送の免許を申請した際の出力は10kWだったが、申請拒否にあっている。このため、出力を一旦3kWに切り替えて再度申請、最終的に出力5kWで札幌局の免許を得たが、北海道放送社史編集委員会 編(1963)「北海道放送十年」によればHBCは1953(昭和28)年時点で札幌局の出力が10kWに増力されており、開局時点で免許上での格差があったのである。
青森に隣接する函館のラジオ局も同様である。「北海道放送十年」によれば、HBC函館ラジオは1956(昭和31)年10月1日から出力1kWの免許を得ているが、1964(昭和39)年2月3日に開局したSTV函館ラジオは出力100Wで、HBCの10分の1しかなかった。
以上のような郵政省が下付したラジオ放送免許におけるHBCとSTVの出力格差は、STVの青森側への進出を抑制する要因の一つになったと考えられる。
「札幌テレビ放送二十年史」のテレビ送信所にかんする部分では、1961(昭和36)年12月の函館放送局の開設で「本州青森県の北部の一部をエリアに含み(35頁)」、「エリアは青森県北部の一部を含む渡島半島全域に及び(448頁)」など、テレビ電波は青森県側にも届いたことが記録されているが、一方のラジオのエリアには青森という文字の記載がまるで存在しない。
「北海道放送十年」には青森県側のHBCラジオエリア世帯数が106,000世帯あることが明記され、北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」では釧路局が八戸市でも良好に聴取されたことが記録されたり、HBCラジオが青森県側でも広く聴取されていた歴史とは対照的である。黎明期のSTVラジオを青森県で受信し聴取するのは、出力が大きいHBCラジオと異なり容易でなかったのだろう。東奥日報にもSTVラジオの番組表が掲載されることはなかった。
1971(昭和46)年、STVラジオも札幌局のみHBCラジオと同じく出力50kWに増力されたことで、夜間なら青森で札幌局を受信することも出来るようになったようだが、最寄りの函館局の出力がHBCラジオに並ぶのはまだ先の話である。
■STVラジオは深夜以外、聴取率も奮わず
これでSTVラジオが面白ければ青森県民も聴取して、何らかの記録もあったのだろうが、STVラジオは1985(昭和60)年まで聴取率でHBCラジオに連敗が続いた。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」に1983(昭和58)年の聴取率の情報があるが、「平日では午前0時から2時までの深夜帯でのみSTVはHBCに大差をつけている」といい、それ以外の時間は悉く負けている状況だった。平日にSTVラジオがHBCラジオに勝てる時間は「アタックヤング」と「オールナイトニッポン」のみだったというのか。
札幌テレビ放送創立50周年記念事業推進室(2008)「札幌テレビ放送50年の歩み」で、後にSTVラジオで大活躍するパーソナリティたちが遠慮なく振り返る文章が面白い。1974(昭和49)年3月まで故郷・足寄町で生活した松山千春は「学生時代、我が足寄町はSTVラジオは入らなかった。電波が弱くて…。その頃、STVは「オールナイトニッポン」とか、オレらの聞きたい番組やってたんだけど、山のテッペンで酪農やってる奴とか、高い所に住んでいる奴しか聞けなくて、オレら市街地に住むおぼっちゃんは聞けなかったのよ。(笑い)」と、出力が低かったゆえにSTVラジオ難聴地域だった足寄の昔を冗談交じりに嘆き、日高晤郎には「当時この会社は2番手でいいという意識が蔓延していました」と厳しく評されるような状態であった。
STV自社制作の「アタヤン」(1970年放送開始)はともかく、「オールナイトニッポン」はRABラジオでも放送しているのだから、STVは番組内容的にも青森側への訴求力を開局から長い間にわたって持てなかったのである。
■青函2市の行政交流のきっかけはSTVラジオか
ラジオ聴取、テレビ視聴では青森県民の支持獲得が広まらなかったものの、行政レベルではSTVの番組が今日の青函ツインシティ交流締結の嚆矢になったと思われる部分はある。
STV十年史編集委員会 編(1968)「STV10年の歩み」にはSTVがラジオで「青函経済圏首長会議」を主催した記録がある。放送日は1967(昭和42)年7月6日である。
函館財界問題研究所が1986(昭和61)年に発行した「はこだて財界 新年特大号」に「矢野函館市長と、奈良岡青森市長が42年7月6日におけるSTVの青函経済圏を語ると題する対談番組がきっかけとなり」青函圏経済文化振興協議会が発足し、そして青函経済圏促進協議会が発足したと指摘し、「函館市史デジタル版 通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み」にも函館市が「函館市は昭和42年10月、対岸の青森市と「青函経済圏促進協議会」を結成した」という記録がある。函館市としては「青函経済圏促進協議会」の結成についてSTVの寄与を記録していないものの、函館財界としてはSTVの番組がきっかけであるという認識なのかもしれない。HBCに比べSTVの青森との関わりを示す歴史的資料が少ないのは否めないが、「青函経済圏首長会議」が「青函経済圏促進協議会」のきっかけとなったというのはSTVによる青森とのかかわりを示す貴重な記録である。
■RABニュースレーダーに触発された「二時のワイドショー」に星澤幸子が出ていた
東奥日報・RABの陣営も、タイムスの新聞も海を越えてこなければ、STVラジオの電波も微弱で青森までまともに届かない上に聴取率でも奮わないのだから、道新・HBCに対して抱いていたような警戒感や敵視を持たなかったようだ。
青森側の一部地域に電波が届いたSTV函館テレビも、RABと同じ日本テレビ放送網(NTV)系列に所属し番組の多くが重複しており、雨降りテレビだと東奥日報に揶揄されながらも東京放送(TBS)系列の番組見たさに青森にも視聴者がいたHBCとは事情が異なる(1969年以降は青森テレビ(ATV)も開局して青森におけるTBS系列局としてHBCの訴求力は落ちる)。
RABも、STVはHBCのように自社の縄張りを荒らす商売敵になることはない相手だと認識していたのだろう。
実際、両社の社史を読むと、STVとRABの関係は悪くないどころか、良好だったと思わされる部分もある。「札幌テレビ放送二十年史」は338頁で、「二時のワイドショー」(大阪のよみうりテレビ(YTV)の同名番組とは異)の制作のきっかけとして、「昭和四十五年四月からはじまった青森放送の「RABニュースレーダー」」と名指しで、RABの成功を指摘している。
「RABニュースレーダー」に触発されてSTVが平日14時台に制作した「二時のワイドショー」から星澤幸子が生まれ、やがて大成功する「どさんこワイド」という大河に合流し大きな流れを生む一滴になるのだから面白い。
RABも「青森放送二十五年史」で、1972(昭和47)年6月3日に放送された「土曜特集」でSTVと共同企画した青函トンネル工事現場中継を成功だったと記録し、文末を「トンネル貫通の瞬間、STVとRABはテレビ二元ナマ中継を成功させるだろう」と熱い友情を感じさせる文章で締めくくっている。
STVとRABは同じ系列なのだから関係が良好なエピソードがあるのは当然だろうと思うかもしれないが、「青森放送二十五年史」にテレビ岩手(TVI)や宮城テレビ放送(当時はMTB)の話題はほぼ存在しない(秋田放送(ABS)の話題はいくつかある)。話題がないから関係が悪いという意味ではないが、RABにとって近隣系列局の中でもSTVは関係が良好なエピソードが多かったのだろう。
■追いつけないHBCの背中と、追い越していくUHB
論を青森から北海道側の視点に戻す。1968(昭和43)年に北海道テレビ放送(HTB)、1972(昭和47)年に北海道文化放送(UHB)が開局し、北海道は関東以北で最も早く民放4局化を達成し競争が激化した。1970年代において、視聴率、聴取率、売上──いずれも首位をひた走るHBCにSTVは追いつけない。それどころか1980年代に入るとフジテレビジョン(CX)が軽チャー路線で成功し、同系列のUHBの猛追も受ける。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」は、1988(昭和63)年上半期にHBCとUHBに視聴率で負け、「HTBとしんがりを並走」する「開局以来最悪」の状況に追い込まれたと記録している。要因はキー局のNTVの視聴率の不振もあり、「キー局がくしゃみをすれば系列局は風邪をひく」と恨み節で表現している。
民放テレビ黎明期にNTVが地方系列局を集める強力な武器となった巨人戦ナイター中継も、王・長嶋のV9時代は良かったが巨人が負けこむようになると視聴率が低迷したという。一方で阪神がいたYTV、中日がいた中京テレビ放送(CTV)、カープがいた広島テレビ放送(HTV)などの地区は、「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」によれば「地元ファンが激増」したというが、当時まだ北海道日本ハムファイターズがなかった北海道は引き続き巨人ファンが大半を占めていた。1988年のセ・リーグ優勝球団は中日であり、負けこんだ巨人ファンに代わって視聴率を下支えする地元球団ファンなど存在しなければアンチ巨人も少ない北海道で、STVは巨人低迷による視聴率低下の猛威が直撃したのであろう。
■難産のSTVラジオがHBCに勝った
そんなSTVのテレビの苦境を脱出するきっかけの一つになるのが、ラジオ斜陽期に難産したラジオであるから歴史は面白い。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」や「札幌テレビ放送50年の歩み」は、聴取率でHBCを逆転するまでの試行錯誤を豊富に記録している。一例を挙げれば、木村洋二はカップル退出直後のラブホテルの部屋から生中継するとか、河村通夫による“便秘解消”・“男にしてくれる”と男女を引き付けた米ぬかのエピソード、中高生からアカシと呼び捨てにされ人気を誇る明石英一郎など、現在もSTVラジオで活躍する面々の若き日の数多の戦功が出てくる。テレビとは別個にラジオ部門が1984(昭和59)年に開始した「ラジオ活性化プロジェクト」が結実し、1985(昭和60)年に聴取率で初めて首位に立ち連勝し続ける記録は、まるでSTVの青春群像劇のようである。
STVの「ラジオ活性化プロジェクト」での成功はテレビの関係者にも影響を与え、「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば「ラジオに学べ」の大合唱が社内に巻き起こったという。
「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」は、当時のHBCラジオの人気番組として「はい！松永俊之です」や「ハロードライバー」、「ベストテンほっかいどう」など様々挙げているが“最強番組”として名指ししたのが「テレフォン人生相談」(ニッポン放送)である。「わがSTVの社員たちですら、出張の途時など車中でこの番組を楽しみにしていたほどである」という「テレフォン人生相談」に、自社制作番組「河村通夫の桃栗3年」が勝ったという事実が、NTVの視聴率低迷に振り回されるテレビ関係者を奮い立たせたのだろう。
■STVテレビの躍進 ついに青森にも進出
テレビの視聴率競争において、1980年代後半から1990年代前半は全国的にはフジテレビ系が強くなっていたというが、北海道は最先発のHBCが強く、平日午後から夕方帯は自社制作の「パック2」から「水戸黄門(再放送)」、「テレポート6」への流れが強かったという。
STVはここに既にラジオで人気を誇っていた木村洋二と明石英一郎を投入し、さらには一度広島に転居し「二時のワイドショー」を降板していた星澤幸子が北海道に帰って来たのを知り料理コーナーに招聘。現在も続く「どさんこワイド」の成功の基礎を築きあげる。
「どさんこワイド」の成功によって夕方帯でHBCに勝利し、キー局のNTVもCXに対抗し開始した新番組が人気番組へと育ち始め、STVは1992(平成4)年にとうとう全日視聴率で北海道首位に立った。
ラジオの「日高晤郎ショー」で人気を誇った日高晤郎は、テレビのゴールデンタイムで「日高晤郎のスーパーサンデー」を成功に導いた。番組で最も多くゲスト出演したのはタレントでRAB社員の伊奈かっぺい。「こちら どさんこ放送局 <札幌テレビ放送創立40周年記念>」によれば伊奈かっぺい出演時の視聴率は18.0%に達したことが記録されている。ゲストによって視聴率は乱高下したというが、「中央番組に負けない自信をスタッフのみならずに植え付けた」といい、「札幌テレビ放送50年の歩み」には日高晤郎と伊奈かっぺいの2ショットの写真も掲載されているほどである。
「日高晤郎のスーパーサンデー」は1992年度にはRABにも同時ネットされることになり、名実ともにSTVは青森県に進出を果たすのである。戦前から道新が青森に進出していた道新・HBC陣営から遅れること半世紀、すでにSTVは北海タイムスの親元を離れた状態にあったが、タイムス・STV陣営もついに青森進出を果たすのである。
快進撃にあるSTVで日高晤郎と絡んだ伊奈かっぺい以外の青森県人として存在感が大きいのは演歌歌手の吉幾三である。むしろ全国的には吉幾三の方が日高晤郎よりも有名であろう。吉幾三も「日高晤郎のスーパーサンデー」や「日高晤郎ショー」に度々ゲスト出演したが、「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば1991(平成3)年にスタートした年1回の特別番組「Oh!盆ふるさとワッショイ!!」は日高晤郎と伊奈かっぺいを司会進行役、吉幾三をゲストに起用し、RABや宮城のMMTなど東北各局はもとよりキー局のNTVも含めネットされたという(「札幌テレビ放送50年の歩み」発行の2008年時点でも継続)。STVが北海道のローカル局という枠組みを超え、北日本随一の基幹局としての性格を強めたのもこの頃かもしれない。
また、歴史の順序としては逆になるが、1983(昭和58)年から1991(平成3)年にかけて「アタヤン」を担当した田中義剛も八戸市出身であることを忘れずに記録したい。1994(平成6)年の「月刊民放3月号」(日本民間放送連盟 編)や1997(平成9)年の「企業と広告2月号」(チャネル)で、STVの伊坂重孝社長や山崎甲子男東京支社次長が田中義剛と共に名を挙げているのが松山千春(伊坂、山崎)と中島みゆき(伊坂)、KAN(山崎)なのだから、田中義剛もSTVの功労者の一人なのだろう。
こうした青森県出身タレントの列記をこじつけと感じる人もいるかもしれないが、NHK青森放送局の局史(1993)「歳月 あおもりふれあいの五十年」でも冒頭で記録されているのは、NHK函館放送局やNHK仙台放送局の番組に出演していた青森県人の記録なのであるから、同じようにSTV発信の資料にも存在することを明記しておきたい。
■RAB「出会いふれあい生テレビ」と「どさんこワイド212」
STVの「どさんこワイド212」が北海道で大成功を収めたことで、追随してローカル情報番組を開始する地方局が1990年代は全国的に出現するようになる。
かつて「RABニュースレーダー」の成功でSTVにも影響を与えたRABも1995年4月から新番組の編成を決定し、番組開始に先立って1995(平成7)年2月10日の東奥日報夕刊が「夕方の街角から生中継 [RAB]4月新番組「情報なんでもワイド」 “生活ネタ”ふんだんに 双方向性テレビ目指す」と題してRABの新番組をPRしている。2月時点では「情報なんでもワイド」が主タイトルだったのか。
同記事を抜粋すると「夕方のローカル生ワイド番組は全国的に増えつつあり、現在は二十一局で放送中(同局調べ)だが、県内ではこれが初の試み。先駆けとなった札幌テレビ「どさんこワイド212」のような成功例もあるが、視聴率、営業面で苦戦しているケースが多いのも事実。」と、STVの「どさんこワイド212」に言及している。全国21局で放送している同種の番組がほとんど成功していないと言うのだから、RABがSTVの「どさんこワイド212」の成功に着想を得て番組を開始するのだろうことは何となく想像できる(他にも理由はあるだろうが)。
「どさんこワイド212」を成功に導いたMCがSTVラジオで活躍していた木村洋二と明石英一郎なら、RABもラジオから岡田照幸と橋本康成を「出会いふれあい生テレビ」に連れて来る。このように「どさんこワイド212」を想起させる共通点もあるが、RABがSTVを参考にしたとか目標にしたとは一切書いていないことに注目だ。
どうも1995(平成7)年前後から、RABとSTVの友好的な関係性が従前に比べると退潮したのではないかという気がしてくるのである。実際、伊奈かっぺい(RAB社員)が度々出演していた「日高晤郎のスーパーサンデー」も、RABは1993(平成5)年4月以降、STVからの同時ネットを解消しているのである。
■STVラジオの出力格差が解消 青森にもエリア拡大
1995(平成7)年3月、STVは郵政省より道内ラジオ中継局の出力を増力することが認められ、青森に隣接するSTVラジオ函館放送局(JOWN)も出力5kWとHBCに並び、周波数を639kHzに変更し放送を開始した。
HBCラジオ函館局(JOHO)が草創期から青森県の広い範囲をラジオのエリアに含んだように、STVラジオも青森県を広くカバーする形を整えたのである。放送広告代理店中央連盟が発行する「'2002全民放電波広告料金表」に、2002年当時のSTVラジオのエリアマップが載っているので引用転載する。
ご覧の通りで北海道に加えて青森県全域が描かれる地図となっており、エリアの境界を示すラインは青森県の広域に秋田県大館市付近、岩手県九戸郡種市町付近(現洋野町)までカバーする形になっている。青森県でエリアにならない地域は西津軽郡岩崎村(現深浦町)や三戸郡内陸部くらいか。
現在、STVラジオのエリアマップは公式HPで公表されていないが、2025年1月現在もエリアマップを公表しているHBCラジオの図(https://www.hbc.co.jp/hbc/hbc-guide/radio-area/)と比較しても遜色ない範囲をエリアに含むのである。
RABは「青森放送二十五年史」で、青森県の広域をエリアに含むことになるHBCラジオ函館局の開局を「事情の容易ならぬこと」だと東奥日報社が受け止めていたことを記録している。かつてのHBCラジオ函館局の開局と同じように、RABはSTVラジオ函館局のエリア拡大を好ましからざるものと受け止めていたことだろう。
RABの設立母体である東奥日報社は、1995(平成7)年の函館局増力で青森県内で受信状況が改善したSTVラジオの周波数情報や番組表をラテ欄に載せることをしなかった。HBCラジオ函館局の900kHzと番組表が引き続き掲載されていてもSTVラジオの存在は黙殺されたのである。
■青森市本町にSTV東北支社開設
RABの受け止めを知ってか知らずか、STVとしては当然、増力に伴いエリアが拡大した函館放送局周辺での営業活動を活発にしていく。函館財界問題研究所が1995(平成7)年に発行した「はこだて財界6月号」に、「聴取率ナンバーワンを誇るSTVラジオ 函館放送局増力記念感謝パーティー開催 伊坂札幌テレビ放送社長、ローカル局の増力は第二の開局と意義を強調 青森まで届く電波のなか、青函ツインシティ振興にも貢献と語る」と題した特集記事がある。これを抜粋したい。
札幌テレビ放送��(本社・札幌、伊坂重孝社長)による「STVラジオ函館放送局」増力感謝記念パーティーが4月25日、函館国際ホテルで行われ、木戸浦函館市長を始めとする函館・道南の政官財界の人たちとともに、STVラジオの出力アップとさらなる放送充実の喜びをわかちあった。
(中略)伊坂札幌テレビ放送��社長は(中略)、函館・道南地域については今回の増力により、北は松前から東は恵山、さらに青森、弘前、三沢、大館、八戸方面まで届くようになったこと、これにより青函交流圏構想の中で進んでいる函館と青森のツインシティ構想にも、ラジオ放送の面からも貢献するべく、青森に東北支局を開設、青函一体で営業開始。(中略)増力を契機にローカルからのニーズに沿うべくローカルイベントの展開をより積極的に進めていきたいと語った。
(中略)もっとも函館・道南地区について、ラジオ放送のCM利用は、いまいちということから、伊坂社長は、あいさつの中で「函館・道南地域で、ラジオ放送をご利用の節は、ぜひSTVを。効果が非常に出るんじゃないかと思います」とユーモアまじりにCM利用をPRした。
(中略)伊坂札幌テレビ放送��社長は(中略)、函館・道南地域については今回の増力により、北は松前から東は恵山、さらに青森、弘前、三沢、大館、八戸方面まで届くようになったこと、これにより青函交流圏構想の中で進んでいる函館と青森のツインシティ構想にも、ラジオ放送の面からも貢献するべく、青森に東北支局を開設、青函一体で営業開始。(中略)増力を契機にローカルからのニーズに沿うべくローカルイベントの展開をより積極的に進めていきたいと語った。
(中略)もっとも函館・道南地区について、ラジオ放送のCM利用は、いまいちということから、伊坂社長は、あいさつの中で「函館・道南地域で、ラジオ放送をご利用の節は、ぜひSTVを。効果が非常に出るんじゃないかと思います」とユーモアまじりにCM利用をPRした。
青森市のみならず弘前市と八戸市、秋田の大館市もエリアに入ることをPRし、青森市に支局を置いて函館支社と一体で営業すると表明しているのだ。そのうえで、ラジオ放送にCMを出すならSTVを選ぶことで効果が出る──つまりHBCやRABより効果が上がると言っているようなものである。
「札幌テレビ放送50年の歩み」によれば、青森市本町1丁目2-20住友生命柳町ビル(現・青森柳町ビル)への東北支局設置は1995(平成7)年3月1日であり、函館局出力5kW化でのエリア拡大と青森進出を合わせたことになる。東北支局の電話番号の下4桁は函館局の周波数(=639kHz)と同じく0639。ここまでやれば、いくら同じNTV系列とはいえRABもSTVに警戒心を抱かない方が不思議というものだろう。
■40周年記念事業は「棟方志功の世界展」
1998(平成10)年、STVは創立40周年記念事業で「棟方志功の世界展」を北海道立函館美術館(1月6日〜2月1日)と北海道立近代美術館(2月6日〜3月19日)で開催した。棟方志功も青森市出身の版画家である。札幌だけではなく函館でも開催しており、青函一体で営業という1995(平成7)年の伊坂社長の発言と相違ない内容である。協賛社の存在など詳細な資料を発見できていないが、函館支社と青森市の東北支社も活躍したことだろう。
STVも東山魁夷や横山大観、イサム・ノグチなど多くの芸術家の展覧会を行っているので、棟方志功もそのうちの一人といえば一人なのかもしれないが、どうもSTVは棟方志功がお好きなのではと思いたくなることもある。
60周年の2018(平成30)年にも札幌テレビ放送と分社化したSTVラジオが主催で、北海道立近代美術館で「棟方志功展『わだば、ゴッホになる』」を開催しているのである。『わだば、ゴッホになる』の主催共催者はタイムスのライバルだった北海道新聞社であり、歴史の移り変わりを感じさせる関係となっている。そして協力社として青森市の棟方志功記念館とRABサービスが名を連ねているが、本体のRABではなく子会社のRABサービスというのが、2社の関係のぎこちなさを感じずにいられない。同展示会の協賛社にはみちのく銀行の名もあり、青森でのロケを実施した特別番組「棟方志功物語」も放送したという。
この2018(平成30)年に開催された「棟方志功展『わだば、ゴッホになる』」が、STVと青森の関わりを示すエピソードとしては久々のものだったように思える。
■仙台に移転したSTV東北支社の歴史は4年間
STV東北支社は青森に置かれてから9年後の2004年1月、仙台市青葉区大町1丁目2-1ライオンビルに移転した。同じく青森にあったHBC東北支局の撤退の翌年であり、青森県人としては悲しいが2003(平成15)〜2004(平成16)年頃は北海道民放が青森での商売に限界を感じ始めた時期のようだ。
ならば移転先の東北最大都市仙台でなら業績回復を果たせたのかというと、仙台でもさほど好転しなかったのだろう。2008年2月時点では同社ホームページ会社概要(当時のURLはhttp://www.stv.ne.jp/info/annai/index.html)に仙台の東北支社の存在が確認できたが、3月時点では消滅しており、2004年1月から2008年2月頃まで約4年で仙台から撤退したとみられる。かつての北海タイムス東北支社の11ヶ月という記録よりは長いが、仙台も魅力的なマーケットではなかったのだろう。「'2002全民放電波広告料金表」をみると、2002(平成14)年頃は新潟の民放も仙台に支社を置いていたが、2025(令和7)年現在では新潟の局でも残っている社は無く、スポンサーの存在に乏しかったのだろう。前身の青森時代の9年間から通算で13年、東日本大震災をみることなくSTV東北支社は東北地方から撤退した。
HBCが青森から撤退し、STVが仙台への転出を検討していたであろう2003(平成15)年になると、東奥日報もラテ欄にSTVラジオ 639kHzをようやく掲載開始した。函館開局から39年、5kW化からでも8年も経過していたが、2003(平成15)年というのは偶然なのだろうか。
STV東北支社としても、ラジオ営業が青森県内のスポンサーに売り込むにあたって青森県紙・東奥日報に番組表が載っていないというのはマイナスである。自社の知名度アップのためにならないばかりか、敵対するHBCの番組表は毎日載っていたのだ。
ここからは推測および仮説であるが、STVも東奥日報にラテ欄への自社番組表の掲載を依頼したこともあったのだろう。それを東奥日報が拒んでいたのだとすれば、1995(平成7)年以降、青森県の広い範囲をエリアとし脅威的な存在となったSTVラジオの攻勢からRABを援護したということではないだろうか。繰り返すがあくまでも推測である。
東奥日報・RAB陣営としては、北海道から電波で攻め込む主敵が、かつての道新・HBC陣営から強くなりすぎたSTVに変わった──という受け止めがあったのかもしれない。脅威たるSTVが青森の営業拠点を閉めて仙台に出て行こうとしている──ならば、もうラテ欄にSTVラジオを載せても問題ないだろうと東奥日報・RAB陣営が判断したのが2003(平成15)年だったのではないかと思うのである。
戦前から道新が青森県に進出し、函館テレビ実験局が青森県勢初の高校野球テレビ中継(北海道国体・青森一×早実)を放送したり、RABに先立って青森で初めて視聴された民放テレビであったり、北海道市場で急速に成長したかねさ味噌との関わりがあったり、原子力災害発生時の広報機関として青森県から指定を受けたなど様々な歴史をもつHBCに比べると、STVが青森県に関わった足跡は薄い。
しかしSTVにも現在の青函ツインシティに通ずる「青函経済圏首長会議」を主催した歴史があり、伊奈かっぺいや吉幾三、田中義剛、棟方志功など青森県出身者を人気番組やイベントに起用し、青森県民への訴求力はHBCよりも長けた局だったという印象はある。
1995(平成7)年〜2003(平成15)年まで青森に支局を置いていたSTVもまた、青森県のメディア史を振り返るにあたっては存在感のある一社であることに間違いないのである。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送STV十年史編集委員会 編(1968)「STV10年の歩み」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1978)「札幌テレビ放送二十年史」
・札幌テレビ放送社史編纂委員会編(1998)「こちら どさんこ放送局 ＜札幌テレビ放送創立40周年記念＞」
・札幌テレビ放送創立50周年記念事業推進室(2008)「札幌テレビ放送50年の歩み STV」
・チャネル(1997)「'97企業と広告2月号」
・東奥日報社(1964)「ラジオテレビ欄」1964(昭和39)年2月4日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1992)「ラジオテレビ欄」1992(平成4)年9月20日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1995)「ラジオテレビ欄」1995(平成7)年2月10日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1995)「ラジオテレビ欄」1995(平成7)年3月9日付東奥日報朝刊
・長谷川想(2023)「「日本の広告費」の歴史から読み解く、時代の変化」電通「電通報」(https://dentsu-ho.com/articles/8559)
・函館財界問題研究所(1986)「'86はこだて財界 新年特大号」
・函館財界問題研究所(1995)「'95はこだて財界 6月号」
・函館市「函館市史デジタル版 通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み 第2章第2節2」(https://archives.c.fun.ac.jp/hakodateshishi/tsuusetsu_04/shishi_06-02/shishi_06-02-02-02-04.htm)
・放送広告代理店中央連盟(2002)「'2002全民放電波広告料金表」
・北海タイムス社(1981)「北海タイムス三十五年史」
・北海道放送社史編集委員会・編(1963)「北海道放送十年」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・札幌テレビ放送STV十年史編集委員会 編(1968)「STV10年の歩み」
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・東奥日報社(1964)「ラジオテレビ欄」1964(昭和39)年2月4日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1992)「ラジオテレビ欄」1992(平成4)年9月20日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1995)「ラジオテレビ欄」1995(平成7)年2月10日付東奥日報朝刊
・東奥日報社(1995)「ラジオテレビ欄」1995(平成7)年3月9日付東奥日報朝刊
・長谷川想(2023)「「日本の広告費」の歴史から読み解く、時代の変化」電通「電通報」(https://dentsu-ho.com/articles/8559)
・函館財界問題研究所(1986)「'86はこだて財界 新年特大号」
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・函館市「函館市史デジタル版 通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み 第2章第2節2」(https://archives.c.fun.ac.jp/hakodateshishi/tsuusetsu_04/shishi_06-02/shishi_06-02-02-02-04.htm)
・放送広告代理店中央連盟(2002)「'2002全民放電波広告料金表」
・北海タイムス社(1981)「北海タイムス三十五年史」
・北海道放送社史編集委員会・編(1963)「北海道放送十年」
・北海道放送社史編纂室・編(1972)「北海道放送二十年」
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コメント
コメント一覧
本当にありがとうございます。
個人的に縁の深い地域ではなく、それゆえ単語一つ一つが新鮮なんですが、それもまた楽しいもの。吉幾三や伊奈かっぺいくらいは知ってるかなって感じですね。
なかなかこのボリュームの記事を続けざまにというのは難しいかと思いますが、また良い記事を読ませてください。
いつもコメントありがとうございます。最近、長くなりすぎているので、次は少し短めのをと思っています。