地デジ化のころに龍飛と小泊を結ぶ国道339号龍泊ラインで秋田や鶴岡のワンセグを受信して以来、北海道にも秋田の地デジの電波が届いているのではないかという疑問を持っており、約18年越しにその解答にたどり着いた。

秋田局山岳回折北海道方面
【松前半島に回折しそうな峰々は白神山地世界遺産核心地域方面】

　秋田市大森山の秋田局が北海道まで届く可能性があるとすれば山岳回折だが、青森より北に向かうわけだから方位角度は0°寄りになる。
　世界遺産核心地域に近い峰々が好適だが、西津軽の鰺ヶ沢や深浦方面は海岸近くまで険しい山が続くこともあって、山岳回折に適するのは二ツ森くらいのようである。

　あとは岩木山もコースとしてはありえるが、津軽平野でも上手くいったためしがなく、伝搬が上手くいけば木古内町釜谷の辺りに到達すると見込んだが、今回も上手くいかなかった。

松前・福島　秋田局山岳回折伝搬路
【松前町・福島町周辺の秋田局山岳回折伝搬シミュレーション】

　先に結論をいうと、福島町の方もうまくいかなかった。
　受信実験が成功したのは松前町白神の方である。山岳回折点は二ツ森。山本郡藤里町と西津軽郡鯵ケ沢町の県境の1086.5mの峰である。


　X(旧Twitter)でのポストの通り秋田テレビ(AKT)以外の秋田局はワンセグの反応があり、秋田朝日放送(AAB)はフルセグ復調した。
　そして、鶴岡局のさくらんぼテレビ(SAY)もワンセグ復調した。

松前町白神　秋田局受信データ(2025/5/3)
FEM表示画面表示値
ABS松前白神秋田放送(ABS)秋田局
35ch(605MHz)
AntLV=27
POWER=-73dBm
C/N=10dB
BER 3.94E-2
AAB松前白神
秋田朝日放送(AAB)秋田局
29ch(569MHz)
AntLV=44
POWER=-64dBm
C/N=17dB
BER 2.15E-4
NHKG秋田松前白神
NHK総合・秋田(UK)秋田局
48ch(683MHz)
AntLV=36
POWER=-71dBm
C/N=14dB
BER 3.94E-2
NHKE秋田松前白神
NHK Eテレ・秋田(UB)小坂局
50ch(695MHz)
AntLV=39
POWER=-68dBm
C/N=14dB
BER 3.94E-2
SAY鶴岡松前白神さくらんぼテレビ(SAY)鶴岡局
27ch(557MHz)
AntLV=23
POWER=-73dBm
C/N=8dB
BER 3.94E-2

　AKTの受信ができなかった理由は、21chで北海道文化放送(UHB)松前局と同chだから。

　鶴岡局も16chの山形放送(YBC)がNHK総合・青森(TG)青森局、18chの山形テレビ(YTS)がNHK総合・函館(VK)松前局、20chのテレビユー山形(TUY)が北海道テレビ(HTB)松前局と同chとなるなど同一ch重複のため確認できなかったが、27chのさくらんぼテレビ(SAY)は混信がないのでワンセグ復調できたのである。

DSC_0705
【秋田朝日放送(AAB)のフルセグを受信できた松前町白神の船揚場】

　松前町白神は北海道最南端の白神岬の西側、津軽海峡に面する漁村である。
　二ツ森は白神山地世界遺産核心地域で最も接近が容易な山だと評されているらしく、まさに白神から白神へという、青森を経て北海道にいたる秋田局の超遠距離受信といってよいのではないか。
　松前町白神は青森局も簡単に受信することができるが、集落をざっと見渡した限りでは青森や秋田方面にアンテナを向けた家は一軒も見つからず、民放5系列が揃う北海道では道外の放送を全くもって欲する理由が無いことをまざまざと見せつけられた感がある。

AAB-松前
【AAB秋田局−二ツ森−松前町白神の地形断面図】

　秋田市大森山から北海道松前町白神までの地形断面図は上図の通りで、二ツ森で山岳回折が成立する地形条件にあるが伝搬距離は193kmにも及ぶ。
　函館市の泣面山の山岳回折によって青森市後潟でSTV室蘭局の受信に成功したことがあるが、その距離は155kmだから40km近くも記録を更新したことになる。

7eas20250503
【William R. Hepburn氏の予報サイトから引用】

　一応、受信実験を行った2025年5月3日のWilliam R. Hepburn氏の予報サイトの図も拝借しておく。秋田や津軽、北海道にかけてラジオダクトなど異常伝搬はなかった。
　というか、異常伝搬が起きていればAAB以外の各局もフルセグ復調し、C/NやBERの成績ももっと良かっただろう。

DSC_0722
【国道228号松前バイパスから望む松前城】

　この日は9時の松前城営業開始まで道の駅まつまえでNHK総合函館を視聴しながら待機。ちょうど今別の袰月を舞台にした「限界集落住んでみた　袰月編」を放送していて、高木恭造の「陽コあだネ村」の“見ナガあの向の陽コあだてる松前の山コ　あの綺麗だだ光コア一度だて俺等の村サあだだごとアあるガジャ”の一節が思い浮かぶ。
　袰月の村人たちから日当たりが良いと称されていた松前のお城は南からの陽光に照らされ、満開の桜に彩られていた。

袰月　高木恭造詩碑
【今別町袰月　高木恭造詩碑】

　北向きの海岸の集落の背後まで急崖が迫る袰月に、南からのお日様の光は届かない。
　南から飛んでくる秋田の地デジも袰月には届かないが、松前には届いてしまうのだ。

DSC_0772
【松前城】

　松前の桜まつりもかつては青森県でTVのCMも放送されていたが、最近は北海道のテレビでも見かけない。それでも遠方の北見ナンバーや釧路ナンバーで車中泊をしていた家族もいて、道内では人気の観光地なのだ。もう少し交通の便が良ければよいのだが……
　たしかにE59　函館江差道が木古内ICまで延伸したこともあり、未明から早朝に松前入りしたときは非常にスムーズに移動できたが、午前中に函館に戻る際は反対車線の対向車が木古内ICで渋滞していたほどだった。

　木古内ICの出口交差点には信号が無く、現道の国道228号を走ってくる車両が途切れたわずかなチャンスに進むほかなく、函館からきた車両が1kmも出口渋滞していたのだ。
　信号くらいつけてやれよ北海道開発局函館開発建設部……。
　
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