■青森県との関わりは非常に少ないHTB
北海道の放送局の青森県での足跡を追う回シリーズではこれまで「HBCの青森県での足跡を追う回」と、「STVの青森県での足跡を追う回」を記事化したが、北海道で3番目に開局した民放テレビ局である北海道テレビ放送(HTB)の場合は青森県との関わりが非常に少ない。
前出の北海道放送(HBC)や札幌テレビ放送(STV)は青森市に支社・支局を置いた歴史があるし、青森県で系列欠落となるフジテレビジョンとテレビ東京の系列にあたる北海道文化放送(UHB)とテレビ北海道(TVh)は青森ケーブルテレビで区域外再放送されている。
HTBには青森に拠点を置いた歴史も無ければ、欠落系列を補完する存在として区域外再送信の目玉になった歴史もない。強いて言えば青森朝日放送(ABA)開局までテレビ朝日系のリアルタイム視聴を実現する貴重な存在であった時期があったのは事実で幼少期には私もお世話になったが、UHBやTVhに比べれば影は薄い。
というわけで終了！
の予定だった。HBCやSTVに続いて記事化できないかと色々調べてみたのだが、本当にネタが少ないのでHTBは見送ってきた矢先、田名部匡省逝去のニュースが入ってきた。
【HTB本社(札幌市中央区)】
田名部匡省は現参議院議員の田名部匡代(青森県選挙区選出)の父で、宮沢内閣では農林水産大臣を務めた元衆議院議員である。
県立八戸高校、立教大学でアイスホッケー部に所属し、スコーバレーオリンピック1960とインスブルックオリンピック1964にアイスホッケー日本代表で出場した。HTBとの直接的な関係はないが札幌オリンピック1972ではアイスホッケー日本代表の監督も務めた。
こうしたアイスホッケー選手、監督としての活動が縁となり、HTBは田名部匡省と関わりを持つ機会があったのである。
■RABにもネットされたちびっこアイスホッケー秘話
HTB社史編集委員会が1978(昭和53)年に発行した「この十年」から、HTBが青森の関わったエピソードをご紹介する。
札幌オリンピック1972以降、学校教育の現場でもウィンタースポーツを導入する流れが盛んになり、特に開催地だった北海道には専用の競技施設も多く生まれたことから、学校対抗試合が可能になるほど競技人口が増えたという(関連記事：「青森−札幌マイクロ回線の開通と、札幌オリンピックの回線」)。
アイスホッケーもその一つであり、スケートの本場として知られる苫小牧や釧路、さらに札幌でもジュニアクラブチームが生まれた。
こうした流れを受け、札幌オリンピック1972の翌1973(昭和48)年、HTBは東亜国内航空(TDA)の協賛で「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」を開催することになる。
青森県から迎えられたのは、札幌オリンピック1972で日本代表を率いた田名部匡省が率いる八戸チームである。強豪と目された八戸チームをHTB社史編集委員会(1978)「この十年」は「真っ赤なユニフォームに赤いヘルメット姿は、いかにも精かんそのもの。」と記録している。
迎え撃つ北海道側は、「田名部監督の威光も手伝って、選抜的な色彩の濃い協力チームを編成して待ち受けた」といい、黄色の苫小牧、濃紺の札幌とカラフルな選手たちによる強力な北海道チーム苫小牧Aが八戸チームと激突したのである。
【三沢空港に到着したHAC丘珠三沢便 1973年当時は八戸空港発着だった】
［HTBちびっ子アイスホッケー1973 結果］
北海道選抜 18−０ 八戸チーム ＜札幌市月寒体育館＞
なんということだ。無慈悲にも圧倒的な大差で北海道選抜苫小牧Aが田名部匡省率いる八戸チームに勝ってしまう。アイスホッケーに詳しくない人のために参考までに記すと、北京冬季オリンピック2022の男子プレーオフラウンドで二桁得点はない。女子は金メダルのカナダが2回ほど2桁得点で勝利したが、一番得点を取ったスウェーデン戦でも11点である。
このような大差になった背景は「遠路かけつけた八戸チームには、屋内リンクがないため半月も前からスケーティングすらできない悪条件下にあった」のだという。それを知らず北海道側の苫小牧Aは最強選抜を編成、ちびっ子たちは遠慮なく大暴れの圧勝劇になってしまったのである。
開催日時は1973(昭和48)年3月25日。さすがに八戸でも3月末となれば屋外リンクはもう使えない。
困ったのは、収録してRABでも放送する予定だったHTB。
北海道が青森をボッコボコにやっつけた試合をRABで放送するのかい、と。
結果、「札幌と青森(RAB)とでオン・エアされることになっていたため、急遽関係者が協議、翌日の八戸−札幌の対戦を予定外に再集録。1-0の僅少差で八戸に勝利が転がり込み、関係者はほっと胸をなでおろしたものだった」ということになったという。
HTBが札幌チームではなく、板垣武四札幌市長に郷土土産の八幡馬を持参して表敬訪問した田名部匡省率いる八戸チームを応援していたかと思うと笑えてしまう。
■朝日系に縁があったらしい田名部匡省
ところで「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」放送当時の1973(昭和48)年当時、青森県でHTBと同じANNに加盟していたのはATVの方で、RABがNNNとANNのクロスネットになるのは1975(昭和50)年のことである。とはいえ、ATV開局後もNETの番組(「奈良和モーニングショー」など)はRABに一部残っていたというので、まだまだネットワーク系列関係があいまいだった時代だったということだろう。
変則的ではあるが、RABは日本教育テレビ時代から民間放送教育協会(民教協)に加入しているので(逆に北海道はHBCが民教協に加盟していてHTBは非加盟)、間接的には関係があったのかもしれない。
【HTB社史編集委員会「この十年」113頁から転載引用】
ABAは社史を出していないため詳しい経緯は不明だが、東日本出版が1988(昭和63)年に発行した「とうほく財界3・4月号」の特集記事「岩手テレビ新局誕生の舞台裏を追う」によると、八戸商工会議所の上村信一常務が「田名部氏を中心に八戸の結束は固く、運動が盛り上がっている。申請を一本化し、年内には新会社を設立したい」と語っており、田名部匡省はABAの開局運動の中心的な役割を果たしたらしい。
その上で、上村信一八戸商工会議所常務は「キー局には青森で番組の少ないフジが欲しいが、フジは青森に関心が薄いようだ。最終的には、朝日か日本テレビのどちらかになると思う」としている。なるほど、RABは1975(昭和50)年から1991(平成3)年までNNNとANNのクロスネットだったから、場合によってはRABがNNNを手放してテレビ朝日系(ANN)になり、ABAが日テレ系になっていたかもしれないわけか(その場合、社名に朝日が入るわけはないから、青森讀賣テレビでAYTとかだったのかもしれない)。
話はだいぶ本論からずれてしまったが、田名部匡省が開局運動の中心的な役割を果たしたABAは、HTBと同じテレビ朝日系列に入った。今もし再び「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」があるなら、すんなりとABAで放送されることであろう。
それにしても、田澤吉郎とATVの話を書いた翌日(青森テレビ(ATV)がフジテレビよりTBSを選んだ理由もネット料金か)、田名部匡省が逝ってしまうとは。
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北海道の放送局の青森県での足跡を追う回シリーズではこれまで「HBCの青森県での足跡を追う回」と、「STVの青森県での足跡を追う回」を記事化したが、北海道で3番目に開局した民放テレビ局である北海道テレビ放送(HTB)の場合は青森県との関わりが非常に少ない。
前出の北海道放送(HBC)や札幌テレビ放送(STV)は青森市に支社・支局を置いた歴史があるし、青森県で系列欠落となるフジテレビジョンとテレビ東京の系列にあたる北海道文化放送(UHB)とテレビ北海道(TVh)は青森ケーブルテレビで区域外再放送されている。
HTBには青森に拠点を置いた歴史も無ければ、欠落系列を補完する存在として区域外再送信の目玉になった歴史もない。強いて言えば青森朝日放送(ABA)開局までテレビ朝日系のリアルタイム視聴を実現する貴重な存在であった時期があったのは事実で幼少期には私もお世話になったが、UHBやTVhに比べれば影は薄い。
というわけで終了！
の予定だった。HBCやSTVに続いて記事化できないかと色々調べてみたのだが、本当にネタが少ないのでHTBは見送ってきた矢先、田名部匡省逝去のニュースが入ってきた。
田名部匡省は現参議院議員の田名部匡代(青森県選挙区選出)の父で、宮沢内閣では農林水産大臣を務めた元衆議院議員である。
県立八戸高校、立教大学でアイスホッケー部に所属し、スコーバレーオリンピック1960とインスブルックオリンピック1964にアイスホッケー日本代表で出場した。HTBとの直接的な関係はないが札幌オリンピック1972ではアイスホッケー日本代表の監督も務めた。
こうしたアイスホッケー選手、監督としての活動が縁となり、HTBは田名部匡省と関わりを持つ機会があったのである。
■RABにもネットされたちびっこアイスホッケー秘話
HTB社史編集委員会が1978(昭和53)年に発行した「この十年」から、HTBが青森の関わったエピソードをご紹介する。
札幌オリンピック1972以降、学校教育の現場でもウィンタースポーツを導入する流れが盛んになり、特に開催地だった北海道には専用の競技施設も多く生まれたことから、学校対抗試合が可能になるほど競技人口が増えたという(関連記事：「青森−札幌マイクロ回線の開通と、札幌オリンピックの回線」)。
アイスホッケーもその一つであり、スケートの本場として知られる苫小牧や釧路、さらに札幌でもジュニアクラブチームが生まれた。
こうした流れを受け、札幌オリンピック1972の翌1973(昭和48)年、HTBは東亜国内航空(TDA)の協賛で「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」を開催することになる。
青森県から迎えられたのは、札幌オリンピック1972で日本代表を率いた田名部匡省が率いる八戸チームである。強豪と目された八戸チームをHTB社史編集委員会(1978)「この十年」は「真っ赤なユニフォームに赤いヘルメット姿は、いかにも精かんそのもの。」と記録している。
迎え撃つ北海道側は、「田名部監督の威光も手伝って、選抜的な色彩の濃い協力チームを編成して待ち受けた」といい、黄色の苫小牧、濃紺の札幌とカラフルな選手たちによる強力な北海道チーム苫小牧Aが八戸チームと激突したのである。
北海道選抜 18−０ 八戸チーム
なんということだ。無慈悲にも圧倒的な大差で北海道選抜苫小牧Aが田名部匡省率いる八戸チームに勝ってしまう。アイスホッケーに詳しくない人のために参考までに記すと、北京冬季オリンピック2022の男子プレーオフラウンドで二桁得点はない。女子は金メダルのカナダが2回ほど2桁得点で勝利したが、一番得点を取ったスウェーデン戦でも11点である。
このような大差になった背景は「遠路かけつけた八戸チームには、屋内リンクがないため半月も前からスケーティングすらできない悪条件下にあった」のだという。それを知らず北海道側の苫小牧Aは最強選抜を編成、ちびっ子たちは遠慮なく大暴れの圧勝劇になってしまったのである。
開催日時は1973(昭和48)年3月25日。さすがに八戸でも3月末となれば屋外リンクはもう使えない。
困ったのは、収録してRABでも放送する予定だったHTB。
北海道が青森をボッコボコにやっつけた試合をRABで放送するのかい、と。
結果、「札幌と青森(RAB)とでオン・エアされることになっていたため、急遽関係者が協議、翌日の八戸−札幌の対戦を予定外に再集録。1-0の僅少差で八戸に勝利が転がり込み、関係者はほっと胸をなでおろしたものだった」ということになったという。
HTBが札幌チームではなく、板垣武四札幌市長に郷土土産の八幡馬を持参して表敬訪問した田名部匡省率いる八戸チームを応援していたかと思うと笑えてしまう。
■朝日系に縁があったらしい田名部匡省
ところで「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」放送当時の1973(昭和48)年当時、青森県でHTBと同じANNに加盟していたのはATVの方で、RABがNNNとANNのクロスネットになるのは1975(昭和50)年のことである。とはいえ、ATV開局後もNETの番組(「奈良和モーニングショー」など)はRABに一部残っていたというので、まだまだネットワーク系列関係があいまいだった時代だったということだろう。
変則的ではあるが、RABは日本教育テレビ時代から民間放送教育協会(民教協)に加入しているので(逆に北海道はHBCが民教協に加盟していてHTBは非加盟)、間接的には関係があったのかもしれない。
ABAは社史を出していないため詳しい経緯は不明だが、東日本出版が1988(昭和63)年に発行した「とうほく財界3・4月号」の特集記事「岩手テレビ新局誕生の舞台裏を追う」によると、八戸商工会議所の上村信一常務が「田名部氏を中心に八戸の結束は固く、運動が盛り上がっている。申請を一本化し、年内には新会社を設立したい」と語っており、田名部匡省はABAの開局運動の中心的な役割を果たしたらしい。
その上で、上村信一八戸商工会議所常務は「キー局には青森で番組の少ないフジが欲しいが、フジは青森に関心が薄いようだ。最終的には、朝日か日本テレビのどちらかになると思う」としている。なるほど、RABは1975(昭和50)年から1991(平成3)年までNNNとANNのクロスネットだったから、場合によってはRABがNNNを手放してテレビ朝日系(ANN)になり、ABAが日テレ系になっていたかもしれないわけか(その場合、社名に朝日が入るわけはないから、青森讀賣テレビでAYTとかだったのかもしれない)。
話はだいぶ本論からずれてしまったが、田名部匡省が開局運動の中心的な役割を果たしたABAは、HTBと同じテレビ朝日系列に入った。今もし再び「HTBちびっ子アイスホッケー交歓試合」があるなら、すんなりとABAで放送されることであろう。
それにしても、田澤吉郎とATVの話を書いた翌日(青森テレビ(ATV)がフジテレビよりTBSを選んだ理由もネット料金か)、田名部匡省が逝ってしまうとは。
◆引用文献・参考文献・ウェブサイト
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・HTB社史編集委員会(1978)「この十年」
・東日本出版(1988)「岩手テレビ新局誕生の舞台裏を追う」「とうほく財界3・4月号」
・青森放送(1980)「青森放送二十五年史」
・HTB社史編集委員会(1978)「この十年」
・東日本出版(1988)「岩手テレビ新局誕生の舞台裏を追う」「とうほく財界3・4月号」
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